インスリン注射を行うとき、わずかな手間が血糖コントロールに大きく影響します。

インスリンを正しく注入するために空打ちの手順を確認する方も少なくありません。特に注射器にエアが混じらないようにする方法や、空打ちに使う単位の目安は気になるポイントだと思います。

本記事では空打ちに必要な単位数の考え方や注射時の手順を深く掘り下げ、正確な投与量を確保するうえで注意すべき点をまとめます。

インスリン治療を進めている方、あるいはこれから始めようと考えている方にとって参考になる情報を紹介します。


目次

インスリン注射における空打ちの背景と重要性

インスリン治療を進めるうえで注射器から薬液を正しく出す作業が重要です。少しのずれが血糖値に影響し、コントロールが難しくなる原因になります。

空打ちを行うことで注射器内の空気を排出し、インスリンの量を安定させる方法を確立できます。

ここでは空打ちがどのような意味をもち、なぜ重要なのかを詳細に解説します。

空打ちとは何か

インスリンを投与する前に実際に体内へ注射する前の一瞬だけインスリンを空中に噴出させる行為を空打ちと呼びます。

針先や注射器の内部に溜まっている空気を追い出し、投与量をきちんと確認する目的で行います。

空打ちをせずに投与すると針やカートリッジ内部に混入した空気がインスリン量の誤差を生み、血糖コントロールがうまくいかなくなる危険性が高まります。

きちんと空打ちを行うことで目標とする単位のインスリンが正しく体に入る確率が上がります。

なぜ空打ちが重要か

空気が混じったままインスリンを投与すると注射後の血糖値が想定よりも高くなってしまうことが考えられます。特に微量投与が必要なときほど、この誤差が影響を大きくするかもしれません。

また、空打ちを行わないことで注射器のノズルに詰まりが生じ、結果的に投与量を把握しづらくなる恐れもあります。

空打ちはシンプルな作業ですが、実施するかどうかで血糖値コントロールの安定度が変わります。油断せずに毎回実施することが大切です。

空打ちとインスリンの正確な投与量

適切な血糖コントロールを目指すうえでインスリンの投与量を安定させる方法のひとつが空打ちです。

例えばインスリンの空打ちを1単位程度行うことで注射器内に残る空気を効率的に追い出し、実際に注射する単位を狙いどおりに近づけます。

血糖コントロールが難しいと感じる方や投与量が変わりやすい方ほど空打ちの習慣化が有効です。毎回の注射で空打ちを意識し、単位誤差を少なくするよう努めてください。

空打ちの習慣を軽視した場合のリスク

空打ちを行わないと慢性的に本来の量よりも少ないインスリンしか入らない可能性があります。

体内に必要な量のインスリンが届かなければ血糖値が高止まりする傾向が強まります。しばらくはトラブルなく過ごせても継続して誤った投与量になると、合併症リスクが上昇する可能性があります。

インスリン注射にまつわる注意点

  • 注射前に手を清潔にする
  • カートリッジやバイアルの残量を確認する
  • 注射器やペン型デバイスの正しい取り扱いを身につける
  • 空打ちを毎回忘れないようにする

これらを意識すると、血糖管理の安定につながりやすくなります。

インスリン注射に関連する用語と意味

用語意味
空打ち実際に注射する前にインスリンを少量噴出し空気を抜く方法
ペン型インスリン専用ペン状デバイスでインスリンを注入する方法
バイアルインスリンの薬液が入った瓶
カートリッジペン型にセットするタイプのインスリン容器
微量投与小さな単位で投与することにより細かく血糖コントロールを行う

空打ちに馴染みがない方でも、基本的な用語や手順を知ると納得しやすくなります。


空打ちに必要な単位数の考え方

空打ちの単位数については医療機関で指示を受ける場合が多いですが、「どの程度行えば効果的なのか」を気にする方は多いです。

インスリンの種類や注射器の形状によっては空打ちの単位数が違う場合があります。

ここでは、空打ち単位数の基本的な考え方や、インスリンの空打ちを1単位程度行う意味などを解説します。

空打ちに使う単位数の基本

空打ちに使う単位数は1~2単位程度がよく用いられます。根拠としては、わずかな空気を含むことで起こる投与量のズレを最小限に抑えるためです。

ただし、これはあくまでも一般的な目安であり、医師が指示する具体的な数値を優先してください。

インスリンの濃度や注射回数によって理想的な空打ち単位数が変わることもありますので、自分の治療計画と照らし合わせて調整が必要となります。

インスリンの空打ちを1単位程度行うメリット

空打ちを行う際に1単位程度の噴出を行うと内部の空気をほぼ排出できます。また、注射針の先端からインスリンがしっかり出るかどうかが目視できるためトラブルを未然に防げます。

特に微量投与が中心の方は誤差が生じやすいので空打ち量が重要です。空打ちを定量的に行うことで日々の投与量にバラつきが生まれにくくなります。

衛生面と扱い方への配慮

インスリンは医療用医薬品のため、衛生面への配慮が欠かせません。注射針を使い回してしまうと細菌が入り込む可能性が高くなります。

空打ちの回数を無闇に増やしてしまうと針先を傷めることがあるため、適切な単位数で適度に行うことが大切です。

また、針を使用した後は安全キャップをしっかり装着して破棄するか、医療廃棄物として処理する必要があります。家庭内での取り扱いには細心の注意を払ってください。

医師の指示を確認する大切さ

空打ちの単位数は自己判断で増減させるのではなく、医師や看護師の助言を積極的に取り入れて決定することが重要です。

一時的に血糖値が乱高下した場合、空打ちだけでなくほかの要因が関与しているかもしれません。

医療従事者の話を聞き、日常の血糖値データを共有しながら自分にあった方法を見出すことを心がけてください。

空打ち単位数を考えるときのポイントリスト

  • 投与回数や血糖値の状況に合った単位数に設定する
  • 針先の傷みを最小限にする
  • インスリンの種類や濃度によって調整を検討する
  • 医師や看護師に相談して判断する

適切な空打ち単位数を選ぶことで狙いどおりの血糖値コントロールにつながりやすくなります。

空打ち単位数の違いによる変化の比較

空打ち単位数メリットデメリット
0単位時間を短縮できる針内やカートリッジ内の空気が排出されず投与誤差が大きくなる
1単位必要最小限の噴出で空気を排出しやすく手間が少ない個人差により空気が十分に除去できない場合がある
2単位空気の排出をより確実に行いやすい注射器の残量消費がやや増える
3単位以上空気を確実に抜く余裕ができ不良リスクの軽減に役立つ不要なインスリン消費が増え針の痛みも増えやすい

この表を目安に空打ち単位数の選択について検討してください。


注射器の種類と空打ち手順の違い

注射器にはペン型やシリンジ型などいくつかのタイプがあります。形状や機構の違いによって空打ちのしやすさや推奨単位数にも微妙な差が生じます。

ここではそれぞれの注射器タイプに応じた空打ちのやり方や気をつけるべき点を取り上げます。

ペン型インスリン注射器の場合

ペン型インスリンは扱いやすさと携帯性の高さから多くの方が利用しています。

ペン先に新しい針を装着し、使用前にダイヤルを1~2単位に合わせて空打ちすると、空気混入のリスクを大きく減らせます。

ペン型は注射時の操作が簡便ですが、針の取り付けや取り外しのときにしっかり締め付けることが重要です。しっかり固定されていないと、注射する際にインスリンが漏れ出す場合があります。

シリンジ方式のインスリン注射器の場合

シリンジ方式の注射器はバイアルから必要量を吸い上げて投与します。

空打ちでは針をバイアルから抜いたあとにピストンを押し込み、1~2単位程度のインスリンを噴出させることで空気を除去できます。

シリンジ方式は注射を行うたびにインスリンを吸い上げるため、吸引時の空気混入に注意しましょう。

バイアル内のインスリン量が少なくなってくると、吸引が不安定になりやすいのでこまめに残量を確認する必要があります。

カートリッジ式の場合

カートリッジ式のインスリンはペン型に近い構造ですが、内蔵のカートリッジを交換して繰り返し使うタイプが多いです。

空打ちの手順はペン型に準じますが、カートリッジを交換する際には空気混入が増えることがあるので、交換後にはいつも以上に丁寧に空打ちを行うほうが望ましいです。

カートリッジ交換時にバイアルの開封や注射器への移し替えがないため比較的簡単に扱えます。

ただ、機種やメーカーによって細かい手順が異なるため、使用方法をよく把握してください。

共通して押さえたいポイント

どのタイプの注射器でも使用前の点検と適切な空打ちが欠かせません。針が変形していないか、接合部に緩みはないかを確かめるだけで、トラブルを防ぎやすくなります。

また、複数の注射タイプを併用している場合はそれぞれの手順を混同しないように注意してください。

誤った手順で空打ちを行うと、想定どおりのインスリン量を投与できない恐れがあります。

注射器タイプを選ぶときに意識する点

  • 持ち運びのしやすさ
  • 交換部品(針やカートリッジ)の入手のしやすさ
  • 針の太さや長さの選択肢
  • 一度に吸い上げられるインスリン量

自分に合った注射器タイプを使いこなすことが、安定した血糖管理につながります。

注射器タイプ別の空打ち手順

注射器タイプ空打ち手順の例注意点
ペン型1~2単位にダイヤルを合わせてインスリンを噴出針の締め付けを確実に行う
シリンジ型バイアルからインスリンを吸引後、針先を上向きにして1~2単位噴出吸引時の空気混入に注意
カートリッジ型ペン型と同様に空打ちするが、カートリッジ交換時に空気が入りやすい交換後の空打ちを丁寧に行う

このように各タイプに合わせた空打ちの方法を実践し、毎日の注射を安定させてください。


空打ちを行うタイミングと頻度

正確なインスリン投与量を安定させたい場合、空打ちのタイミングと頻度にも気を配る必要があります。

毎回実施するべきなのか、注射器を替えたときだけでいいのか、具体的な目安を示すことで疑問を解消しやすくなります。

毎回の注射ごとの実施が望ましい理由

多くの医療機関ではインスリン注射のたびに空打ちを推奨しています。インスリンの残量や気泡の有無は注射のたびに変化しやすく、特に気泡が入っていると投与量の誤差が生じやすいからです。

また、毎回針を新しいものに交換する方が多いので、その都度針に残った空気を抜く意味でも空打ちの習慣化は有益です。

注射器交換やカートリッジ交換のタイミング

注射器やカートリッジを交換した直後は空気が混入しやすいタイミングです。

新品の針やカートリッジは空気の層が存在する可能性があるため、より丁寧に空打ちを行うほうが好ましいです。

カートリッジを交換したときにだけ空打ちをして他のタイミングでは空打ちを省略する方もいますが、できれば毎回空打ちしたほうが常に安定した投与量を期待できます。

インスリンの種類別で見る注意点

インスリンには超速効型、速効型、中間型、混合型、基礎インスリンなどいくつかの種類があります。

それぞれ粘度や保存状態に違いがあるため、空打ちの効果を得るための手順が微妙に異なる場合もあります。

特に混合型は白濁している場合が多く、注射前にバイアルやカートリッジを転がして混ぜる作業が必要です。その際に空気が混ざりやすくなる可能性もあるため、空打ちの重要度が増すでしょう。

エア混入リスクの見分け方

エアが混入している注射器を観察すると、気泡がはっきりと確認できる場合があります。

針先を上向きにして軽くコンコンと弾くことで泡を上部に集め、その後ピストンを少し押し込み、余分な空気を噴出させるのが一般的なやり方です。

どうしても気泡がなくならない場合や不安を感じる場合は改めて注射器にインスリンを吸い直す、あるいは新しい針に交換する方法も検討してください。

空打ちのタイミングに関する推奨事項

  • インスリン注射を行う度
  • 針を新しく交換した直後
  • カートリッジやバイアルを交換したあと
  • 気泡が目視できた場合

これを意識すると、空気混入による投与誤差を最小限に抑えやすくなります。

インスリンの種類と空気混入リスク

インスリン種類特徴空気混入時のリスク
超速効型即効性が高く食後血糖のコントロールに役立つ小さな誤差でも急激な血糖変動を起こす可能性
速効型食事前に注射し食後血糖をコントロール誤差があると食後高血糖が持続しやすい
中間型吸収がゆるやかで基礎分泌を補う空気混入で投与不足が続いても気づきにくい
混合型速効型と中間型を組み合わせたタイプ白濁液の撹拌時に気泡が入りやすい
基礎インスリン長時間かけてゆっくりと作用誤差が累積すると全体の血糖管理に影響

各インスリンの特徴を把握しながら空打ちの頻度や方法を工夫すると、血糖コントロールの安定度が上がりやすくなります。


正しい注射手順と空打ちの実践例

インスリン注射は基本的な流れが決まっていますが、あらためて手順を丁寧に把握することがミスを減らすうえで大切です。

ここでは空打ちを含めた注射手順の例と、実際の投与時に知っておきたいポイントをまとめます。

針の取り付けから空打ちまでの流れ

ペン型を例に挙げると新しい針をペン先にしっかり取り付けたあと、注入ダイヤルを1~2単位に合わせてピストンを押し込みます。この動作でインスリンが噴出すれば空打ち完了です。

シリンジ型の場合はバイアルから必要量を吸い上げたあと針先を上向きにしてピストンを少し押し込み、1~2単位分を空打ちするとよいでしょう。

いずれの場合もインスリンがしっかり噴出しているかどうかを目視で確認することが大切です。

空打ち後の注射時に確認したい点

空打ちを終えたら投与する単位数を設定し、注射を行います。

皮下に針を刺すときに角度が浅すぎるとインスリンが皮膚の表面に漏れ出す可能性があります。適切な角度で注射し、注入後は数秒ほど針を刺したまま静置すると液漏れが防げます。

注射後に患部をこすりすぎると皮膚を刺激するため、軽く押さえる程度にとどめてください。

投与部位の選び方と注意

インスリン注射は腹部や大腿部、上腕後面など脂肪組織が多い部位に行うことが一般的です。

毎回同じ場所に刺すと皮膚硬化(リポハイパートロフィー)が起こりやすくなるため、注射箇所を少しずつずらすことが望ましいです。

また、注射部位によってインスリンの吸収速度がやや変わります。腹部は吸収が早く、大腿部はゆるやかだと考えられています。

自分の生活リズムや血糖値の傾向を見ながら部位を選ぶと血糖管理がしやすくなるでしょう。

トラブル時の対処法

注射時に痛みや出血が強いと感じた場合は針の太さや刺す角度が原因かもしれません。針を細いタイプに変更したり、皮膚をつまんで注射したりして調整を行います。

また、空打ちをしているにもかかわらず、注射直後に液漏れが見られる場合は、刺し方や針の長さに問題がある可能性があります。医師や看護師に相談し、自分に合った改良点を探してください。

正しい注射手順の要点

  • 清潔な環境で注射を準備する
  • 針の取り付けをしっかり行う
  • 規定単位で空打ちを行い、インスリン噴出を確認する
  • 投与部位を適切に選ぶ(腹部・大腿部・上腕など)
  • 注射後数秒間針を刺したままにして液漏れを防ぐ

これらを踏まえると、インスリン注射におけるトラブルを減らしやすくなります。

注射手順の概要と注意点

手順ポイント注意点
手洗い・準備清潔を保ち、必要な器具をそろえる準備を怠ると細菌感染リスクが高まる
針の取り付けしっかりと締め付けて緩みがないか確認締め付け不十分だとインスリン漏れが生じやすい
空打ち1~2単位程度のインスリンを噴出して空気を抜く目視でインスリンが出るのを確かめる
投与部位の消毒・注射角度や深さを意識しながら針を刺し、所定の単位を注入刺し方や針の長さが合わないと液漏れや痛みが強い
注射後の確認と片付け針を刺したまま数秒待って液漏れを防ぎ、針を安全に廃棄針の使い回しは細菌感染や針先の損傷につながる

この表を参照しながら正しい注射方法を身につけるとインスリン治療が進めやすくなります。


インスリン注射時における疑問と対策

インスリン注射は毎日何度も行う場合があるため、慣れているようでいて疑問を抱くことも多いです。

ちょっとした対策を知っておくだけでトラブルや不安を解消しやすくなります。

よくある質問への回答

「空打ちをしても気泡が完全になくならない」「針を何回使ってよいかわからない」といった悩みが頻出します。

気泡が残っているときは改めて注射器を少し傾けてみる、針を変えてみるなどの方法で対処できる場合があります。

針の使い回しについては基本的に1回ごとに交換することが望ましいですが、経済的な都合や廃棄物の観点から複数回使う人もいます。

針先が劣化すると皮膚トラブルが増えるので、なるべく早いタイミングで交換してください。

血糖値変動リスクへの備え

注射手技だけではなく、食事や運動、ストレスなどさまざまな要因が血糖値に影響を与えます。

空打ちの有無や投与量の微調整だけで解決しない場合は、生活習慣や薬の組み合わせなども考慮する必要があります。

血糖値の自己測定をこまめに行い、日々のデータを蓄積しておくと医療従事者との相談がスムーズになります。

正しい保管方法

インスリンは温度管理が重要です。極端に高温や低温の環境で保管すると薬液の品質が損なわれる可能性があります。

通常、使用中のペン型インスリンやバイアルは室温(約25℃以下)で保管し、直射日光を避けることが推奨されます。

未開封のインスリンは冷蔵庫(2~8℃)に保管し、凍結させないように注意してください。

投与技術の向上につながる意識づけ

インスリン注射は慣れの問題もありますが、正しい方法を改めて学ぶ意識が欠かせません。

外来や教育入院などを利用して、看護師や管理栄養士から注射のアドバイスを受ける機会を持つと安心です。

小さな疑問も放置せず、こまめに相談するほうが良好な血糖コントロールへの近道です。

注射に関するよくある不安や疑問

  • 針を再使用して問題ないか
  • 空打ちをしたのにインスリンが出ているか不安
  • 血糖値の乱高下にどう対処したらいいか
  • 投与部位の硬化やしこりはどう予防するか

このような疑問があるときは遠慮せず、医療スタッフや薬剤師に問いかけてみてください。

インスリン注射を続けるうえでの主な注意点

不安や疑問主な対策相談先
針の再使用のリスク針先が劣化し痛みや液漏れの原因になるため1回ごとに交換が理想医師、薬剤師、看護師
空打ちしても気泡が消えない角度を変えたり針を交換するなどして何度か試してみる医師、看護師
血糖値乱高下の対処食事や運動、ストレス管理を含め総合的にチェックする管理栄養士、医師
投与部位の硬化・しこり部位をローテーションし、同じ場所に集中して注射しない医師、看護師

不安があるまま注射を続けると投与ミスやモチベーション低下につながりやすくなります。疑問は早めに解決しましょう。


クリニック受診で得られるメリット

インスリン注射は自宅で完結できる治療ですが、定期的なクリニック受診によって得るメリットが多々あります。

専門家からのアドバイスを適切なタイミングで受けることで自己注射の精度が格段に向上し、血糖コントロールの質も上がります。

個別指導とフォローアップの活用

クリニックでは医師や看護師が患者さん一人ひとりの状況を把握し、注射方法や投与量の相談に乗ります。

個別指導により、具体的な指摘や修正を受けられるので、自己流の誤りを早めに修正できます。

また、継続的なフォローアップを受けると日常での不明点をそのつど確認する習慣が身につき、自宅注射の精度が高まるでしょう。

クリニックでのサポート内容

クリニックでは採血などの検査を通じて血糖値やHbA1cの推移を把握できます。

検査結果を踏まえ、医師がインスリンの種類や単位数の調整を行ったり、管理栄養士が食事指導をしたりすることもあります。

空打ちのやり方についてもスタッフが目の前でデモンストレーションをしてくれる場合があり、直接指導を受けることで理解が深まります。

正確なデータ管理がもたらす利点

自己血糖測定や食事の記録などをこまめに行い、クリニックに持参すると多角的にデータを分析できます。

その結果、インスリン注射の単位設定やタイミングを微調整しやすくなり、より安定した血糖コントロールが可能になります。

また、データ管理が習慣化すると自分の体調変化を早期にキャッチしやすくなり、合併症のリスクを抑制する助けとなります。

不安を解消するコツ

クリニックを利用すれば専門家に直接問い合わせできる環境が整います。自分で抱え込まずに疑問や不安を伝えることで、的確なアドバイスが得やすくなります。

注射について周囲に相談できずに孤立してしまう方もいますが、医療スタッフは患者さんの生活背景なども踏まえて柔軟に対応します。気兼ねなく相談することで、ストレスの軽減につながります。

クリニック受診時に聞いておきたい内容

  • 注射手順に対する具体的な改善案
  • 血糖値が急激に変動したときの対処法
  • 保管方法や針の再使用など衛生面の注意点
  • 日常生活(食事・運動・休養)のアドバイス

受診を活用すると、インスリン治療の精度を高めながら安心して生活を送る基盤が整いやすくなります。

クリニックで得られる主なサポート内容

サポート内容具体例期待できる効果
医師による治療方針の見直しインスリンの種類変更、単位数の再設定血糖値の安定、合併症リスクの低減
看護師の注射手技指導空打ちのデモンストレーション、刺し方のチェック投与精度の向上、トラブルの早期発見
管理栄養士による栄養指導食事バランスやカロリー計算のアドバイス適切な食生活の確立と血糖値管理のしやすさ
薬剤師の服薬指導インスリンや経口薬の作用・副作用の説明薬の正しい使用と副作用リスクの低減
定期的な血液検査・尿検査HbA1cや血中脂質、腎機能評価など治療効果の客観的評価と合併症の早期発見

これらを活用すると、一人で悩まずに着実にインスリン治療を続けられるでしょう。


安心して継続するためのポイント

インスリン注射は継続が大切ですが、途中で投与ミスやモチベーション低下が起こると血糖値が不安定になりやすいです。

最後に、安心して続けるために押さえておきたいポイントを紹介します。

日々の血糖値管理がもたらす意義

インスリン量の微調整は日々の血糖値を記録してこそ可能になります。朝食前・昼食前・夕食前・就寝前など定期的に測定し、値の推移を把握しておくと、医師が適切なアドバイスをしやすくなります。

自分自身でも血糖値の変化を理解できるため、インスリン注射の意義や必要性を再確認しやすくなるでしょう。

注射の継続が期待できる効果

インスリン治療を中断すると血糖値が上昇するだけでなく、徐々に合併症リスクが高まる可能性があります。

逆に継続的に注射を行い適切に血糖値を管理していると、合併症の進行を遅らせたり症状を軽減したりできることが知られています。

短期的な血糖値の安定だけでなく、長期的な健康を守るためにも注射の継続は重要です。

自分に合う注射スタイルの模索

毎回の注射が苦痛に感じる方は針の種類や長さを変える、注射部位を工夫するなどの方法を試してみる価値があります。

注射による痛みや不快感が和らぐと、治療への意欲を持ちやすくなります。

また、ペン型とシリンジ型を組み合わせるケースやポンプ療法に切り替えるケースもあります。

医師や看護師と相談しながら自分に負担が少なく管理しやすいスタイルを見つけてください。

周囲と協力する意義

一人で血糖管理を担うのは負担が大きく、気疲れを感じることもあります。家族やパートナーが注射の時間や食事内容に理解を示してくれれば、より安心して取り組めます。

また、同じように糖尿病と向き合っている方々との情報交換も大切です。互いの体験談やコツを共有することで日常生活の中で具体的な改善策を見つけやすくなります。

インスリン注射継続におけるモチベーション維持

  • 定期的な血糖値測定で効果を数値として把握する
  • 痛みを軽減する注射器や針の選択
  • 食事療法や運動療法とのバランスで相乗効果を狙う
  • 家族や友人に現状を理解してもらいサポートを得る

これらを実行すると治療が続けやすくなり血糖管理も安定しやすくなります。

インスリン注射を続けるうえで意識したい項目

項目具体策得られるメリット
血糖値の定期的な測定朝食前・昼食前・夕食前・就寝前など決まった時間に測定血糖変動の原因を分析しやすくなる
注射時の痛み対策針の太さを変更、氷で冷やした後に刺すなど工夫治療への抵抗感が減って継続しやすくなる
適度な運動とバランスの良い食事ウォーキングや軽めの体操、栄養バランスを意識した食事インスリン効果の向上と体重管理に役立つ
周囲の理解とサポート家族や知人に血糖管理の必要性を説明して協力を求める孤立しにくくなり心理的ストレスを軽減できる
定期的な受診と相談血液検査結果をもとに医師や看護師と方針を再検討投与量や注射手順の修正がスムーズに行いやすい

インスリン治療の継続は最初は大変に感じるかもしれませんが、適切なサポートと正確な注射手順、そして空打ちの習慣化によって血糖コントロールの質が向上し、より安定した生活を実現しやすくなります。

以上

参考にした論文

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