「健康診断で糖尿病と言われ、食事療法や飲み薬で治療しているけれど、なんだか思うようにコントロールできない」。そんな悩みを抱えている方のなかに、実はLADA(緩徐進行1型糖尿病)が隠れているケースがあります。
LADAは2型糖尿病と間違われやすい自己免疫性の糖尿病で、日本国内だけでも推定約50万人が該当するとされています。発症のピークは50歳前後で、男女差はほとんどありません。
この記事では、日本人のLADA発症頻度やGAD抗体陽性率、HLA遺伝子との関係など疫学データをわかりやすく整理し、早期発見につながるヒントをお届けします。
LADAは2型糖尿病に見えて実は自己免疫性|日本でも約50万人が該当する
LADA(Latent Autoimmune Diabetes in Adults)は、成人期に発症する自己免疫性の糖尿病です。日本では「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)」とも呼ばれ、全国で約50万人が該当すると推定されています。
LADAと2型糖尿病は初期症状がそっくりで区別しにくい
LADAの厄介なところは、発症初期の見た目が2型糖尿病とほぼ同じである点です。体重が標準またはやや多めの中高年が多く、最初は食事療法や飲み薬だけで血糖値をコントロールできることもあります。
しかし根本的な原因は自己免疫によるもので、膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)が少しずつ壊されていきます。そのため数年から十数年かけてインスリン分泌が低下し、やがてインスリン注射が必要になるでしょう。
1982年に日本の研究者が世界に先駆けて発見した
LADAの概念を世界で初めて提唱したのは、虎の門病院の小林哲郎医師です。1982年に膵島細胞抗体(ICA)の高感度測定法を開発し、2型糖尿病として治療を受けている患者のなかにICA陽性の症例が存在することを突き止めました。
その後、欧米でGAD抗体が発見されると注目が一気に集まり、「LADA」という名称が広く使われるようになりました。現在はWHOの国際疾病分類(ICD-11)にもSPIDDMとして収載されています。
LADAと急性発症1型糖尿病の比較
| 項目 | LADA(緩徐進行型) | 急性発症1型 |
|---|---|---|
| 発症年齢 | 35歳以降が多い | 思春期〜若年成人 |
| 進行速度 | 数年〜十数年 | 数週間〜数か月 |
| 初期のインスリン | 不要な場合が多い | 直ちに必要 |
| ケトアシドーシス | 初期にはまれ | 高頻度 |
| GAD抗体 | 陽性(低〜高力価) | 陽性(高力価が多い) |
日本では1型糖尿病の亜型のなかで頻度がもっとも高い
1型糖尿病には劇症・急性発症・緩徐進行の3つの亜型がありますが、そのなかでLADA(緩徐進行型)が占める割合は日本でも欧米でも一番高いとされています。
それにもかかわらず、初期に2型糖尿病と診断されるケースが後を絶ちません。正しい診断へつなげるには、GAD抗体検査の積極的な活用が鍵となるでしょう。
日本における2型糖尿病患者のうち約4〜10%がLADAに該当する
日本の疫学調査によると、インスリン治療を必要としていない糖尿病患者の約4〜10%がLADA(緩徐進行1型糖尿病)であると報告されています。見過ごされている方が数多くいるかもしれません。
愛媛スタディなど日本の代表的な疫学研究が示すデータ
日本国内では複数の大規模研究がLADAの頻度を調べてきました。たとえば愛媛スタディでは、成人発症の糖尿病患者4,980人を対象にGAD抗体を測定し、LADA該当者の割合や臨床的な特徴を分析しています。
また全国規模の横断調査では、GAD抗体陽性でありながら5年以上インスリンを必要としない患者群(NIR-SPIDDM)の存在が明らかになりました。こうした研究の蓄積が、日本独自のLADA像を浮かび上がらせています。
全国推定50万人という数字が持つ意味は大きい
日本の糖尿病患者は約1,000万人といわれています。仮にそのうち5%がLADAだとすれば、約50万人に達する計算です。
この数字は、LADAが決して珍しい病気ではないことを物語っています。とくに飲み薬だけでは血糖コントロールが悪化してきた方や、やせ型で糖尿病と診断された方は、一度GAD抗体を測定してもらう価値があるかもしれません。
Tokyo Studyが示したSU薬のリスクとインスリン療法の優位性
LADAの疫学を語るうえで外せないのが、丸山らによるTokyo Studyです。4,089人のSPIDDM患者を対象としたこの多施設研究では、早期からインスリンを導入した群のほうがSU薬(スルホニル尿素薬)を使った群よりもインスリン分泌能が保たれるという結果が示されました。
SU薬はβ細胞を過度に刺激して自己免疫反応を悪化させるおそれがあるため、LADAと診断された場合には使用を避けるべきとされています。
| 研究名 | 対象者数 | 主な知見 |
|---|---|---|
| 愛媛スタディ | 4,980人 | β細胞機能低下の予測因子を特定 |
| Tokyo Study | 4,089人 | インスリン早期導入がβ細胞を保護 |
| 全国横断調査(2016) | 145人 | NIR-SPIDDMの臨床像を解明 |
GAD抗体陽性率から見た日本人のLADA有病率は欧米よりやや低い
LADA診断の要となるGAD抗体の陽性率は、日本人の2型糖尿病患者では約3.8〜5.5%と報告されています。欧米の約9%と比べるとやや低く、人種による違いが示唆されます。
日本人2型糖尿病患者のGAD抗体陽性率は3.8〜5.5%
日本国内の複数の研究を総合すると、臨床的に2型糖尿病と診断された患者のうちGAD抗体が陽性になる割合はおおむね3.8〜5.5%です。測定法やカットオフ値の設定によって数値に幅が生じますが、決して無視できない割合といえます。
とくにGAD抗体価が高い患者ほどインスリン依存状態へ進行しやすいことがわかっており、抗体価の高低がその後の治療方針に直結する点は見逃せません。
欧米のLADA頻度は約6〜9%と日本より高い
欧州9か国が参加した大規模コホート研究では、30〜70歳の糖尿病患者6,156人のうちLADAと診断された方は約6.3%でした。英国のUKPDSなど別の研究では、GAD抗体陽性率が約9%に達したとする報告もあります。
- 欧州コホート研究(6,156人対象):LADA該当率 約6.3%
- UKPDS(英国):GAD抗体陽性率 約9.0%
- 日本の報告:GAD抗体陽性率 約3.8〜5.5%
抗体測定法の精度向上が正確な有病率把握を後押ししている
GAD抗体の測定は以前のRIA法(放射免疫測定法)からELISA法(酵素免疫測定法)へと移行が進み、感度と特異度が格段に高まりました。測定法の標準化が進むほど、国際比較の信頼性も増していきます。
日本糖尿病学会が2023年に改訂した診断基準では、GAD抗体に加えてIA-2抗体やZnT8抗体なども膵島関連自己抗体として認められるようになり、見逃されていた症例を拾い上げる体制が整いつつあります。
LADAの発症年齢は50歳前後がピーク|男女差・地域差はほとんどない
日本のデータでは、LADAの発症年齢のピークは50歳前後であり、男女差や地域差はほぼ認められません。急性発症1型糖尿病が30歳前後に多いのとは対照的な特徴です。
急性発症1型が若年層に多いのに対しLADAは中高年に集中する
田中らの研究(2011年)による発症年齢分布のグラフでは、急性発症1型糖尿病のピークは30代、2型糖尿病とLADAのピークは50代に位置しています。LADAが中高年に集中していることは、2型糖尿病との混同が生じやすい大きな理由のひとつです。
35歳以降に糖尿病を発症した場合は、外見や初期の経過だけで判断せず、自己抗体の有無を確認することが望ましいでしょう。
性別による発症率の偏りは確認されていない
LADAの発症率に男女間で統計的に有意な差は報告されていません。一部の海外文献では男性にやや多いとする見解もありますが、日本国内の研究では性差はほぼないとされています。
ただし、GAD抗体価が高くインスリン依存への進行が早いサブグループでは女性の割合がやや多いとする報告もあり、進行パターンには個人差が大きい点に留意が必要です。
日本国内に都道府県ごとの発症率の偏りは見られない
1型糖尿病全体では北欧やサルデーニャ島など特定地域で発症率が高いことが知られていますが、日本国内のLADAに限ると、地域ごとの発症率に目立った偏りはありません。
これは日本人集団のHLA遺伝子構成が比較的均一であることと関連していると考えられています。どの地域に住んでいても、糖尿病と診断されたらLADAの可能性を念頭に置くことが大切です。
| 特徴 | LADA(日本) | 急性発症1型(日本) |
|---|---|---|
| 発症ピーク年齢 | 50歳前後 | 30歳前後 |
| 男女差 | ほぼなし | やや女性に多い |
| 地域差 | 認められない | 認められない |
| 初期のBMI | 標準〜やや高め | やせ型が多い |
日本人特有のHLA遺伝子型がLADAの発症リスクに深く関わっている
LADAの発症には、免疫を司るHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子が大きく関与しています。日本人で感受性が高いHLAハプロタイプは欧米人とは異なっており、この違いが発症頻度や臨床像の差につながっています。
HLA-DRB1とDQB1のハプロタイプが日本人LADAの鍵を握る
日本人を対象とした免疫遺伝学的研究では、HLA-DRB1*04:05-DQB1*04:01やHLA-DRB1*09:01-DQB1*03:03といったハプロタイプが、LADAおよび1型糖尿病の感受性を高めることが確認されています。
また、HLA-DRB1*08:02-DQB1*03:02は緩徐進行型に対する感受性が報告されており、古典的1型糖尿病とLADAで共通するハプロタイプと異なるハプロタイプが存在する点が興味深いところです。
欧米人とは感受性ハプロタイプの構成が大きく異なる
欧米人のLADAではHLA-DR3やHLA-DR4が代表的な感受性ハプロタイプですが、日本人ではDR3の頻度が極めて低いため、リスク遺伝子の構成が根本的に異なります。
日本人に多いDRB1*09:01やDRB1*04:05は北欧ではまれなアレルであり、こうした人種間の遺伝的背景の違いがLADAの頻度や進行速度に影響を及ぼしていると考えられています。
日本人LADAに関連するHLAハプロタイプ
| HLAハプロタイプ | 関連する病型 | 日本人での傾向 |
|---|---|---|
| DRB1*04:05-DQB1*04:01 | 1型/LADA共通 | 感受性あり |
| DRB1*09:01-DQB1*03:03 | 1型/LADA共通 | 感受性あり |
| DRB1*08:02-DQB1*03:02 | 緩徐進行型に強い | 感受性あり |
| DRB1*15:01-DQB1*06:02 | 1型糖尿病 | 防御的 |
HLAだけでは説明できない環境要因にも目を向ける必要がある
HLA遺伝子はLADA発症の大きな要因ですが、それだけで発症するわけではありません。2型糖尿病と共通する生活習慣関連の要因、たとえば過体重や喫煙、加糖飲料の過剰摂取なども関与する可能性が指摘されています。
LADAの発症は遺伝素因と環境因子が複雑に絡み合った結果であり、遺伝子検査だけに頼らず総合的に評価することが求められるでしょう。
2型と思い込んでいたら実はLADA?見逃さないための診断基準と検査
日本糖尿病学会は2023年に緩徐進行1型糖尿病の診断基準を改訂し、より多くの症例を正しく拾い上げられる体制を整えました。2型糖尿病と診断されている方でも、条件に当てはまれば検査を受ける価値があります。
2023年改訂の診断基準で変わった3つのポイント
改訂された診断基準では、まず「definite(確定)」と「probable(疑い)」の2段階に分けて診断する方針が明確になりました。definiteはインスリン依存状態まで進行した症例、probableはまだインスリン非依存の段階にある症例を指します。
次に、膵島関連自己抗体としてGAD抗体やICAに加え、IA-2抗体やZnT8抗体、インスリン自己抗体(IAA)も含まれるようになりました。さらに、海外で使われるLADAやLADYとの関係が整理され、国際的な概念との対応がとりやすくなっています。
GAD抗体検査は採血だけで受けられる
LADAを疑った場合にまず行われるのがGAD抗体の血液検査です。採血だけで完了するため身体への負担は小さく、結果は通常1〜2週間で判明します。
GAD抗体が陽性であれば、Cペプチド(インスリン分泌能の指標)の推移を定期的にモニタリングしながら、治療方針を決めていく流れになるでしょう。
こんな方はGAD抗体検査を相談してみてほしい
すべての2型糖尿病患者にGAD抗体検査を行うことは現実的ではありませんが、以下のような特徴がある方は主治医に検査を相談してみる価値があります。
- 飲み薬だけでは血糖コントロールが徐々に悪化している
- やせ型、もしくはBMIが低めで糖尿病と診断された
- 甲状腺疾患など他の自己免疫疾患を合併している
- 家族に1型糖尿病の方がいる
LADAの治療ではSU薬を避けインクレチン関連薬やインスリンが選択肢になる
LADAと診断された場合、治療で最も注意すべき点はSU薬(スルホニル尿素薬)を使わないことです。インクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、β細胞への負担が少ない選択肢として注目されています。
SU薬がβ細胞の破壊を加速させるおそれがある
SU薬はβ細胞を刺激してインスリン分泌を促す薬ですが、LADAのように自己免疫でβ細胞が攻撃されている状態で使うと、抗原提示が増してかえって免疫反応を悪化させるリスクがあります。
Tokyo Studyでも、SU薬を使用した群ではインスリン分泌能の低下が早く、インスリン依存状態への移行率が高かったことが報告されました。日本糖尿病学会のコンセンサスステートメントでも、LADAにはSU薬を避けるよう明記されています。
| 薬剤分類 | LADAへの推奨度 | 備考 |
|---|---|---|
| インスリン | 推奨 | β細胞保護のエビデンスあり |
| DPP-4阻害薬 | 選択肢 | β細胞への負担が小さい |
| ビグアナイド薬 | 選択肢 | インスリン抵抗性がある場合 |
| SU薬 | 使用を避ける | β細胞破壊を促進する恐れ |
| SGLT2阻害薬 | 慎重投与 | ケトアシドーシスに注意 |
DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬がβ細胞を守る可能性
インクレチン関連薬は、血糖値に応じてインスリン分泌を促す薬です。DPP-4阻害薬は体内のGLP-1を分解する酵素を抑え、GLP-1受容体作動薬はGLP-1と同様の作用を直接もたらします。
動物実験レベルでは、GLP-1がβ細胞の増殖を促しアポトーシス(細胞死)を抑制する作用が報告されています。LADAのprobable段階でDPP-4阻害薬を使用する試みは、日本の臨床現場でも広がりつつあるでしょう。
インスリン療法の早期導入がβ細胞保護に有効とされている
definiteの段階に進んだLADA患者にはインスリン療法が基本です。しかし、probable段階であっても早期にインスリンを導入することでβ細胞の機能が長く保たれるというエビデンスが蓄積されてきました。
どのタイミングでインスリンを開始するかは個々の病状によりますが、Cペプチド値を定期的に測定しながら慎重に判断していくことが大切です。治療薬の選択は必ず主治医と相談のうえ決定してください。
よくある質問
- QLADAは日本人の糖尿病患者のうちどれくらいの割合で見つかる?
- A
日本の疫学研究では、インスリン治療を必要としていない糖尿病患者のうち約4〜10%がLADA(緩徐進行1型糖尿病)であると報告されています。全国の推定患者数は約50万人とされており、決して珍しい病気ではありません。
ただし、GAD抗体検査を受けなければ見つからないため、実際にはもっと多くの方が気づかずに2型糖尿病として治療を続けている可能性があります。
- QLADAの発症年齢にピークはある?
- A
LADAの発症年齢のピークは50歳前後です。急性発症1型糖尿病が30歳前後に多いのとは対照的で、2型糖尿病の好発年齢帯と重なるため見分けにくいという特徴があります。
なお、35歳以降に発症するケースが典型的とされていますが、若年者に発症するケース(LADYと呼ばれます)も報告されています。
- QLADAの診断で使われるGAD抗体検査はどのように受ける?
- A
GAD抗体検査は採血によって行われます。腕から少量の血液を採取するだけなので、身体への負担はごくわずかです。結果はおおむね1〜2週間で判明します。
糖尿病の診療を行っている内科やクリニックであれば対応できる場合が多いため、気になる方は主治医に相談してみてください。
- QLADAと診断されたらインスリン注射はすぐに始める?
- A
LADAと診断されたからといって、必ずしもすぐにインスリン注射を始めるわけではありません。まだインスリン分泌が保たれている段階(probable)であれば、DPP-4阻害薬などの飲み薬で経過を見る選択肢もあります。
ただし、早期にインスリンを導入するほうがβ細胞の機能を長く保てるというエビデンスもあるため、Cペプチド値を定期的に測定しながら主治医と相談して判断することが大切です。
- QLADAに対してGLP-1受容体作動薬は使える?
- A
GLP-1受容体作動薬は主に2型糖尿病に対して承認されている薬ですが、LADAのprobable段階でインクレチン関連薬としてDPP-4阻害薬とともに選択肢に挙がることがあります。GLP-1にはβ細胞を保護する作用が動物実験で示されており、臨床的な応用が期待されています。
とはいえ、LADAに対するGLP-1受容体作動薬のエビデンスはまだ十分とはいえません。使用を検討する際は、必ず糖尿病専門医と相談のうえ判断してください。


