糖尿病の定期検査スケジュールに、すべての人へ当てはまる一枚の予定表はありません。目・腎臓・足・歯のそれぞれで、次に診てもらうまでの間隔が別々に決まっていきます。
間隔を左右するのは検査の種類ではなく、いまの体の状態です。網膜症の病期、腎機能と尿アルブミンの量、足の感覚や血流の具合によって、年に1回で足りる人と1〜3か月ごとに診てもらう人が分かれます。
それぞれの検査が何を見ているのかが分かると、間隔の意味も腑に落ちます。国内外の指針が示す目安と、自分に当てはまる間隔を主治医へ確かめるときの聞き方を、体の部位ごとに並べていきます。
糖尿病の定期検査スケジュールが人によって違う理由
間隔が人によって違うのは、合併症の進み方が体の場所ごとに、しかも人ごとに異なるからです。同じ「年1回」という言葉でも、目にとっての1年と足にとっての1年では、抱えている危うさの大きさが変わります。
| 検査する場所 | 主に見ているもの | 間隔を左右するもの |
|---|---|---|
| 目(眼底) | 網膜の細い血管の変化とむくみ | 網膜症の病期、血糖の安定度、妊娠 |
| 腎臓(尿と血液) | 尿アルブミンと推算糸球体濾過量 | 腎機能の区分と尿アルブミンの量 |
| 足 | 感覚の低下、血流、変形 | 感覚低下や血流障害の有無、潰瘍や切断の既往 |
同じ人の中でも、目は年1回でよいのに足は3か月ごと、という組み合わせは珍しくありません。予定表を無理に1本へまとめようとすると、かえって間隔の意味が崩れてしまいます。
合併症は痛みで知らせてくれない
網膜症も腎症も神経障害も、初期には痛みや不快感をほとんど伴わないまま進みます。目の奥の細い血管が傷んでいても、視力そのものは長いあいだ保たれるため、見えているという実感が安心材料にはなりません。
足も同じで、神経の働きが落ちると痛みを感じにくくなり、傷ができても本人が気づかないまま日が過ぎていきます。つまり自覚症状は、検査の間隔を決める材料としては当てにならないわけです。
だからこそ、症状ではなく検査の数値と所見で次の予約日を決める、という順番が要になります。
年1回で足りる人と足りない人はどこが違う?
分かれ目になるのは、その臓器がすでに変化を起こしているかどうかです。目でいえば網膜症がまだ出ていない段階と、細い血管が詰まりはじめた段階とでは、次の1年で起きうる変化の幅がまるで違います。
腎臓なら尿アルブミンが出ているか、足なら感覚が保たれているかが同じ分かれ目です。いずれも、いま困っていない人ほど間隔を長く取れるという構造になっており、逆に一度変化が出た場所は間隔が短くなっていきます。
検査の中身が分かると間隔の意味も見えてくる
眼底検査は網膜の血管を直接のぞき込む検査で、出血や白い斑点、むくみの有無を確かめています。尿アルブミンは、腎臓のフィルターから漏れ出したごく少量のたんぱくを拾う検査で、腎機能の数値が動く前に変化をとらえられるのが強みです。
足の診察では、細い糸で触れて感覚を調べ、足首や足の甲の脈に触れて血流を確かめ、指の変形やたこの位置まで見ていきます。どれも数分で終わる検査ですが、そこで拾った所見が次の予約日を決めます。
検査の目的を知っていると、「なぜ今回は3か月後なのか」を診察室で聞きやすくなるはずです。
血液と尿の定期検査は糖尿病のスケジュールの土台になる
土台になるのは血液と尿の検査です。米国糖尿病学会の基準では、血糖の状態を少なくとも年に2回は確かめ、目標に届いていない人や治療を変えた直後などはおよそ3か月ごとと、より短い間隔で見直します。
HbA1cはどのくらいの間隔で測ればいい?
HbA1cは過去1〜2か月の血糖の平均を映す指標なので、1か月に何度も測っても新しい情報は増えません。安定していれば年2回でも状態を追えますが、治療を変えた直後や低血糖・高血糖をくり返している時期は、3か月ごとの確認が目安になります。
逆にいうと、間隔が空いている人ほど「いま安定している」と判断されている可能性が高いわけです。もし治療内容が変わったのに次の採血が半年後になっているなら、その理由を確かめておくと安心でしょう。
尿アルブミンと血清クレアチニンが腎臓の入り口を映す
腎臓の検査は、尿に漏れるアルブミンの量と、血液のクレアチニンから計算する推算糸球体濾過量の二本立てです。片方だけでは見落としが出るため、両方をそろえて初めて腎臓の入り口の状態が読み取れます。
米国糖尿病学会の基準は、1型糖尿病では罹病期間が5年以上の人、2型糖尿病では治療の内容にかかわらず全員に対して、この二つを評価するよう求めています。健診の尿たんぱく検査では、ごく少量のアルブミンは拾えません。
腎機能が下がるほど尿と血液を測る回数は増える
すでに腎臓の病気があると分かっている人では、尿アルブミンと推算糸球体濾過量を年に1〜4回測る、というのが米国糖尿病学会の示す幅です。何回にするかは腎臓の病期で決まり、進んでいる人ほど回数が増えていきます。
腎臓の状態と1年あたりの検査回数の目安
| 腎臓の状態 | 1年あたりの目安 | 間隔が動く向き |
|---|---|---|
| 腎機能も尿アルブミンも保たれている | 1回 | まずはここから始まる |
| 尿アルブミンが増えている、または腎機能が中程度まで下がっている | 2〜3回 | 数値の動きで前後する |
| 腎機能の低下が進んでいる、または大量のアルブミン尿がある | 4回以上 | 腎臓の専門科と分担する場合もある |
この幅は国際的な腎臓病の指針が示す一覧をもとにした目安で、実際の回数は薬の内容や血圧の状態も踏まえて主治医が決めます。血圧の薬を始めた直後など、一時的に短い間隔で採血する時期もあります。
眼科の定期検査は糖尿病と診断されたその日から始まる
眼科の最初の受診は、目の症状が出てからではなく診断された時点です。国内の指針は、1型でも2型でも糖尿病と診断されたときに眼科の検査を受けるよう求めています。
診断された日にはもう網膜症がある人もいる?
国内の診療ガイドラインによれば、2型糖尿病の患者全体では約30%が、糖尿病と診断された時点ですでに網膜症を発症しています。血糖の高い状態が診断よりかなり前から続いていた、という背景があるためです。
同じガイドラインは、30歳以上で診断された人のうち推定罹病期間5年未満でも28.8%、15年以上では77.8%が何らかの網膜症を持っていたと紹介しています。増殖網膜症の割合は、それぞれ2.0%と15.5%でした。
1型糖尿病については国内のデータが十分でないため、診断されたときに眼科の検査を受ける方針が示されています。
網膜症の病期ごとに決まっている眼科の受診間隔
国内の診療ガイドラインは、網膜症の病期ごとに眼科の診察間隔を示しています。網膜症がない段階と、増殖網膜症まで進んだ段階では、間隔が12倍も違うと分かります。
網膜症の病期と推奨される眼科の診察間隔
| 病期 | 推奨される間隔 | 目の中で起きていること |
|---|---|---|
| 糖尿病(網膜症なし) | 1回/1年 | 眼底に変化が見つかっていない |
| 単純糖尿病網膜症 | 1回/6か月 | 小さな出血や白い斑点が出ている |
| 増殖前糖尿病網膜症 | 1回/2か月 | 血流の途絶えた領域が広がっている |
| 増殖糖尿病網膜症 | 1回/1か月 | もろい新生血管が伸びはじめている |
ガイドライン自身が、この間隔はあくまで目安であり個別の症例に応じた対応が必要だと断っています。実際の受診間隔は、眼底を見た眼科医の指導に従うのが原則です。
血糖が高いまま続くときや妊娠中は間隔が縮む
同じガイドラインは、高血糖の状態が続く場合には網膜症がなくても、より密な診察間隔を検討するとしています。網膜症のない人でも1型・2型ともに年率およそ3〜4%で発症すると報告されており、間隔の根拠は「今の所見」に置かれているわけです。
妊娠が分かったときは、定期の予定を待たずただちに眼科を受診する必要があります。網膜所見がなければ1回/6〜12か月、軽症または中等症の非増殖網膜症なら1回/3〜6か月、重症の非増殖網膜症以上なら1回/1〜3か月程度での診察が推奨されています。
出産を希望する場合は妊娠前の眼科受診が勧められており、出産後も網膜症が悪くなる危険が残るため受診の継続が必要です。妊娠の予定が立った時点で、内科と眼科の双方へ伝えておくと段取りが早く進みます。
足の定期検査は糖尿病のリスク区分でスケジュールが変わる
足は4段階のリスク区分で間隔が決まります。感覚の低下も血流の障害もなければ年1回、潰瘍や切断の既往があれば1〜3か月ごとが目安とされ、同じ糖尿病でも幅が大きい領域です。
靴下を脱いで診てもらう検査で確かめているもの
米国糖尿病学会は、糖尿病のある成人に少なくとも年1回の総合的な足の評価を行うよう求めています。診察では皮膚の状態、足の変形、10gモノフィラメントなどによる神経の検査、そして脚と足の脈の触知を組み合わせます。
細い糸で触れる検査は、守りの感覚が残っているかを見るためのものです。感覚が落ちていると小さな傷に気づけず、脈が触れにくければ傷が治りにくくなるため、この二つが区分の軸になります。
リスク区分で4段階に分かれる足の診察間隔
国際的な糖尿病足病変の作業部会がまとめた区分では、感覚と血流と既往の組み合わせで4段階に分けます。米国糖尿病学会もこの区分を引用し、区分ごとの診察頻度を示しています。
足のリスク区分と診察の頻度
| 区分 | 当てはまる状態 | 診察の頻度 |
|---|---|---|
| 0(とても低い) | 守りの感覚の低下も末梢動脈疾患もない | 年1回 |
| 1(低い) | 感覚の低下または末梢動脈疾患のどちらかがある | 6〜12か月ごと |
| 2(中等度) | 上の二つの組み合わせ、または足の変形を伴う | 3〜6か月ごと |
| 3(高い) | 感覚低下か末梢動脈疾患に加え、足潰瘍や切断の既往、腎不全がある | 1〜3か月ごと |
この頻度が専門家の合意に基づく目安である点は、米国糖尿病学会の表にも注記されているとおりです。加えて、感覚の低下や潰瘍・切断の既往がある人については、受診のたびに足を診てもらうよう勧められています。
次の予約を待たずに連絡したい足の変化
定期の間隔は、あくまで何も起きていないあいだの予定です。潰瘍や原因の分からない腫れ、赤み、皮膚が熱を持つ変化が出たときは、急いで足の専門的な診療へつなぐよう国際的な指針も求めています。
- 治らない傷、水ぶくれ、靴ずれ
- 赤み、腫れ、片方だけ熱い感じ
- 黒っぽく変色した部分
- においの変化や、じくじくした滲み
- 急に強くなった痛み、あるいは痛みのない深い傷
たこや厚くなった爪を自分で削ったり切ったりする対処は、かえって傷を作る引き金になります。毎日の足の見回りは自分で行い、手当てが要る変化を見つけたら医療機関へ持ち込む、という役割分担が安全です。
歯科と神経の定期検査も糖尿病のスケジュールに入れる
予定表から抜け落ちやすいのが歯科と神経の検査です。歯ぐきの炎症は血糖と互いに影響し合い、神経の評価は足のリスク区分そのものを決めるため、どちらも後回しにしにくい位置にあります。
歯ぐきの炎症と血糖はお互いに影響し合う
歯周炎と糖尿病の両方がある人を対象にした35件の無作為化比較試験、計3,249人をまとめた系統的レビューがあります。
歯石や歯垢を歯ぐきの下から取り除く治療を受けた群では、3〜4か月後のHbA1cが0.43%(4.7mmol/mol)低く、95%信頼区間は−0.59%から−0.28%でした。
この結果の確実性は中程度と評価されており、参加者のほとんどは2型糖尿病でした。歯の治療が血糖の管理と地続きだという見方は、こうした積み重ねから来ています。
歯科の間隔は歯ぐきの状態しだいで動く
歯科の受診間隔については、糖尿病だから何か月ごと、と一律に定めた国内の基準は見当たりません。歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯みがきの届き具合、喫煙の有無などを見たうえで、歯科医が次の予定を決める形になります。
受診のときに糖尿病で通院中であることを伝えておくと、歯ぐきの評価の重みが変わります。内科の受診間隔とそろえる必要はなく、歯科は歯科の物差しで組んでかまいません。
しびれや痛みを診る検査は年1回が下敷きになる
米国糖尿病学会は、2型糖尿病では診断されたときから、1型糖尿病では診断の5年後から、以後は少なくとも年1回、末梢神経障害の評価を行うよう示しています。しびれや痛みの自覚がなくても評価の対象です。
評価には、温度覚か痛覚のような細い神経の働きと、128Hzの音叉で調べる振動覚のような太い神経の働きの両方が含まれます。潰瘍や切断の危険がある足を見つけるため、10gモノフィラメントの検査も年1回行うよう勧められています。
糖尿病の定期検査スケジュールを続けるための段取り
決めた間隔を守れるかどうかは、記憶ではなく段取りで決まります。見えているうち、痛くないうちほど予約は飛びやすく、間が空くほど再開のきっかけをつかみにくくなるものです。
通院が途切れるのは症状が軽いときほど起こる
通院の中断は、治療が要る段階まで進んだ増殖網膜症や糖尿病黄斑浮腫の患者でも起きると報告されています。目の治療を受けている最中ですら途切れるのですから、まだ所見の軽い段階ならなおさらでしょう。
だからこそ、受診率を上げる工夫はこれまで数多く試されてきました。案内はがきや電話、他科の予約とまとめる方法など、仕組みで支える発想が世界中で研究されています。
次の予約をその場で取り、1枚にまとめる
いちばん確実なのは、診察室を出る前に次の予約を取ってしまう方法です。そのうえで、部位ごとにばらばらな予定を1枚の紙かスマートフォンのメモへ集めると、抜けている検査がひと目で分かります。
- 眼科の次回予定と、前回言われた網膜症の病期
- 尿アルブミンと腎機能を最後に測った月
- 足を診てもらった月と、伝えられたリスク区分
- 歯科の次回予定
- 直近のHbA1cと、その測定日
糖尿病連携手帳のように、複数の科の記録を1冊に集める道具もあります。手元にあるものを使い、家族が見ても分かる形にしておくと、体調を崩したときの助けになるでしょう。
転院や引っ越しのときに持っていく情報
医療機関が変わると、間隔を決める根拠はいったん途切れてしまうものです。網膜症の病期、尿アルブミンの値と測った時期、足のリスク区分、直近のHbA1cの4つがそろっていれば、新しい主治医は初回から間隔を組み直せます。
紹介状が用意できるならそれが最も確実ですが、間に合わないときは検査結果の写しや手帳の該当ページを持参する方法もあります。
費用や回数の扱いは窓口で確かめる
検査の費用や、どの検査をどれだけの間隔で受けられるかの扱いは、加入している制度や医療機関によって変わります。この記事では金額や回数の制度上の決まりには触れないので、実際の負担は受診先の窓口で確かめるのが確実です。
負担が重くて間隔を延ばそうか迷うときも、黙って先延ばしにするより主治医へ相談したほうが道が開けます。優先順位を付け直す、実施の場所を変えるなど、間隔を保ったまま調整できる余地は残っています。
よくある質問
- Q糖尿病の定期検査は自覚症状がなくても受ける必要がありますか?
- A
症状がない時期こそ検査の出番だと考えられています。網膜症も腎症も神経障害も、初期には痛みや見えにくさをほとんど伴わないまま進むためです。
実際、国内の診療ガイドラインは、2型糖尿病の患者全体では約30%が診断の時点ですでに網膜症を発症していると示しています。自覚のあるなしと、体の中の変化は別々に動いていると考えたほうが安全です。
- Q糖尿病の定期検査で眼科に行く間隔はどのくらいですか?
- A
国内の診療ガイドラインは、網膜症がなければ1年に1回、単純網膜症なら6か月に1回、増殖前網膜症なら2か月に1回、増殖網膜症なら1か月に1回を目安として示しています。
ただしガイドライン自身が、これは目安であり個別の対応が必要だと断っています。高血糖が続くときは網膜症がなくてもより短い間隔を検討するとされており、最終的には眼底を見た眼科医の指導に従う形になります。
- Q糖尿病の足の検査は何を調べるのですか?
- A
確かめるのは、皮膚の状態、足の変形、神経の働き、そして脚と足の脈の触れ方です。神経の検査には10gモノフィラメントという細い糸が使われ、痛覚や温度覚、振動覚も合わせて調べます。
この所見から、感覚の低下と血流の障害、既往の有無を組み合わせて4段階のリスク区分が決まります。区分は年1回から1〜3か月ごとまでの診察頻度に対応しており、次の予約日の根拠になります。
- Q糖尿病の定期検査を何年も受けていないときはどうすればよいですか?
- A
間が空いたぶんを取り返そうとせず、まず内科の受診から組み直すのが近道です。血糖の状態と腎臓の数値が分かれば、眼科や足の診察をどの順で入れるかも決めやすくなります。
長く空いた人ほど、通院の中断そのものが珍しくないと知っておくと再開しやすいでしょう。増殖網膜症や黄斑浮腫の治療中でさえ中断は起きると報告されており、責める材料にはなりません。
- Q糖尿病の定期検査のスケジュールは自分で決めてもよいですか?
- A
間隔を決めるには、網膜症の病期や腎臓の区分、足のリスク区分といった所見が要ります。所見は診察と検査でしか分からないため、間隔そのものを自分で決めるのは難しいと考えられます。
一方で、次の予約を診察室で取る、記録を1枚にまとめる、変化があればその場で連絡するといった段取りは自分の側で整えられます。仕事や介護の都合で通いにくい事情があるなら、率直に伝えると調整の余地が生まれます。


