ビルダグリプチン・メトホルミン配合(エクメット)とは、DPP-4阻害薬のビルダグリプチンとビグアナイド系薬剤のメトホルミンを組み合わせた経口糖尿病治療薬です。

2型糖尿病の患者さんが血糖コントロールを目指すうえで有効成分の相乗作用により高血糖を抑制することを目的とします。

生活習慣の調整と併行してこの薬剤を活用することで合併症のリスク軽減を期待できる点が特徴です。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合の有効成分と効果、作用機序

ビルダグリプチン・メトホルミン配合(エクメット)は、2型糖尿病治療を目的とした複合薬です。

それぞれの有効成分が互いに補完し合いながら血糖コントロールを助けると考えられています。

ビルダグリプチンはインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)として膵臓のインスリン分泌を促します。

メトホルミンは肝臓での糖新生を抑えつつ筋肉や脂肪組織におけるインスリン抵抗性の改善を図る作用があります。

両者を同時に服用することで複数の経路から血糖を調節する仕組みが期待できます。

ビルダグリプチンの役割

ビルダグリプチンはDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素を阻害することでインクレチンと呼ばれるホルモン(GLP-1やGIP)の分解を遅らせます。

インクレチンは小腸から分泌されて食事によって血糖値が上昇した際にインスリンの分泌を促す働きを持ちます。

しかし体内にはDPP-4という酵素が存在し、インクレチンを比較的短時間で分解する性質があります。

ビルダグリプチンを服用するとインクレチンの活性維持時間が長くなり、結果的にインスリン分泌をより効率的に高める効果が期待できます。

ビルダグリプチンは食事の有無にかかわらず、血糖値の変動をある程度穏やかに抑える傾向です。

しかし、体内のインスリン分泌能が極端に低下しているケースでは十分な効果を発揮しにくい可能性があります。

ビルダグリプチンの特徴

  • インクレチン分解を抑える作用によりインスリン分泌をサポート
  • インスリンの過剰分泌をもたらしにくく、低血糖リスクが比較的低め
  • 体重増加のリスクが比較的少ないといわれる

下の表はDPP-4阻害薬が目指す主な作用をまとめたものです。

作用の概要ビルダグリプチンをはじめとするDPP-4阻害薬の役割
インスリン分泌促進インクレチンの作用を延長し、食後の血糖上昇に対してインスリン分泌を補助
グルカゴン抑制血糖値が高いときにグルカゴン分泌を抑え、高血糖を緩やかに抑制
低血糖リスクの軽減血糖値が低い状態では過剰にインスリンを分泌しない仕組みが働く

メトホルミンの役割

メトホルミンはビグアナイド系薬剤に属し、古くから糖尿病治療の第一選択肢として用いられてきた実績があります。

肝臓での糖新生を抑えることにより、空腹時の血糖上昇を抑制します。

その他にも筋肉や脂肪組織におけるインスリン感受性を高めてインスリン抵抗性を改善するメカニズムが知られています。

これらの効果によってインスリンの働きが低下していても糖の取り込みをサポートし、血糖値を抑える方向に働くことが期待されます。

メトホルミンは低血糖を起こしにくい特徴を持つ一方で、腎機能が低下している方や重篤な肝障害を伴う方は注意が必要です。

特に乳酸アシドーシスという副作用リスクがあり、適切な用量調整や腎機能のチェックが大切です。

メトホルミンの特徴

  • 肝臓での糖新生抑制による空腹時血糖の低減
  • インスリン抵抗性の改善により全身での糖取り込みを促進
  • 低血糖リスクが比較的少なく体重増加を引き起こしにくい

有効成分の相乗効果

ビルダグリプチンとメトホルミンはそれぞれ異なる経路で血糖値を低下させる作用を持ちます。

ビルダグリプチンがインスリン分泌とグルカゴン抑制に作用してメトホルミンが主に肝臓と末梢組織に対して働くため、併用することで相乗的な血糖コントロールが期待できます。

インクレチンを増やしつつ、肝臓からの過剰な糖放出を抑えることで総合的に血糖値を下げる方向へアプローチできます。

また、両成分とも血糖が高い状態で働く性質があるので重度の低血糖を起こしにくいと考えられています。

ただし内因性インスリン分泌能力が低下している患者さんや、他の糖尿病治療薬と併用している場合には低血糖のリスクがゼロではありません。

そのため定期的なモニタリングが欠かせません。

作用機序のまとめ

  • ビルダグリプチン:インクレチンの分解を阻害してインスリン分泌を増強
  • メトホルミン:肝臓の糖新生を抑えて末梢組織のインスリン感受性を向上
  • 併用により食後血糖と空腹時血糖を総合的に管理

下の表にビルダグリプチンとメトホルミンの主な作用機序をまとめています。

成分作用機序主な特徴
ビルダグリプチンDPP-4阻害によるインクレチン活性化インスリン分泌増強、体重増加が少ない傾向
メトホルミン肝糖新生抑制、末梢組織のインスリン感受性向上空腹時血糖の抑制、乳酸アシドーシスに注意

効果をより高めるためのポイント

ビルダグリプチン・メトホルミン配合(エクメット)の効果を高めるためには食事療法や運動療法との併用が重要です。

薬だけに頼るのではなく、生活習慣の改善と合わせることで血糖コントロールの安定が期待できます。

  • 食事のバランスを意識して糖質を過度に摂りすぎない
  • 定期的な運動を習慣化しインスリン抵抗性の改善をサポート
  • 血糖値の自己測定などで日々の変動を把握する

さらに定期的な血液検査による腎機能チェックや肝機能の評価も大切です。

これらの管理を怠ると思わぬ副作用や効果不十分といった問題が生じる可能性があります。


エクメットの使用方法と注意点

ビルダグリプチン・メトホルミン配合(エクメット)は、1種類の錠剤で2つの有効成分を同時に摂取できるメリットがあります。

その一方で、それぞれの成分の特徴に応じた注意点も存在します。

用法や用量を守り、定期的に医師による血糖・臓器機能のモニタリングを受けることが必要です。

一般的な服用方法

通常、2型糖尿病の治療で用いられる場合は食事のタイミングに合わせて服用します。

具体的には1日2回(朝食後・夕食後)など、医師から指示されたとおりの回数と時間帯を守って飲む方法が推奨されます。

メトホルミンは食後に服用することで胃腸への刺激を軽減でき、ビルダグリプチンも食後のインスリン分泌をよりサポートしやすくなります。

  • 食事のあとに多めの水またはぬるま湯とともに服用する
  • 胃腸が弱い人は医師と相談のうえ、用量を調整する
  • 処方された用量や回数を勝手に変更しない

下の表は医師が処方を検討する際に考慮する主な要素を簡単にまとめたものです。

考慮する要素主な内容
血糖コントロール状況HbA1cや空腹時血糖、食後血糖の値
腎機能eGFRやクレアチニン値でメトホルミン投与量を調整
既往歴・合併症心不全や肝障害などがあるかどうか
他の服用薬低血糖リスクが増加する組み合わせか、併用禁忌に該当しないか

低血糖予防のポイント

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬はインスリン分泌促進薬とインスリン抵抗性改善薬を組み合わせた性質上、極端な低血糖を起こしにくいとされています。

しかし、他の糖尿病薬(特にスルホニル尿素薬やインスリン注射)と併用している場合は低血糖の可能性が高まることがあります。

次のような対策を意識すると安心です。

  1. 定期的な血糖値測定で変化を早期に把握する
  2. 空腹時には激しい運動を避ける
  3. 万が一の低血糖に備えてブドウ糖や甘い菓子を用意する

なお、冷や汗、動悸、手の震え、意識の混濁などの低血糖症状が生じた場合はブドウ糖を摂取して安静にしてください。

それでも状態が改善しないときには医療機関に相談してください。

胃腸障害の防止

メトホルミンには下痢や腹部膨満感、吐き気などの胃腸症状が起こることがあります。

ビルダグリプチン自体は胃腸障害の頻度が高くはないとされていますが、メトホルミンによる胃腸症状は比較的よくみられる副作用の1つです。

下記のような点に注意することで症状のリスクを低減できる可能性があります。

  • 食後に十分な水分とともに服用する
  • 飲酒を控えて胃への刺激を減らす
  • 油脂の多い食事を控えて消化しやすい食事を心がける

下の表ではメトホルミンによる胃腸障害の度合いと対処法の一例を示しています。

症状の度合い具体的な症状対処法
軽度軽い吐き気、下痢、腹部膨満感など食後に服用、医師と相談で用量調整
中程度継続的な下痢、強い吐き気一時的に服用を中断、再度医師受診
重度脱水症状、明らかな体重減少など直ちに医療機関を受診し精査が必要

腎機能・肝機能への注意

メトホルミンは腎臓を介して排泄されるため、腎機能が低下している患者は血中に薬剤が蓄積しやすくなります。

この蓄積が進むと乳酸アシドーシスという重篤な状態を引き起こすリスクが高まります。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬を使用している場合も定期的に腎機能検査を行い、投与の可否や用量を調整する必要があります。

肝機能障害のある方も同様に注意を要します。

肝臓は薬剤の代謝に関わるため肝障害を伴う場合は薬の排泄・代謝が遅れ、副作用が起こりやすくなる可能性があります。

肝機能障害があるときは医師と綿密に相談して必要に応じて別の治療薬への切り替えや用量調整を検討します。


エクメットの適応対象患者

ビルダグリプチン・メトホルミン配合(エクメット)は、主に2型糖尿病の患者に使用されます。

特にメトホルミンによる肝糖新生抑制効果が必要で、同時にインクレチン関連薬によるインスリン分泌促進が見込めるケースで処方を検討することが多いです。

患者さん個々の病状や生活習慣、腎機能、肝機能などを総合的に判断して使用の可否を決定します。

メトホルミン単剤では効果不十分な方

2型糖尿病において、まずはメトホルミン単剤治療を行うケースが一般的です。

食事療法や運動療法と併行しながらメトホルミンで血糖コントロールを試みるものの、HbA1cが目標値に達しない場合や、さらに血糖値の安定を目指す必要がある場合にDPP-4阻害薬を併用することがあります。

その際にビルダグリプチンとメトホルミンの合剤を選択することで錠数を減らすメリットも得られます。

  • HbA1cが継続的に高値を示す
  • 空腹時血糖および食後血糖ともに基準を大きく上回る
  • インスリン分泌能がある程度保たれている

DPP-4阻害薬とビグアナイドの併用が適している方

DPP-4阻害薬とビグアナイドを同時に使用する目的は肝臓・膵臓・末梢組織という複数の器官から血糖コントロールを強化することにあります。

インスリン分泌をサポートしながら肝臓の過剰な糖放出を抑えることで、空腹時や食後の血糖値の双方を管理しやすくなる特徴があります。

下のリストは併用が適していると考えられる代表的なケースです。

  • 空腹時血糖、食後血糖ともにコントロールが必要な方
  • 体重増加を最小限にとどめたい方
  • 強いインスリン分泌不全を有していない方

多剤併用を避けたい方

糖尿病治療ではさまざまな経口薬やインスリン注射などを組み合わせる多剤併用療法が行われることもあります。

しかし服薬数が増えると服用管理が複雑になり、副作用や相互作用のリスクが高まります。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬であればこれらの2種類を1錠にまとめて服用できるため、服薬負担の軽減が期待できます。

また、服薬アドヒアランス(服薬遵守度)を高めたい方にも向いています。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬を検討する理由具体例
服用回数の簡略化1日2回などで済み、錠剤の数を減らせる
相互作用の管理が容易併用薬が少ないほど副作用リスクを把握しやすい
長期的な治療継続における利便性慢性的に治療を続ける際に錠剤数が少ないと自己管理をしやすい

適応外となる場合

腎機能が著しく低下している場合や1型糖尿病、重度の肝障害や心不全を有する場合などはビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の使用が制限されることがあります。

また、妊娠中や授乳中の方も薬剤の使用には慎重な判断が求められます。

自己判断での継続・中断は危険を伴うため、必ず主治医に相談してください。


エクメットの治療期間

糖尿病は慢性疾患の代表格であり、一度血糖コントロールが乱れると継続的な治療と生活習慣の見直しが求められます。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬による治療期間も患者さんごとの血糖コントロール状況や合併症の有無によって大きく異なります。

ここでは治療期間の考え方や長期的なモニタリングの重要性について解説します。

初期治療から長期維持まで

2型糖尿病の治療では、まずは食事療法・運動療法などの生活習慣の調整を行い、必要に応じて経口薬を追加します。

初期治療でメトホルミン単剤を使い、ビルダグリプチン・メトホルミン配合に切り替えるケースもあれば、最初から併用療法を導入することもあります。

いずれにせよ、効果が得られている間は長期的な維持療法として継続することが多いです。

長期間使用する場合は次のような点に留意するとよいでしょう。

  • 定期的な血液検査でHbA1cや空腹時血糖、食後血糖を評価する
  • 腎機能・肝機能の変化がないかをチェックする
  • 必要に応じて他の治療薬やインスリン注射への移行を検討する

効果判定と服薬調整

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬を使用していても血糖コントロールが思うように改善しない場合や、副作用が顕著に現れる場合は、服薬内容を見直すタイミングといえます。

医師は以下のような情報を総合的に判断して治療方針の変更を検討します。

  1. 血液検査の結果(HbA1c、血糖値、腎機能パラメータなど)
  2. 患者の日常生活や食事・運動習慣の状況
  3. 副作用の有無(低血糖エピソードや胃腸障害、肝機能・腎機能の変動など)

下の表に治療効果判定の目安と、可能な対応策を簡単に示します。

状況対応策具体的な検討事項
血糖コントロール良好現在の治療を継続生活習慣を維持し、副作用チェックを続ける
効果不十分他の薬剤の追加や服用量変更を検討スルホニル尿素薬やGLP-1受容体作動薬などの併用
副作用が目立つ用量調整や別の薬への切り替え他のDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬への変更など

治療中断のリスク

糖尿病治療では一時的に血糖値が安定したからといって自己判断で薬を中断すると、再び血糖コントロールが乱れて合併症のリスクが高まる可能性があります。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬も例外ではありません。

血糖値が一旦安定した後も定期検査と医師の指示を踏まえて継続の必要性を判断してください。

  • 治療を自己判断でやめると高血糖や合併症が進行しやすい
  • 中断・再開を繰り返すことで副作用リスクが変動する可能性がある
  • 医師と定期的にコミュニケーションを取り、状況に応じた調整を行う

ライフイベントに応じた治療

糖尿病治療は長期的な取り組みであり、加齢や妊娠、その他の病気の発症などライフイベントの変化に合わせて治療計画を見直す必要があります。

特に腎機能が年齢とともに低下するケースも多く、長く使用している薬の用量や種類が合わなくなる可能性が生じます。

定期的に診察を受け、状況に応じて薬物療法や生活習慣を調整することが大切です。


副作用・デメリット

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬は複数の経路から血糖をコントロールするため効果を期待できる一方で、副作用やデメリットにも注意が必要です。

特にメトホルミンの乳酸アシドーシスリスクやビルダグリプチンによるまれな副作用などは知識として持っておくほうが安全です。

胃腸障害

メトホルミンによる胃腸障害は比較的よく報告されます。

吐き気や下痢、腹部膨満感などがみられ、特に服用開始初期や服用量を増やした場合に顕著になることがあります。

適切な用量調整や食後の服用を心がけることで症状が軽減されるケースが多いです。

  • 服用初期に症状が出やすい
  • 改善がみられない場合は医師に相談して用量や服用タイミングを再検討する

乳酸アシドーシス

メトホルミンの重篤な副作用として乳酸アシドーシスが挙げられます。

これは血中の乳酸が過剰に蓄積する状態で、吐き気や呼吸困難、意識障害などの深刻な症状を引き起こす恐れがあります。

腎機能が低下している場合や脱水状態、心不全などがある場合にリスクが高まるため注意深い観察と定期的な血液検査が重要です。

下の表では乳酸アシドーシスのリスク因子をまとめています。

リスク因子内容
腎機能障害メトホルミンの排泄が滞り、血中濃度が上昇する
重度の心不全循環不全により臓器への酸素供給が不足する
重度の肝障害乳酸代謝に関わる肝臓機能が低下する
脱水状態血液が濃縮し、薬剤濃度が上がる

皮膚症状や肝機能異常

ビルダグリプチンを含むDPP-4阻害薬では、まれに皮膚の発疹やかゆみ、肝機能異常などの副作用が報告されています。

スティーブンス・ジョンソン症候群など重篤な皮膚障害のリスクはごくまれですが、皮膚症状が急速に拡大したり発熱を伴う場合はすぐに医師の診察を受ける必要があります。

  • 発疹やかゆみが長期間にわたる場合は注意
  • 定期的に血液検査を受け、肝機能数値をチェックする

デメリットと克服方法

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬には複数の副作用リスクがあるため、慢性的に使用するうえではこまめな健康チェックが求められます。

特に腎機能・肝機能が年齢や疾患の進行で変化する可能性があるため、自分の体調や検査データに合った用量で継続する姿勢が大切です。

もし副作用が強く出たり、効果が不十分な場合は他の治療薬に切り替える選択肢もあります。

継続的に医師と相談することで副作用を最小限に抑えつつ血糖コントロールを図ることができます。


ビルダグリプチン・メトホルミン配合の代替治療薬

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬が合わない場合や、副作用、服用継続の難しさなどで切り替えを検討することがあります。

糖尿病治療薬の選択肢は幅広く、それぞれ作用機序や副作用リスクが異なります。

そのため自分の病態に合った薬剤を医師とともに検討することが重要です。

他のDPP-4阻害薬との併用

ビルダグリプチン以外にもシタグリプチンやアログリプチンなどのDPP-4阻害薬があります。

メトホルミンとの併用は一般的でそれぞれが単剤で処方される形もあれば、他のDPP-4阻害薬とメトホルミンの配合薬も存在します。

ビルダグリプチン特有の副作用が目立つ場合や費用面、効果面の理由で別のDPP-4阻害薬に切り替えるケースがあります。

スルホニル尿素薬への切り替え

より強力なインスリン分泌促進作用を求める場合はスルホニル尿素薬(グリベンクラミドやグリクラジドなど)を検討することがあります。

スルホニル尿素薬は膵臓のβ細胞に直接働きかけてインスリン分泌を大きく高める作用を持ちます。

その反面、低血糖リスクや体重増加の可能性がある点が課題です。

  • 血糖が高止まりしている時に効果を発揮しやすい
  • 低血糖エピソードに気をつける必要がある
  • 高齢者や腎機能低下のある方は用量調整が重要

SGLT2阻害薬の併用や単剤使用

SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジンなど)は、尿中へ糖を排泄させることで血糖値を下げる新しいタイプの薬です。

インスリン分泌に依存しない機序で作用するため、低血糖のリスクを比較的抑えながら体重減少にもつながる場合があります。

しかし脱水や尿路感染症などが起こりやすくなる点に注意が必要です。

治療薬カテゴリー作用機序主なデメリット
DPP-4阻害薬インクレチンの分解を抑制し、インスリン分泌をサポートまれに重症皮膚障害など
スルホニル尿素薬膵β細胞を直接刺激し、インスリン分泌を促進低血糖リスクが高い、体重増加の可能性
SGLT2阻害薬尿細管でのブドウ糖再吸収を抑え、尿中に糖を排泄脱水や尿路感染症、脱水に伴う血栓リスク

GLP-1受容体作動薬へのステップアップ

DPP-4阻害薬が十分な効果を得られなかった場合にGLP-1受容体作動薬へのステップアップを検討することがあります。

GLP-1受容体作動薬は注射薬が主流であり、注射頻度によって1日1回や週1回などが選択肢になります。

インスリン分泌を強く促進しつつ、体重減少効果が期待される反面、注射への心理的ハードルや費用面での課題もあります。

  • 注射という手段に抵抗がある方も少なくない
  • 胃腸障害(吐き気など)が出やすい場合がある
  • 体重減少効果を考慮して選択されるケースもある

エクメットの併用禁忌

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬はそれぞれの成分に基づく併用禁忌があります。

たとえばメトホルミンを併用できない病態や、ビルダグリプチンと組み合わせることで低血糖リスクが著しく高まる治療薬などが該当します。

ここでは代表的な併用禁忌や注意が必要な組み合わせを解説します。

重度の腎機能障害

メトホルミンは腎臓から排泄されるため重度の腎機能障害がある場合は併用禁忌となる可能性が高いです。

具体的にはeGFRが極端に低い場合や透析が必要なレベルの腎不全ではビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の使用は推奨されません。

腎機能が中等度に低下している段階でも慎重投与が求められます。

造影剤検査時の中断

メトホルミンは造影剤(ヨード造影剤)投与による腎機能障害リスクの上昇と関連しています。

そのためCT検査など造影剤を使う検査を実施する場合は医師の判断で一時的にメトホルミンの投与を中断することがあります。

検査終了後は腎機能に問題がないことを確認したうえで再開するのが一般的です。

下のリストは造影剤検査とメトホルミンの関係における注意点です。

  • 造影剤が腎機能に負担をかける可能性がある
  • 腎機能が一時的に低下しているときは乳酸アシドーシスのリスクが高まる
  • 検査後は一定期間あけてから再開する

低血糖リスク増加の組み合わせ

ビルダグリプチンは単独では低血糖を起こしにくいとされていますが、スルホニル尿素薬(SU薬)やインスリン製剤など強力に血糖を下げる薬との併用時は注意が必要です。

併用禁忌とまではいかなくても、極端に血糖値を下げる可能性があります。

特に高齢者や腎機能が低下している方は低血糖エピソードを引き起こしやすくなります。

薬剤の種類併用時の主なリスク推奨される対策
スルホニル尿素薬強いインスリン分泌刺激による低血糖服用量を調整し、定期的な血糖測定を行う
インスリン注射インスリン過剰投与による低血糖インスリン単位の見直しと、食事量・運動量の管理を徹底する
アルコール多量摂取乳酸アシドーシスや低血糖リスク上昇アルコール制限、血糖測定の頻度を増やす

肝障害や心不全の合併

重度の肝障害がある場合や心不全がコントロールされていない状態では、ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の使用は慎重になります。

これらの病態があると薬剤の代謝や排泄の過程でトラブルが生じたり、全身状態が不安定になりやすいため、別の治療法を検討する場合があります。


ビルダグリプチン・メトホルミン配合の薬価

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の薬価は健康保険適用の範囲内で設定されます。

薬価は成分の配合量や製剤の形状によって異なります。

しかしDPP-4阻害薬とメトホルミンを別々に処方される場合との費用比較や、ほかの経口糖尿病薬と比べたときの差などが気になる方も多いでしょう。

薬価の概要

日本国内で販売されている経口糖尿病薬の薬価は一定のルールに基づいて決められています。

ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の場合も製品名や含有量によって細かな薬価が設定されています。

一般的には配合錠であるために別々に服用する場合と比較すると手間は減りますが、薬剤費が単独製剤を合わせた場合と同程度になるか、わずかに差が生じることがあります。

下の表は、ビルダグリプチン・メトホルミン配合薬の薬価と、同成分を単独で使用した場合のおおまかな比較イメージです。(実際の価格は時期や剤形、薬局や保険制度によって変動する可能性があります。)

製剤おおまかな薬価(1錠あたり)特徴
ビルダグリプチン・メトホルミン配合錠単独製剤合計と同程度~やや高め1錠で2成分を摂取できる
ビルダグリプチン単剤成分量によるDPP-4阻害薬の標準的な薬価
メトホルミン単剤比較的安価長年使用実績があり、ジェネリックも豊富

ジェネリック医薬品

メトホルミンはジェネリック医薬品が豊富ですが、ビルダグリプチンは比較的新しい薬剤として登場しています。

ジェネリックの選択肢はメトホルミンほど多くない傾向です。

配合薬のジェネリックも今後の時期によっては出てくる可能性がありますが、現時点では先発医薬品が中心となっているケースが多いです。

保険適用と自己負担

通常、2型糖尿病の治療に用いられる処方薬は保険適用されます。

自己負担割合は患者さんの年齢や所得区分によって1割・2割・3割負担などに分かれます。

複数の糖尿病治療薬を組み合わせている場合や、定期的な血液検査や診察費用も加味すると、月々の医療費はそれなりの金額になることがあります。

経済面を考慮しながら医師と相談のうえで治療薬の選択をすることが望ましいです。

経済的負担を軽減するための工夫

薬価が高いと感じる場合でも以下のような工夫で治療継続のための経済的負担を軽減できる可能性があります。

  • 病院や薬局の指導のもとでジェネリック医薬品を選択する
  • 食事療法や運動療法を徹底し、追加の薬剤を必要としない状態を目指す
  • 高額療養費制度を活用して1か月あたりの自己負担額に上限を設ける

治療費の問題で服薬を自己判断で中断すると血糖コントロールが乱れて合併症リスクが高まることがあります。

経済的な事情がある場合でも医師や薬剤師に相談し、利用できる制度の活用や薬剤の選択肢を一緒に検討することが大切です。

以上

参考にした論文