糖尿病の食事療法において、糖質制限だけに目を奪われてはいけません。日常的に摂取する「油」の種類を変えることこそが、インスリン抵抗性を改善し、血糖値の安定化を導く重要な鍵となります。

本記事では、細胞レベルで代謝に悪影響を及ぼす避けるべき油と、抗炎症作用を持ち血管を守る積極的に摂りたい油を明確に分類しました。今日から実践できる具体的な選び方を学び、健康な体を取り戻すための確かな知識を提供します。

油の質がインスリン抵抗性を左右する理由とメカニズム

油の選択を変えるだけで血糖値の管理が容易になる理由は、脂質が細胞膜の構成材料となり、インスリンの効き目に直接関与するからです。私たちが食事から摂取した油は消化吸収され、全身の約37兆個とも言われる細胞を包む「細胞膜」の材料として利用されます。

この細胞膜が柔軟であればあるほど、血液中のブドウ糖を取り込む扉であるインスリン受容体はスムーズに機能します。逆に、質の悪い油で細胞膜が硬くなると、インスリンが分泌されていてもブドウ糖が細胞内に入れず、血液中にあふれて高血糖を引き起こします。

これが、インスリンそのものは出ているのに効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」の正体の一つです。

細胞膜の柔軟性を決める脂肪酸の種類

細胞膜の柔軟性は、日々の食事で摂取する脂肪酸のタイプによって決定づけられます。魚や植物に含まれる不飽和脂肪酸を多く摂ると、細胞膜の構成成分であるリン脂質が流動性を持ち、柔らかい状態を維持します。

そのため、インスリンが細胞表面の受容体に結合した際、そのシグナルが細胞内部へスムーズに伝達されるようになります。その結果、細胞内のグルコース輸送体(GLUT4)が素早く表面に移動し、血液中の糖を効率よくエネルギーとして取り込めるようになるのです。

一方、肉の脂や加工油脂に含まれる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸ばかりを摂取していると、細胞膜はレンガのように硬く強張ってしまいます。こうなるとインスリンのシグナル伝達が物理的に阻害され、血糖値が下がりにくい体質が形成されてしまいます。

脂肪酸の種類とインスリン抵抗性への影響

脂肪酸の種類主な食品インスリン抵抗性への影響
飽和脂肪酸肉の脂身、バター、乳脂肪細胞膜を硬くし、インスリンの効きを悪くする傾向がある
トランス脂肪酸マーガリン、ショートニング炎症を強く引き起こし、インスリン抵抗性を著しく悪化させる
一価不飽和脂肪酸オリーブオイル、アボカド酸化に強く、インスリン感受性の維持に役立つ
オメガ3脂肪酸青魚、えごま油、アマニ油抗炎症作用によりインスリン抵抗性を改善する
オメガ6脂肪酸サラダ油、大豆油、コーン油過剰摂取により炎症を促進し、悪影響を及ぼす可能性がある

慢性炎症を引き起こす油の過剰摂取

糖尿病の悪化には、体内の目に見えない慢性的な炎症が深く関わっています。一部の植物油に多く含まれるリノール酸(オメガ6系脂肪酸)を過剰に摂取すると、体内で炎症を促進する物質が作られやすくなります。

特に肥大化した内臓脂肪組織において炎症が起きると、TNF-αなどのサイトカインという生理活性物質が放出されます。この物質はインスリンの働きを直接的に妨害し、インスリン抵抗性をさらに悪化させるという悪循環を生み出します。

逆に、青魚やアマニ油に含まれるオメガ3系脂肪酸は、この炎症を鎮める強力なアンチエイジング的な働きを持っています。炎症の火種を消すことで、インスリンが本来の力を発揮できる環境を整えることができます。

脂質代謝と血糖値コントロールの関係

質の良い油は、食後の急激な血糖値上昇を抑える効果も期待できます。炭水化物を単独で食べるよりも、良質な脂質と一緒に摂取することで、胃での滞留時間が長くなり、腸への排出スピードが緩やかになるからです。

糖の吸収スピードが遅くなれば、食後の血糖値スパイク(急上昇)を防ぐことができ、膵臓への負担も軽減されます。また、良質な脂質はコレシストキニンなどの満腹ホルモンの分泌を促し、満腹感を持続させるため、無駄な間食を減らすことにも繋がります。

エネルギー源を糖質だけに頼らず、良質な脂質へとシフトさせることは、血糖値の乱高下を防ぎ、精神的な安定をもたらす有効な手段となります。

糖尿病患者が避けるべき「悪い油」の具体例

糖尿病の管理において真っ先に排除する必要がありますのは、人工的に構造を変えられたトランス脂肪酸と、過剰な飽和脂肪酸です。これらは血管の内皮細胞を傷つけ、動脈硬化のリスクを高めるだけでなく、直接的にインスリンの働きを阻害します。

「悪い油」を日常的に摂取し続けることは、どれだけ薬で血糖値を下げようとしても、その根本原因である体のサビや炎症に油を注ぐような行為と言えます。まずは敵を知り、それらを食卓から遠ざけることから治療は始まります。

「食べるプラスチック」トランス脂肪酸の危険性

トランス脂肪酸は、植物油に水素を添加して固形化する過程や、高温での脱臭工程で生成される自然界にはほとんど存在しない油です。その分子構造がプラスチックに似ていることから、俗に「食べるプラスチック」とも呼ばれています。

世界保健機関(WHO)も心血管疾患のリスクを高めるとして摂取を極力控えるよう警告しており、欧米諸国では使用が厳しく規制されています。体内に入ると代謝されにくく、細胞膜に入り込んで機能不全を引き起こします。

特に糖尿病患者においては、心筋梗塞や脳卒中などの大血管症のリスクを跳ね上げる最大の要因となります。成分表示に「植物油脂」「加工油脂」と書かれている場合、このトランス脂肪酸が含まれている可能性が高いため、購入時には細心の注意が必要です。

避けるべき食品と代替案の対比

避けるべき食品(悪い油)リスクの理由推奨される代替案
マーガリン・ショートニングトランス脂肪酸が多く、動脈硬化を促進するグラスフェッドバターやオリーブオイルを使用する
バラ肉・霜降り肉飽和脂肪酸が多く、LDLコレステロールを上昇させる鶏むね肉、ささみ、ヒレ肉、魚介類を選ぶ
市販の揚げ物・フライ油が酸化しており、過酸化脂質が細胞を傷つける自宅で良質な油を使って揚げ、直後に食べる
市販のドレッシング質の低い植物油脂と糖質(果糖ブドウ糖液糖)が多いオリーブオイル、酢、塩、胡椒で自作する
カレールー・シチュールー固めるために大量の飽和脂肪酸と小麦粉が使われているスパイスから作るカレーや、トマト煮込みにする

動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸の過剰摂取

肉の脂身やバター、生クリームなどに含まれる飽和脂肪酸は、常温で白く固まりやすい性質を持っています。これらを摂りすぎると、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増加し、血管壁にプラークを作って動脈硬化を進行させます。

糖尿病患者は高血糖の影響で血管が脆くなりやすい傾向にあるため、飽和脂肪酸の過剰摂取は血管事故へのカウントダウンを進めることになりかねません。しかし、飽和脂肪酸は完全に悪者というわけではなく、適量は細胞膜の安定性に必要です。

問題なのは現代食における圧倒的な過剰摂取です。肉類を食べる際は、脂身の少ない赤身を選んだり、調理時に網焼きにして余分な脂を落としたりする工夫が求められます。

市販の揚げ物やスナック菓子に潜む酸化した油

コンビニエンスストアのホットスナックやスーパーの惣菜、スナック菓子に使われている油は、長時間空気に触れ、高温で加熱され続けていることが多く、酸化が進行しています。酸化した油は過酸化脂質となり、体内で活性酸素を発生させる有害物質となります。

この活性酸素が膵臓のインスリン工場であるβ細胞を攻撃し、インスリン分泌能力をさらに低下させる恐れがあります。β細胞は酸化ストレスに非常に弱いため、酸化した油の摂取は糖尿病の病態そのものを悪化させる要因となります。

また、外食産業で多く使われる安価な業務用の植物油は、炎症を促進するオメガ6系脂肪酸が大半を占めている点も懸念材料です。便利さと引き換えに健康を害することのないよう、自分の目で選ぶ意識を持つことが大切です。

積極的に摂りたい「いい油」とその効能

血糖値の改善と合併症予防のために選ぶべきは、オメガ3系脂肪酸とオレイン酸を豊富に含む油です。これらの油は、ドロドロになった血液をサラサラにし、硬くなった血管の弾力性を保ち、インスリンが効きやすい体質へと導いてくれます。

食事制限でカロリーを減らすことばかり考えるのではなく、「油の質を入れ替える」という前向きなアプローチをとることで、食事の満足度を維持しながら治療効果を高めることができます。我慢するのではなく、賢く選んで食べる姿勢が重要です。

青魚が持つEPA・DHAの抗炎症パワー

サバ、イワシ、サンマなどの青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、オメガ3系脂肪酸の代表格であり、糖尿病患者にとって最強の味方です。これらは体内の慢性的な炎症反応を強力に抑制し、血液中の中性脂肪を低下させる働きがあります。

さらに最近の研究では、EPAやDHAがインスリン分泌を促すホルモンであるGLP-1の分泌を刺激する可能性も示唆されています。GLP-1は食後の血糖値上昇を抑えるだけでなく、食欲を抑制する効果も期待されています。

週に3回以上、青魚をメインのおかずに据えることは、薬に頼りすぎない糖尿病治療において非常に理にかなった戦略です。缶詰などを活用すれば、手軽に食卓に取り入れることができます。

推奨される良質な油の特徴と使い方

油の種類主成分おすすめの摂取方法
エキストラバージンオリーブオイルオレイン酸(オメガ9)炒め物、ドレッシング、パンにつける
アマニ油・えごま油α-リノレン酸(オメガ3)加熱せず、完成した料理やサラダにかける
魚油(青魚)EPA・DHA(オメガ3)刺身、焼き魚、煮魚として食材から直接摂る
アボカドオイルオレイン酸・ビタミンE耐熱性があるため加熱調理やサラダに使用する
マカダミアナッツオイルパルミトレイン酸酸化に強く、独特の風味を活かしてドレッシングに

オリーブオイルに含まれるオレイン酸の守り

地中海食が糖尿病や心疾患に良いとされる大きな理由の一つが、オリーブオイルの多用です。主成分であるオレイン酸は一価不飽和脂肪酸に分類され、酸化しにくく加熱調理にも向いているという使い勝手の良さがあります。

オレイン酸は、悪玉コレステロールだけを減らし、善玉コレステロールは維持するという優れた働きがあります。さらに、インスリン感受性を高めるアディポネクチンの分泌を助ける効果も研究で報告されています。

選ぶ際は、ポリフェノールなどの抗酸化成分が豊富な「エキストラバージンオリーブオイル」を使用することが重要です。辛味や苦味があるものほど抗酸化作用が強く、血管を守る効果が期待できます。

植物性のオメガ3:アマニ油とえごま油

魚が苦手な人にとって強力な味方となるのが、植物の種子から作られるアマニ油やえごま油です。これらに含まれるα-リノレン酸は、体内で代謝されて一部がEPAやDHAに変換されます。

非常に熱に弱く酸化しやすいというデリケートな性質を持っているため、加熱調理には使えません。しかし、サラダや納豆、冷奴、味噌汁などにそのままかけることで手軽に摂取できるのが魅力です。

スプーン1杯(約5g)程度を毎日の習慣にすることで、現代人に不足しがちなオメガ3系脂肪酸を補うことができます。これにより、過剰なオメガ6とのバランスを整え、体内の炎症レベルを下げることが可能になります。

見落としがちなオメガ6系脂肪酸との付き合い方

現代人の食生活において、無意識のうちに過剰摂取となっているのがオメガ6系脂肪酸です。リノール酸を中心とするこの油は、体にとって必要な必須脂肪酸ではありますが、摂りすぎるとアレルギーや炎症の引き金となります。家庭での使用を控えても、加工食品や外食を通じて大量に摂取してしまう現状があります。

オメガ3の効果を最大限に引き出すためには、単に良い油を足すだけでなく、このオメガ6の摂取量を意識的に減らす「引き算」が不可欠です。炎症を抑えるためには、摂取バランスの是正が急務となります。

現代食におけるオメガ6とオメガ3のバランス崩壊

本来、人類が進化の過程で適応してきたオメガ6とオメガ3の摂取比率は「2:1」から「4:1」程度が望ましいとされています。しかし、現代の一般的な食生活ではこれが「10:1」から「20:1」にも達していると言われており、圧倒的にオメガ6過多の状態です。

大豆油、コーン油、綿実油など、安価で大量生産される一般的なサラダ油の多くはオメガ6系です。この比率の偏りが、細胞レベルでの慢性的な炎症を招き、糖尿病のみならずアレルギー疾患やがんなど、様々な生活習慣病の温床となっています。

バランスを取り戻すためには、オメガ6を積極的に減らしつつ、オメガ3を意識して摂るという両面作戦が必要です。

オメガ6系脂肪酸を減らすためのポイント

  • 家庭での炒め物や揚げ物に一般的なサラダ油(大豆油・コーン油等)を使用しない
  • スナック菓子や菓子パンの摂取頻度を減らし、植物油脂の摂取を抑える
  • マヨネーズは使用量を厳格に決めて守るか、オリーブオイルで手作りする
  • 外食の揚げ物は衣を剥がして食べるか、注文する頻度を極力減らす
  • スーパーの惣菜の揚げ物は時間が経って酸化しているため極力避ける
  • 加工食品を買う前に原材料名の「植物油脂」を確認し、上位にあるなら棚に戻す

「植物油」という表記の罠

食品の裏面に書かれている「植物油」や「植物油脂」の正体は、ほとんどがオメガ6系の精製油かパーム油です。マヨネーズ、スナック菓子、カップ麺、市販のパン、ドレッシングなど、ありとあらゆる加工食品に含まれています。

自宅でどんなに高価なアマニ油を使っていても、これら加工食品を頻繁に食べていては、炎症の火種を消すことはできません。「植物性だから体にやさしい」というイメージは、現代の食品加工においては通用しないことが多いのです。

原材料表示を確認し、無自覚な摂取にブレーキをかけることが大切です。特に、何気なく食べている間食やお菓子からの摂取量が意外に多いため、見直しが必要です。

サラダ油からオリーブオイルへの切り替え

具体的なアクションとして、まずは家庭にある「サラダ油」を思い切って手放すことをお勧めします。そして、加熱料理にはオリーブオイルや米油(オメガ6と9のバランスが比較的良い)を使用するように切り替えます。

オメガ6は食材そのもの(穀類や肉類など)にも含まれているため、調理油として使わなくても欠乏することはまずありません。「油を使うならオリーブオイル」「和えるならアマニ油」というシンプルなルールを設けるだけで、脂肪酸バランスは劇的に改善します。

小さな変化ですが、毎日積み重なることで細胞膜の質が変わり、体質改善へと繋がっていきます。

調理法で変わる油の価値と酸化対策

いくら健康に良い油を選んでも、調理法を間違えればその価値は失われ、時には毒に変わってしまいます。油の最大の弱点は「酸化」です。光、熱、空気によって劣化した油は、体内に入ると細胞を傷つける凶器となります。

各油の特性(発煙点や酸化安定性)を正しく理解し、適切な温度とタイミングで使用することが重要です。栄養価を損なわず、安全に摂取するための鉄則を身につけましょう。

加熱に強い油と弱い油の使い分け

全ての油が加熱調理に適しているわけではありません。オリーブオイルや米油、ココナッツオイルは比較的熱に強く、酸化しにくいため、炒め物や焼き物に適しています。これらは抗酸化成分を含んでいたり、分子構造が安定していたりするためです。

一方、アマニ油やえごま油、生食用の魚油は多価不飽和脂肪酸が多く、非常に酸化しやすい性質を持っています。これらは加熱は厳禁であり、「食べる直前にかける」調味料として扱う必要があります。

間違って加熱してしまうと、せっかくのオメガ3脂肪酸が壊れるだけでなく、有害な過酸化脂質が発生することもあります。油の個性に合わせた使い分けが、健康効果を得るための第一歩です。

安全に油を摂取するための調理ルール

  • アマニ油やえごま油は絶対に加熱せず、ドレッシングやトッピングに使用する
  • 加熱調理には酸化に強いオリーブオイル、米油、または少量のバターを選択する
  • 揚げ物は油が高温になり酸化が急速に進むため、頻度を月に数回程度に抑える
  • 調理中は油をフライパンに入れたまま放置せず、煙が出るまで加熱しすぎない
  • 開封後時間が経過し、色が濃くなったり変な臭いがしたりする油は迷わず捨てる
  • 光による酸化を防ぐため、透明なボトルではなく色の濃い遮光瓶を選ぶ

油の保管方法と鮮度管理

油は開封した瞬間から空気と触れ合い、酸化が始まります。スーパーで売られている大容量のボトルはお得に見えますが、使い切るまでに酸化が進んでしまうため、健康を気遣う糖尿病患者には不向きです。

できるだけ小さな遮光瓶に入ったものを選び、開封後は冷暗所で保管することが大切です。特に酸化しやすいアマニ油やえごま油は、必ず冷蔵庫に入れて保管し、1ヶ月以内を目安に使い切るようにします。

酸化した油は絵の具のような不快な臭いがします。少しでも違和感を感じたら、もったいないと思わず廃棄する勇気を持つことも、体を守るためには重要です。

カロリー管理という大前提

良質な油であっても、1グラムあたり約9キロカロリーという高いエネルギーを持っていることに変わりはありません。これは糖質やタンパク質の2倍以上のエネルギー密度です。「体にいいから」といって無制限に摂れば、当然カロリーオーバーとなり、肥満を招きます。

肥満はインスリン抵抗性の最大の要因であり、本末転倒な結果となりかねません。今の食事に単に油を「足す」のではなく、悪い油や余分な糖質と「置き換える」という意識で摂取量を調整することが必要です。

例えば、ドレッシングをノンオイルにしてアマニ油をかける、パンのバターをオリーブオイルに変えるといった工夫が求められます。

MCTオイルが血糖値管理に与える影響

近年、糖尿病や肥満の改善に役立つとして医療現場でも注目を集めているのがMCTオイル(中鎖脂肪酸油)です。ココナッツやパームフルーツの種子に含まれる天然成分で、一般的な油とは全く異なる消化吸収の経路をたどります。

エネルギー効率が極めて良く、体脂肪として蓄積されにくいという独自の特性を持っています。そのため、糖質制限と組み合わせることで、インスリンに頼らないエネルギー供給源として機能します。

素早いエネルギー変換とケトン体

一般的な油(長鎖脂肪酸)はリンパ管を通って全身を巡ってから分解されますが、MCTオイルは摂取後、門脈を通って直接肝臓へ運ばれます。そこで速やかにエネルギーとして分解され、「ケトン体」という物質が生成されます。

通常、人間の体はブドウ糖を優先的にエネルギーとして使いますが、MCTオイルを摂取することで、脂質由来のケトン体をエネルギーとして使う回路が活性化します。ケトン体は脳や筋肉の効率的なエネルギー源となり、ブドウ糖が枯渇しても活動を維持できます。

これにより、食後の高血糖やその後の低血糖による空腹感を招くことなく、脳や筋肉に安定したエネルギーを供給できるようになります。空腹感を感じにくくなる効果も期待でき、間食を減らす助けになります。

MCTオイルと一般的な油(長鎖脂肪酸)の違い

項目MCTオイル(中鎖脂肪酸)一般的な油(長鎖脂肪酸)
消化吸収の経路門脈を通って直接肝臓へ運ばれるリンパ管、静脈を通って脂肪組織や筋肉へ運ばれる
エネルギー化の速度非常に速い(長鎖脂肪酸の約4倍)ゆっくりと分解され、必要に応じて蓄積される
体脂肪への蓄積蓄積されにくい過剰分は体脂肪として蓄積されやすい
加熱調理不向き(発煙点が低い)種類によるが、多くは加熱可能
主な用途飲み物に混ぜる、かける炒め物、揚げ物、ドレッシング

インスリン抵抗性改善への期待

いくつかの研究では、中鎖脂肪酸の継続的な摂取が、体脂肪の減少やインスリン感受性の向上に寄与することが示唆されています。MCTオイルの摂取によりエネルギー消費量が増加し、特に内臓脂肪が減少する傾向が見られます。

内臓脂肪が減ることで、アディポネクチン(インスリンの働きを助け、動脈硬化を防ぐ善玉ホルモン)の分泌が増え、血糖値のコントロールが改善する可能性があります。

ただし、MCTオイルは魔法の薬ではありません。通常の食事に単純にプラスするだけではカロリー過多になるため、全体の食事バランスを見ながら導入することが大切です。

摂取時の注意点と副作用

MCTオイルは消化吸収のスピードが非常に速いため、一度に大量に摂取すると浸透圧性の下痢や腹痛を引き起こすことがあります。最初は小さじ1杯(約5ml)程度から始め、お腹の調子を見ながら徐々に量を増やすようにします。

また、加熱には非常に弱く、発煙点が約160度と低いため、炒め油や揚げ油としては絶対に使用できません。煙が出て引火する危険性もあります。

コーヒーやスープ、ヨーグルトに混ぜたり、サラダにかけたりして加熱せずに摂取するのが一般的な方法です。あくまで食品であり、薬代わりにはならないことを理解して賢く利用しましょう。

食品表示ラベルで隠れた油脂を見抜く技術

スーパーマーケットで商品を選ぶ際、パッケージの表面にある「ヘルシー」「植物性100%」といった魅力的な謳い文句だけで判断するのは危険です。それらの言葉の裏には、コスト削減や保存性を優先した質の悪い油が隠れていることが多々あります。

自分の体と血管を守るためには、パッケージの裏面にある「原材料名表示」と「栄養成分表示」を正しく読み解くスキルを身につけることが必要です。ここでは、買い物時にチェックすべき具体的なポイントを整理します。

原材料名の順序と「植物油脂」

原材料名は、使用されている重量の多い順に記載されるというルールがあります。もし、原材料名の上位(最初の方)に「植物油脂」「ショートニング」「マーガリン」といった文字があれば、その食品は避けるのが賢明です。

特に「植物油脂」という表記は、消費者に良いイメージを与えますが、実際にはオメガ6系やパーム油などの混合油であることがほとんどです。また「加工油脂」という表記は、トランス脂肪酸を含んでいる可能性が高いだけでなく、どのような処理がなされた油か不明確であるため、リスクが高いと判断します。

自分でお金を出して、わざわざ体に炎症を起こす原因物質を買う必要はありません。厳しい目でラベルを確認しましょう。

ラベルチェックで警戒すべきキーワード

表示名警戒すべき理由判断基準
植物油脂オメガ6系やパーム油の混合であり、炎症の原因になりやすい原材料の上位にある場合は購入を避ける
ショートニングトランス脂肪酸の含有リスクが高く、心血管疾患リスクを上げるパンや菓子類に入っている場合は選ばない
マーガリン同上。特に「ファットスプレッド」も同様に注意が必要バターを使用しているものを選ぶか、何も塗らない
加工油脂化学的処理が施されており、自然な形から遠ざかっているどのような油か不明なため避けるのが無難
食用精製加工油脂高度に精製・加工されており、トランス脂肪酸のリスクがある即席麺やスナック菓子に多いため注意する

栄養成分表示での脂質量確認

「ノンオイル」と書かれていない限り、ドレッシングやパスタソース、カレールーなどには大量の油が含まれています。栄養成分表示の「脂質」の項目を確認し、1食あたりどれくらいの油を摂取することになるのかを数値で把握します。

また、炭水化物が少なくても脂質が極端に多い加工食品は、カロリーオーバーの原因となりやすく、食後の血糖値を長時間高止まりさせる可能性があります。特にスナック菓子や洋菓子は、糖質と質の悪い脂質の塊であることが多いため、数値を確認して冷静に判断します。

「1個あたり」なのか「100gあたり」なのか、単位にも注意して計算する習慣をつけましょう。

キャッチコピーに惑わされない

「コレステロール0」と大きく書かれていても、トランス脂肪酸や酸化した油が含まれていないとは限りません。植物油はもともとコレステロールを含まないため、これは当たり前のことを強調しているに過ぎない場合があります。

また、「体に脂肪がつきにくい」と謳う特定保健用食品(トクホ)の油であっても、揚げ物として大量に使えば酸化リスクやカロリーの問題が生じます。健康によさそうなイメージ戦略に流されず、裏面の事実(原材料と成分)を確認する癖をつけます。

本質的に体に良いものは、派手な宣伝文句よりも、シンプルな原材料で作られていることが多いのです。

よくある質問

Q
1日に摂取して良い油の量はどれくらいですか?
A

個人の体格や活動量、医師から指示されている摂取カロリーの目標によりますが、一般的に総摂取カロリーの20パーセントから25パーセントを脂質から摂ることが推奨されています。

例えば1600キロカロリーの食事制限がある場合、脂質全体で約35グラムから45グラム程度となります。ただし、肉や魚、大豆製品などの食材そのものにも脂質は含まれているため、これらを差し引いて考える必要があります。

結果として、調理油やドレッシングとして直接使えるのは、1日あたり大さじ1杯から2杯(15g〜25g)程度が目安となることが多いです。

Q
ココナッツオイルは糖尿病に良いと聞きましたが本当ですか?
A

ココナッツオイルには中鎖脂肪酸が豊富に含まれており、エネルギーになりやすく体脂肪になりにくいという点ではメリットがあります。また、認知機能の改善などにも期待が寄せられています。

しかし、ココナッツオイルは飽和脂肪酸の含有量も非常に多いため、摂りすぎるとLDLコレステロールを上昇させるリスクがあります。無条件に「良い」と判断するのではなく、使用する場合は少量にとどめるべきです。

定期的な血液検査でコレステロール値や中性脂肪の推移を確認しながら、慎重に取り入れることが大切です。

Q
魚が嫌いな場合、サプリメントでオメガ3を摂っても効果はありますか?
A

青魚を食べるのが難しい場合や苦手な場合、EPAやDHAのサプリメントを利用することは有効な選択肢の一つです。不足しがちな栄養素を補うことで、抗炎症作用などの恩恵を受けることができます。

ただし、サプリメントは食品と異なり、製品によって酸化レベルや純度、吸収率に大きなばらつきがあります。安価なものは酸化していたり、含有量が少なかったりすることもあります。

信頼できるメーカーの高品質な製品を選び、主治医に相談した上で摂取することをお勧めします。また、可能な限り、えごま油やアマニ油など食品からの摂取も組み合わせてください。

Q
バターとマーガリン、どちらを使うべきでしょうか?
A

トランス脂肪酸のリスクを考慮すると、加工油脂であるマーガリンよりも、自然な食品であるバターの方が安全な選択と言えます。特に部分水素添加油脂を使用したマーガリンは避けるべきです。

しかし、バターは飽和脂肪酸が多く含まれているため、使いすぎは動脈硬化のリスクとなります。「マーガリンよりはマシ」という程度に考え、常用は控えるのが賢明です。

最も良いのは、パンにはエキストラバージンオリーブオイルをつける習慣に変えることです。どうしても固形脂が必要な場合は、牧草飼育の牛の乳から作られたグラスフェッドバターを少量使用することをお勧めします。

参考にした論文