糖尿病は血液中の糖分(血糖値)が高くなる病気です。初期には自覚症状が少ないものの、進行すると様々な合併症を引き起こす可能性があり、早期発見・早期治療が重要です。

近年、糖尿病の治療法は大きく進歩し、患者さま一人一人の状態に合わせた治療が可能になっています。ここでは、当院の糖尿病治療について詳しくご説明いたします。

この記事を書いた人

神戸きしだクリニック院長 岸田雄治
岸田 雄治
神戸きしだクリニック院長

医学博士
日本医学放射線学会認定 放射線診断専門医
日本核医学会認定 核医学専門医
【略歴】
神戸大学医学部卒。神戸大学大学院医学研究科医科学専攻博士課程修了。神戸大学附属病院 放射線科 助教。甲南医療センター放射線科医長を経て神戸きしだクリニックを開業(2020年6月1日)

糖尿病の種類と特徴

糖尿病には主に1型と2型があります。それぞれ発症の仕組みや治療方法が異なるため、適切な治療を行うためには、まずどちらの型であるかを見極めることが重要です。

1型糖尿病について

1型糖尿病は、膵臓のインスリンを作る細胞が破壊される病気です。主に若い方に発症し、自己免疫疾患やウイルス感染などが原因とされています。

体内でインスリンがほとんど作られなくなるため、インスリン注射による治療が必要不可欠です。

1型糖尿病の発症の仕方には、いくつかのパターンがあります。数日で急激に発症する「劇症1型」、比較的急速に発症する「急性発症型」、そしてゆっくりと進行する「緩徐進行型」があります。

特に劇症1型の場合は、発症後すぐに適切な治療を開始する必要があります。

2型糖尿病について

2型糖尿病は、インスリンの分泌が低下したり、インスリンの効きが悪くなったりすることで起こります。日本の糖尿病患者さまの90%以上がこの型です。

中高年での発症が多く、生活習慣や遺伝的な要因が深く関係しています。

2型糖尿病の治療では、まず食事療法や運動療法から始めます。それでも血糖値の改善が不十分な場合は、経口薬やインスリン注射を併用していきます。

このほかにも、妊娠中だけ一時的に発症する妊娠糖尿病や、膵臓の病気が原因で起こる二次性糖尿病など、様々な種類の糖尿病があります。

診断と検査について

糖尿病の診断でまず基本となるのが、血糖値の測定です。空腹時に測定する空腹時血糖値が126mg/dL以上、あるいは食事の時間に関係なく測定する随時血糖値が200mg/dL以上の場合、糖尿病が疑われます。

また、過去1-2ヶ月の平均的な血糖値を反映するHbA1c検査も重要です。この値が6.5%以上の場合、糖尿病と診断される可能性が高くなります。

より詳しい検査として、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)があります。これは、ブドウ糖を飲んでから一定時間ごとに血糖値を測定する検査です。

特に空腹時血糖値が境界型(110-125mg/dL)の場合や、HbA1cが6.0-6.4%の場合、また糖尿病の家族歴がある方には重要な検査となります。

また、1型糖尿病かどうかを判断するための膵島関連自己抗体検査や、インスリンの分泌能を調べる検査なども、治療方針を決める上で重要な情報となります。

治療の基本方針

糖尿病の治療目標は、血糖値を適切な範囲にコントロールし、合併症の発症や進行を防ぐことです。この目標値は、患者さまの年齢や状態によって個別に設定します。

一般的に、血糖コントロールの指標となるHbA1cは7%未満を目指します。

ただし、若い方では合併症予防を重視して6%未満を目標にすることもあります。一方、高齢の方では低血糖を避けることを重視し、場合によっては8%未満を目標とすることもあります。

治療の目標値(HbA1c)の目安

年齢層標準的な目標値備考
65歳未満7.0%未満合併症予防重視
65歳以上7.0-8.0%未満低血糖に注意
高齢者(認知症等)8.0%未満も可安全性重視

具体的な治療方法

糖尿病の治療は、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」という3つの柱で成り立っています。これらは別々のものではなく、互いに補完し合う関係にあります。

食事療法

食事療法は糖尿病治療の基本となります。ただし、これは単なる制限食ではありません。必要な栄養素をバランスよく摂取しながら、血糖値の急激な上昇を防ぐことが目的です。

1日の適切なエネルギー量は、身長から算出する標準体重と、日常生活での活動量から計算します。この計算された量の中で、炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取することが大切です。

特に気をつけたい食事のポイント

  • 1日3食、規則正しい時間に摂取
  • 極端な食べ過ぎを避ける
  • 食物繊維を十分に含む食材を選ぶ
  • 塩分は控えめに(男性7.5g/日、女性6.5g/日未満)

運動療法

運動には、血糖値を下げる即時的な効果と、継続することで得られる長期的な効果があります。ウォーキングなどの有酸素運動を中心に、可能であれば筋力トレーニングも組み合わせて行います。

重症の網膜症や腎症、神経障害がある場合は、運動による悪化を防ぐため、運動の種類や強度を慎重に選ぶ必要があります。

ウォーキングを始める際の目安

  • 最初は1回10-15分から始める
  • 慣れてきたら少しずつ時間を延ばす
  • 息が弾む程度の適度な強さを心がける
  • 可能であれば毎日、難しければ週3回以上

薬物療法

食事療法と運動療法だけでは血糖コントロールが難しい場合、お薬による治療を行います。近年、糖尿病の薬は大きく進歩し、患者さまの状態に合わせて選択できる薬の種類が増えています。

経口薬には、それぞれ異なる作用を持つ様々な種類があります。

例えば、DPP-4阻害薬は、血糖値を下げるホルモンの働きを高めます。SGLT2阻害薬は、尿中に余分な糖を排出することで血糖値を下げます。

このほか、インスリンの分泌を促すお薬や、インスリンの効きを良くするお薬なども使用されています。

主な経口血糖降下薬の特徴

薬剤の種類主な作用特徴
DPP-4阻害薬インクレチン作用の増強低血糖が少ない
SGLT2阻害薬尿糖排泄の促進体重減少効果あり
ビグアナイド薬肝臓での糖新生抑制心血管イベント予防効果
スルホニル尿素薬インスリン分泌促進速やかな血糖低下

注射薬による治療

注射薬による治療には、インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬があります。1型糖尿病の方はインスリン治療が必須ですが、2型糖尿病の方でも、経口薬での血糖コントロールが難しい場合には使用を検討します。

インスリン製剤には、効果の現れ方や持続時間によって様々な種類があります。超速効型は食直前に注射して食後の血糖上昇を抑え、持効型は1日中安定した血糖値を保つために使用します。

患者さまの生活リズムや血糖値の変動パターンに合わせて、適切な組み合わせを選択します。

最近では、GLP-1受容体作動薬という新しいタイプの注射薬も使用されています。この薬は血糖値を下げるだけでなく、体重減少効果や心血管疾患の予防効果も期待できます。

主な注射薬の特徴

種類作用発現持続時間主な使用タイミング
超速効型インスリン10-15分3-5時間食直前
持効型インスリン1-2時間24時間以上朝または就寝前
GLP-1受容体作動薬様々1日-1週間製剤により異なる

合併症について

糖尿病の怖さは、長期的な高血糖により様々な合併症が起こることにあります。

特に重要なのが、「神経障害」「網膜症」「腎症」という三大合併症です。これらの合併症は、早期発見と適切な治療により、進行を遅らせたり防いだりすることができます。

糖尿病性神経障害

神経障害は最も早期から現れやすい合併症です。手足、特に足先から始まるしびれや痛み、感覚の低下が特徴的です。

また、自律神経にも影響が及び、立ちくらみや胃腸の働きの異常、発汗異常などが起こることがあります。

特に注意が必要なのは、感覚が鈍くなることで足の小さな傷に気付きにくくなる点です。傷が悪化して重症な感染症を起こすことを防ぐため、毎日の足のケアが重要です。

また、重症化すると心臓の痛みを感じにくくなるなど、命に関わる事態を引き起こす可能性もあります。

神経障害の主な症状と対策

  • 末梢神経障害:足のしびれ、痛み → 足の観察、適切な靴選び
  • 自律神経障害:立ちくらみ、消化器症状 → ゆっくり動作、食事の工夫
  • 無痛性の問題:傷や痛みの見逃し → 定期的な診察、自己チェック

糖尿病性網膜症

網膜症は、目の細い血管が障害を受けることで起こります。初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行すると視力低下や最悪の場合失明につながる可能性があります。

網膜症は、進行度によって単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症の段階に分けられます。定期的な眼科検査により早期発見に努め、必要に応じてレーザー治療や手術を行うことで、視力を守ることができます。

糖尿病性腎症

腎症は、腎臓の細かい血管が障害を受けることで起こります。初期には尿中に微量のタンパク質が漏れ出す程度ですが、進行すると腎臓の働きが低下し、最終的には人工透析が必要になることもあります。

腎症の進行段階

病期特徴主な対策
第1期腎機能は正常血糖・血圧の管理
第2期微量アルブミン尿厳格な管理開始
第3期タンパク尿が顕在化食事制限強化
第4-5期腎機能低下~透析専門的治療

その他の合併症

糖尿病では、上記の三大合併症以外にも様々な合併症が起こり得ます。心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患、歯周病、感染症への抵抗力低下などが知られています。

また、うつ病などの精神的な問題や、がんのリスク上昇についても報告されています。

日常生活での注意点

シックデイへの対応

シックデイとは、発熱や下痢、嘔吐などで体調を崩している日のことを指します。このような時期は、普段の血糖コントロールが乱れやすく、特別な注意が必要です。

シックデイ対策のポイント

  • 血糖値を普段より頻繁に測定する
  • 水分を十分に摂取する
  • 食事が取れなくても薬を勝手に中止しない
  • 状態が改善しない場合は早めに受診する

感染症対策

糖尿病があると感染症にかかりやすく、また重症化しやすいことが知られています。

特に新型コロナウイルス感染症では、重症化のリスクが高いとされています。基本的な感染予防に加え、ワクチン接種なども検討しましょう。

定期検査の重要性

糖尿病の治療では、定期的な検査を通じて血糖コントロールの状態や合併症の有無をチェックすることが重要です。血糖値やHbA1cの測定、尿検査、血圧測定などの基本的な検査に加え、定期的な眼科検査や歯科検査も必要です。

推奨される検査の頻度

検査項目頻度目的
血糖値・HbA1c1-2ヶ月毎血糖コントロール評価
眼底検査年1-2回網膜症のチェック
尿アルブミン年1回腎症のチェック
歯科検査半年-1年毎歯周病予防

まとめ

糖尿病の治療は、決して短期間で終わるものではありません。しかし、適切な治療を継続することで、健康的な生活を送ることは十分に可能です。

当院では、患者さま一人一人の生活スタイルや価値観を考慮しながら、適切な治療プランを提案しています。また、管理栄養士による栄養指導や、療養指導士による生活指導など、多職種による包括的なサポート体制を整えています。

糖尿病について気になる症状がある方、健診で指摘された方は、どうぞお気軽にご相談ください。また、すでに治療中の方も、治療に関する不安や疑問がありましたら、遠慮なくお話しください。

糖尿病の治療について、より詳しい情報は以下の記事もご参照ください。

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