国内8つのコホート研究、あわせて33万人以上を追った解析では、糖尿病のある人の全がん発症がおよそ2割多いと報告されています。ただしこの2割は部位をひとまとめにした平均であり、どのがんも同じように増える数字ではありません。

上昇の報告が重なるのは肝臓・膵臓・結腸のあたりで、いっぽう前立腺がんはむしろ低いという報告が続いています。向きが揃っていない点は、自分の不安の大きさを測るうえで手がかりになります。

さらに肥満や喫煙のように両方を増やす要素も絡んでおり、単純な因果では説明しきれません。相対の倍率と実際の人数、そして検診で手が届く範囲まで順に整理します。

目次

糖尿病があるとがんのリスクはどのくらい上がる?

全体をならすと約2割増、というのが日本人を対象にした解析の答えです。倍に跳ね上がる種類の数字ではなく、生活習慣の影響と重なりながらじわりと上乗せされる程度の幅だと受け止めておくと、実像に近づきます。

日本人33万人のデータが示す上乗せ幅

国内8つのコホート研究をまとめた解析では、あらかじめ糖尿病があった人で全がんの発症がおよそ20%多いと報告されました。対象は33万人を超えており、日本人の体格や生活習慣を反映した数字である点に値打ちがあります。

もっとも、各研究のハザード比を寄せ集めた値なので、どの要素をどこまで統計的に差し引いたかは研究ごとに違います。喫煙や体重の影響がきれいに消えたわけではない、という前提で読むほうが正確でしょう。

同じ倍率でも、もとの発生率で意味が変わる

相対リスクが示すのは「何倍か」だけであり、実際に何人ぶん増えるかは、そのがんがもともとどれくらい起きるかで決まります。発生のまれながんであれば、1.5倍という数字が動かす人数はごくわずかにとどまります。

上海で新たに2型糖尿病と診断された428,362人を8年追った研究では、膵がんの発症は年間10万人あたり55.28人でした。一般人口と比べた標準化発症比は1.54(95%信頼区間1.45〜1.64)で、倍率としては1.5倍を超えます。

裏返せば、10万人のうち99,900人以上はその年に膵がんと診断されていません。倍率の大きさと、実際に起こる頻度の低さは同時に成り立ちます。

相対リスクだけを見ると不安が育ちやすい

「1.5倍」と聞くと、半数近くが病気になるかのような印象を受けますが、実際にはもとの数字が小さければ増える人数も小さいままです。数字を受け取るときは、倍率と実数の両方を並べて眺めると、感覚が現実に近づきます。

不安が強いほど検査を先延ばししたくなる、という逆向きの反応も起こりがちです。等身大の数字をつかんでおけば、必要な検診には落ち着いて手が伸びます。

数字の見方何を表すか上海の研究での膵がんの例
相対リスク(標準化発症比)一般人口の何倍か1.54倍(1.45〜1.64)
絶対リスク(発症率)1年間に何人が発症するか10万人あたり55.28人
発症しなかった人その1年に診断されなかった人10万人のうち99,900人以上

糖尿病とがんのリスクは部位ごとに向きが違う

上がる部位と、変わらない部位と、下がる報告のある部位が同居しています。肝臓・膵臓・結腸では上昇の報告が重なる一方、前立腺がんは低いという報告が続いており、まとめて「がんが増える」と言い切れる状態にはありません。

がんの部位国内8コホート解析のハザード比補足
肝臓1.97統計的に有意な上昇
膵臓1.85統計的に有意な上昇
結腸1.40統計的に有意な上昇
胆管1.66男性のみで有意
全がん約20%増部位をならした平均

肝臓・膵臓・結腸で上昇の報告が重なる

国内の解析で統計的にはっきりした上昇を示したのは、結腸1.40、肝臓1.97、膵臓1.85、そして男性の胆管1.66でした。肝臓と膵臓は、糖尿病そのものと臓器の障害が近い位置にあるため、値も大きく出ています。

米国南部で54,597人を追った研究でも、糖尿病のある人の大腸がん発症のハザード比は1.47(1.21〜1.79)でした。ただし参加者の66%がアフリカ系で、半数以上が年収1万5千ドル未満という構成なので、日本の外来とは背景が違います。

胃がんは血糖の状態と段階的に結びつく

韓国で20〜49歳の2,439,112人を2012年から2022年まで追った研究では、血糖の状態が悪いほど若い世代の胃がんが増えました。1,000人年あたりの発症は、正常血糖0.23、空腹時血糖異常0.30、糖尿病歴5年以上0.62と段階的に並びます。

調整後のハザード比は、新たに診断された糖尿病で1.27(1.07〜1.52)、罹病5年未満で1.36(1.07〜1.74)、5年以上で1.53(1.17〜2.01)でした。期間が長いほど値が上がる形は、逆の因果では説明しにくい並びです。

いっぽうでこの研究はピロリ菌感染の情報を持っておらず、胃がんの最も大きな要因を差し引けていません。著者ら自身が限界として明記しており、そのまま日本人に当てはめる数字ではありません。

前立腺がんが低く出るのはなぜ?

イスラエルの男性1,034,074人を2002年から2012年まで追った研究では、糖尿病を発症した男性の悪性度が低い前立腺がん(グリソンスコア2〜6)のハザード比が0.83(0.77〜0.89)でした。

ところが悪性度の高い腫瘍(同7〜10)では0.99(0.88〜1.11)となり、差がありません。低く出ているのは、たちのおとなしい腫瘍だけという構図です。

同じ研究では、糖尿病のある男性のほうがPSA検査を約10%多く受けていたにもかかわらず、基準値の4µg/Lを超えた割合は20%低いという結果でした。腫瘍が少ないというより、PSAの値が低めに出るために見つかりにくい可能性を著者らは挙げています。

つまり「前立腺がんが減る」は、守られているという意味とは限りません。糖尿病のある男性ほど、検査値の解釈に注意が要るという読み方のほうが実際に近いでしょう。

1型糖尿病では全体が上がらない報告も

フィンランドで1型糖尿病の5,035人と糖尿病のない14,061人を比べた研究では、全がんの標準化発症比は全体で1.14(1.05〜1.24)でした。ところが腎移植を受けていない人に限ると0.92(0.83〜1.01)となり、上昇は消えています。

上昇の大部分は腎移植を受けた人に集中しており、その群では4.78(4.02〜5.64)まで跳ね上がっていました。免疫を抑える治療の影響が大きいと考えられ、糖尿病そのものの影響とは切り分けて読む必要があります。

移植を受けていない人では、前立腺がん0.54(0.37〜0.76)と低い側に出ました。甲状腺がんだけは移植の有無にかかわらず高く、移植なしでも2.14(1.39〜3.16)です。

糖尿病とがんのリスクをつなぐ道すじと共通の生活習慣

血糖やインスリンが直接がんを育てる説明だけでは、観察された関連は説明しきれません。肥満・喫煙・運動不足は糖尿病とがんの両方を増やす要素であり、どこまでが糖尿病自身の影響かを切り分ける作業は簡単ではありません。

高い血糖とインスリンが働きかける道すじ

2型糖尿病では、血糖を下げようとして血中のインスリンが高い状態が長く続きます。インスリンや類縁の成長因子には細胞の増殖を促す働きがあるため、がんの発生を後押しする道すじとして以前から挙げられてきました。

上海の研究では、空腹時血糖が10.0mmol/L以上の人で膵がんが多く、遺伝情報を用いた解析でも2型糖尿病と膵がんの正の関連が示されています。ただし観察で見えた関連であり、血糖を戻せば同じ分だけリスクも戻るとまでは示されていません。

喫煙とお酒は糖尿病とがんに共通する危険因子

糖尿病を増やす生活習慣と、がんを増やす生活習慣は、かなりの部分で重なっています。そのため糖尿病がある集団では、糖尿病がなくてもがんが多くなりやすい条件が最初からそろっている、という事情があります。

  • 喫煙
  • 習慣的な飲酒
  • 体重と内臓脂肪の増加
  • 体を動かす機会の少なさ

韓国の若い世代を追った研究でも、現在の喫煙と、軽度から中等度・多量のいずれの飲酒も、血糖の状態にかかわらず胃がんを押し上げていました。しかもその上乗せは、糖尿病のある群でいちばん大きく出ています。

関連と原因を同じ扱いにしない

観察研究が示せるのは、2つが一緒に起こりやすいというところまでです。糖尿病で定期的に通院していれば採血や画像の機会が増え、症状の出ていないがんがたまたま見つかる場面も出てきます。

先ほどの韓国の研究でも、著者らは見つかりやすさの偏りを限界として挙げていました。関連の一部は病気そのものではなく、医療に触れる回数の差から生まれている可能性があります。

新しく糖尿病と言われた直後が膵がんのリスクは最も高い

膵がんとの関連は、ほかの合併症とは逆向きの形をとります。診断からの1か月がいちばん高く、そこから時間とともに下がっていくのです。すでにあった膵がんが血糖を押し上げていた場合が混じるためです。

糖尿病と診断されてからの期間55歳でのハザード比75歳でのハザード比
1か月14.79.6
3か月7.85.8
6か月5.64.1
1年3.92.8

上の値は、米国の保険請求データで白人男性について推定された数字です。人種・性別・年齢によって大きく変わるため、そのまま自分に重ねて読むわけにはいきません。

時間とともに下がるカーブが語るもの

もし糖尿病そのものが年月をかけて膵がんを育てるのであれば、罹病期間が長いほど数字は上がっていくはずです。実際の形はその逆で、診断の直後に最も高く、そこから右肩下がりに落ちていきます。

すでに存在していた膵がんが膵臓の働きを削り、その結果として血糖が上がっていたと考えると、この形はうまく説明できます。新しく見つかった糖尿病の一部が、膵がんの最初の表れになっている場合があるわけです。

とはいえ、新規に糖尿病と診断された人の大半は、この経路とは無関係です。あくまで一部に混じっている、という重みで受け止めるのが妥当でしょう。

1年間に膵がんと診断される確率はどのくらい?

同じ米国の研究では、75歳の白人男性で新たに糖尿病と診断された場合、1年以内に膵がんと診断される確率は0.45%(0.41〜0.49%)と推定されました。糖尿病のない同年代では0.090%(0.084〜0.096%)です。

55歳ではそれぞれ0.15%(0.13〜0.16%)と0.022%(0.020〜0.023%)になり、年齢が下がるほど倍率は大きく、実数は小さくなります。いずれの条件でも、100人のうち99人以上はその1年に膵がんと診断されていません。

体重が落ちる・血糖が急に悪くなるときは早めに相談を

上海の研究では、20〜54歳で2型糖尿病と診断された群の標準化発症比が5.73(4.49〜7.22)と、高齢で診断された群より際立って高い値でした。若い年代で急に血糖が悪くなった場合は、背景を確かめる価値があります。

食事を減らしていないのに体重が落ちる、上腹部や背中の重い痛みが続く、皮膚や白目が黄色くなる、といった変化があるときは、次の予約を待たずに主治医へ伝えるほうが安全です。血糖の数値だけを見て自分で判断せず、症状のほうを言葉にして伝えると話が早く進みます。

糖尿病の薬とがんのリスクをめぐる報告をどう受け止めるか

薬とがんの関係は、増える側も減る側もまだ決着していません。はっきりしているのは、いま処方されている薬を自分の判断でやめると、血糖の悪化という確実な不利益のほうが先に来るという点です。

メトホルミンでがんが減ったと見えた集計の落とし穴

メトホルミンががんを減らすとする報告は数多く出ましたが、その多くは不死時間バイアスと呼ばれる時間の数え方の誤りを含んでいました。薬を飲み始めるまでの、がんになりようがない期間まで服用群に足してしまう誤りです。

胃がんについてまとめた解析では、このバイアスを含む6件で相対リスク0.67(0.59〜0.77)と3割以上の低下に見えたのに、バイアスのない8件では0.95(0.85〜1.05)となり差が消えました。

予防を目当てに飲む薬ではない、と考えるのが今のところ妥当です。血糖を下げる薬として処方されている以上、その役割で評価するのが筋でしょう。

GLP-1受容体作動薬で膵がんは増えたのか?

イスラエルで糖尿病を発症した543,595人を追った研究では、GLP-1受容体作動薬を使った人の膵がん発症が基礎インスリンと比べて増えてはいませんでした。開始から5〜7年後を重視した推定でハザード比0.50(0.15〜1.71)です。

信頼区間が1をまたいで広いため、減らすとも言い切れません。著者らも、7年より先の期間については引き続き観察が要ると述べており、決着済みの話題としては扱われていません。

自分の判断でやめると失うもののほうが大きい

不確かな関連を避けるために薬を止めると、血糖の悪化という確実な害を引き受ける形になります。心臓や腎臓、目を守る効果は積み上がった証拠に支えられており、天秤の傾きははっきりしています。

気になる報道に出会ったときは、自己判断で減らす前に、次の受診で薬の名前を挙げて相談するのが確実です。不安の中身を具体的に伝えるほど、主治医も答えを返しやすくなります。

  • 報道で不安になったら次の受診で確認する
  • 飲んでいる薬の名前と量を控えておく
  • 急な体重減少や続く腹痛は別の相談として持ち込む

糖尿病があるからこそがん検診を受けておきたい理由

糖尿病で毎月のように通院していても、がん検診は自動的には付いてきません。国が指針で定める対策型のがん検診は5種類あり、どれも糖尿病の外来とは別の枠組みで受けるものです。

国が指針で定める5つのがん検診

市区町村が実施する対策型のがん検診は、胃・大腸・肺・乳房・子宮頸部の5つを対象にしています。対象年齢と受診間隔は種類ごとに違い、内容も見直されるため、実際に受ける前に自治体の案内で確かめると確実です。

がんの種類対象年齢受診間隔
50歳以上2年に1回
大腸40歳以上1年に1回
40歳以上1年に1回
乳房40歳以上2年に1回
子宮頸部20歳以上2年に1回

子宮頸がんについては、30歳以上を対象にHPV検査単独法を5年に1回とする方法も指針に入っています。上の一覧は国立がん研究センターのがん情報サービスに掲載された内容にもとづくもので、最終的な確認は自治体の案内で行うのが安全です。

検診を受けていない人ほど関連が強く出た

米国南部の研究では、大腸内視鏡を受けていない人でハザード比が2.07(1.16〜3.67)、喫煙歴のある人で1.62(1.14〜2.31)と、糖尿病と大腸がんの関連が強く出ました。内視鏡を受けている人では、この関連が弱まっています。

著者らは、検診を受けていれば糖尿病にともなう不利が途中で断ち切られる可能性を挙げています。上乗せされたリスクのうち、手の届く部分が検診に残されている、という読み方ができます。

膵がんを早く見つける検診はまだ確立していない

新しく糖尿病と診断された50歳以上を対象に、血液の指標で膵がんを早く見つける方法の費用対効果を試算した2025年の研究では、いずれの方法も現在の標準的な診療を上回りませんでした。英国の医療費データを用いたモデル研究です。

2種類の指標を順番に用いる方法が最も良い成績でしたが、それでも費用対効果の基準には届いていません。研究として進んでいる段階であり、自費の検査を急いで受ける根拠にはならない、というのが現時点の位置づけです。

通っているからこそ抜け落ちやすい

糖尿病の外来で確認するのは血糖・血圧・腎機能・眼底といった項目が中心で、胃や大腸、乳房を調べる検査は含まれていません。定期的に医療機関へ通っている安心感が、かえって検診の未受診につながる場面もあります。

自治体の案内が届いたら、糖尿病の予約と並べて予定を立てておくと取りこぼしが減ります。血糖の管理とがんの早期発見は、別の道すじで同時に進めるものだと考えておくとよいでしょう。

よくある質問

Q
糖尿病があると、がんのリスクはどの部位でも上がりますか?
A

部位によって向きが違います。国内8つのコホート研究をまとめた解析では、肝臓1.97、膵臓1.85、結腸1.40と上昇が報告される一方、前立腺がんはむしろ低いとする報告が各国から続いています。

全体をならした平均が約20%増という数字であり、これは部位ごとの差を平らにした値です。上昇が示された部位でも、実際に起こる頻度そのものは高くありません。

Q
糖尿病の通院を続けていれば、がん検診は受けなくてもよいですか?
A

糖尿病の外来で行う検査と、がん検診は別の枠組みです。血糖や腎機能、眼底の確認をどれだけ丁寧に受けていても、胃や大腸、乳房のがんを探す検査はそこに含まれていません。

対策型の検診は市区町村から案内が届きます。通院の予約とは別に日程を決めておくと、取りこぼしが起こりにくくなります。

Q
糖尿病と診断されたばかりですが、膵臓の検査を受けたほうがよいですか?
A

一律に必要とまでは言えません。米国の保険請求データでは、75歳の白人男性で新たに糖尿病と診断された人が1年以内に膵がんと診断される確率は0.45%で、糖尿病のない同年代の0.090%より高い一方、100人のうち99人以上は診断されていません。

ただし食事を減らしていないのに体重が落ちる、上腹部や背中の痛みが続くといった変化があれば話は別です。次の予約を待たずに主治医へ伝え、検査の要否を一緒に決めるのが安全です。

Q
血糖値を下げれば、糖尿病によるがんのリスクも下がりますか?
A

そこまでは確かめられていません。血糖の状態が悪いほどがんが多いという観察は積み重なっており、韓国の研究でも糖尿病歴が長いほど胃がんが増えていました。

ただし観察研究は、治療で数値を戻せば同じ分だけリスクも戻るかまでは示せません。血糖の管理には心臓や腎臓、目を守るという確かな理由があり、そちらを目的に続けるのが現実的です。

Q
糖尿病の薬でがんが増えると聞きましたが、やめたほうがよいですか?
A

自分の判断で中止しないでください。GLP-1受容体作動薬と膵がんを調べたイスラエルの研究では、開始から7年の範囲で増加を支持する結果は出ていません。逆に、メトホルミンががんを防ぐとした報告も、時間の数え方の誤りを取り除くと差が消えました。

増える側も減る側も確定していないのが実情です。気になる報道があれば、薬の名前を挙げて次の受診で主治医に確かめるほうが、自己判断で減らすより安全に進みます。

参考にした文献