多くの方は視力の低下や目の疲れを感じてから検査を検討し始めますが、視野や光の認識に関わる眼底は、見た目や自覚症状だけでは異常をとらえにくい領域です。

眼底検査は、網膜や血管の状態などを直接確認する方法のひとつで、目の健康を総合的に把握しやすいメリットがあります。

ここでは、眼底検査の基本や手順、そこからわかる病気などについて詳しく解説します。検査を受けるタイミングや注意点を知り、より良い判断につなげてみてください。

眼底検査の概要と目的

目の健康を知るうえで、眼底検査は重要な手段です。網膜や視神経乳頭、血管の状態を観察することで、多岐にわたる病気の兆候を把握しやすくなります。

ここでは、その目的や役割、どのように視覚の仕組みと関わるかに焦点を当てて解説します。

眼底検査とは何か

眼底検査は、瞳孔から内部を観察し、網膜や血管の状態などを直接確認するものです。

視力検査だけでは分からない眼球内部の状態を確かめられるため、多くの病気や異常を発見するきっかけになります。

網膜の一部である黄斑や視神経乳頭の色や形状、血管の太さや走行を細かく見ることで、全身の血管状態を推測できる場合もあります。

また、眼底写真やOCT(光干渉断層計)のような機器で画像を保存し、継続的に状態を追うことができます。特に糖尿病網膜症や緑内障などでは、経過観察が必要になるため、定期的な撮影が有用です。

眼底検査で確認できる主な部位と特徴

部位特徴と確認内容
網膜光を受け取る細胞が集中する層で、変性や出血の有無などを確認
視神経乳頭視神経が集まる部分で、形状や隆起の具合をチェック
黄斑視力を担う中心部で、色調の変化や浮腫などを観察
血管血管の太さや走行の異常、出血や白斑の有無などを把握

網膜や血管の状態は、日常のちょっとした症状では気づきにくい微細な変化を反映しやすいです。視力だけではなく、目そのものや全身の状態を考える手がかりになります。

眼底検査の主な目的

眼底検査を行う大きな目的は、「早期発見と治療のタイミングを逃さないこと」です。糖尿病網膜症などの重い疾患は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことが多いです。

網膜に異常が生じても、視野が狭くなるなど顕著な症状が出るまで気づかない場合があります。

また、高血圧による網膜血管障害や緑内障など、多くの眼病は遅れて発見すると治療が長期化しやすいです。

早期に網膜の出血や黄斑変性などを見つけて適切な対処を始めることは、とても大切です。さらに、一度失われた視細胞は復活しにくいため、検査を受けるタイミングを考えることは重要といえます。

  • 早期発見が重要な理由
    • 視力の低下や視野狭窄を遅らせる
    • 治療の選択肢や幅を確保しやすくなる
    • 全身疾患のコントロール状況も把握しやすい

眼底検査が視覚の仕組みとどのように関わるか

視覚は、角膜や水晶体で光を屈折させ、網膜の視細胞で光を電気信号に変換して脳に伝達する流れで成立します。

このとき、網膜や視神経の状態が悪ければ、ものがゆがんで見える、暗く見えるなどの症状につながります。

眼底検査は、網膜や視神経の状態を直接確認できる数少ない手段です。

目の表面を検査するだけでなく、奥の血流や細胞の変化まで視野に入るため、仮に自覚症状がなくても、微細な異常を見つける足がかりになります。

眼底検査をすすめられる主なケース

  • 糖尿病や高血圧などの慢性疾患がある方
  • 緑内障や網膜剥離の家族歴がある方
  • 長年喫煙習慣がある方
  • 過去に目のけがや目の手術歴がある方

これらの方は、早いうちから検査を受けるメリットが大きいと考えられます。眼底検査は直接的な症状の有無にかかわらず、多くのケースで役立ちますが、特にリスクを抱える方は積極的に検討してください。

眼底検査でわかる主な病気や異常

眼底検査によって確認できる網膜や視神経の異常は、目の病気だけでなく、全身の健康状態に関わるものが少なくありません。

早期発見や治療の方針を考えるうえで参考にしていただくため、代表的な病気や異常を具体的に紹介します。

糖尿病網膜症と高血圧性網膜症

糖尿病網膜症は、血糖値のコントロールが不十分な状態が続くと網膜の血管に変化が起きて出血や滲出物が生じ、進行すると視力の低下を引き起こす恐れがあります。

高血圧性網膜症も同様に、血圧が高い状態で血管に負担がかかり、血管の狭窄や出血が起こりやすくなります。

糖尿病網膜症・高血圧性網膜症で見られる兆候

病名主な変化や症状進行度合い
糖尿病網膜症網膜出血、白斑、血管瘤、浮腫など進行すると失明に至るリスクあり
高血圧性網膜症血管の狭窄、動脈硬化徴候、網膜浮腫など眼底だけでなく脳や心臓にも影響

多くの場合、初期段階では視力の低下がわずかで気づきにくいです。定期的に血糖値や血圧を管理すると同時に、眼底検査を受けることで変化を把握しやすくなります。

緑内障

緑内障は視神経が障害されて徐々に視野が狭くなる病気です。眼底検査では、視神経乳頭(いわゆる視神経の出入口部分)の陥凹拡大や血流の異常などを確認し、緑内障の可能性を評価します。

視野検査とあわせて観察すると、より詳しい診断ができます。

  • 緑内障の特徴的なポイント
    • 視神経乳頭の陥凹が大きくなる
    • 眼圧の上昇が見られる場合がある
    • 症状の進み方がゆっくりで気づきにくい

視神経はダメージを受けると回復しにくいため、早期の検査や定期的な経過観察が肝心です。

黄斑変性

黄斑は網膜の中心で、物を見る際に重要な部分です。加齢黄斑変性などでは、黄斑部で変性が進み、視野の中心がゆがんで見えたり、暗くなってしまったりします。

眼底検査では黄斑の色調や出血などを確認し、異常の有無を判断します。早めの段階で発見すると、治療の選択肢が広がる可能性があります。

網膜剥離や網膜裂孔

強度近視や外傷などによって網膜に裂け目が入ると、網膜剥離に進行するリスクが高まります。網膜剥離は急に視界に幕がかかったようになるなど、深刻な症状につながるおそれがあります。

眼底検査では裂孔の位置や網膜がどこまで剥離しているかを観察し、治療の方法を判断します。

網膜裂孔や網膜剥離で想定される症状

  • 飛蚊症の急な増加
  • 視野の一部が見えにくくなる
  • 光がちらついて見える
  • 視界が部分的に暗く感じる

これらの症状があるときは、時間を空けずに医療機関での受診を検討することが大切です。

眼底検査の実際の流れと手法

ここでは、眼底検査の大まかな流れや使用する機器、検査前後の注意点などをまとめます。初めて受ける方や久しぶりに受ける方が不安を感じにくいよう、手順を明確にすることは大切です。

検査前の準備と問診

眼底検査では散瞳薬を点眼して瞳孔を広げる場合があります。これにより、網膜をより広く、詳細に観察しやすくなります。点眼後は一定時間、まぶしさを感じることや焦点が合いにくくなることがあります。

  • 準備時の確認事項
    • 現在使用中の薬
    • 既往症(緑内障や白内障手術の有無など)
    • アレルギーの有無
    • 交通手段(車の運転の予定がある場合、注意が必要)

問診の際、医師やスタッフが散瞳の必要性や検査方法を説明します。不安な点はこの段階で確認すると安心です。

散瞳の有無による検査時の違い

散瞳の有無メリット留意点
散瞳あり網膜の広範囲を観察しやすい、より詳しい評価が可能一時的にまぶしさが強くなる、ピントが合いにくい
散瞳なしすぐに日常生活に戻りやすい詳細な観察が制限される場合がある

眼底撮影やOCT(光干渉断層計)での画像取得

検査方法には、直接眼底鏡や倒像鏡を使用した方法、デジタルカメラで撮影する眼底写真、OCTによる断層撮影などがあります。

OCTを使うと網膜の層構造を断層像として把握できるので、わずかな浮腫や小さな変化をとらえやすいです。

眼底写真の場合は、カメラの前に顎と額を固定して撮影します。撮影は瞬時に行い、数枚の画像を撮って網膜全体の状態を整理します。

検査後に画像を確認し、医師やスタッフがどの部分に異常があるか説明します。

検査後の注意点

散瞳後は数時間にわたり光に敏感になる場合があります。室内でも照明がまぶしく感じたり、近くのものが見えにくいなどの違和感が残ることがあります。

車の運転や精密作業は控えるのが望ましいです。まぶしさ対策として、サングラスや帽子を準備すると便利です。

検査結果の活用

撮影した眼底写真やOCT画像は保存しておき、経過を比較する資料として役立ちます。

特に緑内障や糖尿病網膜症などでは、変化の速さや症状の進行度合いを把握し、治療計画を検討する際の大事な判断材料になります。

検査結果を受け取ったら、自宅でも定期的に自覚症状と照らし合わせて確認するとよいでしょう。

眼底検査のタイミングと頻度

眼底検査は、基本的に定期的な目の健康管理の一環として受けることが望ましいです。ただし、個々の病気のリスクや年齢、生活習慣によって最適なタイミングは変わります。

ここでは、受診の目安と頻度の考え方をまとめます。

年齢や疾患リスクに応じた目安

  • 40代から50代以降の方
    加齢に伴い、緑内障や黄斑変性などのリスクが高まることがあります。年に1回から2回程度の受診を考えてみると安心です。
  • 糖尿病や高血圧の治療中の方
    血糖値や血圧が安定しないと網膜に変化が生じやすいため、主治医と相談しながら半年に1回程度検査を受けることを検討してください。
  • 家族歴がある方
    緑内障や網膜剥離の家族歴がある場合、早いうちから1年に1回程度検査を受け、変化を早期に確認することが大切です。

眼底検査の頻度の一般的な目安

カテゴリおすすめの頻度備考
40代〜50代1年〜2年に1回目の自覚症状がなくても受診が有用
糖尿病・高血圧治療中半年〜1年に1回病状やコントロール状態によって調整
家族歴あり(緑内障など)1年に1回異常が見つかり次第早めに医療機関へ
強度近視・外傷の経験がある方状況に応じて随時症状がわずかでも早期に確認が重要

自覚症状が出てからでは遅い理由

眼底の異常は初期にほとんど症状を感じないことが多いです。たとえば糖尿病網膜症の初期では、ほぼ自覚症状がありません。

視野が急に欠けたり、ものが見えにくくなるなど顕著な変化が起きてからでは、回復が難しい場合があります。そのため、自覚症状を待たずに定期的に検査を行う意義は大きいです。

忙しい人のためのポイント

  • かかりつけ医で紹介状をもらい、専門の医療機関で受診する
  • 検査時間の短縮を希望する場合、予約制のクリニックを活用
  • 家族と一緒に検査を受けて情報を共有し、リスク意識を高める

受診のハードルを下げる工夫

日頃から健康診断の一環として眼底検査を組み込むことは有益です。自治体の健診メニューの中に含まれている場合もあるので、確認してみるのもよいでしょう。

もし健診で網膜や血管に異常の疑いが見つかったら、早めに眼科を受診し、詳しい診断を行うことをおすすめします。

眼底検査を受ける際の注意点とリスク

眼底検査は安全性が高いですが、散瞳薬の点眼など特有の注意がいくつかあります。ここでは検査をスムーズに受けるためのポイントと、まれに生じるリスクについて解説します。

散瞳薬の影響

散瞳薬を点眼すると、瞳孔が広がり光が入りやすくなります。そのため、検査時に網膜をより広範囲にチェックしやすいというメリットがありますが、下記の点に留意してください。

  • 散瞳後はまぶしさを強く感じる
  • 手元が見えにくくなる場合がある
  • 数時間は車の運転や細かい作業がしにくい
  • 緑内障の一部のタイプ(閉塞隅角緑内障など)では、眼圧が急激に上昇する恐れがあるので医師と相談が必要

散瞳検査後に意識したいこと

  • 帽子やサングラスを持参する
  • できれば車以外の交通手段を利用する
  • 必要があれば家族や知人に付き添いを頼む

検査当日は時間に余裕を持って行動し、無理のないスケジュールを立てると安心です。

光干渉断層計(OCT)検査の留意点

OCTは網膜の断層像を撮影する装置です。散瞳が必要ないタイプのOCTもありますが、広い範囲を詳細に撮りたいときは散瞳が行われる場合があります。

OCT自体は網膜にレーザー光を当てるしくみを用いますが、眼を直接触れないので痛みは基本的にありません。

ただ、装置の前で数分間、頭を固定する必要があるため、姿勢がつらい方は事前に相談するとよいでしょう。

アレルギーや薬の副作用の確認

散瞳薬や麻酔薬、消毒用の薬剤にアレルギーを持つ方は、事前に申告が大切です。まれに点眼でアレルギー反応が出る場合があります。

これまでに眼科で症状が出たことがある方や、過去の治療で副作用があった方は、必ず医師やスタッフに伝えてください。

検査前に知らせるとよい情報

知らせる内容理由
既往症・持病散瞳が望ましくない病気(例:閉塞隅角緑内障など)がないか
現在の服用薬薬剤の組み合わせや副作用のリスクを考慮
点眼薬や麻酔薬でのアレルギー歴同様の薬剤使用を避ける判断材料
コンタクトレンズの使用状況レンズの着脱を検査時にどうするか事前に調整できる

視覚障害リスクの回避

眼底検査そのものが原因で重篤な視覚障害が起こる可能性は低いですが、適切に準備をしないと他の合併症につながるリスクを高める場合があります。

特に閉塞隅角緑内障の疑いがある方は、担当医が慎重に散瞳薬を使うか判断します。疑問や不安がある場合は、遠慮なく相談してください。

生活習慣と目の健康:検査と予防の重要性

眼底検査の結果は、目だけでなく全身の健康状態にも影響することがあります。生活習慣を改善すると、目の状態にもプラスになる場合が多いため、目と全身のケアを両立させることが大事です。

食生活と目の健康

バランスの良い食事は網膜や血管の健康を支えます。特にビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、DHA、ルテインなどの栄養素は、眼底や黄斑部を保護する可能性があると考えられています。

糖尿病網膜症が気になる方は、糖分を過剰に摂取しない工夫が望ましいでしょう。

  • 目の健康をサポートするといわれる栄養素の例
    • ビタミンA(レチノール):網膜の光受容体機能を補助
    • ビタミンE:抗酸化作用による細胞保護
    • ルテイン:網膜(特に黄斑部)の保護
    • DHA:細胞膜の機能を維持

適度な運動とストレス管理

運動不足は肥満や生活習慣病につながり、眼底の血管にも影響を与えやすいです。ウォーキングや軽い筋トレなどを生活に取り入れて血行を促進し、適度な体重を維持することを心がけてください。

ストレスが高い状態は血圧の乱れを招くこともありますので、心身のリラックス方法を見つけることも大切です。

運動習慣と目の健康の関係

運動の種類期待できる効果注意点
ウォーキング血行促進、肥満予防無理なく継続しやすいスピードで実施
ストレッチ筋肉のこわばりを解消、血流改善呼吸を止めないように気をつける
軽い筋トレ代謝向上、全身の健康管理に役立つ過度な負荷は避ける
有酸素運動心肺機能向上、血液循環の改善過剰に長時間行うと疲労を蓄積しやすい

タバコとアルコールの影響

喫煙は血管を収縮させ、網膜の酸素や栄養の供給を低下させる可能性があります。糖尿病網膜症や黄斑変性の進行にも悪影響を与えると言われています。

アルコールの過剰摂取も肝機能や代謝に影響し、血管リスクを高める恐れがあります。過度の飲酒や喫煙は、早期の眼底検査を行うべき理由の1つといえるでしょう。

日常でできる目のケア

パソコンやスマートフォンを長時間見る機会が増えた現代では、ドライアイや眼精疲労が気になる方も多いです。画面から適度な距離を保ち、定期的に休憩をとってまばたきや遠くを見る時間を設けてください。

部屋の照明やディスプレイの明るさにも注意して、目への負担を減らすことを意識すると良いでしょう。

日常生活で意識したい目のケア

  • 1時間に1回程度は席を立って目を休める
  • パソコン画面と目の距離を約40cm以上に保つ
  • 部屋を暗いまま画面を見る状態を避ける
  • コンタクトレンズは適切にケアや交換をする

これらのケアや生活習慣の改善を続けながら、必要に応じて眼底検査を受けると、より総合的に目の健康を維持しやすくなります。


視覚は、人々の日常生活の質に大きく関わる感覚です。目に異常があると、読書、運転、仕事、家事、娯楽など、あらゆるシーンで不便やリスクを抱える可能性があります。

だからこそ早めの検査と予防が重要になります。眼底検査は、視覚の基盤である網膜や血管を直接確認する代表的な方法の1つです。

とくに、糖尿病網膜症や高血圧性網膜症は、全身の病気が目の奥の血管に影響を及ぼす顕著な例であり、失明リスクがゼロではありません。また、高齢化による加齢黄斑変性などにも早めの対処が得策です。

以上

参考にした論文