感染症の一種である百日咳とは、主にボルデテラ・ペルタシス菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。

その名前の由来は特徴的な咳が約100日間続くことから来ています。

この疾患は非常に感染力が強く、咳やくしゃみを通じて容易に人から人へと広がります。

特に乳幼児や高齢者にとっては深刻な合併症のリスクがあるため注意が必要です。

初期症状は一般的な風邪に似ていますが、次第に激しい咳発作へと進展します。

この咳発作の後に特徴的な「ヒュー」という音を伴う吸気が見られることから、英語では”whooping cough”とも呼ばれています。

目次

百日咳の主症状:特徴的な咳と経過

百日咳は独特の咳を伴う呼吸器感染症として知られています。

本稿ではこの疾患の主要症状とその進行過程を詳細に解説します。

症状の進行段階や年齢による差異、重症度を判断する指標となる症状にも触れ、患者さんとご家族の理解を深めることを目指します。

早期発見と適切な対応のため、症状の特徴を把握することは非常に重要となります。

百日咳の典型的な症状経過

百日咳の症状は通常3つの段階を経て進行します。

各段階における症状の特徴を理解することで病気の進行状況をより正確に把握できます。

  1. カタル期(1-2週間)
    この時期は、軽度の鼻水や鼻づまり、くしゃみ、微熱、軽い咳が見られます。一般的な風邪と区別がつきにくく、診断が困難な場合もあります。
  2. 痙咳期(1-6週間)
    この段階では特徴的な発作性の咳(痙咳)が現れます。吸気時の笛声(ヒューイング)や咳込んだ後の嘔吐も見られます。痙咳期は百日咳の最も特徴的な段階であり、診断の重要な手がかりとなります。
  3. 回復期(数週間〜数ヶ月)
    この時期には咳の頻度と強さが徐々に減少し、全身症状も改善していきます。回復期の長さには個人差が大きく、完全に症状が消失するまでに時間を要する場合もあります。
段階期間主な症状
カタル期1-2週間鼻水、くしゃみ、軽い咳
痙咳期1-6週間発作性咳嗽、吸気性笛声
回復期数週間〜数ヶ月症状の緩和と改善

特徴的な咳症状:痙咳

百日咳の最も特徴的な症状は痙咳と呼ばれる発作性の咳です。

この咳には以下のような特徴が見られます。

連続的で止まらない咳込みが起こり、息を吸い込む際に高音の笛声(ヒューイング)が聞こえます。また、咳込んだ後に嘔吐や顔面の紅潮が生じることもあります。

痙咳は特に夜間に悪化する傾向で患者さんの睡眠を妨げることもあります。

この症状は百日咳の診断において非常に重要な指標となります。

年齢による症状の違い

百日咳の症状は患者さんの年齢によって異なる様相を呈することがあります。

年齢別の特徴を理解することで、より適切な対応が可能となります。

年齢層主な症状の特徴
乳幼児無呼吸発作、チアノーゼ(酸素不足による皮膚の青紫色化)
小児典型的な痙咳、嘔吐
成人持続性の咳、非典型的症状

乳幼児の場合は典型的な痙咳が見られないこともあり、代わりに無呼吸発作やチアノーゼなどの重篤な症状が現れる可能性があります。

一方、成人では非典型的な症状を示すことが多く、持続性の咳として現れることがあります。このため、診断が遅れる場合もあります。

重症度を示す症状

百日咳の重症度を判断する上で特に注意が必要な症状があります。

呼吸困難や息切れ、発熱(特に持続する高熱)、脱水症状、痙攣や意識障害などが挙げられます。

これらの症状が見られる場合は重症化のリスクが高いため、速やかに医療機関を受診することが不可欠です。

合併症に関連する症状

百日咳には様々な合併症が伴う可能性があり、それぞれ特有の症状を示します。

主な合併症とその症状は以下の通りです。

  • 肺炎 呼吸困難、高熱、胸痛が特徴的
  • 気胸(肺に穴が開く状態) 突然の胸痛や呼吸困難
  • 脳症(脳の機能障害) 意識障害、痙攣、行動の変化

これらの症状が現れた場合には合併症の可能性を考慮して迅速な医療対応が必要となります。

原因と感染経路:ボルデテラ菌の脅威を解き明かす

百日咳はボルデテラ・ペルタシス菌が引き起こす呼吸器感染症として知られています。

本稿ではこの厄介な病原体の特徴や感染経路、そして感染リスクを高める要因について詳細に解説します。

さらに、免疫系との関わりや最近の感染傾向にも触れ、百日咳の原因に関する理解を深めることを目指します。

ボルデテラ・ペルタシス菌:百日咳の元凶

百日咳の主犯格はボルデテラ・ペルタシス菌です。

この細菌には以下のような特徴が見られます。

まず、グラム陰性の小桿菌(こかんきん)という形態を持ちます。また、気道上皮細胞に強固に付着する能力を有しています。

さらに、毒素を産生して気道の防御機能を低下させる働きがあります。

ボルデテラ・ペルタシス菌は人間の呼吸器系に特化した病原体であり、他の動物には感染しません。

この特性ゆえにヒトからヒトへの感染が主要な伝播経路となっているのです。

特徴詳細
形態グラム陰性小桿菌
主な感染部位気道上皮
宿主特異性ヒトのみ

感染経路:百日咳はどのように広がるのか

百日咳の感染は主に次の二つの経路で起こります。

  1. 飛沫感染 感染者の咳やくしゃみによって放出される飛沫を吸入することで感染
  2. 接触感染 感染者の分泌物が付着した物品に触れた後、自分の口や鼻を触ることで感染

百日咳の感染力は非常に強く、特に発症初期の患者との接触は高いリスクを伴います。

また、感染者との密接な接触や換気の悪い閉鎖的な環境での長時間の滞在も感染リスクを高める要因となります。

感染リスクを高める要因:誰が危険にさらされているのか

百日咳の感染リスクは様々な要因によって増大します。

主な要因として次のようなものが挙げられます。

  • 免疫力の低下 ストレスや疲労、基礎疾患による免疫機能の低下
  • ワクチン接種歴 未接種や接種後の年数経過による免疫力の減弱
  • 年齢 特に乳幼児や高齢者は感染リスクが高い
  • 環境要因 人口密度の高い地域や、閉鎖的な空間での生活

これらの要因が重なると感染のリスクはさらに上昇します。特にワクチン接種歴と年齢は重要な要素となります。

リスク要因影響
免疫力低下感染抵抗力の減少
ワクチン未接種防御抗体の欠如
年齢(乳幼児・高齢者)免疫系の未発達または機能低下

免疫系との関係:防御の仕組みを理解する

百日咳に対する免疫は主に二つの要素から構成されています。

  1. 体液性免疫 抗体による防御機構
  2. 細胞性免疫 T細胞による感染細胞の排除

ワクチン接種や自然感染後に獲得される免疫は時間とともに弱まっていきます。このため再感染のリスクが生じるのです。

免疫の持続期間には個人差が大きく、一般的に5-10年程度とされていますが、正確な期間は未だ解明されていません。

季節性と環境要因:感染拡大のパターンを探る

百日咳の発生には季節性や環境要因も影響を及ぼします。

  • 季節変動 冬から春にかけて感染が増加する傾向があります。
  • 気候条件 乾燥した環境下では菌の生存率が上昇します。
  • 社会的要因 学校や職場など、人が密集する環境で流行しやすくなります。

これらの要因は感染の拡大や流行のパターンに大きな影響を与えます。

特に冬季の乾燥した環境下では菌の生存率が高まり、感染リスクが増大します。

近年の感染動向と変異株:新たな脅威の出現

最近、百日咳の感染動向に変化が見られています。

  • ワクチン接種率の高い国々でも感染例が増加しています
  • 成人や青年期の感染者が増えています
  • 抗原変異株が出現しています

これらの変化はワクチンの効果や感染対策に影響を与える可能性があります。

特に抗原変異株の出現は既存のワクチンの有効性に疑問を投げかけています。

変化影響
成人感染増加感染源の多様化
抗原変異株出現ワクチン効果への影響

診察と診断:正確な判断への多角的アプローチ

百日咳の診断は症状の特徴や経過、そして検査結果を総合的に評価して行われます。

本稿では医療機関での診察の流れや活用される検査方法について詳細に解説します。

さらに診断の難しさや注意点、他の疾患との鑑別についても触れ、百日咳の診断プロセスへの理解を深めることを目指します。

百日咳が疑われる場合、医療機関では以下のような流れで診察が進められます。

まず、問診から始まります。ここでは症状の詳細や経過、ワクチン接種歴などが確認されます。

咳の特徴(発作性の咳、吸気性笛声の有無など)や症状の持続期間、周囲の感染状況などが詳しく聞かれるでしょう。

次に身体診察が行われます。医師が聴診器を用いて呼吸音を確認したり、咳の様子を観察したりします。

百日咳特有の「けんけん」という咳や吸気時の笛声(ウープ音)が聞かれることもあります。

最後に必要に応じて各種検査が実施されます。

診察項目確認内容
問診症状の詳細、経過、ワクチン歴
身体診察呼吸音、咳の特徴
検査各種検査の実施

百日咳の診断に用いられる検査:精度と迅速性の追求

百日咳の診断には複数の検査方法が駆使されます。

主な検査方法とその特徴は以下の通りです。

  1. PCR検査
    鼻咽頭ぬぐい液を用いた遺伝子検査。発症早期の診断に有用で結果が比較的早く得られる。
  2. 培養検査
    鼻咽頭ぬぐい液からの菌の培養を行う。確定診断に有効ですが結果が出るまでに時間を要する。
  3. 血清抗体検査
    血液中の抗体量を測定。発症後期や回復期の診断に役立つ。

これらの検査は症状の経過や重症度に応じて選択されます。

医師は各検査の特徴を考慮しながら最適な検査方法を判断します。

診断の難しさと注意点:見逃さないための慎重な判断

百日咳の診断にはいくつかの難しさや注意点が存在します。

  1. 症状の非特異性
    初期症状が一般的な風邪と似ているため見逃されやすい
  2. 年齢による症状の違い
    乳幼児や成人では典型的な症状が現れにくく診断が困難になる
  3. ワクチン接種歴の影響
    接種歴のある人では症状が軽微になり診断が難しくなる場合も
  4. 検査のタイミング
    病期によって適切な検査方法が異なるためタイミングの見極めが重要

これらの要因により、百日咳の診断が遅れたり見逃されたりすることがあります。

医師はこれらの点に細心の注意を払いながら慎重に診断を進めていきます。

診断の難しさ理由
症状の非特異性初期症状が風邪に類似
年齢による差異典型症状が現れにくい場合がある
ワクチン接種の影響症状が軽微化する可能性

他の疾患との鑑別:類似症状の見極め

百日咳は他の呼吸器疾患と症状が似ていることがあるため、鑑別診断が極めて重要です。

主な鑑別疾患には以下のようなものがあります。

  • マイコプラズマ肺炎
  • RSウイルス感染症
  • 副鼻腔気管支症候群
  • 気管支喘息

これらの疾患との鑑別には症状の特徴や経過、検査結果などを総合的に評価することが不可欠です。

医師は患者さんの年齢や既往歴、症状の詳細な聴取などを通じて慎重に鑑別を行っていきます。

診断基準と確定診断:明確な判断基準の適用

百日咳の診断基準は臨床症状と検査結果を組み合わせて設定されています。

日本では次のような基準が用いられています。

  • 臨床的特徴 2週間以上続く発作性の咳嗽
  • 検査所見 PCR検査陽性、培養検査陽性、または血清抗体価の有意な上昇

確定診断にはこれらの基準を満たすことが求められます。

ただし、症状や検査結果が典型的でない場合でも医師の総合的な判断により診断が下されることもあります。

診断基準項目内容
臨床症状2週間以上の発作性咳嗽
検査所見PCR陽性、培養陽性、抗体価上昇

百日咳の正確な診断は、適切な治療や感染拡大防止のために不可欠です。医療機関での詳細な問診や身体診察、各種検査の結果を総合的に評価することで、より確実な診断が可能となります。

患者さんも症状の詳細や経過を正確に伝えることが診断の助けとなります。

画像所見:診断を支える視覚的証拠

百日咳の診断過程において画像検査は欠かせない存在です。

本稿では胸部X線写真やCT検査で観察される百日咳特有の所見について詳細に解説します。

さらに、画像所見の時間的変化や重症度判定における画像検査の重要性にも言及し、百日咳の画像診断に関する理解を深めることを目指します。

胸部X線写真が語る百日咳の特徴

胸部X線写真は百日咳の診断や経過観察に広く活用される基本的な画像検査手法です。

百日咳に罹患した患者さんの胸部X線写真では次のような特徴的な所見が現れることがあります。

  1. 肺野の過膨張像
    咳による気道内圧の上昇に伴い発生。横隔膜が平坦化し、肺野が通常より明るく映ることがある。
  2. 肺門部の陰影増強
    リンパ節の腫大や血管の怒張を反映。この所見は百日咳の初期段階でよく観察される。
  3. 間質性陰影の増強
    肺の間質(肺胞と血管の間の組織)に炎症が及ぶとこの所見が現れる。
  4. 無気肺像
    気道の閉塞により肺の一部が膨らまなくなった状態。
胸部X線所見特徴
肺野過膨張横隔膜平坦化、肺野透過性亢進
肺門部陰影増強リンパ節腫大、血管怒張
間質性陰影すりガラス様陰影、網状影
無気肺局所的な陰影増強

これらの所見は全ての患者さんに必ず現れるわけではありません。また、他の呼吸器疾患でも類似の所見を示すことがあります。

そのため画像所見のみで診断を確定することは困難です。

臨床症状や検査結果と併せて、総合的に判断することが肝要となります。

CT検査による精密な評価

CT検査は胸部X線写真よりもさらに詳細に肺の状態を評価できる手法です。

百日咳患者さんのCT画像では以下のような所見が観察されることがあります。

  1. 気管支壁の肥厚
    気道の炎症を反映
  2. 小葉中心性結節影
    細気管支周囲の炎症や分泌物の貯留を示唆
  3. すりガラス影
    肺胞内の炎症や浮腫を反映しており、びまん性あるいは斑状に分布
  4. 気管支拡張像
    慢性的な気道の変化
  5. 無気肺
    肺の一部が膨らまない状態
CT所見意味
気管支壁肥厚気道の炎症
小葉中心性結節影細気管支周囲の炎症、分泌物貯留
すりガラス影肺胞内の炎症、浮腫
気管支拡張像慢性的な気道の変化

これらのCT所見は百日咳の重症度評価や合併症の検出に非常に有用です。

特に肺炎や無気肺などの合併症の評価にはCT検査が威力を発揮します。

画像所見の時間的変化

百日咳の画像所見は疾患の進行に伴って変化していきます。

一般的な経時的変化は以下のようになります。

  • 初期 軽度の間質性陰影や肺門部陰影増強が見られる
  • 痙咳期 肺野の過膨張像や間質性陰影の増強が顕著になる
  • 回復期 徐々に正常化するが、一部の変化が残存することもある

これらの変化を把握することで疾患の進行状況や治療効果を評価できます。

ただし個人差が大きいため画像所見のみで病期を判断することは困難です。

重症度評価における画像検査の意義

画像検査は百日咳の重症度評価において重要な役割を担っています。

以下のような所見が見られる場合は重症化のリスクが高いと考えられます。

  • 広範囲な肺炎像
  • 無気肺の存在
  • 気胸や縦隔気腫の合併
  • 肺葉全体の虚脱

これらの所見が認められた場合には入院管理や集中治療の必要性を検討することになります。

重症所見臨床的意義
広範囲肺炎像呼吸不全のリスク
無気肺換気障害
気胸・縦隔気腫緊急処置の必要性

他疾患との鑑別における画像検査の役割

百日咳の画像所見は他の呼吸器疾患と類似することがあります。

鑑別を要する主な疾患には以下のようなものがあります。

  • マイコプラズマ肺炎
  • RSウイルス感染症
  • 気管支喘息
  • 異物誤嚥

これらの疾患との鑑別には画像所見に加えて臨床症状や検査結果を総合的に評価することが不可欠です。

画像検査は鑑別診断の一助となりますが、それのみで確定診断を下すことは困難です。

治療法と回復への道のり:薬物療法から経過観察まで

百日咳の治療は抗菌薬の投与を主軸に展開されます。

本稿では百日咳の治療に用いられる薬剤や支持療法、そして年齢や重症度に応じた治療アプローチについて詳細に解説いたします。

さらに治癒までの期間や経過観察の意義についても触れ、患者さんとそのご家族の理解を深めることを目指します。

抗菌薬治療:百日咳撃退の要

百日咳の治療において抗菌薬の投与は中核を成します。

主に使用される抗菌薬は次の3種類です。

  1. エリスロマイシン
  2. クラリスロマイシン
  3. アジスロマイシン

これらはマクロライド系と呼ばれる抗菌薬のグループに属します。

ボルデテラ・ペルタシス菌に対して効果を発揮し、症状の緩和や感染期間の短縮が期待できます。

抗菌薬投与期間特徴
エリスロマイシン14日間長年使用されている標準薬
クラリスロマイシン7日間副作用が比較的軽微
アジスロマイシン5日間服用回数が少なく継続しやすい

抗菌薬の選択は患者さんの年齢や症状の程度、合併症の有無などを考慮して行われます。

医師の指示に従い処方された通りに服用することが肝心です。

支持療法:症状緩和への取り組み

抗菌薬治療と並行して症状を和らげるための支持療法も実施されます。

主な支持療法には次のようなものがあります。

  • 水分を十分に摂取する
  • 加湿器を使用する
  • 咳を誘発する刺激を避ける
  • 安静を保つ

これらの方法は咳の軽減や気道の乾燥防止に役立ちます。

特に乳幼児や高齢者の場合、脱水予防のために十分な水分摂取が欠かせません。

年齢別の治療アプローチ

百日咳の治療は患者さんの年齢によってアプローチが異なります。

  1. 乳幼児の場合
    入院管理が必要になるケースが多く見られます。抗菌薬の選択と投与量調整には細心の注意を払い呼吸状態を綿密にモニタリングします。
  2. 小児の場合
    外来治療が可能なケースが多いですが状況に応じて入院も検討されます。年齢に合わせた抗菌薬を投与して保護者への指導と経過観察を徹底します。
  3. 成人の場合
    主に外来で治療を行います。症状に応じた支持療法を併用して合併症の早期発見と対応に努めます。
年齢層主な治療場所注意点
乳幼児入院呼吸状態の監視
小児外来/入院保護者への指導
成人外来合併症への警戒

重症度に応じた治療戦略

百日咳の重症度によって治療のアプローチは大きく異なります。

  • 軽症の場合 外来での抗菌薬治療と支持療法で対応
  • 中等症の場合 入院を考慮し、より綿密な観察と管理
  • 重症の場合 入院管理を行い、場合によっては集中治療室での治療が必要

重症例では酸素療法や人工呼吸管理が求められることもあります。

また、二次性細菌感染に対する追加の抗菌薬投与や適切な栄養管理も重要な要素です。

治癒までの道のりと経過観察

百日咳の治癒までの期間は個人差が大きいものの、一般的に以下のような経過をたどります。

病期期間特徴
カタル期1-2週間風邪様症状
痙咳期1-6週間特徴的な咳
回復期数週間〜数ヶ月徐々に症状改善

抗菌薬治療により感染力は速やかに低下しますが咳症状は長く続くことがあります。

完全な回復には時間を要するため焦らずに経過を見守ることが大切です。

経過観察では以下のポイントに注目します。

  • 咳症状の変化
  • 呼吸の状態
  • 食事や水分摂取の様子
  • 体重の推移(特に乳幼児)
  • 合併症の有無

定期的な受診や必要に応じた医師への相談が重要です。

治療の副作用

百日咳の治療に用いられる抗菌薬や支持療法には様々な副作用が伴う場合があります。

本稿では主に使用される抗菌薬の副作用や年齢別の注意点、副作用への対処法について詳しく解説します。

また、重篤な副作用のリスクや医療機関への相談のタイミングについても触れ、患者さんとそのご家族の理解を深めることを目指します。

副作用の可能性を認識して適切に対応することが安全な治療につながるのです。

マクロライド系抗菌薬がもたらす一般的な副作用

百日咳の治療に主として用いられるマクロライド系抗菌薬にはいくつかの一般的な副作用が報告されています。

主な副作用は以下の通りです。

副作用頻度重症度
消化器症状(下痢、腹痛、嘔気)高い軽度〜中等度
皮膚症状(発疹、かゆみ)中程度軽度
肝機能障害低い中等度〜重度
QT間隔延長(心電図の異常)重度

これらの副作用の多くは軽度で一過性のものですが、患者さんの状態によっては注意を要します。

消化器症状は最も頻繁に見られる副作用で多くの場合は自然に改善します。

皮膚症状も比較的多く観察されますが、通常は軽度にとどまります。

肝機能障害やQT間隔延長は稀ですが重篤化する可能性があるため注意深い観察が欠かせません。

年齢別の副作用リスクと注意点

副作用のリスクや注意点は患者さんの年齢によって異なります。

  1. 乳幼児の場合
    消化器症状が現れやすく薬剤の吸収や代謝が成人と異なる。脱水リスクが高いため特別な配慮が必要。
  2. 小児の場合
    皮膚症状が現れやすい傾向。また、薬剤の味や服用方法に注意が必要。
  3. 成人の場合
    肝機能障害のリスクが比較的高く他の薬剤との相互作用にも注意が必要。
年齢層主な注意点
乳幼児消化器症状、脱水
小児皮膚症状、服薬コンプライアンス
成人肝機能、薬物相互作用

年齢に応じた適切な投与量の調整や副作用のモニタリングが重要となります。

副作用への対処法と予防策

副作用の多くは適切な対処により軽減または予防することができます。

主な対処法と予防策をご紹介します。

  • 消化器症状 → 食事と一緒に薬を服用する、プロバイオティクスを摂取する
  • 皮膚症状 → 保湿剤を使用する、刺激の強い石鹸の使用を控える
  • 肝機能障害 → 定期的な肝機能検査を受ける、アルコールを控える
  • QT間隔延長 → 他のQT延長を引き起こす薬剤との併用を避ける

これらの対策は医師や薬剤師の指導のもとで実施することが大切です。

重篤な副作用とその兆候

稀ではありますが、重篤な副作用が発生する可能性があります。

主な重篤な副作用とその兆候は以下の通りです。

副作用主な兆候対応
アナフィラキシー呼吸困難、発疹、血圧低下緊急医療
スティーブンス・ジョンソン症候群高熱、皮膚粘膜障害即時入院
重度の肝機能障害黄疸、倦怠感、食欲不振速やかな受診
重篤な不整脈動悸、めまい、失神緊急受診

これらの症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診することが不可欠です。

医療機関への相談のタイミング

次のような場合は速やかに医療機関に相談することをお勧めします。

  • 副作用の症状が持続または悪化する
  • 新たな症状が出現する
  • 薬の服用が困難になる
  • 体調の変化に不安を感じる

医師や薬剤師とのコミュニケーションを大切にして疑問や不安があれば遠慮なく相談しましょう。

上記の副作用の多くは軽度で一時的なものですが、重篤な副作用の可能性も念頭に置き、注意深い観察が求められます。

百日咳の治療費:外来から入院まで知っておくべき医療費の実態

百日咳の治療にかかる費用は症状の程度や治療期間によって大きく変動します。

本稿では外来診療から入院治療まで百日咳に関連する医療費の概要をご説明します。

処方薬の価格、1週間の診療費用、そして1か月にわたる治療費について具体的な数字を交えながら解説してまいります。

処方薬の薬価

百日咳の治療に用いられる主要な抗菌薬の薬価は次のようになっています。

  • エリスロマイシン 1日あたり約200円
  • クラリスロマイシン 1日あたり約300円
  • アジスロマイシン 3日間投与で約500円

これらの価格はあくまで目安であり、実際の費用は医療機関によって異なる点にご留意ください。

1週間の治療費

外来診療の場合、1週間の治療費は次のように見積もられます。

  • 初診料 2,820円
  • 再診料 730円(2回分)
  • 処方箋料 680円
  • 薬剤費 約2,000円(7日分)

これらを合計するとおおよそ7,000円程度となります。

ただし追加の検査や処置が必要となった場合はこの金額を上回る可能性があります。

1か月の治療費

重症化し、入院治療が必要となった場合での1か月の治療費は大幅に増加します。

  • 入院基本料 週あたり約30,000円
  • 薬剤費 月あたり約10,000円
  • 各種検査費用 月あたり約20,000円

これらを合計すると1か月の入院で15万円以上の費用がかかる場合もあります。

ただし個々の状況により、実際の費用は変動しますのでご注意ください。

医療費の負担を軽減するためには医療保険への加入が非常に重要です。また、高額療養費制度の利用も視野に入れておくとよいでしょう。

上記のように百日咳の治療費は、症状の重さや治療期間によって大きく変わります。

以上

参考にした論文