内分泌疾患の一種である多発性内分泌腫瘍症(MEN)とは、複数の内分泌腺に良性または悪性の腫瘍が発生する遺伝性疾患のことです。

この病気では主に副甲状腺、膵臓、下垂体などの内分泌器官が影響を受けます。

MENは稀な疾患ですが、患者さんやそのご家族の生活に大きな影響を与える可能性があります。

早期発見と定期的な経過観察が重要となりますので、専門医による診断と管理が必要です。

多発性内分泌腫瘍症の病型について

多発性内分泌腫瘍症(MEN)には多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)という主に2つの病型があります。

これらの病型はそれぞれ異なる遺伝子変異に起因し、影響を受ける内分泌腺や発症する腫瘍の種類が異なるのです。

MEN1の特徴

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)は11番染色体上のMEN1遺伝子の変異によって引き起こされます。

この病型では主に副甲状腺(ふくこうじょうせん)、膵臓(すいぞう)、下垂体に腫瘍が発生します。

MEN1患者さんの多くは生涯のうちに以下の腫瘍のいずれかを発症する可能性があります。

  • 副甲状腺腫瘍
  • 膵臓内分泌腫瘍
  • 下垂体腫瘍

これらの腫瘍はホルモンバランスに影響を与え、様々な症状を引き起こすケースが考えられます。

腫瘍の部位発生頻度
副甲状腺90-95%
膵臓40-70%
下垂体30-40%

MEN1ではこれらの主要な腫瘍以外にも副腎皮質腫瘍や胸腺・気管支のカルチノイド腫瘍などが発生することもあります。

MEN2の特徴

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)は10番染色体上のRET遺伝子の変異によって引き起こされます。

この病型はさらにMEN2A、MEN2B、家族性甲状腺髄様癌(FMTC)という3つのサブタイプに分類されるのです。

これらのサブタイプは発症する腫瘍の種類や発症時期、進行速度などが異なります。

MEN2サブタイプ主な特徴
MEN2A甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺腫瘍
MEN2B甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、特徴的な外観
FMTC甲状腺髄様癌のみ

MEN2Aの詳細

MEN2AはMEN2の中で最も一般的なサブタイプで、以下の腫瘍が発生する傾向です。

  • 甲状腺髄様癌(ほぼ100%の患者さんで発症)
  • 副腎褐色細胞腫(約50%の患者さんで発症)
  • 副甲状腺腫瘍(20-30%の患者さんで発症)

MEN2Aの患者さんでは甲状腺髄様癌が最も早期に、そして高頻度に発症するため、定期的な検査と経過観察が重要です。

MEN2Bの特徴

MEN2BはMEN2の中で最も稀なサブタイプですが、最も攻撃的な形態とされています。

この型の特徴は以下の通りです。

  • 甲状腺髄様癌(非常に早期に発症)
  • 副腎褐色細胞腫(約50%の患者さんで発症)
  • 特徴的な外観(マルファン症候群様の体型、唇や舌の神経腫など)
MEN2Bの特徴発症頻度
甲状腺髄様癌100%
副腎褐色細胞腫約50%
特徴的な外観ほぼ100%

MEN2Bでは甲状腺髄様癌が非常に早期に、そして急速に進行することがあるため、早期発見と迅速な対応が不可欠です。

FMTCについて

家族性甲状腺髄様癌(FMTC)はMEN2の中で最も軽症のサブタイプとされています。

この型の特徴は甲状腺髄様癌のみが発症することです。他のMEN2サブタイプに見られる副腎褐色細胞腫や副甲状腺腫瘍は、通常発症しません。

FMTCの患者さんでは甲状腺髄様癌の発症年齢が他のMEN2サブタイプよりも遅い傾向にあります。

MENの主症状

多発性内分泌腫瘍症(MEN)は複数の内分泌腺に腫瘍が発生する遺伝性疾患であり、その主症状は影響を受ける内分泌腺の機能異常によって引き起こされます。

MENの主な病型である多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)では、症状が異なる場合があります。

MEN1の主症状

多発性内分泌腫瘍症2型では主に副甲状腺(ふくこうじょうせん)、膵臓(すいぞう)、下垂体に腫瘍が発生し、それぞれの腺の機能異常に関連した症状が現れます。

副甲状腺機能亢進症による症状はMEN1患者の多くに見られる特徴的な症状です。

症状関連する内分泌腺
骨痛副甲状腺
腎結石副甲状腺
疲労感副甲状腺
筋力低下副甲状腺

膵臓内分泌腫瘍による症状は腫瘍が分泌するホルモンの種類によって異なります。

例えばインスリノーマの場合は低血糖症状、ガストリノーマの場合は消化性潰瘍などの症状が現れることがあります。

下垂体腫瘍による症状は腫瘍の大きさや分泌されるホルモンの種類によって様々です。

MEN1における膵臓内分泌腫瘍と下垂体腫瘍の主な症状は次の通りです。

  • 膵臓内分泌腫瘍の症状
    • 低血糖(冷や汗、動悸、意識障害など)
    • 消化性潰瘍
    • 下痢
    • 体重減少
  • 下垂体腫瘍の症状
    • 視野障害
    • 頭痛
    • 月経異常
    • 乳汁分泌
    • 成長障害(小児の場合)

MEN2の主症状

多発性内分泌腫瘍症2型は主に甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症を特徴とします。

MEN2の症状はこれらの腫瘍によって引き起こされます。

甲状腺髄様癌の症状は初期段階では無症状のことが多いですが、進行すると以下のような症状が現れる可能性があるのです。

症状関連する腫瘍
頸部のしこり甲状腺髄様癌
嚥下困難甲状腺髄様癌
声の変化甲状腺髄様癌
下痢甲状腺髄様癌

副腎褐色細胞腫の症状はカテコールアミンの過剰分泌によるものが多く、以下のような症状が特徴的です。

  • 高血圧(持続性または発作性)
  • 動悸
  • 頭痛
  • 発汗過多
  • 顔面紅潮

このような症状はストレスや運動によって悪化することがあります。

副甲状腺機能亢進症の症状はMEN1の場合と同様に、高カルシウム血症に関連した症状が現れるでしょう。

MEN2Bの特殊な症状

MEN2BはMEN2の中でも特殊なサブタイプであり、特徴的な外観を呈することがあります。

これらの症状は他のMEN2サブタイプには見られないMEN2B特有のものです。

特徴的な外観部位
厚い唇顔面
舌の神経腫口腔
マルファン様体型全身
眼瞼の肥厚顔面

上記のような外観的特徴はMEN2Bの早期診断に役立つことがあるでしょう。

非特異的な症状

MENの症状の中には他の疾患でも見られる非特異的なものもあります。

これらの症状は単独では必ずしもMENを示唆するものではありませんが、複数の症状が組み合わさって現れる場合はMENの可能性を考慮することが必要です。

以下にMENで見られる可能性のある非特異的な症状を示します。

  • 倦怠感
  • 体重変化(増加または減少)
  • 不安感や気分の変動
  • 消化器症状(腹痛、吐き気など)
  • 筋力低下
  • めまい

これらの症状が持続する場合や家族歴にMENが疑われる場合は専門医への相談が大切です。

MENの原因やきっかけ

多発性内分泌腫瘍症(MEN)は遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患です。

この疾患の主な原因は特定の遺伝子に生じる変異にあります。

これらの遺伝子変異は細胞の増殖や分化を制御する機能に影響を与え、結果として複数の内分泌腺に腫瘍が形成されるのです。

MEN1の遺伝的背景

多発性内分泌腫瘍症1型は11番染色体上にあるMEN1遺伝子の変異によって引き起こされます。

この遺伝子は腫瘍抑制遺伝子として知られており、正常な細胞の増殖を制御する重要な役割を果たしているのです。

MEN1遺伝子に変異が生じるとその抑制機能が失われ、細胞の異常な増殖が起こりやすくなります。

MEN1遺伝子の特徴詳細
染色体位置11q13
遺伝子産物メニン
機能腫瘍抑制

MEN1遺伝子の変異は常染色体優性遺伝形式をとります。これは変異遺伝子を1つだけ受け継いでも発症する可能性があることを意味します。

親から子への遺伝確率は50%となりますが、新規の突然変異によって発症することも考えられるのです。

MEN2の遺伝的要因

多発性内分泌腫瘍症1型は10番染色体上にあるRET遺伝子の変異によって引き起こされます。RET遺伝子は細胞の成長や分化を制御するプロトオンコジーンの一種です。

この遺伝子に特定の変異が生じると過剰に活性化された蛋白質が産生され、細胞の異常な増殖が促進されます。

RET遺伝子の特徴詳細
染色体位置10q11.2
遺伝子産物RET蛋白質
機能細胞成長・分化制御

MEN2もMEN1と同様に常染色体優性遺伝形式をとります。

親から子への遺伝確率は50%ですが、MEN2の場合は新規の突然変異はMEN1に比べて稀とされています。

遺伝子変異のメカニズム

MENを引き起こす遺伝子変異にはいくつかのパターンがあります。

  • 点変異 一塩基の変化によって遺伝子の機能が変わる
  • 欠失 遺伝子の一部が欠けることで機能が失われる
  • 挿入 余分な塩基が挿入されることで遺伝子の読み取りが狂う

これらの変異はDNA複製時のエラーや環境要因によって引き起こされる可能性があります。ただしMENの場合の多くは親から受け継いだ変異遺伝子が原因です。

環境要因の影響

MENは主に遺伝的要因によって引き起こされますが、環境要因が発症や進行に影響を与える可能性も考えられています。

MENの発症や進行に関与する可能性がある要因は次のようなものです。

  • 放射線被曝
  • 特定の化学物質への曝露
  • ホルモンバランスの乱れ
  • ストレス

ただしこれらの環境要因とMENの直接的な因果関係は現時点では明確に証明されていません。

環境要因想定される影響
放射線DNA損傷
化学物質遺伝子変異促進
ホルモン腫瘍成長促進

環境要因の影響についてはさらなる研究が必要とされているのです。

遺伝的浸透度の違い

MENの遺伝子変異を持っていても、必ずしも全ての人が同じように発症するわけではありません。この現象は遺伝的浸透度の違いによるものと考えられています。

遺伝的浸透度とは変異遺伝子を持つ人のうち、実際に症状が現れる人の割合を指します。

MEN1とMEN2では遺伝的浸透度に違いがあることが知られています。

  • MEN1の遺伝的浸透度
    • 30歳までに約50%
    • 50歳までに約95%
  • MEN2の遺伝的浸透度
    • MEN2Aでは年齢によって異なるが、ほぼ100%
    • MEN2Bではほぼ100%(幼少期から発症)

この遺伝的浸透度の違いはMENの早期診断や経過観察を考える上で重要な要素です。

診察と診断

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の診断は複数の内分泌腺に影響を与える複雑な遺伝性疾患であるため、包括的なアプローチが必要です。

正確な診断のためには詳細な病歴聴取、身体診察、血液検査、画像検査、そして遺伝子検査など、多角的な評価が重要となります。

MENの主な病型である多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)では、診断のアプローチが異なる場合があります。

詳細な病歴聴取

MENの診断プロセスは詳細な病歴聴取から始まり、患者さんの現在の状態だけでなく、過去の健康状態や家族歴についても詳しく尋ねます。

特に重要なのは家族内でMENや関連する内分泌腫瘍の既往歴です。

聴取項目具体例
現病歴現在の症状、発症時期
既往歴過去の内分泌疾患
家族歴親族のMEN診断歴

MENは遺伝性疾患であるため家族歴の詳細な聴取が診断の手がかりとなることがあります。

身体診察

身体診察ではMENに関連する様々な身体的特徴や徴候を確認し、頸部、腹部、皮膚などを注意深く診察して腫瘤や異常を探ります。

MEN2B型では特徴的な外観がみられることがあるため顔貌や体型にも注目します。

MENの身体診察で注意すべき点は次の通りです。

  • 頸部の腫瘤(甲状腺腫大など)
  • 腹部の腫瘤(膵臓腫瘍など)
  • 皮膚の色調変化
  • 骨格の異常(MEN2Bの場合)
  • 神経腫(MEN2Bの場合)

これらの身体所見はMENを疑う重要な手がかりとなります。

血液検査

MENの診断には様々な血液検査が用いられます。

これらの検査は各内分泌腺から分泌されるホルモンのレベルを測定し、機能異常の有無を評価するのです。

検査項目関連する内分泌腺
カルシウム、副甲状腺ホルモン副甲状腺
プロラクチン、成長ホルモン下垂体
ガストリン、インスリン膵臓
カルシトニン甲状腺

上記の検査結果はMENの診断だけでなく、どの内分泌腺に異常があるかを特定するのにも役立ちます。

画像検査

MENの診断において画像検査は腫瘍の局在や大きさを評価するために重要です。

使用される主な画像検査には以下のようなものがあります。

  • CT(コンピュータ断層撮影)
  • MRI(磁気共鳴画像法)
  • 超音波検査
  • 核医学検査(シンチグラフィなど)

これらの検査を組み合わせることで腫瘍の詳細な情報を得ることができます。

遺伝子検査

MENの確定診断には遺伝子検査が重要な役割を果たします。MEN1ではMEN1遺伝子、MEN2ではRET遺伝子の変異を調べます。

病型検査対象遺伝子
MEN1MEN1遺伝子
MEN2RET遺伝子

遺伝子検査は患者さん本人だけでなく家族のスクリーニングにも有用ですが、検査を行う前には十分な遺伝カウンセリングが必要です。

診断基準

MENの診断基準は臨床症状、検査結果、遺伝子検査の結果を総合的に評価して決定されますが、MEN1とMEN2では異なる診断基準が用いられます。

MEN1の診断基準の例は次のようなものです。

  • 主要な内分泌腺(副甲状腺、膵臓内分泌、下垂体)のうち2つ以上に腫瘍が見られる
  • 第一度近親者にMEN1と診断された人がおり、主要な内分泌腺の1つ以上に腫瘍が見られる
  • MEN1遺伝子の病的変異が同定される

MEN2の診断は主にRET遺伝子の変異の有無によって行われます。

鑑別診断

MENの診断においては他の内分泌疾患との鑑別が重要で類似した症状や検査結果を示す疾患との区別が必要です。

鑑別すべき疾患特徴
散発性内分泌腫瘍単一の内分泌腺のみに腫瘍が発生
カウデン症候群多発性過誤腫を特徴とする遺伝性疾患
フォンヒッペル・リンドウ病血管腫を特徴とする遺伝性疾患

これらの疾患との鑑別には詳細な臨床評価と遺伝子検査が有用です。

MENの画像所見

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の画像診断はこの複雑な遺伝性疾患の評価において極めて重要な役割を果たします。

MENでは複数の内分泌腺に腫瘍が発生するため各種画像検査を用いて全身の内分泌腺を詳細に評価することが必要です。

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)では影響を受ける主な内分泌腺が異なるため、それぞれに適した画像検査法を選択し、特徴的な所見を把握しなければなりません。

画像検査は腫瘍の局在診断、大きさの評価、周囲組織との関係の把握など多くの情報を提供し、診断や経過観察に不可欠な要素なのです。

MEN1の画像所見

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)では主に副甲状腺、膵臓、下垂体に腫瘍が発生します。

それぞれの部位について特徴的な画像所見を見ていきましょう。

副甲状腺腫瘍の画像所見

  • 超音波検査 低エコー腫瘤として描出される
  • CT検査 造影剤投与後に濃染する軟部組織腫瘤として認められる
  • MRI検査 T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示す
検査法特徴
超音波低エコー腫瘤
CT造影後濃染
MRIT2高信号

膵臓内分泌腫瘍の画像所見

  • CT検査 造影早期相で濃染し、後期相で洗い出しを示す多発性小結節として認められる
  • MRI検査 T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を呈し、拡散強調像で高信号を示す

下垂体腫瘍の画像所見

  • MRI検査 T1強調像で等〜低信号、T2強調像で等〜高信号を示し、造影後に増強効果を認める
  • CT検査 等〜軽度高吸収を示し、造影後に増強効果を認める
Case courtesy of Andrew Dixon, Radiopaedia.org. From the case rID: 10407

所見:MR画像では、膵頸部に明瞭な卵形の腫瘤が示されており、T1で低信号、T2で高信号を呈している。造影後画像で漸増性造影を認める。画像所見と臨床状況はインスリノーマと一致している。

MEN2の画像所見

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)では主に甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺腫瘍が発生します。

甲状腺髄様癌の画像所見

  • 超音波検査 低エコー腫瘤として描出され、しばしば微細石灰化を伴う
  • CT検査 造影効果を示す充実性腫瘤として認められ、石灰化を伴うことがある
  • MRI検査 T1強調像で低信号、T2強調像で不均一な高信号を示す
検査法特徴
超音波低エコー腫瘤、微細石灰化
CT造影効果あり、石灰化
MRIT2不均一高信号

副腎褐色細胞腫の画像所見

  • CT検査 造影前は高吸収を示し、造影後は不均一な増強効果を認める
  • MRI検査 T1強調像で低信号、T2強調像で著明な高信号(光る副腎)を示す
  • MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィ 特異的に集積を示す

副甲状腺腫瘍の画像所見はMEN1の項目を参照してください。

Case courtesy of Henry Knipe, Radiopaedia.org. From the case rID: 42984

所見:I-131 MIBG SPECT/CTでは、両側副腎褐色細胞腫と一致しており、両副腎腫瘍に著しい集積亢進が認められる。

核医学検査の役割

MENの画像診断において核医学検査は特定の腫瘍を高感度に検出できる点で重要です。

主な核医学検査とその特徴を以下に示します。

  • ソマトスタチン受容体シンチグラフィ 神経内分泌腫瘍の検出に有用
  • MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィ 褐色細胞腫の検出に特異的
  • FDG-PET(フルオロデオキシグルコースを用いたポジトロン断層法) 悪性度の高い腫瘍の検出に有用

これらの核医学検査は、全身の評価が可能である点も利点の一つです。

Ali, Arafat et al. “Multimodality Imaging Review of Multiple Endocrine Neoplasia.” AJR. American journal of roentgenology vol. 217,1 (2021): 245-256.

所見:多発性内分泌腫瘍症1型を伴う39歳女性の転移性膵神経内分泌腫瘍(pNET)。造影CT(図示せず)で、以前切除されたpNETの部位近くに異常な増強結節が描出された。
A、Indium-111-labeled octreotide SPECT/CT画像で、単一の転移性リンパ節腫脹の存在が確認される(矢印)。
B、Gallium-68-labeled DOTATATE PET/CTが、複数のリンパ節における活動性をさらに描出している(矢印)。

画像所見の経時的変化

MENは慢性的な経過をたどる疾患であるため、画像所見の経時的変化を追跡することが重要です。

定期的な画像検査によって以下のような変化を評価することができます。

  • 腫瘍サイズの増大
  • 新規病変の出現
  • 腫瘍の性状変化(悪性化の兆候など)
評価項目意義
サイズ変化腫瘍の進行度評価
新規病変多発性の確認
性状変化悪性化の早期発見

これらの経時的変化を適切に評価することで治療方針の決定や予後予測に役立てることができます。

治療方法と薬、治癒までの期間

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の治療は複数の内分泌腺に腫瘍が発生する特性を踏まえ、個々の患者さんの状況に応じて総合的に行われます。

MENは完全な治癒が困難な遺伝性疾患であるため長期的な管理と定期的な経過観察が必要となります。

治療の目標は腫瘍の進行を抑制してホルモン分泌異常を是正することで、患者さんのQOL(生活の質)を維持・向上させることです。

MEN1とMEN2では影響を受ける主な内分泌腺が異なるため、それぞれに適した治療戦略が立てられます。

MEN1の治療アプローチ

多発性内分泌腫瘍症1型では主に副甲状腺、膵臓、下垂体の腫瘍に対する治療が行われます。

副甲状腺腫瘍の治療

治療法特徴
外科的治療副甲状腺全摘出術と自家移植が標準的
薬物療法シナカルセト(カルシウム感知受容体作動薬)など

膵臓内分泌腫瘍の治療

  • 外科的治療 腫瘍の大きさや機能性に応じて選択
  • 薬物療法 ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど)を使用

下垂体腫瘍の治療

  • 外科的治療 経蝶形骨洞手術が一般的
  • 薬物療法 プロラクチノーマにはカベルゴリンなどのドパミン作動薬を使用

MEN2の治療アプローチ

多発性内分泌腫瘍症2型では甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫、副甲状腺腫瘍に対する治療が中心となります。

甲状腺髄様癌の治療

  • 予防的甲状腺全摘術 RET遺伝子変異が確認された場合に考慮
  • 外科的治療 甲状腺全摘出術とリンパ節郭清
  • 分子標的薬 進行・転移例にはバンデタニブやカボザンチニブを使用
治療法適応
予防的手術遺伝子変異陽性例
甲状腺全摘診断確定例
分子標的薬進行・転移例

副腎褐色細胞腫の治療

  • 術前管理 α遮断薬(ドキサゾシンなど)による血圧コントロール
  • 外科的治療 腹腔鏡下副腎摘出術が一般的

副甲状腺腫瘍の治療はMEN1の項目を参照してください。

薬物療法の詳細

MENの治療に用いられる主な薬剤とその作用機序を紹介します。

  • シナカルセト カルシウム感知受容体作動薬で、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制
  • オクトレオチド ソマトスタチンアナログで、膵臓内分泌腫瘍からのホルモン分泌を抑制
  • カベルゴリン ドパミン作動薬で、プロラクチン産生下垂体腫瘍に対して使用
  • バンデタニブ 甲状腺髄様癌に対する分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)
  • カボザンチニブ 甲状腺髄様癌に対する分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)

上記のような薬剤使用は腫瘍の増殖抑制やホルモン分泌の制御が目的です。

治療期間と経過観察

MENは完全な治癒が難しい疾患であるため生涯にわたる経過観察が必要となります。

治療期間は個々の患者さんの状況によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 手術療法 術後の回復期間は数週間から数か月
  • 薬物療法 症状や腫瘍の状態に応じて数か月から数年、場合によっては生涯継続
治療法期間
手術療法数週間〜数か月
薬物療法数か月〜生涯

定期的な経過観察のスケジュールは腫瘍の種類や進行度によって個別に設定されますが、次のような項目が標準的です。

  • 血液検査(ホルモン値、腫瘍マーカーなど)
  • 画像検査(CT、MRI、超音波検査など)
  • 遺伝カウンセリング(家族のスクリーニングを含む)
  • QOL評価

これらの項目を定期的に評価することで再発や新たな腫瘍の発生を早期に発見し、適切な対応を行うことができます。

治療に伴う副作用とリスク

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の治療は患者さんの生活の質を向上させることを目指していますが、同時に様々な副作用やリスクを伴う可能性があります。

これらの副作用やリスクは外科的治療と薬物療法のそれぞれに存在し、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)で異なる場合があります。

患者さんとご家族が治療に伴う潜在的な副作用やリスクを理解することは、インフォームドコンセントの観点から重要です。

医療チームと患者さんが協力してこれらのリスクを最小限に抑えながら、最適な治療方針を選択することが大切です。

外科的治療に伴うリスク

多発性内分泌腫瘍症の治療ではしばしば複数の内分泌腺に対する手術が必要となります。

これらの手術に伴う一般的なリスクとしては以下のようなものです。

  • 麻酔関連のリスク
  • 出血
  • 感染
  • 周辺臓器の損傷
  • 術後の瘢痕形成

特にMENの手術では複数の内分泌腺を対象とするため、上記のようなリスクが重複する可能性があります。

MEN1の手術に特有のリスク

MEN1では主に副甲状腺、膵臓、下垂体の手術が行われますが、これらの手術に伴う特有のリスクを表にまとめました。

手術部位特有のリスク
副甲状腺永続的な低カルシウム血症
膵臓膵液漏、糖尿病
下垂体視力障害、下垂体機能低下症

副甲状腺全摘出術後の永続的な低カルシウム血症は生涯にわたるカルシウム製剤とビタミンD製剤の補充が必要となる場合があります。

膵臓手術後の糖尿病発症リスクは切除範囲が広いほど高くなります。

下垂体手術では腫瘍の位置や大きさによっては視神経を含む周辺組織への影響が避けられないでしょう。

MEN2の手術に特有のリスク

MEN2では主に甲状腺、副腎の手術が行われますが、これらの手術に伴う特有のリスクは以下の通りです。

  • 甲状腺全摘出術
    • 永続的な副甲状腺機能低下症
    • 反回神経麻痺(声帯麻痺)
    • 術後の甲状腺ホルモン補充療法の必要性
  • 副腎摘出術
    • 副腎不全
    • 術後のステロイド補充療法の必要性

甲状腺全摘出術後の永続的な副甲状腺機能低下症は生涯にわたるカルシウム製剤とビタミンD製剤の補充が必要となる可能性があります。

反回神経麻痺は声帯の動きに影響を与え、嗄声や嚥下障害を引き起こすケースも考慮しなければなりません。

薬物療法の副作用

MENの治療に用いられる薬剤にはそれぞれ特有の副作用があります。主な薬剤とその副作用は次の表の通りです。

薬剤名主な副作用
シナカルセト悪心、嘔吐、低カルシウム血症
オクトレオチド下痢、胆石症
カベルゴリン吐き気、めまい、起立性低血圧

分子標的薬(バンデタニブ、カボザンチニブなど)の副作用としては、以下のようなものが報告されています。

  • 皮膚症状(発疹、手足症候群)
  • 高血圧
  • 下痢
  • 疲労感
  • QT間隔延長(心電図異常)

これらの副作用の多くは用量調整や対症療法によって管理可能ですが、重篤な場合は投与中止が必要となることがあるのです。

長期的な治療に伴うリスク

MENは生涯にわたる管理が必要な疾患であるため長期的な治療に伴うリスクも考慮しておかなければなりません。

  • ホルモン補充療法の長期継続によるリスク
    • 骨粗鬆症
    • 脂質代謝異常
    • 心血管系疾患のリスク増加
  • 繰り返し手術によるリスク
    • 癒着
    • 臓器機能の低下
  • 放射線治療後の二次発がんリスク
長期的リスク関連する治療
骨粗鬆症ステロイド補充療法
二次発がん放射線治療

これらの長期的なリスクを最小限に抑えるためには定期的な経過観察と適切な予防措置が重要です。

MENの再発の可能性と予防の仕方

多発性内分泌腫瘍症(MEN)は遺伝性疾患であるため完全な治癒が難しく、再発のリスクが常に存在します。

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)では再発のパターンや頻度が異なる傾向です。

再発を予防しつつ早期に発見するためには、生涯にわたる定期的な経過観察と適切な生活管理が大切です。

患者さんと医療チームが協力して、再発リスクを最小限に抑えながら、長期的な健康管理を行うことが求められます。

MEN1の再発リスク

MEN1では主に副甲状腺、膵臓、下垂体の腫瘍が再発する可能性があります。再発のリスクは腫瘍の種類や初回治療の内容によって異なります。

腫瘍の種類再発リスク
副甲状腺腫瘍20-30%
膵臓内分泌腫瘍10-20%
下垂体腫瘍5-10%

副甲状腺腫瘍の再発リスクが比較的高いのは初回手術で完全に腫瘍を除去することが難しいためです。

膵臓内分泌腫瘍や下垂体腫瘍の再発は新たな腫瘍の発生によることが多いとされています。

MEN2の再発リスク

MEN2では主に甲状腺髄様癌と副腎褐色細胞腫の再発が問題となります。

甲状腺髄様癌の再発リスクは初回手術の時期や範囲によって大きく異なります。早期に予防的甲状腺全摘術を受けた患者さんでは再発リスクが低い傾向です。

手術の種類再発リスク
予防的全摘術1-5%
臨床的全摘術10-30%

副腎褐色細胞腫の再発は対側の副腎に新たな腫瘍が発生することで起こる可能性があります。このため残存副腎の定期的な観察が重要です。

再発予防のための生活管理

MENの再発リスクを低減するためには日々の生活管理が必要で、再発予防に役立つ生活習慣の例は次のようなものが推奨されます。

  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠
  • ストレス管理
  • 禁煙

これらの生活習慣は全身の健康状態を改善して免疫機能を高めることで腫瘍の発生や進行を抑制する効果が期待できるでしょう。

特にストレス管理は内分泌系の安定化に寄与し、MENの管理において重要な要素となります。

定期的な経過観察の重要性

MENの再発を早期に発見して適切に対応するためには定期的な経過観察が不可欠です。

経過観察の頻度や内容は患者さんの状態や腫瘍の種類によって個別に設定されますが、一般的な経過観察のスケジュールの例は以下の通りです。

検査項目頻度
血液検査3-6ヶ月ごと
画像検査6-12ヶ月ごと
遺伝カウンセリング必要に応じて

血液検査ではホルモン値や腫瘍マーカーを定期的にチェックします。

画像検査ではCT、MRI、超音波検査などを用いて腫瘍の再発や新たな腫瘍の発生を評価します。

家族のスクリーニング

MENは遺伝性疾患であるため患者さんの家族も再発のリスクを有しています。

家族のスクリーニングは以下の点で重要です。

  • 未診断の家族メンバーの早期発見
  • 遺伝子変異保因者の同定
  • 家族全体の健康管理

家族のスクリーニングには主に以下のような方法があります。

  • 遺伝子検査
  • 定期的な血液検査
  • 画像検査

これらのスクリーニングを適切に行うことで家族全体のMEN管理を効果的に行うことができます。

再発時の早期対応

再発が確認された場合には早期の対応が予後の改善につながります。

再発時の対応方針は腫瘍の種類や再発の程度によって異なりますが、以下のような選択肢が一般的です。

  • 再手術
  • 薬物療法の調整
  • 放射線治療
再発パターン対応例
局所再発再手術検討
多発再発薬物療法強化
遠隔転移集学的治療

再発時の対応方針は患者さんの状態や希望を考慮しながら医療チームと相談の上で決定されます。

MENの治療費について

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の治療費は個々の患者の状態や必要な治療内容によって大きく異なります。

一般的に初期の診断と定期的な検査に加えて手術や薬物療法などの治療が必要となるため長期的な医療費の負担が予想されます。

公的医療保険や高額療養費制度の利用により患者負担は軽減されますが、それでも相当な金額になる可能性があるでしょう。

初診・再診料

初診料は2,910円~5,410円、再診料は750円~2,660円です。

検査費用

検査項目概算費用
血液検査5,000円〜10,000円
CT検査14,500円~21,000円
MRI検査19,000円~30,200円

手術費用

手術費用は術式により異なりますが、100万円から300万円程度かかることがあります。

膵腫瘍では下記の通りです。

手術種類費用(目安)
膵頭部腫瘍切除術
1 膵頭十二指腸切除術の場合 914,100円
2 リンパ節・神経叢郭清等を伴う腫瘍切除術の場合又は十二指腸温存膵頭切除術の場合 972,300円
3 周辺臓器(胃、結腸、腎、副腎等)の合併切除を伴う腫瘍切除術の場合 972,300円
4 血行再建を伴う腫瘍切除術の場合 11312,300円
腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術1 膵頭十二指腸切除術の場合 1,584,500
2 リンパ節・神経叢郭清等を伴う腫瘍切除術の場合 1,736,400円
膵体尾部腫瘍切除術1 膵尾部切除術の場合
イ 脾同時切除の場合 268,800円
ロ 脾温存の場合 217,500円
2 リンパ節・神経叢郭清等を伴う腫瘍切除術の場合 5741,900円
3 周辺臓器(胃、結腸、腎、副腎等)の合併切除を伴う腫瘍切除術の場合 590,600円
4 血行再建を伴う腫瘍切除術の場合 558,700円
腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術1 脾同時切除の場合 534,800円
2 脾温存の場合 562,400円
膵腫瘍摘出術261,000円
腹腔鏡下膵腫瘍摘出術399,500円

褐色細胞腫では下記の通りです。

手術種類費用(目安)
腹腔鏡下副腎髄質腫瘍摘出術(褐色細胞腫)470,300円
副腎腫瘍摘出術 2 髄質腫瘍(褐色細胞腫)470,200円

薬物療法費用

薬物療法の費用は月額5万円から20万円程度です。

・ここでお話しした金額は2024年8月時点のものです。
・医療費は状況によって変わることがあるので、最新の情報は病院や健康保険組合に確認するのがよいでしょう。

以上

参考にした論文