妊娠糖尿病と診断されると、血糖値の管理や定期的な通院など、思った以上に医療費がかさむことがあります。「この費用は医療費控除で取り戻せるの?」と疑問を抱く方も多いでしょう。

結論から申し上げると、妊娠糖尿病にかかる治療費や検査費用の多くは医療費控除の対象になります。確定申告で正しく申請すれば、所得税や住民税の還付を受けられる可能性があるのです。

この記事では、妊娠糖尿病で発生する費用のうち控除対象となるものとならないものを整理し、確定申告書の具体的な書き方まで丁寧に解説していきます。

目次

妊娠糖尿病の治療費は医療費控除の対象になる

妊娠糖尿病で発生する治療費や検査費用は、原則として医療費控除の対象に含まれます。医師の指示に基づく診療や投薬は、すべて「治療のための支出」として認められるためです。

妊娠糖尿病と診断されたら医療費控除を意識しておく

妊娠糖尿病は妊娠中に初めて発見される血糖異常で、通常の妊婦健診に加えて血糖コントロールのための通院や検査が必要になります。インスリン注射や血糖自己測定にかかる費用が上乗せされるため、年間の医療費が10万円を超えるケースは珍しくありません。

医療費控除は、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の合計が一定額を超えた場合に、所得から差し引ける制度です。妊娠糖尿病の治療で支払った費用も、この控除の対象に含まれます。

医療費控除の基本的な条件を押さえておこう

医療費控除を受けるためには、本人または生計を一にする家族の年間医療費の合計が10万円を超えている必要があります。ただし、総所得金額が200万円未満の方は、総所得の5%を超えた金額が控除対象です。

控除額の上限は200万円で、確定申告をすることで所得税と住民税が軽減されます。会社員の方も年末調整では対応できないため、確定申告が必要になる点を覚えておきましょう。

医療費控除の計算式

条件計算式
総所得200万円以上支払った医療費 − 補填金額 − 10万円
総所得200万円未満支払った医療費 − 補填金額 − 総所得×5%

妊娠糖尿病の医療費が控除される根拠とは

国税庁は、医師による診療や治療の対価、治療に必要な医薬品の購入費を医療費控除の対象として定めています。妊娠糖尿病の治療は疾病の治療行為そのものであり、予防や美容目的ではないため、税法上も明確に控除が認められるのです。

インスリン注射器や血糖測定用のセンサーなど、医師が必要と判断した医療用器具の購入費用も対象に含まれます。

医療費控除の仕組みと妊娠糖尿病にかかる費用の全体像

妊娠糖尿病の治療では、通常の妊婦健診に加えて血糖管理に関連する追加費用が発生します。年間の医療費がどの程度になるか、おおまかな目安を把握しておくと確定申告の準備がスムーズに進みます。

妊娠糖尿病で追加される治療費の内訳

妊娠糖尿病と診断されると、月に数回の血糖検査や栄養指導が追加されることが一般的です。インスリン療法が必要になった場合は、注射薬や注射器具、血糖自己測定の消耗品にも費用がかかります。

1回あたりの通院費用は数千円から1万円程度ですが、出産までの数か月間にわたって繰り返し受診するため、トータルの支出額は大きくなりがちです。

通院にかかる交通費も見落とさない

病院までの交通費は、公共交通機関を利用した場合に限り医療費控除の対象となります。バスや電車の運賃は領収書がなくても、日付・区間・金額のメモがあれば申告できます。

陣痛や体調不良でやむを得ずタクシーを利用した場合も、その理由が合理的であれば控除の対象になり得ます。一方で、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外です。

家族全員の医療費を合算して申告できる

医療費控除の大きなメリットは、本人だけでなく、生計を一にする配偶者やお子さんの医療費も合算して申告できることです。妊娠糖尿病の治療費だけでは10万円に届かなくても、家族の歯科治療や薬代を合わせると控除対象額に達する場合があります。

申告は家族の中で所得が高い方がおこなうと、税率が高いぶん還付額も大きくなる傾向があるため、どちらが申告するか検討してみてください。

妊娠糖尿病で発生する主な費用の目安

費用項目おおよその目安控除対象
血糖検査・診察3,000〜8,000円/回対象
インスリン注射薬月5,000〜15,000円対象
血糖自己測定器具月3,000〜6,000円対象
栄養指導1,000〜3,000円/回対象
通院交通費(公共交通機関)実費対象
自家用車のガソリン代実費対象外

妊娠糖尿病で医療費控除の対象になる費用とならない費用を見分ける

すべての出費が医療費控除の対象になるわけではありません。妊娠糖尿病に関連する費用でも、治療目的と認められないものは控除から除外されます。対象・対象外の線引きを正しく把握しておくことが大切です。

控除対象として認められる代表的な費用

妊婦健診にかかる費用はもちろん、妊娠糖尿病の診断後におこなわれる血糖検査、インスリン療法、食事指導に関する費用は控除対象となります。分娩費用や入院費、入院中の食事代も含まれます。

また、出産のために緊急でタクシーを利用した場合のタクシー代や、医師が処方した医薬品の代金も対象です。

控除対象外となる費用に要注意

里帰り出産のための帰省交通費は控除対象外です。また、差額ベッド代のうち自己都合で個室を選んだ場合の追加料金も認められません。

項目控除可否
妊婦健診費用対象
血糖コントロールの診察・検査対象
分娩・入院費用対象
処方薬代対象
マタニティヨガの受講料対象外
里帰り出産の交通費対象外
自己都合の差額ベッド代対象外
サプリメント購入費対象外

出産育児一時金を受け取った場合の計算に注意する

出産育児一時金や民間の医療保険から給付金を受け取った場合、その金額を医療費から差し引く必要があります。ただし、差し引くのは給付の対象となった医療費ごとにおこない、他の医療費には影響しません。

たとえば出産費用が50万円で出産育児一時金が50万円であれば、出産費用の控除額はゼロになります。けれども、妊娠糖尿病の通院費用や検査費用は別の支出ですから、出産育児一時金の影響を受けず、そのまま控除対象にできます。

セルフメディケーション税制との違いを把握しておく

通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。セルフメディケーション税制は対象となる市販薬の購入額が12,000円を超えた場合に使える制度で、上限額は88,000円です。

妊娠糖尿病で通院している方は、年間医療費が10万円を大きく超えることが多いため、通常の医療費控除を選んだほうが有利になるケースがほとんどでしょう。

妊娠糖尿病の医療費控除に必要な書類をそろえる

確定申告で医療費控除を受けるには、いくつかの書類を事前に用意しておく必要があります。出産後の慌ただしい時期に慌てないよう、妊娠中からの準備をおすすめします。

確定申告書と医療費控除の明細書を用意する

確定申告書は国税庁のウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」からオンラインで作成できます。医療費控除の明細書には、医療を受けた人の氏名、病院名、支払金額などを記入していきます。

明細書は医療費通知(健康保険組合から届く医療費のお知らせ)を活用すると、作業が大幅に楽になります。ただし、通知に記載されていない医療費は自分で明細書に追記してください。

領収書は捨てずに5年間保管する

2017年分の確定申告から領収書の添付は不要になりましたが、税務署から提示を求められる場合に備えて5年間は保管する義務があります。妊娠糖尿病の通院が始まったら、領収書を月ごとにまとめて保管する習慣をつけておきましょう。

交通費については領収書が発行されないことも多いため、通院日・利用した交通機関・区間・金額をノートやアプリに記録しておくと安心です。

源泉徴収票やマイナンバーカードも忘れずに

会社員の方は勤務先から発行される源泉徴収票の内容をもとに確定申告書を作成します。また、マイナンバーカードがあればe-Taxによるオンライン申告が可能で、還付金の処理も3週間程度と早くなります。

マイナンバーカードをお持ちでない方は、マイナンバーの通知カードと運転免許証などの本人確認書類を用意してください。

  • 確定申告書(国税庁サイトで作成可能)
  • 医療費控除の明細書
  • 医療費の領収書(5年間保管用)
  • 医療費通知(健康保険組合から届くもの)
  • 源泉徴収票
  • マイナンバーカードまたは通知カード+本人確認書類
  • 還付金振込先の口座情報

妊娠糖尿病の医療費控除における確定申告書の書き方と記入手順

書類がそろったら、実際に確定申告書を作成していきましょう。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の案内に従って入力するだけで税額が自動計算されます。

医療費控除の明細書を先に完成させる

まずは医療費控除の明細書を作成します。医療を受けた方の氏名、医療機関の名称、治療内容、支払った金額、保険等で補填された金額を1行ずつ記載していきます。

国税庁が配布している「医療費集計フォーム」(エクセル形式)を利用すると、確定申告書等作成コーナーに直接データを読み込めるため、入力ミスの防止にも役立ちます。

確定申告書への転記と提出方法

明細書ができたら、確定申告書の「所得から差し引かれる金額」欄に医療費控除の金額を転記します。オンライン作成コーナーを使っている場合は、金額が自動で反映されるため転記ミスの心配はありません。

提出方法特徴
e-Tax(オンライン)自宅で完結、還付が約3週間と早い
郵送消印日が提出日になる
税務署窓口職員に相談しながら提出できる

還付金はいつ頃振り込まれるのか

e-Taxで申告した場合は約3週間、書面で提出した場合は1か月から1か月半ほどで還付金が指定口座に振り込まれます。還付申告は翌年の1月1日から5年間有効ですので、出産後に落ち着いてから手続きしても問題ありません。

「子育てに追われて確定申告を忘れてしまった」という方も、5年前までさかのぼって申告できますので、諦めずに手続きを検討してみてください。

申告後に医療費の追加が判明した場合の対応

確定申告後に計上し忘れた医療費が見つかった場合は、「更正の請求」という手続きで修正が可能です。更正の請求は確定申告の期限から5年以内であればおこなえます。

修正に必要な書類は更正の請求書と、追加する医療費の明細書です。国税庁のウェブサイトから書式をダウンロードして作成できます。

出産育児一時金や高額療養費と妊娠糖尿病の医療費控除の関係を整理する

妊娠・出産にまつわる公的給付金は複数あり、医療費控除との関係で混乱しやすいポイントです。それぞれの制度がどのように影響するか、正しく整理しておきましょう。

出産育児一時金は医療費から差し引く必要がある

出産育児一時金は健康保険から支給される給付金で、出産費用を補填する性質を持っています。そのため、医療費控除を計算する際には出産費用から差し引かなければなりません。

ただし、差し引きは「対象となった医療費ごと」におこなうのがルールです。出産育児一時金で出産費用を差し引いた結果がマイナスになっても、妊娠糖尿病の通院費や他の医療費と相殺することはありません。

高額療養費の払い戻しを受けた場合の取り扱い

ひと月の医療費が自己負担限度額を超えた場合に差額が戻る高額療養費制度を利用した方は、戻ってきた金額も医療費から差し引きます。妊娠糖尿病で入院管理が必要になり高額な医療費が発生した場合は、高額療養費の申請も忘れずにおこないましょう。

なお、高額療養費の支給決定が確定申告の時期までに間に合わない場合は、見込み額を差し引いて申告し、後日金額が確定してから修正する方法が認められています。

出産手当金は医療費控除に影響しない

出産手当金は産前産後の休業期間中に健康保険から支給される給付金ですが、医療費を補填するものではなく所得補償の性質を持っています。そのため、医療費控除の計算で差し引く必要はありません。

同様に、育児休業給付金や傷病手当金も医療費の補填には該当しないため、控除額に影響を与えることはないと覚えておいてください。

  • 出産育児一時金:出産費用から差し引く
  • 高額療養費:該当する医療費から差し引く
  • 出産手当金:差し引き不要
  • 育児休業給付金:差し引き不要
  • 民間医療保険の給付金:対象の医療費から差し引く

妊娠糖尿病の医療費控除で損しないために押さえておきたい3つのポイント

せっかく確定申告をしても、申告内容に漏れがあると本来受け取れるはずの還付金を取りこぼしてしまいます。妊娠糖尿病の医療費控除で損をしないために、以下のポイントを確認しておきましょう。

交通費や市販薬など見落としがちな費用も計上する

通院のための電車代やバス代は、領収書がなくても申告可能です。妊娠糖尿病で頻繁に通院している方は、交通費の合計が数万円になることもあるため、忘れずに計上してください。

見落としやすい項目備考
公共交通機関の通院交通費メモがあれば申告可能
薬局で購入した処方薬院外処方の場合
治療用の市販薬医師の指示によるもの
入院中の食事代病院が提供する食事に限る

医療費控除は年をまたいで計画的に管理する

医療費控除は1月1日から12月31日の暦年単位で計算します。妊娠糖尿病の診断が年末近くだった場合、翌年にまとまった医療費が発生する可能性があるため、年ごとの支出を意識しておくことが大切です。

予定日が1月や2月であれば、出産費用は翌年の医療費に計上されます。家族の医療費と合算するタイミングも含めて、どの年にどれだけの控除が見込めるか計算しておくと安心でしょう。

申告者を家族の中で有利な人に変える工夫

医療費控除は生計を一にする家族であれば、誰が申告しても構いません。所得税の税率は課税所得に応じて段階的に上がるため、一般的には税率が高い方が申告したほうが還付額は大きくなります。

一方で、総所得金額が200万円未満の方は足切りラインが「総所得の5%」に下がるため、所得が低い方が申告したほうが有利になるケースもあります。ご家庭の状況に合わせてシミュレーションしてみることをおすすめします。

よくある質問

Q
妊娠糖尿病の血糖自己測定にかかる費用は医療費控除の対象になりますか?
A

はい、妊娠糖尿病の治療において医師の指示で血糖自己測定をおこなう場合、測定器やセンサー、穿刺針などの消耗品の費用は医療費控除の対象になります。これらは「医師による診療等を受けるため直接必要な医療用器具等の購入費用」に該当するためです。

購入した際の領収書は、品目がわかるように保管しておいてください。ドラッグストアで購入した場合でも、医師の指示に基づくものであれば控除対象として申告できます。

Q
妊娠糖尿病の食事療法に関するサプリメント代は医療費控除に含められますか?
A

残念ながら、サプリメントの購入費用は原則として医療費控除の対象にはなりません。税法上、サプリメントは「病気の予防や健康増進のために用いられるもの」と位置づけられており、治療のための医薬品とは区別されています。

ただし、医師が治療上の必要から特定の栄養剤を処方した場合は、その処方薬代は控除対象として認められます。市販のサプリメントとは異なりますので、処方箋の有無で判断するとわかりやすいでしょう。

Q
妊娠糖尿病で入院した場合の差額ベッド代は医療費控除の対象ですか?
A

差額ベッド代については、医師の判断により治療上個室が必要と認められた場合に限り、医療費控除の対象となります。たとえば、血糖コントロールが不安定で厳密な管理が求められるケースなどが該当します。

一方、患者さん自身の希望で個室を選んだ場合の差額ベッド代は、治療に直接必要な費用とは認められず控除対象外です。入院時に病院から説明を受ける際、差額ベッド代の発生理由を確認しておくとよいでしょう。

Q
妊娠糖尿病の医療費控除は出産から何年後まで申告できますか?
A

医療費控除の還付申告は、医療費を支払った年の翌年1月1日から5年間おこなうことができます。たとえば2025年に妊娠糖尿病の治療費を支払った場合、2030年12月31日まで申告が可能です。

出産直後は育児に追われて確定申告まで手が回らない方も少なくありません。数年後でも申告できますので、領収書さえ保管してあれば焦る必要はないと覚えておいてください。

Q
妊娠糖尿病の医療費控除でどのくらいの還付金が戻ってきますか?
A

還付金の金額は、医療費の総額と所得税率によって異なります。たとえば年間の医療費が30万円で、出産育児一時金を差し引いた控除対象額が15万円だとしましょう。

所得税率10%の方であれば約5,000円、20%の方であれば約10,000円が還付される計算です。

加えて住民税も翌年度分から軽減されるため、合計の節税効果はさらに大きくなります。国税庁のウェブサイトにある確定申告書等作成コーナーでは、金額を入力するだけで還付見込額が表示されますので、一度試してみることをおすすめします。

参考にした文献