「何度ダイエットしようとしてもちゃんとできない。」
「頑張って運動はしているけれども、食欲が抑えれない。」
「先生からは糖尿病を治すためにもダイエットをしましょうと言われているが、うまくいかない。」
こうした事はよくある悩みだと思います。
現代人のいろいろな悩みのうち、特に医学的に重要になってくる「肥満」という状態は、端的にいうと摂取カロリーと消費カロリーのバランスによって結果的に起きてしまうものです。
簡単に言えば、食べるものを少なくして、運動すれば減量はできてしまうはず。
しかしそこには人の欲望を抑え、今まで習慣を変えるということの難しさがあり、簡単にはいきません。
そうした悩みを解消する1つの手助けとなる、「ウゴービ皮下注」と言う薬が、11月15日に保険診療としては30年ぶりの新薬として薬価収載されました。
そして、2024年2月23日、デンマークの製薬会社ノボノルディスクが開発したこの「ウゴービ」は販売開始となりました。
使い方としてはシンプルで、通常成人には、0.25mg から投与を開始して、週1回皮下注射します。
皮下注射の針は非常に細く、痛みを殆ど感じない位です。
その後は 4週間の間隔で、週1回 0.5mg、1.0mg、1.7mg および 2.4mg の順に増量し、以 降は 2.4mg を週1回皮下注射するというのが基本の使い方です。
ただし、その通りに使えば良いわけでなく、医師が各患者さんに併せて、食事療法・運動療法と共に適切に処方・調整しなければ効果が低くなってしまいます。
ネット上にはいろいろなニュースやデマが飛び交っていますが、本記事では医学的・科学的に正しい「ウゴービ皮下注」の情報を、皆様にお届けできればと思います。
1.「ウゴービ皮下注」には、血糖の安定化と食欲を低下させる驚きの効果が!
ウゴービは、肥満症の治療に世界中で使われている薬です。
この薬は、体内で自然に分泌されるインクレチンホルモンと似た効果を持つ成分を含んでいます。
インクレチンホルモンとは、私たちが食事をするときに腸から分泌されるホルモンの一種で、血糖値の調整や食欲の抑制に関わっています。
ウゴービの主要成分は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)というインクレチンホルモンの一種です。
GLP-1は、食後に血糖値が上がるのを抑えたり、脳に働きかけて食欲を減らしたりする効果があります。
GLP-1は今まで糖尿病の治療薬として日本で認可・使用されてきました。
しかし、自然に体内で生成されるGLP-1は、非常に短い時間で分解されてしまいます。
そこで、ウゴービに含まれるGLP-1は、人間のGLP-1と94%同じ構造を持ちながら、特別な化学的変更を加えることで、体内での寿命が長くなるように設計されています。
これにより、ウゴービを使用すると、GLP-1の効果が長く続くため、血糖値のコントロールと食欲の抑制が長時間にわたって効果的に行われます。
このようにウゴービの効果は、主に食欲の抑制と体重の減少に関連しています。
そして、GLP-1は脳に作用して食欲を減らすことができるため、ウゴービを使うと、食べる量が自然と減り、それによって体重が減少します。
これは、肥満症の治療において非常に重要な点です。
肥満症患者が食事療法や運動療法だけでは十分な効果が得られない場合、ウゴービは、食欲を抑えて体重を減らすための助けとなることが期待されます。
ウゴービは、このようにインクレチンホルモンの一種であるGLP-1の効果を模倣し、食欲を減らして血糖値を安定させることで、肥満症の治療に役立つ薬なのです。
2.ウゴービはどういうところが特にすごかったの?研究結果を詳しく解説
ウゴービは、肥満症治療に使用される新しい薬で、他の肥満症の薬と比較していくつかの優れた点がありますが、それを研究結果と共に説明していきます。
ウゴービの臨床試験のうち日本人が参加したのは、国際共同試験(STEP 1試験およびSTEP 2試験)および東アジア試験(STEP 6試験)であり、主に肥満症患者を対象に行われました。
STEP 1試験 は過体重または肥満の成人が対象であり、STEP 2試験 は2型糖尿病を有する過体重または肥満の成人が対象であり、STEP 6試験 は高血圧、脂質異常症もしくは2型糖尿病を有する肥満症の成人が対象でした。
中でも、食事療法および運動療法による生活習慣の改善だけでは十分な減量効果が得られなかった方が対象でした。
以下には特にSTEP 1試験の結果を説明します。
この試験は、ウゴービをプラセボ(効果のない偽薬)と比較する二重盲検比較試験でした。
つまり、ウゴービと見た目が同じで効果のない偽薬を使って、ウゴービの効果を正確に測定するための試験です 。
この試験の主要な評価項目は、ウゴービ2.4mgを週に1回投与した場合の体重変化率と、投与後68週間で5%以上の体重減少を達成した患者の割合でした。
副次的な評価項目には、10%以上および15%以上の体重減少を達成した患者の割合、そしてウエスト周囲長の変化が含まれていました。
これらはいずれも良好な結果でした。
これらの試験結果から、ウゴービが他の肥満症の薬と比較して、体重減少において顕著な効果を持つことが示されました。
特に重要なのは、大幅な体重減少(10%以上、15%以上、20%以上)を達成した患者の割合が、プラセボと比較して高かったことです。
これは、ウゴービが従来の肥満症の治療法よりも効果的である可能性を示唆しています。
また、ウゴービはウエスト周囲長の減少にも効果を示し、肥満に関連する健康リスクの低減に貢献する可能性があります。
そしてウゴービを用いることで、肥満に起因する2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などの合併症に関連する血糖値、血圧、および脂質レベルが改善することが確認されました。
STEP臨床試験プログラムでは、ウゴービの安全性および耐容性が他のGLP-1受容体作動薬と同等であることが示され、新たな安全性上の問題は見つかりませんでした。
実際のケースでは、多くの肥満症患者が体重減少を図るために最善を尽くしているものの、体重を元に戻す生物学的反応(代謝適応)のために体重維持が難しくなっています。
ウゴービは週に1回の投与で、従来の食事・運動療法だけでは効果が不十分だった患者に新たな治療選択肢となる可能性が期待されています。
ただし、これらの結果を他の肥満症治療薬と直接比較するためには、異なる試験設計や患者集団を考慮に入れる必要があります。
また、ウゴービの長期的な安全性や効果に関するさらなる研究も重要です。
3.ウゴービの適応は、「高度肥満症の人」、「肥満症+高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病ある人」だけ
そんな素晴らしい結果だったウゴービが誰でも使えるのかというと、そういうわけではありません。
ウゴービ皮下注は、今回「肥満症」治療のために承認された薬です。
しかも太っていたら誰でも使えると言うわけでなく、この薬は特定の条件を持つ「肥満症」患者に対して使われます。
日本では、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、BMI 25以上のものが「肥満」と定義されています。
そして、「肥満症」は、肥満があり、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併しているか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする病態と定義されています。
肥満に起因ないし関連する健康障害とは下記の通りです。
- 耐糖能障害 (2型糖尿病・耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患
- 脳梗塞・一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 月経異常・女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群
- 運動器疾患 (変形性関節症:膝・股関節・手指関、変形性脊椎症)
- 肥満関連腎臓病
これらの疾患は、肥満が原因で起こることが多い健康問題であり、そのリスクが更に高くなってしまうため、適応となっています。
そして、ウゴービ皮下注の適応、つまりこの薬が使われるべき条件は、この「肥満症」であり、そして、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかにかかっており、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限られています。
①BMI(体格指数)が35 kg/m²以上の高度肥満症の患者。
②BMI(体格指数)が27 kg/m²以上で、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを含む肥満に関連する健康障害(肥満症の診断に必要な健康障害)を2つ以上ある患者。
ちなみにBMIは身長と体重から計算され、体格を評価する一般的な指標です。
- BMI = 体重kg ÷ (身長m)2
ちなみに日本肥満学会では、BMI=22を適正体重(標準体重)とし、統計的に最も病気になりにくい体重とされています。
そして、25以上を肥満、18.5未満を低体重と分類しています。
今回ウゴービの適応となった対象は、先に述べた研究結果で、しっかりと効果が確認出来る方だけであることに注意が必要です。
4.ウゴービを使えない人は「体重が多いだけ」・「美容ダイエット目的」・「禁忌の病気」
一方、ウゴービ皮下注の適応外、つまりこの薬を使うべきではない人もいます。
そもそもウゴービの適応症である肥満症は、単に体重が多い状態(肥満)だけではなく、「肥満が原因または関連する健康問題を伴い、医学的に体重減少が必要とされる状態」と定義されています。
このため、単に体重が多いだけではウゴービの使用対象とはなりません。
日本肥満学会は、この定義に基づいて「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を作成しました。
このステートメントでは、ウゴービは肥満症の治療薬であり、適応症である肥満症に対する十分な理解のもと、安全かつ適切に使用されるべきだとしています。
特に、健康上の問題を伴わない単なる肥満(したがって肥満症とは診断されない)や、適応外の体重の人(低体重や普通体重)が美容やダイエットの目的でウゴービを使用することは適切ではないと強調しています。
そして、下記の条件にあてはまる人には使用しない方が良いです。
これらの条件を「禁忌」と言いますが、ウゴービの禁忌に該当する人は以下の通りです。
- ウゴービの成分にアレルギー(過敏症)がある人。
- 糖尿病性ケトアシドーシス(体内でインスリンが不足し、血糖値が非常に高くなる状態)、糖尿病性昏睡や前昏睡の状態にある人、1型糖尿病の人。これらの状態ではインスリンの治療が必要なため、ウゴービは使われません。
- 2型糖尿病を持ち、重症の感染症や手術など緊急の治療が必要な場合。これらの場合はインスリンによる血糖管理が望ましいため、ウゴービは適切ではありません 。
ウゴービは、肥満症治療における重要な選択肢の一つですが、使用する際には医師の指示に従い、適応と適応外の条件を十分に理解することが重要です。
また、肥満症の治療は、薬物治療だけでなく、生活習慣の改善も含めた包括的なアプローチが必要です。
5.ウゴービは安全な薬?どんな副作用があるのかは絶対に知っておこう
この薬は、糖尿病がある人にもない人にも使えますが、単独で使った場合、低血糖(血糖値が異常に低くなる状態)のリスクは低いです。
しかし、他の血糖を下げる薬と一緒に使うときは、低血糖のリスクが高まるので注意が必要です。
特にインスリンやSU薬、グリニド薬と一緒に使う場合がこれに該当します。
一方、ウゴービを投与するからといって、血糖を下げる薬を減らしすぎると、高血糖(血糖値が異常に高くなる状態)や急性代謝障害(体の代謝が急激に悪くなる状態)のリスクがあります。
糖尿病治療を受けている場合、治療状況をよく理解した上で、この薬を使う必要があり、かかりつけの先生と良く相談して使用しましょう。
また、ウゴービは薬であるため、良い効果だけでなく、副作用が起きる事があります。
使用するにあたっては、副作用についてしっかりと知っておく事が重要です。
重要な副作用には、低血糖のほかに、急性膵炎(すい臓が急に炎症を起こす病気)、胆嚢炎(胆のうの炎症)、胆管炎(胆管の炎症)、胆汁うっ滞性黄疸(胆汁がうまく流れずに黄疸が起こる状態)があります。
これらの副作用にも注意が必要です。
より一般的な副作用としては、食欲減退、頭痛、悪心、下痢、嘔吐、便秘、消化不良、おくび(げっぷ)、腹痛、腹部膨満などが報告されており、これらは5%以上の患者に見られると報告されています 。
特に高齢者や特定の健康状態の人では、注意が必要です。例えば、過剰な体重減少やメンタルヘルスの問題(自殺の意図や考えがある人)に注意する必要があります。
甲状腺髄様癌(甲状腺の一種のがん)の既往がある人や、家族歴がある人には、この薬の安全性は確立されていません。これらの人には投与が禁止されています。
このように、この薬は特定の条件下でのみ安全に使用できるため、その使用には注意が必要です
ウゴービは肥満症の治療に効果的な薬ですが、上記のような禁忌や副作用に注意し、医師の指示に従って使用することが重要です。
6.ウゴービが処方できる病院は限られている!クリニックでは処方できない事実
ウゴービを処方するに当たって欠かせない要件が2つあります。
それは「医療施設」と「治療責任者」の要件が厳しく決まっているのです。
そのため、普通のクリニックで処方するのはほぼ不可能であり、実質的にはその地域の中核病院での処方となるでしょう。
詳しくは下記の通りです。
①医療施設の要件への該当性
・内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
・施設内に、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が 1 人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。
・また、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医のうち、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。
・以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
・常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。
② 治療の責任者の要件への該当性
・高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。
・以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
<医師要件>
以下の基準を満たすこと。
・医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。
又は
・医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、脂質異常又は2型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。
・高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。
・日本循環器学会
・日本糖尿病学会
・日本内分泌学会
なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。
7.まとめ
ダイエットは多くの人にとって難しい問題です。特に、糖尿病などの健康問題を持つ方々にとっては、体重管理はただの運動や食事制限以上のものが求められます。
肥満は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスが崩れることで生じる状態です。
食べる量を減らし、運動を増やすことで体重は減るはずですが、実際はそう簡単にはいきません。
このような背景の中で、新しい肥満治療薬「ウゴービ皮下注」が注目を集めています。
ウゴービは、体内で自然に分泌されるインクレチンホルモンの効果を模倣しており、特に食欲抑制と血糖値の安定に役立ちます。
主成分であるGLP-1は、食後の血糖値の上昇を抑え、脳に作用して食欲を減少させます。
この薬は体内での効果時間を長くする特別な設計がされており、効果が持続します。
ウゴービは、肥満症患者に対する有効な治療選択肢ですが、使える人は限られています。
日本では、BMIが27以上で肥満に関連する健康障害を持つ患者、またはBMIが35以上の高度肥満症患者に使用されます。
重要なのは、単に体重が多いだけでなく、肥満が原因で健康問題を引き起こしている場合に限られることです。
ウゴービの臨床試験では、体重減少において他の肥満症治療薬と比較して顕著な効果が示されました。
特に、大幅な体重減少を達成した患者の割合が高かったことが重要です。
しかし、この薬を使用する際には、副作用にも注意が必要です。
低血糖や、消化器症状、胆嚢炎、胆管炎などの副作用が報告されています。
ウゴービは、食事療法や運動療法だけで十分な効果が得られない肥満症患者に新たな希望をもたらしますが、使用する際には医師の指示に従い、適切な条件下でのみ使用することが重要です。
また、肥満治療においては、薬物治療だけでなく生活習慣の改善も必要であるため、最終的にはちゃんとした糖尿病内科の医療機関で診て貰うべきですが、まずかかりつけ医など近くの医療機関に受診して相談してみることが大事です。