糖尿病の薬としてピオグリタゾンをすすめられ、脂肪肝も指摘されているなら、この薬は肝臓の脂肪や炎症を減らす働きも期待できる選択肢です。インスリンの効きにくさを改善する作用が、血糖と肝臓の両方に関わるためです。

一方で、肝臓の硬さ(線維化)への効果は、脂肪や炎症への効果と分けて評価されています。日本で承認された効能は2型糖尿病で、脂肪肝炎そのものは含まれていません。糖尿病の治療として使える条件と、肝臓への効果を分けて知っておきましょう。

この記事では、ピオグリタゾンがNASHに働く理由、脂肪・炎症・線維化への効果の違い、糖尿病の有無による研究結果の差、MASHという新しい呼び名、日本での効能と服用中に気をつける肝臓の変化を解説します。

ピオグリタゾンが肝臓の脂肪を減らす理由

肝臓への効果には、脂肪が蓄えられる場所の変化と、インスリンの効きの改善が関わります。血糖値だけを下げるという説明では捉えきれない、脂肪の蓄積にも関わる作用です。

インスリンの効きにくさが肝臓にも影響する

インスリンは血糖を調節するホルモンで、その作用が弱くなった状態をインスリン抵抗性と呼びます。2型糖尿病と脂肪肝が重なる人では、この効きにくさが血糖の上昇と肝臓への脂肪の蓄積に関わっています。

肝臓は食事から得た栄養を蓄えたり、糖を作って血液へ送り出したりする臓器です。インスリン抵抗性を改善する治療は、血糖管理に加えて肝臓の脂肪の扱いにも働くため、糖尿病と脂肪肝を合わせて治療する際の選択肢になります。

脂肪の蓄えられる場所が変わる

ピオグリタゾンを使った2型糖尿病の人を画像で調べた小規模な研究では、お腹の臓器の周囲にある内臓脂肪が減り、皮膚の下にある皮下脂肪が増える変化が、肝臓などでのインスリンの効きの改善と関連していました1)。

  • 脂肪の分布の変化 … お腹の内側から皮膚の下へ蓄積の比重が移る変化
  • インスリンの効きの改善 … 肝臓などがインスリンの作用に反応しやすい状態
  • 肝臓への効果 … 脂肪の蓄積や炎症の改善につながる働き

この流れは治療を捉えるための整理です。実際の効果は、脂肪の分布に加えて、肝臓の脂肪や炎症がどう変わったかで評価します。

脂肪が減ることと炎症が鎮まること

脂肪肝は肝臓の細胞に脂肪がたまった状態で、脂肪肝炎はそこに炎症や細胞の傷みが加わった状態です。脂肪の量が減ったかどうかに加え、細胞への傷害が軽くなったかどうかも治療の評価に含まれます。

そのため、画像で脂肪が減ることと、組織を調べて炎症の改善を認めることは区別して読みます。薬の説明に「肝臓が良くなる」とあっても、何を測って良くなったのかで意味が変わります。

脂肪と炎症への効果は数か月の経過で評価する

肝臓の脂肪や炎症の改善は、6か月、18か月などの期間で調べられています。飲み始めてすぐの体調だけで判定せず、治療を続けた後の変化で効果を見る薬です。

6か月で肝臓の脂肪とALTが低下

糖尿病予備軍または2型糖尿病があるNASHの人に、食事療法に加えてピオグリタゾンを6か月使った試験では、肝臓の脂肪が54%、ALTが58%減少し、肝臓の組織の炎症なども改善しました2)。ALTは主に肝臓の細胞に含まれる酵素で、血液中の値は細胞の傷みをみる指標です。

この減少率は、同じ条件で治療を受けた集団の結果です。自分のALTがどう変わったかは、この割合と比べるより、治療前からの自分の経過で読み取ります。

18か月で脂肪肝炎の改善を確認

糖尿病予備軍または2型糖尿病を伴うNASHの人に18か月投与した試験では、主な評価項目を満たした人が58%、組織で脂肪肝炎の消失が認められた人が51%で、有効成分を含まない偽薬との差はそれぞれ41ポイント、32ポイントでした3)。

「51%」は約半数が評価時点で脂肪肝炎の所見を満たさなくなったという意味です。将来も治療が不要になる割合とは区別し、自分に当てはめるときは、糖尿病の有無だけでなく脂肪肝炎と診断されているかという対象の違いも踏まえます。

肝臓の変化は項目ごとに読む

肝臓への効果は、血液検査、脂肪の量、組織の炎症を分けると読み取りやすくなります。それぞれの項目が肝臓のどの状態を表すかに注目すると、1つの値の改善がほかの項目にも及んだかを分けて読めます。

評価する項目試験でみられた変化結果の読み方
ALT6か月で低下細胞の傷みを反映する血液の値
肝臓の脂肪6か月、18か月の試験で減少蓄えられた脂肪の量の変化
脂肪肝炎18か月で消失した人もいる組織で評価した炎症などの変化

肝生検は、肝臓から少量の組織を採り、細胞や炎症の様子を顕微鏡で調べる検査です。研究でいう「組織の改善」は、このように肝臓の一部を直接評価した結果を指します。

肝臓の硬さは脂肪や炎症と分けて評価する

線維化の改善がみられた試験もあり、この効果は脂肪や炎症への効果とは分けて、慎重に受け止めます。肝臓の硬さは、今の炎症だけでなく、これまでに蓄積した傷みとも関わります。

線維化は傷んだ部分に線維が増える変化

線維化とは、肝臓で傷の修復が繰り返され、線維という硬い組織が増える変化です。脂肪の蓄積、炎症、線維化は互いに関わりますが、それぞれ異なる状態を示します。

脂肪肝炎が続くと線維化が進む人がいるため、治療では目の前の肝臓の数値だけでなく、傷みの蓄積にも注意を向けます。脂肪を減らす効果がある薬でも、すでに増えた線維がどのように変わるかは別に評価します。

18か月の試験では線維化の点数も改善

前述の18か月の試験では、線維化の点数にも改善がみられました。糖尿病予備軍または2型糖尿病とNASHが重なる人において、脂肪肝炎だけでなく線維化にも好ましい変化があった結果です。

一方、点数の改善を「硬くなった肝臓が元通りになる」と読み替えると、期待が大きくなりすぎます。治療中の自分の肝臓は、開始前の状態とその後の経過を合わせて判断します。

治療の終了は肝臓と血糖の経過で判断する

採血の結果が良くなっても、糖尿病の薬を終えるかどうかは肝臓と血糖の経過を合わせて決めます。ALTの低下は喜ばしい変化ですが、線維化の改善はそれとは分けて判定します。

次の診察では、ALTの変化に加えて、脂肪肝炎や線維化をどのように評価しているかを主治医と確認しましょう。治療を続ける理由が血糖のためなのか、肝臓の状態も含めた判断なのかを共有すると、検査結果を受け止めやすくなります。

糖尿病の有無で変わるピオグリタゾンの捉え方

糖尿病がないNASHの人でも肝臓の数値や脂肪は改善していますが、試験全体の主な評価では定めた基準に届かなかった結果があります。糖尿病がある人の結果は、対象の違いを踏まえて読みます。

糖尿病がない人では主な評価に届かず

糖尿病のないNASHの人を対象にしたPIVENS試験という比較試験では、肝臓の数値と脂肪に改善がみられました。一方、主な評価の改善はピオグリタゾンで34%、偽薬で19%でした。この差は、事前に決めた統計上の基準には届きませんでした4)。

割合の差が見えても、偶然のばらつきまで考慮した試験の判定を満たすとは限らない、という結果です。糖尿病がない人では、効果の評価が項目によって異なった試験として受け止めます。

改善率は対象と評価方法の違いを踏まえて読む

糖尿病がある集団とない集団では、体の状態に加えて試験の評価方法も異なります。それぞれの改善率を並べただけで、糖尿病があるほど必ずよく効くと判断するのは不適切です。

糖尿病の状態肝臓への主な結果薬を考える際の注意
予備軍または2型糖尿病あり脂肪・炎症の改善、線維化の改善も報告予備軍と2型糖尿病は日本の効能上で区別
糖尿病なし肝臓の数値・脂肪は改善、主な評価は基準未達脂肪肝の所見だけで服用を決めない

予備軍の人が試験に含まれていても、日本で薬を使う際には、承認された効能に当てはまるかどうかが別に判断されます。研究の対象と、日常診療で薬を使う条件は分けて読みましょう。

ほかの治療との比較は血糖と肝臓の両方で

ピオグリタゾンを選ぶ際は、肝臓の脂肪や炎症への効果に加え、糖尿病の治療として自分に合うかが判断の中心です。肝臓に好ましい結果があっても、全身の状態を含めて別の治療が選ばれる人もいます。

また、インスリンの分泌などに働くGLP-1受容体作動薬や、尿へ糖を出す働きを強めるSGLT2阻害薬でも、脂肪肝への効果が調べられています。薬の名前だけで優劣を決めず、血糖の改善に何が必要か、肝臓のどの変化を期待するかを合わせて比べます。

NASHからMASHへ、診断名の読み方

NASHは、MASHという呼び名が使われるようになってきました。名称の変更は、病状の悪化や、服用中の薬の効果の変化を意味するものではありません。

MASLDは代謝の問題に関連する脂肪肝

MASLDは、肥満や血糖などの代謝の問題に関連する脂肪性肝疾患を表す名称です。代謝は、体が栄養を使ったり蓄えたりする働きを指します。

以前のNAFLDは非アルコール性脂肪性肝疾患の略称で、飲酒などの原因を除く面に重きを置いた名称でした。新しい名称では、血糖や体脂肪の状態との関わりをより前面に出しています。

MASHは炎症や細胞の傷みを伴う状態

MASHは、代謝の問題に関連する脂肪肝に、炎症や肝臓の細胞の傷みが加わった脂肪肝炎です。従来のNASHに対応する名称として使われます。

従来の呼び名新しい呼び名示す状態
NAFLDMASLD代謝の問題と関連する脂肪性肝疾患
NASHMASH脂肪の蓄積に炎症や細胞の傷みを伴う状態

ただし、新旧の名称は診断の枠組みも見直されているため、過去の診断名を文字だけで置き換える自己判断は避けます。診療でどの状態と説明されているかをもとに受け止めましょう。

過去のNASHの研究は名称を踏まえて読む

ピオグリタゾンの主要な試験は、NASHという名称で発表されています。MASHと書かれた診療資料を読むときにも、脂肪肝炎に関する根拠として過去のNASHの研究が登場します。

病名が似ていても、単に脂肪がたまっている状態と炎症を伴う状態では、研究の結果の当てはめ方が変わります。「脂肪肝」と言われたときは、炎症を伴う状態かどうかを確かめてから、NASHの試験を自分に当てはめましょう。

日本でピオグリタゾンを選ぶ際の条件

日本では、インスリン抵抗性が推定される2型糖尿病の治療として、主治医がピオグリタゾンを使うか判断します。脂肪肝炎への効果が期待できる点と、承認されている効能は分けて考えます。

診療ガイドラインでは治療の選択肢の1つ

日本消化器病学会と日本肝臓学会の診療ガイドラインは、脂肪肝の診療について根拠を整理した指針です。その2020年版では、ピオグリタゾンが属するチアゾリジン薬が、薬物治療の選択肢の1つとして挙げられています。ただし、選択肢に含まれるという記載は、脂肪肝のある人が一律に服用するという意味ではありません。

実際に服用するかどうかは、2型糖尿病の治療が必要か、インスリンの効きにくさがあるか、使ううえで問題となる病気がないかを合わせて判断します。

承認された効能は2型糖尿病

アクトス錠はピオグリタゾンを成分とする薬の販売名で、電子添文は効能や安全上の注意を記載した添付文書です。この電子添文で示される効能は、食事・運動療法などで十分な効果が得られず、インスリン抵抗性が推定される2型糖尿病であり、脂肪肝炎そのものは含まれていません。

肝臓にも効果があると聞くと、そのためだけに飲みたくなる気持ちも自然です。服用の判断は糖尿病の治療として行われるので、始めるときも量を変えるときも、主治医と相談して決めましょう。

重い肝機能障害がある人は使用の対象外

重い肝機能障害がある人には使用しない薬です。主に肝臓で代謝される、つまり体内で分解・処理されるため、肝臓の働きが大きく落ちていると薬が体に蓄積するおそれがあります。

電子添文の項目肝臓に関わる記載
効能条件を満たす2型糖尿病。脂肪肝炎そのものは含まれない
重い肝機能障害使用しない
もともとの肝機能障害慎重に使用し、必要に応じ定期的な肝機能検査
重大な副作用肝機能障害・黄疸。頻度は不明

脂肪肝を指摘されたことと、薬を使えないほど肝機能が低下していることは区別して判断されます。肝臓の検査値や病状を踏まえて使用の可否が決まるため、異常値がある人は、その値を処方時に主治医と共有しましょう。

生活の見直しと服用中の変化をつなげる

薬を使っていても、減量が必要な人の体重管理と生活の見直しは治療の土台です。肝臓の値だけに注目せず、治療を続けられる体の状態かどうかも一緒に見ていきます。

薬と生活の見直しは組み合わせる

脂肪肝の治療では、減量、食事・運動の見直し、飲酒を控えることに、糖尿病などの治療を組み合わせます。食事や運動は、体格や体力、現在の糖尿病治療に合う内容を続けることが基本です。

ピオグリタゾンの試験でも食事療法を合わせており、肝臓への結果はその条件で得られたものです。服用を始めてからも、これまでの食事や運動の取り組みを続けましょう。

診察で共有する変化を記録する

診察のときは、前回から何が変わったかを共有すると、血糖と肝臓を合わせて治療の経過を追いやすくなります。判断に使うのは、検査用紙と日常の記録。薬を飲めた状況も含めて、数値だけでは見えない変化を補います。

  • 肝臓の数値 … 前回と今回の検査用紙
  • 血糖の経過 … 糖尿病の検査結果と服用状況
  • 体の変化 … 体重の記録、足のむくみ、息切れの有無
  • 生活の変化 … 食事や運動で続けられた点と難しかった点

記録をそろえることより、体調の異変があるときの連絡が優先です。

たとえば、診察前に自宅で検査用紙を見返してALTが下がっていても、薬は自己判断で減らさず、服用状況と一緒に次の診察へ持参しましょう。良くなった数値を、治療を続けるかどうかの話し合いに使えます。

黄疸や濃い尿は次の予約を待たずに連絡

黄疸は、皮膚や白目が黄色くなる変化です。服用中に白目の黄ばみや濃い褐色の尿に気づいたら、薬に伴う肝機能障害も疑うため、次の予約を待たず処方元へ連絡し、受診と次の服用について指示を受けてください。

肝機能障害や黄疸の副作用は頻度不明で、何人に1人と示せる数字はありません。もともと肝機能障害があるなど必要な人では、定期的な肝機能検査を受け、異常があれば治療の見直しが行われます。

また、体重増加やむくみも起こりうるため、肝臓の値が良くてもその変化を見過ごさず、足のむくみや息切れを伴う場合は処方元へ速やかに連絡してください。

よくある質問

Q
ピオグリタゾンでNASHが良くなれば、薬をやめてもよいですか?
A

肝臓の改善だけを理由に、自己判断で中止することは避けてください。2型糖尿病の治療として必要かどうかは、血糖の経過も含めて判断されます。

ALTの低下や脂肪肝炎の改善は、治療を見直す際に共有したい情報です。次の診察で検査結果を示し、今の服用を続ける理由と終了を判断する条件を確認しましょう。

Q
糖尿病がなくても脂肪肝のために飲めますか?
A

糖尿病がない人へ、脂肪肝の所見だけを理由に服用をすすめる薬ではありません。肝臓の脂肪が改善した試験はありますが、日本での効能は条件を満たす2型糖尿病です。

薬を希望する前に、現在の説明が脂肪肝なのか脂肪肝炎なのか、糖尿病と診断されているかを主治医と確認しましょう。処方の対象に当てはまるかは、研究で効果があったという情報とは別に判断されます。

Q
ピオグリタゾンの効果は何か月で判断しますか?
A

肝臓への効果は6か月や18か月の試験で評価されていますが、自分の判定時期は治療開始時の血糖や肝臓の状態で決まります。試験の期間は結果を評価した時点で、治療中は検査を重ねながら経過をみます。

受診の間隔は処方時の指示に従い、検査の変化を継続して評価します。白目の黄ばみなどの異変があれば、予定の診察日より前に処方元へ連絡してください。

Q
MASHとNASHは別の病気ですか?
A

MASHは従来のNASHに対応する新しい名称で、脂肪の蓄積に炎症や細胞の傷みが加わった状態を指します。代謝との関連を重視する診断の枠組みへ見直されており、病名の表記が変わっただけで病状が悪化したと捉える必要はありません。

参考にした文献