ピオグリタゾンは、体に水分がたまることで心不全を起こしたり悪化させたりするおそれがあり、いま心不全がある人に加えて、過去に心不全になった人も服用できません。心筋梗塞や狭心症などの心臓の病気がある人や、インスリンを一緒に使う人も慎重な判断が要ります。

服用中に足がむくむ、いつもの道で息が切れる、体重が急に増えるといった変化に気づいたら、次の予約日を待たずに服用を中止し、医師に伝えてください。

この記事では、ピオグリタゾンを服用してはいけない条件、心不全が増える理由と研究での頻度、初期症状への対応、服用中の検査、ほかの糖尿病薬との違いを解説します。

目次

ピオグリタゾンを服用できない人と慎重な判断が要る人

心不全がある人と、その既往がある人は服用の対象外です。現在の症状の軽さだけで判断せず、以前に受けた診断も薬を選ぶ際の条件になります。

過去の心不全も服用できない条件に含まれる

アクトスはピオグリタゾンを成分とする薬の販売名で、電子添文は医療者向けに使い方や注意事項を定めた文書です。アクトス錠の電子添文では、心不全のある人と心不全の既往がある人を禁忌としています。禁忌とは、安全上の理由などからその薬を使ってはいけない条件を指す言葉です。

以前に心不全で治療を受けた人は、現在息苦しさがなくても、この条件に該当します。入院をしたかどうか、心臓の薬を今も飲んでいるかどうかよりも、過去に心不全と診断された事実が判断の基準です。

心不全の治療歴があるのに処方されていると気づいた場合は、次の服用前に処方元へ連絡してください。診断名がはっきりしないときは、過去の退院時の書類やお薬手帳が確認に役立ちます。

心筋梗塞や狭心症がある人は事前の評価が必要

心臓に病気がある人では、心不全と診断されているかどうかで服用の扱いが変わります。心不全の診断や既往がなくても、心筋梗塞や狭心症などがある人は、水分が増えたときに心臓が負担に耐えられるかを確かめてから服用を判断します。

心筋梗塞は心臓の血管が詰まって筋肉が傷む病気、狭心症は心臓の筋肉に届く血液が一時的に不足する病気です。心臓の筋肉自体に異常がある心筋症や、高血圧が長く続いて心臓に障害が生じた高血圧性心疾患も、特に注意する対象に含まれます。

区分当てはまる状態服用の扱い
禁忌現在の心不全、過去の心不全服用できない
特に注意が必要心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患心不全の有無などを評価して判断
禁忌重い肝臓・腎臓の障害、妊娠中または妊娠の可能性服用できない

この区分はアクトス錠の電子添文に基づき、心不全の既往と、心不全を起こすおそれのある心疾患を分けています。

心臓以外にも服用できない状態がある

1型糖尿病、重い感染症、手術前後や重いけががある状態も禁忌に含まれます。重症ケトーシスという体に酸性の物質が増えた状態や、糖尿病によって意識を失った状態・その手前の状態では、輸液やインスリンなどによる速やかな治療が必要です。

過去にこの薬の成分で過敏症を起こした人も服用の対象外です。過敏症は薬に対するアレルギーなどの反応を指し、単なる飲みにくさとは区別して扱います。

ピオグリタゾンで水分が増えると心臓に負担がかかる

心不全への注意が必要なのは、体を巡る血液の液体成分が増え、心臓の負担が大きくなるためです。血糖値が改善していても、水分がたまる副作用は別に見ていきます。

心不全は血液を送り出す働きが追いつかない状態

心不全とは、心臓が体に必要な血液を十分に送れなくなったり、血液が滞って肺や足などに水分がたまったりする状態です。胸の痛みがなくても、息切れや足のむくみとして気づく場合があります。

心臓は、血液を受け取る働きと押し出す働きを繰り返しています。薬の影響で扱う血液の量が増えると、もともとの心臓の病気が表面化したり、それまで保てていた状態が崩れたりするおそれがあります。

水分の貯留から息切れにつながる流れ

腎臓で塩分が体に残りやすくなる働きなどが、水分の貯留に関わります。増えた水分は足などのむくみとして現れ、体を巡る血液の液体成分も増やします。

  • 水分の貯留 … 体内に余分な水分がたまる変化
  • 循環する量の増加 … 心臓が受け取り、送り出す血液量の増加
  • 心臓への負担 … 血液を十分に送り出せず、肺などに水分がたまるおそれ
  • 自覚症状 … 息苦しさ、息切れ、疲れやすさなどの出現

むくみが出た人全員が心不全になるわけではなく、症状の組み合わせと診察で判断します。

医薬品の安全性情報を扱う医薬品医療機器総合機構(PMDA)には、2000年にピオグリタゾン服用中の急激な水分貯留による心不全について安全性情報が掲載されています。

心臓の筋肉への作用と水分の負担を分ける

心不全が増えるという結果だけで、ピオグリタゾンが心臓の筋肉そのものを直接弱らせる薬だと結論づけるのは適切ではありません。注意の中心は水分が増える負担で、筋肉の働きを調べた結果とは分けて考えます。

心臓が広がって血液を受け取る働きを拡張機能と呼び、その働きが少し低下していても症状のない2型糖尿病の人を対象にした小規模な試験では、心臓の超音波検査で筋肉の働きが悪化する結果は見られませんでした1)。

ただし、この結果から心不全の人が服用できるとは判断できず、日本では心不全とその既往が禁忌です。検査の一部が良好でも、体に水分がたまって息苦しくなる危険には注意が必要です。

心不全が増える割合と負担が大きくなりやすい条件

心臓や血管に病気がある人の試験では、ピオグリタゾンによって重い心不全が増えています。同じ薬でも、もともとの心臓の状態やインスリンを一緒に使うかどうかが注意の強さに関わります。

重い心不全は試験で5.7%と4.1%だった

血管の病気がある2型糖尿病の人5,238人を平均34.5か月追ったPROactive試験という治療効果と安全性を調べる試験の解析では、重い心不全はピオグリタゾン群で5.7%、有効成分を含まない偽薬群で4.1%でした2)。

差は1.6ポイントで、100人ずつの集団なら約2人分多いという規模です。この数字は平均34.5か月の追跡中の割合であり、毎年5.7%ずつ起こるという意味ではありません。

対象は心臓や血管の病気がある人で、心不全のある人を除いて行われた試験です。心臓の病歴や治療内容が違えばもとの起こりやすさも変わるため、5.7%はこの試験の対象者での目安として受け止めます。

心臓の病気とインスリンの併用で注意が増す

心臓に病気がある人では、水分が増えたときに対応できる余力が小さくなっているおそれがあります。収縮機能とは、心臓の筋肉が縮んで血液を押し出す働きを指し、その低下を指摘されている人も、服用の可否を慎重に判断します。

条件注意する理由
心筋梗塞や心筋症などの心疾患水分の増加が心不全の発症につながるおそれ
インスリン注射との併用むくみが増え、心不全の徴候を注意して見る必要
心臓の収縮機能の低下増えた血液を送り出す負担への懸念

心臓の働きが落ちていると説明されていても、日常生活では強い症状を感じない場合があります。息切れの有無だけで安全と判断せず、過去の心臓の検査結果も処方の判断に含まれます。

インスリンと一緒に使うときは用量にも制限がある

インスリンとピオグリタゾンを一緒に使う場合、電子添文での開始量は1日1回15mg、上限は1日30mgです。量を増やすときには、むくみや心不全の症状を十分に観察するよう定められています。

この上限は、医師が症状を観察しながら調整する際の制限です。少ない量でも心不全の禁忌は変わりません。量は自分で増減せず、現在の症状やほかの治療を踏まえて医師と決めます。

インスリンを開始したり増やしたりする予定があるときは、ピオグリタゾンの服用量も一緒に確認しましょう。別々の医療機関から処方を受けている場合にも、両方の薬が分かるお薬手帳が役立ちます。

心不全と心筋梗塞・脳卒中では結果が異なる

心不全の増加と、心筋梗塞や脳卒中の増加は区別して評価します。水分による負担と血管の詰まりを分けると、利益と不利益が並んで報告される理由を整理できます。

血管の詰まりと水分の負担では起こる変化が違う

心筋梗塞は心臓の血管の詰まり、脳卒中は脳の血管が詰まる、または破れるなどして起こる病気です。心不全は心臓の働きが追いつかない状態を指し、薬による水分の増加でも発症や悪化につながります。

血糖を下げる効果や血管への影響が望ましい方向でも、心臓が水分の負担に耐えられるとは限らないため、息切れなどの変化を見ていきます。薬を続ける判断では、どちらか一方の結果だけを取り出さず、心不全の病歴を優先して扱います。

研究では心不全の増加に伴う死亡増加は見られなかった

2型糖尿病の人を対象としたピオグリタゾンの試験をまとめた解析では死亡・心筋梗塞・脳卒中を合わせた出来事は少なく、糖尿病予備群や2型糖尿病の人を対象としたチアゾリジン薬の解析では心不全が増えても心臓や血管の病気による死亡の増加は認められませんでした3)4)。

チアゾリジン薬は、ピオグリタゾンが属する糖尿病の薬のグループ名です。複数の試験をまとめる解析では、どの薬のどんな人を対象に何を数えた数字かを合わせて読みます。

調べた出来事文献の範囲での結果受け止め方
心不全増える方向むくみや息切れを見逃さない
心臓や血管の病気による死亡チアゾリジン薬全体の解析で増加なし心不全を放置してよい意味ではない
死亡・心筋梗塞・脳卒中の合計ピオグリタゾンの解析で減少個々の人の安全を保証する結果ではない

死亡が増えていなくても心不全は受診が必要

心不全は、息苦しさで普段の生活が難しくなったり、入院が必要になったりする重い副作用です。研究で死亡の増加が見られなかった場合でも、体重増加や息切れが出たら我慢せずに連絡しましょう。

一方、症状がない段階で研究の数字を見て不安になった場合は、まず心不全の病歴がないかを整理すると、処方の理由を確認しやすくなります。服用後の異常に対応する場面と、症状がないときの治療の見直しは区別して進めます。

ピオグリタゾン服用中の初期症状と受診の目安

服用中にむくみや急激な体重増加、息苦しさなどが出た場合は、服用を中止して医師へ伝えてください。異常が出たときは、検査の予定日や次の診察を待たずに連絡します。

足のむくみや息切れを生活の中で捉える

アクトス錠の患者向医薬品ガイドは、薬を使う人向けに使用上の注意をまとめた文書です。心不全で注意する自覚症状として、息苦しさや息切れ、疲れやすさなどを挙げています。

  • 息苦しさ・息切れ … 普段の移動でも呼吸がつらい変化
  • 疲れやすさ … いつもの活動で強く疲れる変化
  • むくみ … 足や体が腫れぼったくなる変化
  • 体重増加 … 以前の推移と比べて急に増える変化

むくみや急激な体重増加だけでも、ほかの症状がそろうのを待たずに連絡できます。

たとえば、自宅で靴下を脱いだときに足がいつもより腫れ、買い物への同じ道で息切れも増えていたら、体重の記録を手元に置いて処方元へ連絡する場面です。年齢や運動不足だけが原因と決めつけず、薬を飲んでからの変化として伝えます。

症状が出たら中止して連絡し、強い息苦しさは救急へ

服用後に異常が出たときは、薬の服用を中止して医師へ伝え、診察を受けるのが基本です。自己判断で量を半分にして様子を見ると、心不全が起きているかどうかの判断が遅れるおそれがあります。

じっとしていても息が苦しい、呼吸がつらく会話が続かないなど強い症状がある場合は、通常の予約を待たず救急受診してください。連絡がつくまで服用を続けたり、体重が一定の値に達するまで待ったりすると、治療が遅れる危険があります。

中止後に息苦しさが軽くなっても、再開するかは診察で決めます。体にたまった水分への処置が必要か、糖尿病の治療をどう補うかも含めて決まります。

連絡するときは症状の始まりと体重の変化を伝える

診察で役立つのは、症状が始まった時期、普段との違い、薬を始めた日や量を変えた日です。特に、息切れが出る場面と、むくみ・体重の変化の経過を中心に伝えましょう。体重計の記録があれば、増え方を具体的に説明できます。

体重を記録できていないときも、症状があれば受診してください。いつも履く靴がきつくなった、同じ家事でも息が切れるなど、気づいた変化だけでも診察に必要な情報になります。

定期検査では心電図と体の変化を合わせて見る

症状がないときも、服用中は定期的な心電図検査などで心臓への影響を観察します。検査の結果と日常の変化を合わせると、薬の継続や量の調整を判断しやすくなります。

心電図は心臓の電気的な活動を調べる検査

心電図は、胸や手足に電極をつけて心臓の電気的な活動を記録する検査です。アクトス錠の電子添文では、服用中に心電図の異常などが出るおそれがあるため、定期的に検査するよう定めています。

検査の予定は、心臓の病気や症状、薬の変更などを踏まえて決まります。定期検査の間に症状が出たときは、次の予定を待たずにその時点で診察を受けます。

体重やむくみの観察が検査を補う

水分の増加を捉えるには、心電図に加えて体の変化も追いましょう。服用中は、体重やむくみの変化、息切れが出る場面も合わせて確認します。

検査・観察主に確かめる内容
定期的な心電図心臓の電気的な活動に異常がないか
体重と体のむくみ水分がたまる変化がないか
息切れ・動悸などの問診服用前や前回の診察から症状が変わっていないか

また、異常が疑われた場合には、その症状に応じて検査や処置が追加されます。過去の心電図が正常でも、新しい息苦しさが出たら早めに伝えましょう。

薬を始めた後や量が変わった後の変化を残す

服用を始める前の体重や普段の息切れの有無が分かると、その後の変化を比較しやすくなります。朝の着替えなど生活の同じ場面で体調を振り返り、薬の量が変わった日と一緒に記録しておく方法があります。

電子添文は短期間のむくみや急激な体重増加への注意を求めていますが、受診の基準を「何日で何kg」と一律には定めていません。個別の指示を受けている場合はその目安を用い、目安未満でも息苦しさがあれば連絡します。

記録の取り方や次の検査予定は、診察のときに確認しましょう。記録を完璧にそろえるより、異常に気づいたときに対応するほうが優先されます。

ほかの糖尿病薬との比較と処方を見直す場面

心不全による入院への影響は、糖尿病の薬の種類によって異なります。血糖値が下がるかだけでなく、心臓の病歴や服用後の変化も含めて処方を判断します。

血糖を下げる薬でも心不全への影響は異なる

糖尿病薬の試験をまとめて比較した解析では、心不全による入院はチアゾリジン薬で増える方向、尿に糖を出して血糖を下げるSGLT2阻害薬で減る方向でした5)。薬の効果を比べるときは、血糖と心不全を別々の項目として見ます。

ただし、薬を替える判断は、この比較だけでなく、個々の体の状態を踏まえて行われます。心不全の有無に加えて腎臓の状態や現在の治療を踏まえ、使える薬の中から選ばれます。

薬の名称が違っても含まれる成分が判断の対象

後発品のピオグリタゾン錠など、包装にアクトスと書かれていない薬でも、ピオグリタゾンが含まれていれば心不全について同じ注意が必要です。

複数の成分を1錠にした配合剤にも、ピオグリタゾンが含まれるものがあります。メトホルミンを含むメタクト、グリメピリドを含むソニアス、アログリプチンを含むリオベルが該当します。薬の名称が変わったときも、お薬手帳の成分名から服用中の薬を把握できます。

継続への不安は病歴と症状を分けて整理する

血糖が落ち着いている薬に心不全の注意があると、不安になるのも自然です。心不全の治療歴があるか、服用後に体の変化があるかを分けて整理すると、今すぐ対応する場面か、次の診察で処方を話し合う場面かがはっきりします。

心不全の病歴も新しい症状もない人が、研究の数字だけを理由に急に中止すると、血糖の治療が途切れてしまいます。服用を続ける理由と心臓の検査予定を、次の診察で確認しましょう。

一方、以前の心不全の診断が判明した場合や、むくみ・息切れなどが出た場合は、次の定期診察を待つ場面とは異なります。心不全の既往は次の服用前に処方元へ連絡し、新たな症状があれば服用を中止して受診してください。

よくある質問

Q
以前に心不全になりましたが、今は元気ならピオグリタゾンを飲めますか?
A

現在症状がなくても、心不全の既往がある人は服用できません。退院後に日常生活へ戻っていても、禁忌に含まれます。

すでに処方されている場合は、次の服用前に処方元へ連絡してください。過去の診断名が分かる書類があれば、服用の判断を確認しやすくなります。

Q
ピオグリタゾンを飲んで足がむくんだら、心不全でしょうか?
A

足のむくみは心不全以外でも起こるため、診察で原因を確かめます。息切れの有無や体重の変化、診察の結果を合わせて判断する症状です。

服用中にむくみが出た場合は、薬を中止して医師に伝えてください。心不全かどうかを自分で判定してから連絡する必要はなく、息苦しさが強ければ救急受診が必要です。

Q
ピオグリタゾンで心不全による死亡が増えていなければ安心ですか?
A

死亡の増加が見られなかったという研究結果だけでは、安心とは言い切れません。心不全そのものは増えており、息苦しさや入院につながる副作用として注意が必要です。

服用中のむくみや急激な体重増加、息切れがあるときは、研究の死亡率にかかわらず中止して受診する対象になります。症状がない場合も、定期的な心電図検査などを受けながら継続の判断が行われます。

Q
ピオグリタゾン服用中は体重が何kg増えたら連絡すればよいですか?
A

アクトス錠の電子添文の連絡基準は、一律の体重増加量ではなく、急激な体重増加やむくみなどの異常です。そうした異常が出たら服用を中止して受診し、息苦しさもあるときは体重の増加量を待たずに連絡します。

普段の体重と最近の記録、息切れが始まった時期が分かると、診察で変化を伝えやすくなります。個別の体重の目安を指示されている場合はその指示も用い、症状が強ければ数値にかかわらず救急受診してください。

参考にした文献