「最近、トイレが近い気がする」「夜中に何度も起きてしまう」など、尿に関する悩みをお持ちではありませんか。

ご自身の状態を正確に把握し、医師に相談する際にとても役立つのが「排尿記録(排尿日誌)」です。

この記事では、排尿記録を初めて付ける方でも分かりやすいように、記録の付け方の基本から、準備するもの、記録から読み取れること、そして医療機関での活用法まで、幅広く解説します。

目次

なぜ排尿記録(排尿日誌)が大切なのでしょうか

排尿記録を付けることは、漠然とした不安を具体的な情報に変えるための重要な作業です。日々の記録を通じて、ご自身の体の状態を客観的に見つめ直すことができます。

また、その記録は医療機関を受診する際に、言葉だけでは伝えきれない正確な情報源となり、医師が適切な判断を下すための大きな助けとなります。

ご自身の排尿状態を客観的に把握する

「トイレが近い」と感じていても、実際に1日に何回行っているのか、1回にどれくらいの量が出ているのかを正確に把握している方は少ないでしょう。

排尿記録は、こうした感覚的な悩みを数値や事実として可視化します。

記録を振り返ることで、水分を多く摂った日に尿の回数が増える、特定の時間帯に尿意が強くなるなど、ご自身の生活習慣と症状の関連性が見えてくることもあります。

医師へ正確な情報を伝える資料になる

診察の場で「トイレが近くて困っています」と伝えるだけでは、医師はその頻度や程度を具体的にイメージしにくいものです。

しかし、数日間の排尿記録があれば、「1日に12回排尿があり、そのうち夜間は4回です」「1回の尿量は平均150mlです」といったように、非常に具体的で客観的な情報を提供できます。

これにより、診察がスムーズに進み、より的確なアドバイスを受けやすくなります。

排尿記録がもたらす利点

項目ご自身にとっての利点医師にとっての利点
客観性症状を数値で把握できる患者の状態を正確に理解できる
関連性生活習慣との関係が見える症状の原因を探る手がかりになる
具体性悩みを具体的に伝えられる診断の精度が高まる

治療方針を決めるための重要な判断材料

医師は排尿記録から、1日の総尿量、1回の平均排尿量、昼間と夜間の尿量の比率など、多くの情報を読み取ります。

例えば、夜間の尿量が多い「夜間多尿」なのか、膀胱に尿を溜められない「蓄尿障害」なのかで、考えられる原因や治療法は異なります。

排尿記録は、個々の患者さんに合わせた治療方針を決定するための、非常に重要な判断材料となります。

治療効果を確かめる指標になる

治療を開始した後も、排尿記録を付け続けることには大きな意味があります。治療前の記録と比較することで、排尿回数が減った、夜間に起きる回数が減ったなど、治療による変化が客観的に分かります。

ご自身で効果を実感できることは治療を続ける励みになりますし、医師にとっても治療が適切であるかを確認し、必要に応じて調整するための大切な情報となります。

排尿記録(排尿日誌)を始める前の準備

排尿記録を始めようと思っても、何から手をつければよいか分からないかもしれません。

しかし、特別な道具はほとんど必要ありません。記録用紙と尿量を測るための計量カップがあれば、誰でもすぐに始めることができます。

ここでは、記録を始める前に整えておきたい準備について説明します。

記録用紙を手に入れる

まずは記録を書き込むための用紙を準備します。

ノートや手帳に線を引いて自作することもできますが、医療機関のウェブサイトなどで、印刷して使える排尿日誌のフォーマットを提供している場合が多くあります。

それらを活用すると、必要な項目が網羅されているため便利です。

  • かかりつけの医療機関で相談する
  • 製薬会社や医療機器メーカーのウェブサイト
  • 泌尿器科関連の学会のウェブサイト

計量カップを用意する

排尿量を正確に記録するために、目盛りの付いた計量カップが必要です。尿量を測る専用のカップもありますが、100円ショップやホームセンターなどで販売されている料理用の計量カップでも代用できます。

500ml程度の容量があり、細かい目盛りが付いているものを選ぶと使いやすいでしょう。

準備するものリスト

準備物入手場所の例選ぶ際のポイント
記録用紙ウェブサイト、病院時刻、排尿量、飲水量の欄があるもの
筆記用具ご自宅にあるもの書きやすいペンや鉛筆
計量カップ100円ショップ、薬局細かい目盛り付きで500ml程度の容量

記録する期間を決める

排尿記録は、まず2~3日間続けて記録することを目指しましょう。

可能であれば、仕事や外出のある平日と、比較的ゆっくり過ごせる休日をそれぞれ1日以上含むと、生活パターンの違いによる排尿状態の変化も分かり、より有益な情報が得られます。

長期間続ける必要はなく、まずは短期間、集中して記録することが大切です。

排尿記録(排尿日誌)の基本的な記録項目

排尿記録には、決まった書式はありませんが、最低限記録しておきたい基本的な項目がいくつかあります。

ここでは、ご自身の状態を正確に把握し、医師に伝えるために重要となる4つの基本項目について解説します。これらの項目を記録することで、排尿に関する全体像が見えてきます。

基本4項目の記録内容

項目記録することなぜ記録が必要か
① 時刻排尿した時間、水分を摂った時間排尿間隔や時間帯による頻度を把握するため
② 排尿量計量カップで測った尿の量 (ml)1日の総尿量や1回あたりの尿量を知るため
③ 飲水量飲んだ水分量 (ml) と飲み物の種類水分摂取と尿量の関係性を明らかにするため
④ 症状尿意切迫感や尿もれの有無、状況症状の程度や発生状況を客観的に示すため

①時刻

「いつ」排尿したか、または「いつ」水分を摂ったかを記録します。排尿した時刻を記録することで、1日の排尿回数だけでなく、排尿と排尿の間隔が分かります。

特に夜間に何時にトイレに起きたかを記録することは、夜間頻尿の原因を探る上で重要です。

②排尿量

「どれくらい」の量の尿が出たかを、計量カップを使ってミリリットル(ml)単位で記録します。毎回正確に測ることが理想ですが、難しい場合は「多い、普通、少ない」といった記録でも構いません。

この記録から、1回の排尿量や1日の総尿量が分かり、膀胱の働きや水分バランスの状態を推測できます。

③飲水量と飲み物の種類

「何を」「どれくらい」飲んだかを記録します。水やお茶、ジュース、アルコールなど、飲んだものの種類と量(ml)を、飲んだ時刻とともに記録します。

食事に含まれる味噌汁やスープなどの水分も記録に含めると、より正確な水分摂取量を把握できます。利尿作用のあるカフェインやアルコールの摂取と尿量の関係を見る上でも大切な項目です。

④尿意切迫感や尿もれの状況

急に我慢できないような強い尿意(尿意切迫感)があったか、実際に尿がもれてしまったか、といった症状の有無を記録します。

症状があった場合は、その時の状況(咳をした、重い物を持ったなど)もメモしておくと、より詳しい情報になります。

これらの記録は、過活動膀胱や腹圧性尿失禁といった特定の状態を判断するのに役立ちます。

尿意切迫感・尿もれの記録例

状況記録の仕方(記号など)具体的なメモの例
急に強い尿意があった「!」や「急」などトイレに駆け込んだ
尿がもれてしまった「もれ」や「失禁」などくしゃみをした時、少量
特に症状はなかった空欄または「ー」

正しい排尿記録(排尿日誌)の付け方

基本的な項目を理解したら、次は実際に記録を付けてみましょう。ここでは、それぞれの項目をどのように記録していくか、具体的な付け方の手順とポイントを解説します。

難しく考えすぎず、ご自身のペースで取り組むことが長続きのコツです。

排尿した時刻を記録する

トイレに行ったら、まず排尿する前に時刻を確認し、記録用紙に記入する習慣をつけましょう。スマートフォンや時計ですぐに時間を確認し、その場でメモするのが忘れないコツです。

「7:05」「10:30」のように、分単位で記録します。

排尿量を正確に測る

排尿は、便器ではなく用意した計量カップにします。排尿後、水平な場所でカップの目盛りを読み取り、尿量を記録します。例えば「250ml」のように記録します。

測定後は、カップをきれいに洗浄してください。もし外出先などで測定が難しい場合は、無理に測る必要はありません。その場合は、排尿量の欄は空欄にするか、「測定なし」と記録しておきましょう。

飲んだ水分量を記録する

コップやペットボトルなどの容量を確認し、飲んだ量をおおよそで構わないので記録します。例えば「お茶 200ml」「コーヒー 150ml」のように、種類と量を時刻とともに記録します。

食事中の汁物も「味噌汁 180ml」といったように記録に加えます。

飲水量の記録例

時刻飲み物の種類量 (ml)
7:30200
12:15味噌汁180
15:00緑茶150

就寝と起床の時刻も忘れずに

記録用紙の備考欄などに、寝た時刻と朝起きた時刻を記録しておくことが重要です。これにより、どの時間帯が「夜間」にあたるのかが明確になり、夜間頻尿や夜間多尿の評価を正確に行うことができます。

「就寝 23:00」「起床 6:30」のように記録します。

記録を付ける上での注意点とコツ

排尿記録は、正確であるに越したことはありませんが、あまりに厳密に考えすぎると負担になり、続けるのが難しくなってしまいます。

ここでは、記録を無理なく、かつ有益なものにするための注意点やコツを紹介します。

いつもの生活リズムで記録する

記録を付けるからといって、特別な生活を送る必要はありません。水分を控えたり、無理にトイレを我慢したりせず、普段通りの生活の中で記録することが大切です。

ありのままの生活を記録することで、日常の中に潜む問題点や傾向が明らかになります。

すべてを完璧に記録しようとしない

記録を付け忘れたり、尿量を測り忘れたりすることがあっても、気にする必要はありません。完璧を目指すあまり、記録自体がストレスになっては本末転倒です。

分かる範囲で記録を続け、まずは2~3日間のデータとして完成させることを目標にしましょう。1日のうち数回でも記録できれば、そこから分かることもあります。

スマートフォンアプリの活用も検討する

手書きでの記録が面倒に感じる方は、排尿記録用のスマートフォンアプリを利用するのも一つの方法です。

タップ操作で簡単に入力できたり、自動でグラフを作成してくれたりする便利な機能を持つアプリもあります。ご自身が使いやすいと感じる方法を選ぶのが一番です。

  • 時刻や量の簡単な入力機能
  • グラフによるデータの可視化
  • リマインダー機能

記録が難しい場合の対処法

仕事の都合や体の状態で、どうしても細かい記録が難しい場合もあるでしょう。そのような時は、できる範囲での記録を試みてください。

例えば、尿量の測定が難しければ、排尿した時刻と回数だけでも記録する価値はあります。あるいは、特に症状が気になる時間帯だけ記録するという方法もあります。

  • 時刻と回数だけを記録する
  • 飲んだ水分の種類と回数だけを記録する
  • 症状があった時だけ記録する

記録した内容から分かること

数日間の記録が完成したら、その内容を眺めてみましょう。単なる数字の羅列に見えるかもしれませんが、そこからはご自身の排尿に関する様々な情報が読み取れます。

ここでは、記録からどのようなことが分かり、それがどういった状態の目安になるのかを解説します。

1日の排尿回数と排尿量

記録を合計することで、1日(24時間)の総排尿回数と総排尿量が分かります。一般的に、日中の排尿回数が8回以上の場合を「頻尿」と呼びます。

また、1日の尿量は体重によっても異なりますが、極端に多い場合や少ない場合は、水分摂取のバランスや腎臓の機能に何らかの変化がある可能性を示唆します。

排尿回数の目安

状態昼間の回数夜間の回数
一般的な目安7回以下0~1回
頻尿の目安8回以上2回以上(夜間頻尿)

昼間と夜間の排尿バランス

就寝時間と起床時間をもとに、昼間(起きている間)と夜間(寝ている間)の排尿回数や尿量をそれぞれ計算します。健康な状態では、1日の総尿量のうち夜間の尿量が占める割合は20~30%程度です。

この割合が著しく高い場合(高齢者では33%以上が目安)、「夜間多尿」の可能性があります。

水分摂取量と排尿量の関係

飲んだ水分量と、その後の排尿量や回数を比較してみましょう。水分を多く摂れば尿量が増えるのは自然なことですが、その関係性が極端でないかを確認します。

特に、カフェインやアルコールなど利尿作用のある飲み物を摂取した後に、排尿回数が著しく増えていないかなどを確認できます。

症状が現れる時間帯の傾向

尿意切迫感や尿もれなどの症状が、1日のうちどの時間帯に起こりやすいかを確認します。

例えば、夕方から夜にかけて症状が強い、あるいは特定の行動(帰宅時など)の後に起こりやすい、といった傾向が分かれば、対策を立てる上でのヒントになります。

1回あたりの排尿量の目安

状態1回あたりの平均排尿量考えられること
一般的200~400ml膀胱に適切に尿が溜まっている
少ない100ml未満が多い膀胱が過敏になっている可能性
多い500ml以上が多い尿を溜めすぎている可能性

記録を医療機関で活用するために

苦労して付けた排尿記録は、医療機関を受診する際に非常に強力な武器となります。

記録を最大限に活用し、医師との対話をより実りあるものにするために、いくつかのポイントを押さえておきましょう。

記録した用紙を持参する

受診の際には、記録した用紙を必ず持参してください。

可能であれば、ご自身で1日の合計回数や総尿量、平均排尿量などを計算し、余白にメモしておくと、医師が全体像を素早く把握する助けになります。

特に気になる症状を伝えておく

記録を見せるとともに、ご自身が最も困っている症状を改めて言葉で伝えましょう。

「夜中に3回起きるのが一番つらいです」「外出中に急な尿意が来ないか心配です」など、具体的な悩みを伝えることで、医師は記録の中から特に注目すべき点を見つけやすくなります。

医師に伝えるポイント

伝えること具体的な内容なぜ伝えるか
一番の悩み最も生活に支障をきたしている症状治療の優先順位を決めるため
症状の始まりいつ頃から症状が気になりだしたか症状の経過を把握するため
既往歴・服薬歴現在治療中の病気や飲んでいる薬他の病気や薬の影響を考慮するため

普段の生活状況もあわせて話す

排尿の悩みは、仕事の内容や生活習慣、精神的なストレスなど、様々な要因が影響します。記録からは読み取れない、ご自身の生活背景について話すことも大切です。

例えば、職業(長時間の運転、立ち仕事など)や、生活の中での変化(退職、家族構成の変化など)が、症状の引き金になっていることもあります。

よくある質問

最後に、排尿記録を付ける際によく寄せられる質問とその回答をまとめました。記録を始める前や、続けていく中での疑問解消の参考にしてください。

どのくらいの期間、記録を付ければよいですか

まずは24時間×2~3日間を目標に記録を付けてみましょう。これにより、1日の排尿パターンのおおよそを把握できます。

もし可能であれば、平日と休日を含む3~7日間記録すると、生活リズムの違いによる影響も分かり、より信頼性の高いデータとなります。

尿量を正確に測れません。どうすればよいですか

毎回正確に測ることが理想ですが、難しい場合は無理をする必要はありません。

その場合は、ご自身の感覚で「多い(コップ1杯以上)」「普通(コップ半分くらい)」「少ない(コップ半分以下)」のように、3段階程度で記録するだけでも参考になります。

回数を記録するだけでも有益な情報です。

外出時の記録はどうすればよいですか

外出先で尿量を測るのは現実的ではありません。そのため、外出時にトイレに行った際は、時刻と、可能であれば症状の有無だけでも記録しておきましょう。

排尿量の欄は「外」や「測定不能」などと記入しておけば、後から見返したときに状況が分かります。

記録を付けるのが面倒で続きません

完璧を目指さず、「できる範囲でやる」という気持ちが大切です。全ての項目を埋めようとせず、まずは時刻と回数だけでも記録してみましょう。

また、トイレの壁に記録用紙とペンを貼っておく、スマートフォンのリマインダー機能を活用するなど、記録を習慣化するための工夫も有効です。

短期間でも記録があれば、それは非常に価値のある情報になります。

以上

参考にした論文

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