低血糖は、糖尿病の治療中に誰にでも起こりうるトラブルです。手の震えや冷や汗といった症状が出たとき、正しく対処できるかどうかで体への影響は大きく変わります。
この記事では、低血糖の症状に気づいたときにまず何をすべきか、ブドウ糖の摂り方や代用できる食品、意識がない場合の対応、そしてやってはいけないNG行動まで網羅的にお伝えします。
落ち着いて行動するための「正しい知識」をいま身につけておけば、いざというときに自分や家族を守れるでしょう。ぜひ最後まで読み進めてみてください。
低血糖の症状を見逃さないで|体が発する危険サインを知っておけば慌てずに済む
低血糖の症状は段階的に現れるため、初期のうちに気づいて対処すれば重症化を防げます。軽度の段階で見られる「手の震え」「冷や汗」「動悸」を見逃さないことが、安全な対処への第一歩です。
手の震えや冷や汗は低血糖が始まったサイン
血糖値が70mg/dL前後まで下がると、体はアドレナリンなどのホルモンを分泌して血糖値を上げようとします。その反応として、手指の震え・冷や汗・心臓のドキドキ・顔色が青白くなるといった自律神経の症状が出てきます。
こうした症状は「交感神経症状」と呼ばれ、体が「血糖値が低いよ」と警報を鳴らしている状態です。この段階であれば、ブドウ糖を摂取するだけで多くの場合は回復できます。
強い空腹感や集中力の低下も見落としやすい初期症状
低血糖の初期には、急にお腹が空いたり、頭がぼんやりして集中できなくなったりする場合もあります。仕事中や運転中にこうした変化が出ると「疲れかな」と見過ごしがちですが、糖尿病の治療を受けている方は低血糖を疑いましょう。
とくにGLP-1受容体作動薬やインスリン、SU薬(スルホニル尿素薬)を使っている方は、空腹時の違和感を「ただのお腹の空き」と片付けないことが大切です。
低血糖の段階別にみた主な症状
| 段階 | 血糖値の目安 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 軽度 | 60〜70mg/dL | 手の震え、冷や汗、動悸、空腹感 |
| 中等度 | 40〜60mg/dL | 頭痛、眠気、ろれつが回らない |
| 重度 | 40mg/dL未満 | けいれん、意識消失、昏睡 |
重症化するとけいれんや意識消失につながる
血糖値がさらに下がり40mg/dLを下回ると、脳に十分なエネルギーが届かなくなります。その結果、ろれつが回らなくなったり、異常な行動をとったり、最悪の場合はけいれんや意識消失を起こすこともあるのです。
重症低血糖は自分一人では対処できず、救急搬送が必要になるケースもあります。軽い段階のうちに気づいて対処することが、命を守るうえで何よりも重要だといえるでしょう。
低血糖の応急処置はブドウ糖の摂取から|すぐにできる対処法を覚えておこう
低血糖の症状を感じたら、迷わずブドウ糖を10g摂取してください。これが応急処置の基本であり、多くの医療機関でも推奨されている方法です。
ブドウ糖10gを素早く口にするのが対処の基本
低血糖症状に気づいたら、まずブドウ糖のタブレットやゼリーを10g摂取します。薬局やドラッグストアで市販されているブドウ糖タブレットは持ち運びにも便利で、溶けやすいため素早く吸収されます。
摂取してから15分ほどで血糖値が上がり始め、震えや冷や汗が徐々に治まってくるのが一般的な経過です。焦らず座って休みながら回復を待ちましょう。
ブドウ糖が手元になければジュースや砂糖で代用できる
外出先などでブドウ糖が手元にない場合でも、コーラやオレンジジュースなどの砂糖入りの清涼飲料水を150〜200mL飲むことで代用が可能です。角砂糖なら3〜4個が目安になります。
ただし注意が必要なのは、人工甘味料のみを使用した「ゼロカロリー」の飲料には血糖値を上げる糖質が含まれていないという点です。必ず砂糖入りのものを選んでください。
15分経っても改善しなければもう一度同量を摂取する
ブドウ糖を摂ってから15分待っても症状が改善しない場合は、同じ量のブドウ糖をもう一度摂取します。2回目の摂取でも回復しない場合は、低血糖以外の原因も考えられるため、すみやかに医療機関を受診しましょう。
また、α-グルコシダーゼ阻害薬(ベイスンやグルコバイなど)を服用している方は、砂糖の吸収が遅れるため必ずブドウ糖を使ってください。砂糖やジュースでは十分に血糖値が上がらない場合があります。
- ブドウ糖タブレット(10g)を常に持ち歩く
- 砂糖入りジュース150〜200mLで代用可能
- ゼロカロリー飲料は血糖値を上げないので使えない
- α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の方は必ずブドウ糖を使う
低血糖対処に向いている食品・向いていない食品|正しい選び方で回復を早める
低血糖時の食品選びは「吸収の速さ」がカギです。糖質であれば何でもよいわけではなく、脂質を多く含む食べ物は吸収が遅れるため、回復までに時間がかかってしまいます。
ブドウ糖・ラムネ・果汁100%ジュースは素早く効く
低血糖対処で優先的に選びたいのは、単純糖質が中心の食品です。ブドウ糖そのものが含まれるタブレットやラムネ菓子は吸収が早く、即効性があります。
果汁100%のオレンジジュースやりんごジュースも果糖とブドウ糖がバランスよく含まれており、手軽に摂取できるため代替手段として有効です。コンビニでもすぐに手に入る点も心強いでしょう。
チョコレートやケーキは低血糖対処には向かない
「甘いもの=血糖値が上がる」というイメージから、チョコレートやケーキを食べる方がいますが、実はあまり適していません。これらの食品には脂質が多く含まれており、胃での消化に時間がかかるため、糖質の吸収が大幅に遅れるのです。
低血糖でつらい状態が長引くのは避けたいところですから、まずはブドウ糖やジュースで血糖値を戻し、その後に食事を摂るほうが安全な対処法といえます。
低血糖対処に使える食品・使えない食品
| 分類 | 食品の例 | 対処への適性 |
|---|---|---|
| 推奨 | ブドウ糖タブレット、ラムネ菓子 | 吸収が速く効果的 |
| 代用可 | 砂糖入りジュース、角砂糖 | ブドウ糖がないときに有効 |
| 不向き | チョコレート、ケーキ、アイス | 脂質で吸収が遅れる |
| 使用不可 | ゼロカロリー飲料、人工甘味料 | 血糖値を上げない |
回復後は補食をとって血糖値の再低下を防ぐ
ブドウ糖の効果で血糖値が戻っても、そのままにしておくと再び低血糖に陥る可能性があります。とくに持効型インスリンやSU薬を使っている方は、薬の効果が持続しているため注意が必要です。
回復を感じたら、おにぎりやサンドイッチ、クラッカーとチーズなど、炭水化物とたんぱく質を含む補食を摂りましょう。次の食事まで1時間以上空く場合は、この補食が再発防止の鍵になります。
意識がない人への低血糖対処|そばにいる人が救える命がある
本人が意識を失っている場合、口から食べ物や飲み物を与えてはいけません。窒息の危険があるためです。周囲の方は回復体位をとらせ、すぐに救急車を呼んでください。
口に食べ物を押し込むと窒息事故につながる
「低血糖だから何か甘いものを」と焦って口に食品を入れたくなる気持ちは理解できますが、意識がない状態では飲み込む力がほとんど働きません。食べ物が気管に入れば窒息し、さらに深刻な事態を招きかねないのです。
意識が朦朧としている場合も同様で、むせ込んで嘔吐するリスクがあります。口からの摂取は、本人がしっかりと意識を保ち、自力で飲み込める状態でなければ行わないでください。
回復体位をとらせて気道を確保し救急車を呼ぶ
意識がない方を見つけたら、まず横向きに寝かせる「回復体位」をとらせて気道を確保します。嘔吐物で窒息しないようにする大切な対応です。
そのうえで119番に電話し、救急隊に「糖尿病治療中で低血糖の疑いがある」と伝えましょう。お薬手帳やIDカードが見つかれば、救急隊に渡すとスムーズに治療を受けられます。
グルカゴン注射キットが処方されていれば家族が投与できる
重症低血糖を起こすリスクが高い方には、主治医からグルカゴン注射キット(バクスミーなどの点鼻薬を含む)が処方されている場合があります。グルカゴンは肝臓に蓄えられたグリコーゲンをブドウ糖に変え、血糖値を速やかに上昇させるホルモンです。
使い方は事前に主治医や薬剤師から指導を受けておく必要があります。家族や同居のパートナーにも手順を共有しておけば、緊急時にも迅速に対応できるでしょう。
意識がない場合の対処手順
| 順序 | 対応内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 回復体位をとらせる | 横向きに寝かせて気道確保 |
| 2 | 119番通報 | 糖尿病治療中であることを伝える |
| 3 | グルカゴン投与(処方がある場合) | 事前に使い方の指導を受けておく |
| 4 | 意識が戻ったらブドウ糖を摂取 | 完全に意識が回復してから |
低血糖時に絶対やってはいけないNG行動|間違った対処が重症化を招く
低血糖は早期に正しい対応をとれば重症化を防げますが、間違った対処をすると取り返しのつかない事態に発展する恐れがあります。とくに以下の3つの行動には十分に気をつけてください。
「もう少し様子を見よう」と放置するのが一番危険
低血糖の症状が出ているのに「たいしたことないだろう」と対処を先延ばしにするのは、もっとも避けるべき行動です。血糖値は放置すればさらに低下し、意識障害やけいれんに進行するリスクが高まります。
「大げさかも」と感じても、症状があるなら迷わずブドウ糖を口にしてください。空振りだったとしても、ブドウ糖10gで健康被害が出ることはまずありません。
脂質が多い食べ物で血糖値を上げようとしてはいけない
先述のとおり、チョコレートやドーナツ、ポテトチップスなどの脂質が多い食品は、糖質の吸収スピードを大幅に遅らせます。低血糖のつらさが長引くうえに、対処の「ゴールデンタイム」を逃してしまうかもしれません。
低血糖対処のNG行動まとめ
| NG行動 | なぜ危険か |
|---|---|
| 様子を見て放置する | 血糖値がさらに低下し重症化する |
| 脂質の多い食品で対処する | 吸収が遅く回復に時間がかかる |
| 自己判断で薬を減量・中止する | 血糖コントロールが乱れ別の危険が生じる |
自己判断で薬の量を減らしたり中断したりしない
「低血糖が怖いから薬を減らそう」と自分で判断してしまう方がいますが、これは大変危険な行為です。薬の減量や中止は血糖コントロールを一気に乱し、高血糖による合併症リスクを高めてしまいます。
低血糖を繰り返す場合は、必ず主治医に相談して処方の見直しを依頼しましょう。自分の判断で治療を変えるのではなく、医師と二人三脚で調整していくことが安全への近道です。
GLP-1受容体作動薬で低血糖は起きにくい|ただし併用薬には要注意
GLP-1受容体作動薬(リベルサス、オゼンピック、トルリシティなど)は血糖値が高いときにだけインスリン分泌を促す仕組みのため、単独使用であれば低血糖を起こしにくい薬です。ただし、他の糖尿病治療薬と併用する場合はリスクが変わります。
GLP-1受容体作動薬は血糖値に応じて作用するため安全性が高い
GLP-1受容体作動薬は「インクレチン」というホルモンの働きを利用した薬で、血糖値が高い状態のときにだけ膵臓からインスリンを分泌させます。血糖値が正常範囲のときにはインスリンを過剰に出さないため、低血糖を起こしにくいのが大きな特徴です。
この血糖値に応じた作用は「血糖依存性」と呼ばれ、従来のSU薬などと比べて安全性が高いと評価されています。
SU薬やインスリンとの併用時は低血糖リスクが上がる
一方で、GLP-1受容体作動薬をSU薬(グリメピリドなど)やインスリンと組み合わせて使用している場合は、低血糖のリスクが高くなります。
SU薬は血糖値に関係なくインスリン分泌を促すため、両方の薬の効果が重なって血糖値が必要以上に下がることがあるのです。
併用療法を受けている方は、低血糖の初期症状を正確に把握し、ブドウ糖を常に携帯しておくことが欠かせません。
主治医と定期的に相談しながら薬の量を見直そう
低血糖を何度も経験している方は、薬の組み合わせや用量が現在の体の状態に合っていない可能性があります。「低血糖が怖い」と感じたら、遠慮せず主治医に伝えてください。
GLP-1受容体作動薬の種類を変更したり、併用薬の量を微調整したりすることで、低血糖の頻度を大幅に減らせる場合があります。医師と連携して、自分に合った治療を見つけていきましょう。
- GLP-1受容体作動薬は単独使用なら低血糖リスクが低い
- SU薬やインスリンとの併用で低血糖リスクが上昇する
- 低血糖が繰り返される場合は処方内容の見直しを主治医に相談する
- ブドウ糖の携帯と初期症状の把握が大切
低血糖を繰り返さないために|日常生活で今日から変えたい3つの習慣
低血糖は一度経験すると不安が大きくなりがちですが、日常生活のちょっとした工夫で発症リスクを下げることは十分に可能です。食事・運動・携帯品の3つの視点から、再発を防ぐ生活習慣をお伝えします。
食事の時間と量を毎日できるだけ安定させる
低血糖を防ぐうえでまず見直したいのが、食事のリズムです。食事を抜いたり、極端に遅らせたりすると、薬の効果だけが先に働いて血糖値が下がりすぎてしまいます。
1日3食を規則的に摂り、各食事の炭水化物量をおおむね一定に保つことで、血糖値の急激な変動を抑えやすくなります。忙しい日でも、おにぎり1個だけでも口にする習慣をつけてみてください。
低血糖予防に役立つ日常の工夫
| 場面 | 工夫の内容 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 食事 | 1日3食を規則的に摂る | 薬の効果と食事のバランスが安定する |
| 運動 | 運動前後に血糖値を測定する | 運動による低血糖を早期発見できる |
| 外出 | ブドウ糖とIDカードを携帯する | 緊急時にすぐ対処・周囲が対応できる |
| 飲酒 | 空腹時の飲酒を避ける | アルコールによる低血糖を防ぐ |
運動前後に血糖値を測定する習慣をつける
運動は血糖コントロールに有益ですが、タイミングや強度によっては低血糖を引き起こすことがあります。とくに食後2〜3時間以上経ってからの運動や、長時間の有酸素運動は血糖値を大きく下げやすい傾向にあります。
運動前に血糖値を測り、100mg/dL以下であれば軽い補食を摂ってから体を動かすとよいでしょう。運動後の測定も忘れずに行えば、自分のパターンが見えてきます。
外出時にはブドウ糖とIDカードを必ず持ち歩く
日常的に低血糖のリスクがある方は、ブドウ糖タブレットをカバンやポケットに入れて外出する習慣をつけましょう。職場のデスクや車のダッシュボードにも予備を置いておくと安心です。
さらに、糖尿病であることや服用している薬の情報を記したIDカードやブレスレットを身につけておくと、万が一意識を失った際に周囲の方や救急隊が迅速に対応できます。家族にも保管場所を伝えておくとよいでしょう。
よくある質問
- Q低血糖の対処でブドウ糖を摂った後、どのくらいで症状は治まる?
- A
低血糖の対処としてブドウ糖10gを摂取すると、一般的には15分程度で血糖値が上がり始め、手の震えや冷や汗といった症状が治まっていきます。
ただし、回復のスピードには個人差があり、使用している薬の種類や低血糖の程度によっても異なります。15分経っても改善が感じられない場合は、もう一度同量のブドウ糖を摂取し、それでも回復しなければ医療機関を受診してください。
- Q低血糖の対処にコーラやスポーツドリンクを使っても大丈夫?
- A
砂糖が含まれている通常のコーラであれば、低血糖の応急処置に代用できます。150〜200mL程度を飲むことで、ブドウ糖タブレットと同等の効果が期待できるでしょう。
一方、ゼロカロリーのコーラやダイエット飲料は人工甘味料のみで作られており、血糖値を上げる力がないため使えません。スポーツドリンクは糖質を含みますが濃度が薄いため、十分な量の糖質を摂るにはかなりの量を飲む必要がある点に留意してください。
- Q低血糖の対処をしたあと、車の運転を再開してもよい?
- A
低血糖の症状が出た直後に運転を再開するのは危険です。ブドウ糖を摂取して症状が治まったとしても、判断力や反応速度が完全に回復するまでには時間がかかることがあります。
少なくとも30分以上は安静にし、血糖値が安定したことを血糖測定器で確認してから運転を再開するようにしましょう。再低下のリスクもあるため、補食を摂ってからハンドルを握るのが安全です。
- Q低血糖の対処のためにブドウ糖は薬局以外でも購入できる?
- A
ブドウ糖のタブレットやゼリーは、調剤薬局だけでなくドラッグストアやコンビニ、インターネット通販でも手に入ります。なかでも「ラムネ菓子」はブドウ糖を主原料としているものが多く、手軽に入手できる代用品として広く知られています。
購入する際は成分表示を確認し、ブドウ糖(グルコース)が主成分であるものを選ぶと確実です。自宅・職場・カバンの中と、複数の場所に分けて保管しておくと、いざというとき慌てずに済むでしょう。
- Q低血糖の対処が必要になる頻度が増えた場合、どの診療科を受診すべき?
- A
低血糖の頻度が増えている場合は、まず糖尿病の治療を受けている主治医(内科または糖尿病内科)に相談するのが最善です。処方内容の見直しや、血糖自己測定のデータを踏まえた薬の調整が必要になる場合があります。
主治医がいない方や、夜間・休日に重症低血糖を起こした場合は、救急外来を受診してください。受診の際には、お薬手帳や血糖値の記録を持参すると、医師がより適切な判断を下しやすくなります。


