マンジャロの作用機序は、GIP受容体とGLP-1受容体という二つの受け皿に、同じ一本の薬が結合する点にあります。ただし受け皿が二つあるからといって、効き目がそのまま二倍に積み上がるわけではありません。

電子添文にも両方の受容体を活性化すると書かれていますが、そのうちGIP受容体の側が結果にどれだけ効いているのかは、研究者のあいだでもまだ決着していません。

どこまでが人で実際に測られた変化で、どこからが実験室の知見をもとに組み立てた説明なのか。二つの経路それぞれの働きを、その境目を引きながら順にたどります。

目次

マンジャロの作用機序は一つの受容体だけでは説明がつきません

答えを先に言えば、マンジャロは腸から出る二種類のホルモンの受け皿を同時に押す薬なので、片方だけを見ていても働き方は追えません。有効成分のチルゼパチドは、GIPとGLP-1という別々のホルモンに似せた構造を、一本のペプチドにまとめた分子です。

二つのホルモンおもに出てくる場所血糖に対する働き
GIP小腸の上のほうにあるK細胞食事の刺激を受けてインスリン分泌を後押しする
GLP-1小腸の下のほうから大腸にかけてのL細胞インスリン分泌を後押しし、グルカゴンの出方を抑える
共通している点どちらも食べたものが通ると分泌される消化管ホルモン血糖が高いときほど働きが強く出る

チルゼパチドは二つの受容体に届く一本の分子

マンジャロの有効成分はチルゼパチドという一種類のペプチドで、二剤を混ぜた合剤ではありません。一本の鎖のなかにGIP受容体へはまる部分とGLP-1受容体へはまる部分が同居しており、注射された分子がそのまま両方の受け皿に届きます。

電子添文の薬効薬理には、本剤はGIP受容体及びGLP-1受容体のアゴニストであり、両受容体に結合して活性化すると明記されています。アゴニストとは受け皿にはまってスイッチを入れる側の分子を指す言葉で、逆に受け皿をふさいで働きを止める側は拮抗薬と呼ばれます。

GIPとGLP-1はどちらも食事に反応して腸から出る

この二つはインクレチンと総称される消化管ホルモンで、食べたものが腸を通る刺激に反応して血液中へ出ていきます。同じ量のブドウ糖でも、点滴で入れたときより口から入れたときのほうがインスリンの出方が大きくなる現象があり、その差を生んでいるのがインクレチンです。

出どころは同じ腸でも、GIPは小腸の上のほう、GLP-1は下のほうから大腸にかけてと、細胞の分布が分かれています。分泌の起点が違えば、食事の内容や胃の動きによって出方が変わる度合いも同じにはなりません。

二重作動が指しているのは受容体の数だけ

マンジャロを説明するときによく使われる二重作動という言い回しは、押す受け皿が二つある、という事実だけを述べたものです。二つ押したぶん効果が二倍になる、という意味は含まれていません。

受け皿を押した先で何が起こるかは、その受け皿がどの細胞にあり、細胞の中でどんな信号に変わるかで決まってきます。数の話と結果の話を切り離しておくと、このあとの筋道が追いやすくなるはずです。

専門誌の総説でも、作動する受け皿の数によって単一・二重・三重と薬を並べる整理のしかたが使われています。ただし数が増えるほど効き目が強まるという並びではなく、あくまで分類の軸として置かれた区切りです。

GLP-1受容体側で分かっているマンジャロの働き

二つの経路のうち、GLP-1受容体を介する側は先に研究が積み上がってきた領域で、血糖が高いときに限ってインスリン分泌が増える点が繰り返し確かめられています。胃の動きに関わる部分にも同じ受け皿があり、血糖以外への影響もそこから説明されます。

血糖が高いときにだけインスリン分泌が押し上げられる

電子添文はこの働きを、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる、と表現しています。血糖が下がっている場面では押し上げる力も自然に弱まる、という設計を指した言葉です。

膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体が押されると、細胞の中でcAMPという伝達物質が増え、ブドウ糖の刺激で始まるインスリン分泌の反応が強く出るようになります。ブドウ糖の刺激そのものが小さい場面では、増幅する対象が乏しいため出方も抑えられたままです。

食後のグルカゴンの出方が変わる

血糖を上げる方向に働くホルモンであるグルカゴンは、2型糖尿病では食後にも下がりきらないことが知られており、食後高血糖の一因として扱われます。GLP-1受容体への作動はこの出方にも及び、食後のグルカゴン濃度が下がる向きに動きます。

グルカゴンはインスリンと反対の向きに働くホルモンで、肝臓に蓄えられた糖を血液へ送り出すよう指示を出します。食後にもこの指示が続いていると、食事から入ってきた糖と重なり、血糖が下がりにくくなります。

チルゼパチドを28週間投与した臨床薬理試験でも、インスリンの分泌能や効きやすさと並んで、空腹時と食後のグルカゴン濃度が評価項目に置かれました。著者らは、血糖が下がる背景には2型糖尿病の病態の主要な要素が同時に動いた結果があると結論づけています。

胃から先へ送り出される速さが落ちるとどうなる?

GLP-1受容体作動薬とチルゼパチドは、どちらも胃の内容物が小腸へ送り出される速さと小腸の動きをゆるめます。この働きは食後の血糖の振れ幅を抑える一方で、思わぬ場面で問題になる側面も併せ持ちます。

  • 食後の血糖の上がり方がなだらかになる
  • 食事に由来する中性脂肪の吸収が抑えられる
  • 内視鏡検査や全身麻酔のときに胃の内容物が残りやすい
  • 使い続けるうちに遅らせる働きが弱まっていく
  • もともと胃の動きが遅い人では変化が小さい

内視鏡や手術の予定があるときに薬をどう扱うかについては、根拠となる研究がまだ限られており、休薬の要否や期間をそろって示せる段階には至っていません。検査や手術の予定が決まったら、その時点で主治医と麻酔科に薬の使用を伝えておくと判断が進みます。

GIP受容体側のマンジャロの作用機序はどこからが仮説か

GIP受容体を足したから効きが増した、と言い切れる段階には届いていません。臨床試験の計画書の中でも、チルゼパチドの効果にGIP受容体の活性化がどれだけ寄与しているかは分かっていない、と明記されています。

反応が鈍っているGIP受容体を、なぜ薬で押すのか?

話をややこしくしているのが、2型糖尿病ではGIPに対する膵臓の反応が失われている、という以前からの知見です。GLP-1に対する反応は保たれている一方でGIPに対する反応が返ってこない点が、インクレチン効果が弱まる最も有力な理由として整理されてきました。

反応が返ってこない受け皿を、わざわざ薬で押す意味はどこにあるのか。GIPは治療の標的として成り立たないと長く見られてきた経緯があり、二重作動の薬が登場したあともこの問いは残ったままです。

受容体がどこにあるのかを確かめる手立てが乏しい

作用機序を語るには、まず受け皿がどの臓器のどの細胞にあるのかが分かっている必要があります。ところがGLP-1受容体もGIP受容体も体内での存在量が少なく、検出に使う試薬の特異性が十分に検証されていない例も多いため、分布そのものがまだよく分かっていません。

受け皿の居場所が定まらないと、ある臓器で見えた変化が薬の直接の作用なのか、別の場所で起きた変化の余波なのかを言い分けられません。近年はPETという画像検査で受容体の占有を測る試みも始まりましたが、報告されているのは動物での結果にとどまります。

受容体を働かせても止めても似た結果が出ている

さらに解釈を難しくしているのが、GLP-1受容体への作動にGIP受容体への作動を重ねる方針と、逆にGIP受容体を遮断する方針とが、臨床研究で体重に対して似た結果を出している事実です。

一見すると正反対の二つの方針が並び立っており、どちらの説明が正しいのかは決着していません。専門誌ではこの食い違いを整理する論考が組まれ、双方の立場を支える根拠を突き合わせる作業が続いています。

細胞や動物の実験で見えた筋道が人でもそのまま成り立つとは限らないという前提は、どちらの立場の説明を読むときにも外せません。

区分あてはまる内容何に支えられているか
人で測られている変化血糖、インスリンの分泌能、インスリンの効きやすさ、胃の内容物の残り方無作為に割り付けた臨床試験
実験室で確かめられた性質二つの受容体への関与の度合いの差、細胞内で信号が伝わる向きの偏り培養した細胞と取り出した膵島
まだ説明モデルの段階GIP受容体の側が結果のどれだけを担うか、受け皿がどの臓器で直接働くか動物実験と、そこからの推論

マンジャロの二重作動が単純な足し算にならない理由

膵臓のβ細胞のように両方の受け皿が同居する場所では、押した先の信号が同じ通り道で合流します。受け皿への関与の度合いもそろっておらず、二つ押したぶん効果が重なる形にはなりません。

二つの受容体への関与の度合いがそろっていない

臨床で使われる量における受容体の占有を計算した薬理学の研究では、チルゼパチドはGLP-1受容体よりもGIP受容体への関与のほうが大きいと報告されました。著者らはこれを、釣り合いの取れていない作用と表現しています。

比べる軸GIP受容体で見えることGLP-1受容体で見えること
薬がどれだけ関与するか二つのうち関与が大きい側関与は相対的に小さい側
天然のホルモンとの似方天然のGIPの働きをほぼそのままなぞる天然のGLP-1と同じ信号の出方ではない
細胞内での信号の偏り偏りは示されていないcAMPの産生に寄り、βアレスチンの呼び込みが弱い

同じ薬でも受け皿ごとに振る舞いが違うため、GIP受容体で起きていることをGLP-1受容体にあてはめて語れません。二つの経路は別々に読む必要があります。

同じ細胞に両方の受容体があると効果は重ならない

GIP受容体もGLP-1受容体も、押されると細胞内のcAMPを増やす向きに働く点は共通しています。膵臓のβ細胞のように両方の受け皿が同居している細胞では、二つの入り口から入った信号が同じ通り道で合流するため、単純に二倍の信号にはならないと説明されています。

逆にいえば、二重作動の利点が出るとすれば、受け皿の分布が重なっていない場所か、合流する前の段階に差がある場合に限られます。この見立て自体もまだ検証の途上にあり、人での内訳を示した報告は出ていません。

受容体の先で信号の伝わり方も同じではない

先ほどの薬理学の研究は、チルゼパチドがGLP-1受容体でcAMPの産生に寄り、βアレスチンの呼び込みが天然のGLP-1より弱い点も示しました。βアレスチンは受け皿を細胞内へ引き込む働きに関わるため、呼び込みが弱ければ受け皿は表面に残りやすくなります。

取り出した膵島を使った実験では、βアレスチンがGLP-1によるインスリン分泌を抑える一方、GIPやチルゼパチドではその抑えが働きませんでした。著者らはこの偏りが分泌を高めている可能性を示唆していますが、あくまで示唆であって、人での確認とは別の話です。

同じ受け皿を押しても、押し方が違えば細胞の側の反応も変わってきます。受け皿への関与の偏りと、信号の伝わり方の偏り。著者らはこの二つを重ねて、薬の働きぶりを説明する柱として提示しました。

マンジャロで実際に測られている変化と作用機序の距離

作用機序の説明が正しいかどうかは、受け皿そのものではなく、人で測れる指標を通してしか確かめられません。臨床試験が見ているのは血糖やインスリンの動きであって、受容体ごとの内訳ではないという点を押さえておくと、報道や説明の読み方が変わってきます。

臨床試験が見ているのは受容体ではなく指標

薬の効き方を人で調べるとき、研究者は受け皿を直接のぞくのではなく、体の反応として表に出る数値を測ります。作用機序の議論と臨床試験の結果は、同じ薬の話でありながら見ている層が違います。

  • 空腹時と食後の血糖
  • 過去の血糖状態を映すHbA1c
  • インスリンの分泌量と分泌の立ち上がり
  • インスリンの効きやすさ
  • 空腹時と食後のグルカゴン濃度

これらの数値が動いたことは、二つの受け皿のどちらがどれだけ働いたかを教えてくれません。指標の変化から受容体の寄与へさかのぼる読み方には、いつも推論が一段はさまります。

分泌能と効きやすさを合わせて測った試験

ドイツの2施設で行われた第1相試験には、2型糖尿病のある117人が組み入れられ、チルゼパチド群・セマグルチド群・プラセボ群の3群に無作為に割り付けられました。主要な評価項目は、インスリンの分泌と効きやすさを組み合わせた指標の28週後の変化です。

著者らは、チルゼパチドによる血糖の改善はβ細胞の働き・インスリンの効きやすさ・グルカゴン分泌という要素が同時に良くなった結果だと結論づけました。ただしこの試験の資金は製造販売元が拠出しており、著者の一部は同社に在籍しています。

指標の変化を受容体ごとに割り振れない理由

二つの受け皿を同時に押す薬である以上、人の体で片方だけを止めた比較は簡単には組めません。そのため試験の結果から、GIP受容体の寄与とGLP-1受容体の寄与を数字で切り分けられない状態が続いています。

GLP-1受容体だけに働く薬との比較なら可能ですが、見えるのは二重作動と単独作動の差であって、GIP受容体の寄与そのものではありません。この隙間を埋めるため、GLP-1受容体を押した状態にGIPを重ねる設計の試験が計画され、計画書が専門誌に公表されています。

国内でマンジャロが使える範囲と作用機序の線引き

作用機序をたどると薬の働きが広く見えてきますが、国内で認められた使い道はそれとは別に定められています。マンジャロの電子添文が挙げている効能又は効果は、2型糖尿病です。

項目電子添文に書かれている内容
効能又は効果2型糖尿病
適用の前提食事療法と運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮する
作用機序の記載GIP受容体及びGLP-1受容体のアゴニストとして、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる

電子添文が挙げている効能又は効果

効能又は効果の欄には2型糖尿病とだけ記され、適用にあたっては食事療法と運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮する、という前提も添えられています。薬が先にあって生活の見直しが後、という順番では書かれていません。

電子添文は製造販売元が公開しており、改訂もそこから知らせが出ます。作用機序について書かれた内容と、認められた使い道について書かれた内容は、同じ文書の別の欄にあります。そこを分けて読めば、混同は避けられるでしょう。

同じ成分でも製剤が違えば認められた範囲も違う

マンジャロの電子添文には、本剤はチルゼパチドを含有しているため、ゼップバウンド等他のチルゼパチド含有製剤と併用しない、という注意が置かれています。同じ有効成分を持つ別の製剤が国内にある事実が、そこから読み取れます。

製剤が違えば認められた効能又は効果も別に定められ、それぞれの電子添文に書き分けられています。成分名が同じだからといって使い道まで同じとは限らないので、どの製剤の話なのかを確かめてから読み進めるのが安全です。

作用機序の説明が使い方の判断を代わりにするわけではない

受け皿の話をどれだけ細かく追っても、自分に合う薬かどうかの判断はそこから直接は出てきません。血糖の状態、これまでの経過、ほかに飲んでいる薬、腎臓や肝臓の働きといった条件を診察で確かめたうえで決まる領域です。

吐き気や腹痛、食欲の急な変化、体調の落ち込みなどが続くときは、自己判断で量や間隔を調整せず、早めに主治医へ相談するのが安全です。検査や手術の予定が決まった場合も、その時点で伝えておくと段取りが立てやすくなります。

よくある質問

Q
マンジャロの作用機序は、これまでのGLP-1受容体作動薬と何が違うのですか?
A

押す受け皿の数が違います。GLP-1受容体作動薬がGLP-1受容体だけに働くのに対し、マンジャロの有効成分であるチルゼパチドはGIP受容体にも結合して活性化すると電子添文に記されています。

ただし受け皿が一つ増えたぶんの効果がどれだけあるのかは、まだ数字で切り分けられていません。二つを同時に押す薬なので、人の体で片方だけを止めた比較を組むのが難しいためです。

Q
マンジャロがGIP受容体にも働くと、効果は二倍になるのですか?
A

二倍という考え方はあてはまりません。GIP受容体もGLP-1受容体も、押されると細胞内のcAMPを増やす向きに働くため、両方の受け皿が同居する細胞では信号が同じ通り道で合流します。

薬理学の研究では、チルゼパチドの関与はGLP-1受容体よりGIP受容体のほうが大きく、釣り合いの取れていない作用だと報告されました。二つの経路の重みは同じではありません。

Q
マンジャロの作用機序にある「グルコース濃度依存的」とは、どういう意味ですか?
A

血糖の高さに応じてインスリン分泌を促す力が変わる、という意味です。電子添文は、両受容体に結合して活性化することでグルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる、と記載しています。

この記載は薬の作用の性質を説明したものであり、低血糖が起こらないと述べたものではありません。ほかの糖尿病治療薬との併用時にどう注意するかは、処方の場で確かめておくと安心です。

Q
マンジャロの作用機序は、もう完全に解明されているのですか?
A

解明されていない部分が残っています。臨床試験の計画書にも、チルゼパチドの効果へのGIP受容体活性化の寄与は分かっていない、と明記されています。

受け皿が体のどこにあるのかを確かめる手立ても限られており、分布そのものがまだ十分に描けていません。血糖やインスリンの動きとして測られた変化は確かでも、その内訳の説明には推論が一段はさまります。

Q
マンジャロは国内で2型糖尿病以外にも使えるのですか?
A

マンジャロの電子添文が挙げている効能又は効果は2型糖尿病です。適用にあたっては、食事療法と運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮する、という前提も添えられています。

同じチルゼパチドを有効成分とする別の製剤も国内にあり、電子添文には他のチルゼパチド含有製剤と併用しないという注意が置かれています。製剤ごとに認められた範囲は異なるため、どの製剤の話なのかを確かめたうえで、それぞれの電子添文で確認するのが確実です。

参考にした文献