ピオグリタゾンで膀胱がんが増えるかどうかは、結論が分かれています。長く多く使った人で増えたという見方と、明確には増えないという見方があり、増える可能性は完全には否定できません。
飲んでいる薬を検索して「がん」という言葉を見つけると、不安になると思います。服用中の人は自分で薬をやめず、定期的な尿検査を受け、血尿などに気づいたら早めに受診してください。
この記事では、膀胱がんとの関連で結論が分かれた背景と日本人のデータ、服用中と服用終了後に気をつけたい尿の症状、膀胱がんの病歴がある人の注意点を解説します。
ピオグリタゾンと膀胱がんの関連は結論が分かれている
服用した人の集団によって、発症の明確な増加が見られない場合も、長く多く使った人で増加が見られる場合もあります。「必ず増える」「心配は一切ない」のどちらかにまとめると、実際の注意点を見失います。
服用した人全員にがんが起こるわけではない
膀胱は下腹部で尿をためる袋状の臓器で、その内側などにできるがんが膀胱がんです。薬との関連は、服用した集団と服用していない集団で発症の頻度を比べて調べます。
集団で頻度が高かったという結果から、服用中の1人が発症するかどうかを決めることはできません。個人の判断には、薬を使った期間に加え、膀胱がんになったことがあるか、尿の症状が出ているかという情報が必要です。
分かっていることと残る疑問
服用中の検査や症状の観察は、発症との関連が完全に明らかになるまで待たずに続けます。分かっている注意点に沿って対応しましょう。
| 論点 | 分かっていること | 残る疑問 |
|---|---|---|
| 発症との関連 | 増加を示す研究と示さない研究がある | 薬そのものがどこまで影響するか |
| 服用期間・総量 | 長く多く使った人で高いという報告がある | 安全と危険を分ける一律の境界 |
| 日常の対応 | 尿検査と症状への注意が求められる | 服用終了後に観察を続ける具体的な期間 |
症状が出ている人は、発症リスクの数字よりも、その症状を調べることを優先します。
薬の名前が違っても成分を確認する
アクトスはピオグリタゾンを含む薬の商品名で、薬の包装などに記された名称を販売名といいます。後発品のピオグリタゾン錠にも同じ成分が含まれるため、名前が違っても膀胱がんへの注意は同じように続けます。
複数の成分を1錠にした配合剤では、メタクトはメトホルミン、ソニアスはグリメピリド、リオベルはアログリプチンと、それぞれピオグリタゾンを含みます。薬袋やお薬手帳で、商品名に加えて成分名も確かめましょう。
膀胱がんが心配されるようになった背景
膀胱がんへの懸念には、薬を投与した動物で膀胱の腫瘍が見つかったことと、海外で服用した人の集団で発症の増加がみられたことが背景にあります。動物での結果と人での結果は、分けて受け止めましょう。
雄のラットで膀胱の腫瘍が見つかった
アクトス錠の電子添文は、医療者向けに薬の使い方や注意事項をまとめた添付文書の電子版です。その記載では、ラットとマウスに24か月間薬を飲ませた試験で、雄のラットの1日あたり体重1kgにつき3.6mg以上の群に膀胱腫瘍がみられました。
これは動物の体重あたりの投与量で、人が飲む1錠の量とは単純に比較できない数字です。人での安全性は、服用した人と服用していない人の比較に、実際の使用中の情報も合わせて評価します。
長く多く使った人で増えたという海外の報告
ピオグリタゾンを使った人の膀胱がん発症の指標は、使っていない人と比べて1.22、総量28,000mg以上では1.75、24か月以上の使用では1.36でした1)。比較の対象はフランスの糖尿病の人約149万人であり、対象者の経過を追って発症を比べる「コホート研究」という方法で得られた数字です。
この指標は、年齢などの違いを考慮した「調整ハザード比」で、観察期間中の発症の起こりやすさを比較しています。1なら両群が同程度、1を超えれば服用した群で高いという意味で、1.22は服用者の22%が発症するという意味ではありません。
日本でも説明と経過観察が求められてきた
医薬品の安全性情報を扱う医薬品医療機器総合機構(PMDA)の一覧には、2011年6月23日付のピオグリタゾン含有製剤に関する安全対策の文書が掲載されています。
- 動物試験 … 雄のラットで膀胱腫瘍がみられたことが懸念の1つ
- 海外の人の研究 … 増加を示す報告と、明確な増加を示さない報告の蓄積
- 日本での注意事項 … 使用前の説明、定期的な尿検査、症状出現時の受診
その後、発症の明確な増加がみられない場合も出てきましたが、日本では今も膀胱がんへの注意が続けられています。
海外の報告を比べるときは増え方と比較相手を見る
発症の増え方は、どの集団と比べるか、どのくらいの期間を観察するかによって異なります。比の数字だけでなく、実際の発生率と合わせて読むと増え方の大きさがつかめます。
英国では増加が報告されている
英国の2型糖尿病の診療データを用いた研究では、ほかの糖尿病の薬を使っている人に比べ、ピオグリタゾンを使っている人のハザード比は1.63でした2)。発生率はそれぞれ10万人年あたり121.0件と88.9件で、期間と総量が増えるほど高い関係もみられています。
「10万人年」は、10万人を1年間観察するのに相当する観察量を表す単位です。この2つの発生率の差は10万人年あたり32.1件で、比で示した増え方と、実際の件数で示した増え方では受ける印象が変わります。
日本で服用している人は、この差を英国の服用者の集団で見られた違いとして受け止め、自分の1年間の発症確率とは分けて考えましょう。
米国と欧州では明確な増加が見られなかった
米国の糖尿病の人約19万3千人を対象とした10年間の大規模研究では、使用経験のある人とない人を比べた調整ハザード比は1.06で、統計学的に明確な増加は示されませんでした3)。年齢などの違いを考慮する前の発生率は、10万人年あたり89.8件と75.9件でした。
統計学的に明確な差がないとは、観察された違いを、偶然のばらつきだけでは説明しにくいと判断する基準に達しなかったという意味です。見かけの件数に差があっても、条件を考慮した評価は変わり得ます。
また、欧州4か国の2型糖尿病の診療データでは、使用経験のある人とない人の調整ハザード比は解析方法によって0.99と1.00で、増加は示されませんでした4)。平均の追跡期間は約3年であり、米国の10年間の研究とは観察できた長さが異なります。
| 地域 | 主な比較 | 結果の方向 |
|---|---|---|
| 英国 | ほかの糖尿病薬の使用者との比較 | 増加を示した |
| 米国 | 使用経験がある人とない人 | 明確な増加を示さなかった |
| 欧州4か国 | 使用経験がある人とない人 | 明確な増加を示さなかった |
服用期間の長い人は、比べた人たちの経過をどのくらい長く追えていたかも合わせて見ると、結果を自分に当てはめやすくなります。
複数の研究をまとめても結論はそろわない
複数の研究結果を統計的にまとめる方法を「メタ解析」と呼びます。臨床試験2件と観察研究20件をまとめた解析では、わずかな増加と期間・量との関連が示された一方、別のメタ解析では明確な増加が示されませんでした5)6)。後者は製薬会社から資金提供を受けた解析のため、ほかの研究と合わせて評価します。
日常の診療で薬を選ばれた人は、もともとの背景が異なります。こうした人たちが使った薬とその後の経過を、調べるために薬を割り当てずに比べる方法が「観察研究」です。背景の差が結果に影響するため、発症の原因を薬だけに絞るのは難しくなります。
そのため、増加を示す結果は注意すべき情報として扱い、増加を示さない結果も合わせて、服用を続ける利益と危険性を判断します。小さな増加の可能性は、可能性のまま受け止めて判断材料にします。
日本人のデータと服用期間の受け止め方
日本人の発症状況を踏まえても、服用中に注意を続けるという結論は同じです。服用年数や総量は診察で共有する情報であり、自分で中止日を決める基準とは区別します。
日本の報告は少人数での比較
日本の2型糖尿病の人を調べた報告では、ピオグリタゾンを使っていた663人のうち9人、1.36%に膀胱がんがあり、全体のハザード比1.75では統計学的に明確な増加は示されなかったという結果でした7)。24か月未満の使用に限った解析では比が2.73と高く、海外の「長期使用で高い」という結果と単純には重ならない内容です。
1.36%という数字は、ピオグリタゾンを使っていた663人中、膀胱がんがあった9人の割合を示しており、1年間に新たに発症する人の割合を表すものではありません。膀胱がんの件数が少ない集団では、期間で細かく分けると結果が動きやすいため、この割合は日本人の服用者全体の目安とは分けて受け止めます。
国をまたいだ解析では期間との関連が明確でなかった
6つの国・地域の糖尿病の人約101万人、合計590万人年の観察データを合わせた解析では、ピオグリタゾンを使った合計の期間と膀胱がんの間に、男性でも女性でも明確な関連はみられなかったという結果でした8)。長期使用との関係も、研究によって結果が分かれています。
自分が発症するかどうかは、国内外の集団の規模や発症の数字だけでは予測できません。これらの数字は注意を続ける理由を判断する情報として受け止め、日本で服用する人は尿検査や症状への対応を続けます。
28,000mgや24か月は一律の中止基準とは異なる
累積量とは、これまでに飲んだ薬の量を合計したものです。先ほどの28,000mgという区切りは、毎日同じ量を飲んだと仮定すると、1日15mgで約5.1年、1日30mgで約2.6年に相当します。
これは単純に割り算した換算で、途中の休薬や量の変更があれば実際の期間は変わります。28,000mgに達する前なら安全、24か月を過ぎると危険という境界は確立しておらず、中止するかどうかは血糖の状態や尿検査の結果も含めて決まります。
長く飲んでいて開始時期が分からない人には、昔のお薬手帳や処方の記録が役立ちます。診察で共有する基本情報は、服用期間と1日量。量を変えた時期や休んでいた期間も含め、分かる範囲で整理しましょう。
ピオグリタゾン服用中の尿検査と終了後の注意
薬を使う前の説明、使用中の尿検査、使用終了後の観察が求められています。症状がないときも、通院のたびの確認を続けましょう。
開始前にリスクの説明を受ける
アクトス錠の電子添文と、患者さん向けに注意をまとめた患者向医薬品ガイドでは、本人や家族への膀胱がんリスクの説明に加え、定期的な尿検査、症状が出たときの速やかな受診を求めています。服用終了後も観察を続けるという点まで含めた注意です。
説明を受ける際には、増加の可能性が残ることと、服用したどの集団でも増えているわけではないことを合わせて聞くと、薬を続ける判断を受け止めやすくなります。今すでに飲んでいる人も、これまで説明を受けた記憶がなければ、次の診察で確認しましょう。
定期的な尿検査で目に見えない変化も調べる
血尿とは尿に血液が混じることで、肉眼で色の変化に気づくものと、検査で初めて分かるものがあります。尿がいつもの色でも、定期的な尿検査は予定どおり受けます。
| 行うこと | 主な理由 |
|---|---|
| 服用開始前の説明 | リスクを踏まえて治療を選ぶため |
| 定期的な尿検査など | 自分では気づかない異常も調べるため |
| 血尿などが出たときの受診 | 定期受診を待たずに原因を調べるため |
| 服用終了後の観察 | 終了後も尿の症状に注意するため |
検査の間隔は電子添文に一律の数字が示されておらず、通院予定や尿の状態に応じた診療上の判断になります。
やめた後も尿の症状に注意する
服用が終わっても、血尿や排尿時の痛みなどへの注意は続きます。患者向医薬品ガイドにも、使用終了後は引き続きこれらの症状に気をつけるよう記載されています。
注意を終えてよい具体的な期間は、明記されていないのが現状です。終了後の診察でも以前の服用歴を伝えられるよう、お薬手帳には開始と終了が分かる記録を残しておくと役立ちます。
血尿・頻尿・排尿時の痛みが出た日の対応
尿の変化があれば、次の予約日を待たずに受診してください。これらの症状だけで膀胱がんと決まるわけではなく、原因を調べるための受診です。
すぐに伝えたい尿の変化
注意したいのは尿の色に加え、排尿の回数や痛みの変化です。以前よりトイレが近くなった、排尿すると痛むといった症状も、服用中に受診を要する変化に含まれます。
- 血尿 … 尿に血液が混じる変化。赤みなどに気づく場合と尿検査で分かる場合
- 頻尿 … 尿をする回数が以前より増えた状態
- 排尿時の痛み … 尿を出すときに感じる痛み
血尿かどうかを色だけで決めず、見た目の変化や症状をそのまま伝えましょう。
赤い尿に気づいたら服薬の判断も連絡時に聞く
たとえば、朝、自宅のトイレで尿が赤く見えたら、その日のうちに処方元へ連絡し、ピオグリタゾンを飲んでいると伝えます。尿の色が変わった時刻や痛みの有無、尿の回数の変化も、受診先で説明する内容です。
その日の服薬を続けるか中止するかは主治医が判断するため、次の服用前に処方元へ連絡し、受診と服薬について指示を受けてください。すでに飲んだ場合も、飲んだ時刻を伝えて判断を受けます。
自分で量を減らしたり、薬だけをやめて受診を見送ったりすると、尿の異常を調べる機会が遅れます。受診すれば、尿の原因を調べながら糖尿病治療の続け方も一緒に決められます。
尿検査の異常が出た後は原因を調べる
尿検査に異常が出た場合は、その結果や症状に応じて再確認や追加の診察が行われ、必要に応じて泌尿器科で尿の通り道を調べます。検査で異常と言われた段階は、膀胱がんの診断がついた段階とは異なります。
尿の見た目が元に戻っていても、いつ異常が出たかという情報は残ります。受診時には、症状が続いているかに加えて、すでに治まった変化も伝えると診療に役立ちます。
ピオグリタゾンを始める前に伝えたい膀胱がんの病歴
膀胱がんを治療中の人は使用を避け、過去にかかった人では慎重に使用の可否が判断されます。家族に膀胱がんの人がいる場合は、本人が治療中かどうかとは区別が必要です。
膀胱がんを治療中なら使用を避ける
膀胱がんの治療中であれば、ピオグリタゾンの使用を避けるというのが電子添文の注意事項です。糖尿病と膀胱がんを別の医療機関で診てもらっている人は、それぞれの処方や治療状況を両方の医療機関へ伝えておくと安心です。
すでに服用している人が膀胱がんの治療を始める場合は、処方元へ速やかに連絡してください。薬の中止や変更は、血糖の治療が途切れないよう主治医の判断で進めます。
過去にかかった人は治療が終わっていても伝える
膀胱がんになったことがある人では、ピオグリタゾンの有効性と危険性を十分に考慮して使用の可否が判断されます。治療が終わって何年もたっている人も、過去の病歴を伝える対象です。
診察に持参する情報は、膀胱がんの治療を受けた時期や現在の通院状況です。尿の検査結果が分かる書類があれば、糖尿病の診察でも共有しやすくなります。
家族歴は本人の病歴と分けて伝える
家族歴とは、血縁者がかかった病気の情報です。家族に膀胱がんの人がいる場合について、電子添文には、本人が膀胱がんを治療中のときと同じ扱いにする規定はなく、本人の状態を踏まえた判断になります。
| 本人や家族の状況 | 診察で共有したい情報 |
|---|---|
| 本人が膀胱がんを治療中 | 治療中であることと現在の処方 |
| 本人に膀胱がんの既往がある | 過去の治療時期と現在の経過観察 |
| 血縁者に膀胱がんの人がいる | 誰がかかったか、本人の病歴や尿の症状 |
家族歴を伝える際は、薬の扱いを左右する本人の病歴や現在の症状も一緒に伝えましょう。
よくある質問
- Qピオグリタゾンを2年以上飲んでいたら、やめたほうがよいですか?
- A
2年を超えた場合も、継続や中止は主治医が判断します。長期間使った人の集団で発症が増えた場合はありますが、年数による一律の中止基準は示されていません。
服用を始めた時期と現在の量を診察で伝え、血糖への効果や尿検査の結果を含めて継続の判断を受けましょう。血尿などの症状があるときは、予定の診察日を待たずに受診する必要があります。
- Q血尿がなければ、尿検査を受けなくてもよいですか?
- A
見た目に血尿がなくても、定期的な尿検査は必要です。血液が混じっていても自分では気づかず、尿検査で初めて異常が分かる場合があるため、症状がないときも予定された検査を受けます。
- Q赤い尿が1回出て元に戻った場合も受診が必要ですか?
- A
尿の色が戻っても、赤い尿が出たとすぐに処方元へ伝えて受診してください。症状が続いているかどうかだけでは、調べる必要の有無を自分で判断できないためです。
連絡時には、赤く見えた時刻や痛みの有無に加え、薬をすでに飲んだかを伝えます。次の服用をどうするかも主治医の指示を受ける内容です。
- Q服用をやめた後は、いつまで血尿などに注意すればよいですか?
- A
使用終了後の注意を終えてよい具体的な期間は、電子添文や患者向医薬品ガイドに示されていません。終了後も血尿や頻尿、排尿時の痛みに気をつける扱いです。
症状が出たら、現在は服用していなくても以前の服用歴を伝えて受診してください。終了後の検査予定は、尿の状態やこれまでの経過に応じて診療の中で決まります。


