「家族に1型糖尿病の人がいるけれど、自分や子どもにも遺伝するのだろうか」と不安を感じている方は少なくありません。結論からお伝えすると、1型糖尿病そのものが直接遺伝するわけではなく、「発症しやすい体質」が受け継がれる可能性があるにすぎません。

実際に、両親のどちらか一方が1型糖尿病であっても、子どもが発症する確率は1%~2%程度とされています。遺伝的な要素は関与しているものの、発症には環境因子も深く関わっており、遺伝子を受け継いだからといって必ず発症するわけではないのです。

この記事では、1型糖尿病と遺伝の関係について、家族構成ごとの発症リスクやHLA遺伝子との関連、そして日常生活で気をつけたいポイントまで、わかりやすく解説していきます。

目次

1型糖尿病は「遺伝する病気」ではなく「なりやすい体質」が受け継がれる

1型糖尿病という病気そのものが親から子へそのまま引き継がれるわけではありません。遺伝するのは「1型糖尿病を発症しやすい体質」であり、その体質を持っていても多くの方は発症せずに過ごしています。

そもそも1型糖尿病とはどんな病気なのか

1型糖尿病は、膵臓(すいぞう)にあるβ細胞(ベータさいぼう)が免疫の異常によって破壊され、インスリンというホルモンがほとんど分泌されなくなる病気です。

インスリンは血液中の糖分を細胞に届ける働きを持っており、これが不足すると血糖値が異常に高くなります。

2型糖尿病が食生活や運動不足といった生活習慣と深い関連を持つのに対し、1型糖尿病は生活習慣とは無関係に発症するのが大きな特徴です。小児期から思春期に発症するケースが多いものの、成人になってから診断される方も珍しくありません。

「遺伝する」と「体質が受け継がれる」は似て非なるもの

「1型糖尿病は遺伝しますか?」という質問をよく耳にします。正確には、1型糖尿病になりやすい遺伝子の組み合わせが親から子へ受け継がれることがある、というのが医学的な見解です。

たとえ親が1型糖尿病であっても、その子どもが同じ病気を発症する確率は決して高くありません。

1型糖尿病における遺伝と発症の関係

家族関係発症リスク補足
両親とも1型糖尿病3%~5%一般人口より高いが限定的
片親が1型糖尿病1%~2%大多数は発症しない
兄弟姉妹が1型糖尿病6%~10%二卵性双生児と同程度
家族に患者なし約0.4%一般人口の発症率

遺伝子を受け継いでも発症しないケースが大半

1型糖尿病に関連する遺伝子は現在までに17種類以上が発見されています。しかし、これらの遺伝子をすべて持っていたとしても、発症に至るかどうかは環境因子によっても左右されます。

実際に、1型糖尿病の患者さんの多くは、家族に同じ病気を持つ人がいないまま突然発症しているという事実があります。遺伝的な素因はあくまで発症のきっかけの一つに過ぎないのです。

家族に1型糖尿病の患者がいると発症確率はどれくらい上がるのか

家族に1型糖尿病の方がいる場合、子どもの発症リスクはわずかに上昇しますが、それでも確率としては低い水準にとどまります。過度に心配する必要はないでしょう。

両親が1型糖尿病の場合でも発症率は3%~5%にとどまる

日本糖尿病学会の「糖尿病治療の手びき」によれば、両親がともに1型糖尿病の場合でも、子どもが同じ病気を発症する確率は3%~5%程度です。両親の一方だけが1型糖尿病の場合には、その確率はさらに低く1%~2%となります。

つまり、仮に片親が1型糖尿病であっても、子どもが発症しない確率は98%以上ということになります。数字だけを見れば、遺伝的リスクは存在するものの、発症する可能性はかなり限られていることがわかるでしょう。

きょうだいに1型糖尿病がいる場合のリスク

兄弟姉妹に1型糖尿病の患者がいる場合の発症リスクは6%~10%で、二卵性双生児における発症リスクとほぼ同じ水準です。

親子間よりもきょうだい間の方がやや高い数値を示すのは、遺伝子の共有割合やHLA遺伝子の型が関係していると考えられています。

家族歴がなくても発症するケースが多い

見落とされがちな事実ですが、1型糖尿病の患者さんのうち、家族に同じ病気の人がいるケースはむしろ少数派です。多くの方が、家族歴のないまま突然発症しています。

家族に1型糖尿病の方がいなくても油断はできませんし、逆に家族歴があるからといって過度に恐れる理由もないといえます。遺伝だけが発症を決定するわけではないことを、この事実は如実に示しているでしょう。

1型と2型の遺伝的リスク比較

比較項目1型糖尿病2型糖尿病
両親とも患者の場合3%~5%40%~50%
片親が患者の場合1%~2%約27%
遺伝の影響度比較的低い比較的高い

1型糖尿病と2型糖尿病では遺伝の関わり方がまったく異なる

同じ「糖尿病」という名前でも、1型と2型では遺伝の関わり方に大きな差があります。1型糖尿病は2型糖尿病に比べて遺伝的影響が小さく、家族歴があっても発症リスクは限定的です。

2型糖尿病は1型よりも遺伝の影響を強く受ける

2型糖尿病の場合、両親がともに糖尿病であれば子どもの発症確率は40%~50%にも達するとされています。これは1型糖尿病の3%~5%と比較すると、10倍近い差があることになります。

2型糖尿病で遺伝するのは「インスリンが効きにくい体質」や「インスリンの分泌量が少ない体質」であり、そこに食事や運動などの生活習慣が加わって発症に至るケースがほとんどです。

1型糖尿病は自己免疫が原因で生活習慣とは無関係に起こる

1型糖尿病は、自分自身の免疫細胞が膵臓のβ細胞を誤って攻撃・破壊してしまう自己免疫疾患の一つです。食べすぎや運動不足が原因で起こるものではなく、体型に関係なく発症します。

1型糖尿病と2型糖尿病の発症要因比較

要因1型糖尿病2型糖尿病
主な発症原因自己免疫によるβ細胞破壊インスリン抵抗性・分泌低下
生活習慣の関与ほぼなし大きい
発症年齢小児~青年期が多い中高年に多い

日本人の糖尿病患者の95%は2型糖尿病

日本における糖尿病患者のうち、約95%が2型糖尿病です。1型糖尿病の患者数は全体のわずか1%前後にとどまり、日本での10万人あたりの小児1型糖尿病の発症率は1.4人~2.2人と、欧米諸国に比べて非常に低い水準にあります。

日本人は民族的に2型糖尿病を発症しやすい遺伝的体質を持つとされていますが、1型糖尿病に関しては欧米人と比べてリスクが低いのが特徴です。

HLA遺伝子が1型糖尿病の発症リスクを大きく左右する

1型糖尿病の発症に関わる遺伝因子のうち、30%~50%を説明できるとされているのがHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子です。この遺伝子の型によって、発症リスクが大きく変動することが研究で明らかになっています。

HLA遺伝子とは免疫の「自他識別」を担う遺伝子

HLAは、体内に侵入してきたウイルスや細菌などの異物を「自分ではないもの」として見分けるための免疫タンパク質を作る遺伝子です。私たちの免疫システムが正常に働くために欠かせない存在であり、臓器移植の際の適合性判定にも使われています。

このHLA遺伝子には非常に多くの型(バリエーション)が存在し、どの型を持っているかによって、さまざまな自己免疫疾患にかかりやすいかどうかが変わってきます。

特定のHLA型を持つと1型糖尿病のリスクが上がる

HLA-DQ遺伝子やHLA-DR遺伝子の特定の組み合わせを持つ人は、1型糖尿病を発症するリスクが高いことが研究で示されています。

東京大学の研究グループは、1型糖尿病に関連するHLA遺伝子型が安定性の低いHLAタンパク質を生み出すことを発見しました。

ただし、日本人と欧米人ではリスクの高いHLA型が異なるため、海外のデータをそのまま日本人にあてはめることはできません。

HLA以外にも1型糖尿病に関わる遺伝子は複数ある

HLA遺伝子だけが1型糖尿病に関わるわけではなく、HLA以外にも20以上の遺伝子座が発症との関連を示唆されています。欧米人の研究では40以上の関連遺伝子座が報告されており、複数の遺伝子が少しずつリスクを積み上げていると考えられているのです。

現時点では、遺伝子検査だけで1型糖尿病の発症を正確に予測することは困難であり、遺伝子情報の臨床的な活用は限定的とされています。

  • HLA-DQ遺伝子・HLA-DR遺伝子
  • インスリン遺伝子(INS)
  • CTLA4遺伝子
  • TYK2遺伝子

遺伝だけでは発症しない|1型糖尿病を引き起こす環境因子とは

1型糖尿病の発症は遺伝的素因だけでは決まりません。遺伝的にリスクを持つ方であっても、環境因子が加わらなければ発症に至らないケースが大多数です。

ウイルス感染が発症の引き金になることがある

1型糖尿病の発症きっかけとして、ウイルス感染が深く関わっているとする報告が数多くあります。風疹やおたふくかぜ、コクサッキーウイルスなどに感染した後、数週間を経てβ細胞への自己免疫反応が始まるケースが確認されています。

ただし、ウイルス感染そのものが糖尿病を引き起こすのではなく、感染がきっかけとなって免疫の暴走が起きるという流れです。1型糖尿病は感染症ではないため、人から人にうつることは一切ありません。

衛生環境の変化と自己免疫疾患の増加

環境因子と1型糖尿病発症の関連

環境因子影響の内容根拠
ウイルス感染免疫の暴走を誘発複数の疫学研究で報告
衛生環境の改善免疫系の発達に影響衛生仮説として知られる
腸内細菌叢の変化免疫調節機能に影響理化学研究所の研究

衛生環境が改善されすぎたことで、かえって免疫の調節能力が弱まり自己免疫疾患が増えているのではないかという「衛生仮説」が注目されています。

感染症が減少した地域ほど、アレルギーや自己免疫疾患の患者が増加する傾向が疫学的に確認されています。

腸内環境も1型糖尿病の発症に関わっている

理化学研究所の研究グループは、腸内に生息する特定の線虫や細菌が免疫機能を抑制し、1型糖尿病の発症を抑えていることを明らかにしました。腸内細菌が産生するトレハロースという糖が、免疫を制御するT細胞の誘導に関わっていたのです。

腸内環境と自己免疫疾患の関連は近年の研究でますます注目されており、将来的に1型糖尿病の予防や治療に新たな道を開く可能性を秘めています。

一卵性双生児の研究が示す1型糖尿病の遺伝的影響

遺伝子がまったく同じ一卵性双生児の研究は、1型糖尿病の発症にどの程度遺伝が関わっているのかを検証するうえで貴重なデータを提供しています。その結果は、遺伝だけでは発症を説明しきれないことを明確に示しました。

一卵性双生児の一方が発症した場合、もう一方のリスクは30%~70%

遺伝子を100%共有する一卵性双生児であっても、片方が1型糖尿病を発症した際にもう片方も発症する確率は30%~70%にとどまります。

遺伝子が同一であるにもかかわらず、必ずしも両方が発症するわけではないという事実は、環境因子の影響が無視できないことを裏付けています。

二卵性双生児では発症リスクが6%~10%まで下がる

遺伝子の一致率が50%程度の二卵性双生児の場合、片方が発症した際にもう片方が1型糖尿病を発症するリスクは6%~10%です。

この数値は通常のきょうだい間の発症リスクとほぼ同等であり、共有する遺伝子の割合が発症リスクに直結していることを示唆しています。

遺伝の影響が大きいのは1型よりも2型糖尿病

比較として、2型糖尿病の場合は一卵性双生児の一方が発症すると、もう一方が将来的に発症するリスクは約75%にも達します。1型糖尿病の30%~70%と比べると、2型糖尿病のほうが遺伝的な影響を強く受けていることがわかるでしょう。

双生児研究における発症一致率

双生児の種類1型の一致率2型の一致率
一卵性双生児30%~70%約75%
二卵性双生児6%~10%約20%~30%

家族に1型糖尿病の方がいても過度に心配しなくてよい理由

家族に1型糖尿病の患者がいることで不安を抱えている方に伝えたいのは、発症リスクがあることと実際に発症することは大きく異なるという点です。家族歴がある方でも、日常生活のなかでできることはたくさんあります。

1型糖尿病の患者の多くは家族に同じ病気の人がいない

  • 1型糖尿病患者の大部分は家族歴なしで発症している
  • 家族内で複数の1型糖尿病患者が出ることは非常にまれ
  • 遺伝的リスクを持っていても生涯発症しない人が圧倒的に多い

1型糖尿病の大きな特徴として、同じ家族のなかで何人もの患者が出ることはほとんどないという点が挙げられます。家族に1型糖尿病の方がいたとしても、その事実だけで強い不安を抱く必要はないでしょう。

定期的な健康診断と早期発見が安心につながる

家族歴がある場合に心がけたいのは、定期的な健康診断を受けて血糖値の変動を把握しておくことです。1型糖尿病は早期に発見できれば、インスリン療法を適切に開始することで日常生活に大きな支障をきたすことなく過ごせます。

血糖値やHbA1c(過去1~2か月の血糖値の平均を反映する数値)を定期的にチェックすることで、万が一の変化にも素早く対応できるようになります。不安を「行動」に変えることが、心の安定にもつながるのではないでしょうか。

自己抗体検査でリスクの程度も把握できる

1型糖尿病に関連する自己抗体(GAD抗体やIA-2抗体など)の検査を受けることで、β細胞への自己免疫反応が起きているかどうかを確認できます。

自己抗体が陽性であっても必ず発症するわけではありませんが、リスクの程度を客観的に把握する手段として有用です。

かかりつけ医や糖尿病専門医に相談すれば、家族歴を踏まえた経過観察の方針を一緒に考えてもらえます。一人で悩みを抱え込まず、専門家の力を借りることも選択肢の一つです。

よくある質問

Q
1型糖尿病の遺伝的リスクがある場合、子どもに検査を受けさせたほうがよいか?
A

家族に1型糖尿病の方がいる場合、GAD抗体やIA-2抗体などの自己抗体検査を受けることで、β細胞への自己免疫反応が始まっていないかを確認できます。ただし、自己抗体が陽性だからといってすぐに発症するわけではありません。

まずはかかりつけの小児科医や糖尿病専門医に相談し、お子さんの年齢や家族の状況に合わせた検査の必要性を判断してもらうのがよいでしょう。定期的な健康診断で血糖値を確認しておくだけでも、十分な備えになります。

Q
1型糖尿病は生活習慣を改善すれば予防できるのか?
A

1型糖尿病は自己免疫による膵臓のβ細胞の破壊が原因であり、食事制限や運動といった生活習慣の改善だけで予防できる病気ではありません。2型糖尿病とは発症の仕組みがまったく異なるため、混同しないよう注意が必要です。

とはいえ、バランスのよい食事や適度な運動は、全身の健康維持に役立ちます。遺伝的なリスクの有無にかかわらず、健康的な生活を心がけることは決して無駄にはなりません。

Q
1型糖尿病は人から人へうつることがあるのか?
A

1型糖尿病は感染症ではないため、人から人にうつることは一切ありません。発症のきっかけとしてウイルス感染が関わる場合はありますが、それはウイルスそのものが糖尿病を引き起こすのではなく、感染後に免疫の異常が起こる結果です。

ウイルスが体内からいなくなった後に自己免疫反応が始まるため、糖尿病の原因となるウイルスが他者に広がったとしても、感染した人が1型糖尿病を発症するとは限りません。

Q
1型糖尿病の遺伝リスクは日本人と欧米人で異なるのか?
A

1型糖尿病の遺伝リスクには人種差があり、日本人は欧米人と比べて発症率がかなり低い傾向にあります。日本における10万人あたりの小児1型糖尿病の発症率は1.4人~2.2人ですが、フィンランドやイタリアなどでは約40人と報告されています。

リスクを高めるHLA遺伝子の型も日本人と欧米人では異なることがわかっており、海外の研究結果をそのまま日本人にあてはめることは適切ではありません。日本人を対象とした研究データに基づいて判断することが大切です。

Q
1型糖尿病と診断された後も日常生活を普通に送れるのか?
A

1型糖尿病は完治が難しい病気ではありますが、インスリン療法を適切に行い血糖値をしっかりコントロールすることで、健康な方と変わらない生活を送ることが十分に可能です。

現在はさまざまな種類のインスリン製剤が開発されており、患者さん一人ひとりの生活スタイルや病態に合わせた治療が行われています。

注射の痛みも以前に比べて格段に軽減されており、仕事や学校生活を続けながら治療を両立している方がたくさんいらっしゃいます。

参考にした文献