感染症の一種である骨盤内炎症性疾患(PID)とは、女性の生殖器官に細菌が侵入して炎症を引き起こす病気です。主な原因は性行為による性感染症で、若い女性に多く見られます。

この病気では、子宮や卵管、卵巣などの骨盤内臓器に炎症が広がります。下腹部の痛みや発熱、不正出血などの症状が現れますが、無症状の場合もあります。

早期発見と適切な対応が大切です。放置すると不妊症や慢性的な骨盤痛を引き起こす可能性があるため、気になる症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。

目次

骨盤内炎症性疾患(PID)の主要症状

骨盤内炎症性疾患(PID)は、女性特有の感染症で、多様な症状を引き起こします。その症状の程度は個人差が大きく、軽微なものから重篤なものまで幅広く現れます。

下腹部痛:PIDの代表的な症状

PIDの最も顕著な症状は下腹部痛です。この痛みの強さは、軽度から激烈なものまでさまざまです。多くの場合、両側の下腹部に痛みを感じますが、片側のみの場合もあります。

痛みの性質は多岐にわたり、鈍痛から鋭痛まで様々です。また、持続的な場合もあれば、断続的に生じる場合もあります。

下腹部痛は、日常生活に支障をきたすほど強くなることもあります。さらに、性交渉時や月経中に痛みが増強することがあります。

このような症状が継続する場合、医療機関での精査が望ましいでしょう。

痛みの特徴詳細
発生部位主に下腹部(両側または片側)
性質鈍痛から鋭痛まで多様
持続性持続的または断続的
悪化要因性交渉、月経

異常な膣分泌物:感染の兆候

PIDに罹患すると、膣分泌物の量や性状に変化が現れます。通常の分泌物と比較して、以下のような特徴が見られます。

  • 分泌量の増加
  • 色調の変化(黄色や緑色)
  • 不快な臭気
  • 粘稠度の上昇

これらの変化は、骨盤内の炎症や感染を示す重要なサインです。特に、通常とは異なる臭いや色の変化を感じた場合は注意が必要です。

ただし、膣分泌物の変化は他の婦人科疾患でも起こるため、自己判断せずに医療機関での診断を受けることが重要です。

発熱と全身症状:体の警告信号

PIDが進行すると、発熱や全身症状が現れます。これらの症状は、体が感染と闘っていることを示す重要な指標です。

症状特徴
発熱37.5℃以上の体温上昇
悪寒体が震えるような寒気
倦怠感全身のだるさ
吐き気・嘔吐食欲不振を伴うことも

これらの症状が下腹部痛や異常な膣分泌物と併せて現れた場合、PIDの可能性が高まります。特に、38℃以上の高熱が続く場合は、速やかに医療機関を受診することが不可欠です。

不規則な出血:月経周期の乱れ

PIDに罹患すると、月経周期に乱れが生じます。具体的には、以下のような症状が現れます。

  • 月経期間外の不正出血
  • 月経量の増加
  • 月経痛の悪化
  • 月経周期の不規則化

これらの症状は、PIDによる子宮内膜や卵巣への影響を示唆しています。特に、普段の月経パターンと明らかに異なる出血や、持続的な不正出血がある場合は、医療機関での精査が必要です。

排尿時の不快感:尿路への影響

PIDが進行すると、尿路にも影響を及ぼします。主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 排尿時の痛みや灼熱感
  • 頻尿
  • 尿意切迫感

これらの症状は、膀胱炎や尿道炎と類似していますが、PIDの場合は下腹部痛や発熱などの他の症状も併せて現れることが多いです。

尿路症状だけでなく、他の症状も総合的に評価することが診断の鍵となります。

症状PIDの特徴単純な尿路感染症との相違点
排尿時の不快感下腹部痛や発熱を伴うことが多い通常は局所症状のみ
頻尿骨盤内の炎症による二次的症状の可能性主要症状の一つ
尿意切迫感他の骨盤内症状と併存単独で現れることが多い

PIDの症状は多岐にわたり、個人差も大きいため、自己診断は避けるべきです。上記の症状のいくつかが現れた場合、特に下腹部痛や異常な膣分泌物がある場合は、婦人科医の診察を受けることをお勧めします。

原因

骨盤内炎症性疾患(PID)の原因は多岐にわたり、性感染症から日常生活での習慣まで、様々な要因が関与します。

細菌感染:PIDの主要な原因

PIDの最も一般的な原因は細菌感染です。特に、性行為を通じて感染する細菌が主な原因となります。代表的な起因菌には以下のようなものが挙げられます。

  • クラミジア・トラコマティス
  • 淋菌
  • マイコプラズマ・ジェニタリウム
  • 嫌気性細菌

これらの細菌は、通常、膣や子宮頸管に存在していますが、何らかの理由で上部生殖器官(子宮、卵管、卵巣)に侵入すると、炎症を引き起こしPIDの発症につながります。

起因菌特徴
クラミジア・トラコマティス最も一般的なPIDの原因菌、無症状感染が多い
淋菌急性の症状を引き起こしやすい
マイコプラズマ・ジェニタリウム慢性的な炎症を引き起こす傾向がある
嫌気性細菌他の細菌と共に複合感染を起こしやすい

これらの細菌は、単独で感染を引き起こすこともありますが、複数の細菌が同時に感染する複合感染も珍しくありません。複合感染の場合、症状が重症化しやすく、治療も複雑になる傾向にあります。

性行為:感染リスクを高める主要因

PIDの発症リスクを高める最大の要因は性行為です。特に、以下のような性行動はリスクを増大させます。

  • 複数のパートナーとの性交渉
  • コンドームを使用しない性交渉
  • 新しいパートナーとの性交渉

これらの行動は、性感染症に罹患するリスクを高め、結果としてPIDの発症につながります。特に若年層の女性は、解剖学的な理由や免疫系の未発達により、PIDのリスクが高いとされています。

性行動リスク増大の理由
複数パートナー感染源との接触機会の増加
コンドーム不使用細菌の直接的な接触機会の増加
新パートナー未知の感染源との接触

性行為に関連するリスクを軽減するためには、安全な性行為の実践が重要です。これには、コンドームの適切な使用や、定期的な性感染症検査の受診が含まれます。

医療処置:意図せぬ感染経路

医療処置もPIDの原因となり得ます。特に、子宮内に器具を挿入する処置は、細菌を上部生殖器官に運ぶリスクがあります。具体的には以下のような処置が挙げられます。

  • 子宮内避妊器具(IUD)の挿入
  • 子宮内膜生検
  • 人工妊娠中絶

これらの処置自体は安全に行われますが、処置前に存在していた膣内の細菌が、処置中に上部生殖器官に運ばれる可能性があります。そのため、これらの処置を受ける前に、性感染症の検査を受けることが推奨されます。

医療処置PIDリスクとの関連
IUD挿入挿入直後の感染リスク増加
子宮内膜生検細菌の上行性感染の可能性
人工妊娠中絶処置後の感染リスク

医療処置に関連するPIDのリスクを最小限に抑えるためには、処置前の適切な検査と、処置後の慎重な経過観察が重要です。

生理的要因:自然な防御機能の変化

女性の体には、上部生殖器官を感染から守る自然な防御機能がありますが、これらの機能が低下することでPIDのリスクが高まることがあります。主な生理的要因には以下のようなものがあります。

  • 月経
  • 妊娠
  • 出産後

月経中は、子宮頸管が開きやすくなり、細菌が上部生殖器官に侵入しやすくなります。また、妊娠中や出産直後は、ホルモンバランスの変化や身体的ストレスにより、免疫機能が一時的に低下することがあります。

これらの生理的変化は自然なものですが、この時期には特に衛生管理に注意を払う必要があります。

その他のリスク要因:生活習慣と環境

PIDの発症リスクは、生活習慣や環境要因によっても影響を受けます。以下のような要因が、PIDのリスクを高める可能性があります。

  • 喫煙
  • ストレス
  • 不適切な膣洗浄
  • 低栄養状態
  • 免疫機能の低下

例えば、喫煙は生殖器の血流を悪化させ、免疫機能を低下させることで、PIDのリスクを高めます。また、過度のストレスは免疫系に悪影響を与え、感染に対する抵抗力を弱めます。

リスク要因影響
喫煙生殖器の血流悪化、免疫機能低下
ストレス免疫系の機能低下
不適切な膣洗浄正常な膣内細菌叢の乱れ
低栄養状態全身の抵抗力低下

これらのリスク要因は、直接的にPIDを引き起こすわけではありませんが、体の防御機能を弱めることで、感染のリスクを高めます。健康的な生活習慣を維持することが、PIDの予防に重要な役割を果たします。

PIDの原因とリスク要因は多岐にわたりますが、その中でも性感染症が最も重要な原因であることを認識し、適切な予防策を講じることが大切です。定期的な健康診断や、安全な性行為の実践など、自身の健康管理に積極的に取り組むことが、PIDの予防につながるのです。

女性の健康を守るためには、これらのリスク要因を理解し、適切な予防措置を講じることが不可欠です。自身の体調の変化に敏感になり、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することをお勧めいたします。

骨盤内炎症性疾患(PID)の診察と診断

骨盤内炎症性疾患(PID)の診断は、多角的な検査と評価を組み合わせて行われます。

初診時の問診:患者の背景を探る重要な第一歩

PIDの診断プロセスは、綿密な問診から始まります。医師は患者の症状や経過、既往歴、性生活の状況などについて丁寧に聴取します。

この段階で得られる情報は、その後の診察や検査の方向性を決定する上で極めて重要な役割を果たします。

問診では以下のような項目について確認が行われます。

  • 現在の症状とその持続期間
  • 過去の性感染症罹患歴
  • 性行為の頻度や最近のパートナーの変更
  • 避妊方法(特にIUD(子宮内避妊具)の使用)
  • 月経周期や不正出血の有無
  • 妊娠の可能性

これらの情報は、PIDの可能性を評価する上で欠かせません。特に、性感染症の既往や最近の性行為パターンの変化は、PIDのリスク評価に直結するのです。

問診項目診断上の意義
症状の詳細PIDの典型的な症状との一致を確認
性感染症既往PIDのリスク評価に重要
避妊方法IUD使用はPIDリスク上昇の一因
月経周期異常PIDによる影響の可能性を示唆

問診で得られた情報は、その後の身体診察や検査の方針を決定する上で重要な役割を果たします。患者自身が気づいていない症状や関連する情報が明らかになることもあるため、正直かつ詳細な回答が求められるのです。

身体診察:PIDの物理的兆候を探る

問診に引き続き、医師は詳細な身体診察を実施します。PIDの診断において、身体診察は非常に重要な役割を担います。主な診察項目には以下のようなものが含まれます。

  • 下腹部の圧痛の有無と程度
  • 子宮や付属器の触診
  • 子宮頸部の動揺痛(cervical motion tenderness)の確認
  • 膣分泌物の性状観察

これらの診察を通じて、医師はPIDの典型的な徴候を丹念に探ります。特に、子宮頸部の動揺痛は、PIDの診断において重要な所見の一つとされています。

診察項目所見の意義
下腹部圧痛骨盤内の炎症を示唆
子宮頸部動揺痛PIDの特徴的所見
付属器腫大卵管や卵巣の炎症を示唆
異常な膣分泌物感染の存在を示唆

身体診察の結果は、PIDの診断をより確実なものにするとともに、他の骨盤内疾患との鑑別にも役立ちます。ただし、身体診察だけでPIDを確定診断することは困難であり、追加の検査が必要となるのです。

検査:PIDの確定診断に向けて

PIDの診断を確実にするため、様々な検査が実施されます。これらの検査は、感染の存在を確認し、その程度を評価するために不可欠です。主な検査項目には以下のようなものが含まれます。

  • 血液検査(白血球数、CRP値など)
  • 尿検査
  • 膣分泌物や子宮頸管分泌物の培養検査
  • 画像検査(超音波検査、CT、MRIなど)

これらの検査結果を総合的に評価することで、PIDの診断精度が向上します。例えば、血液検査で炎症反応の上昇が見られ、同時に培養検査で病原菌が検出されれば、PIDの可能性が高くなるのです。

検査項目目的と意義
血液検査炎症の程度を評価
培養検査起因菌の同定
画像検査骨盤内の炎症や膿瘍の有無を確認

検査結果の解釈には専門的な知識が必要であり、医師による総合的な判断が不可欠です。患者の症状や身体所見と合わせて、これらの検査結果を慎重に評価することで、PIDの確定診断に至るのです。

鑑別診断:PIDと似た症状を示す疾患との区別

PIDの症状は他の骨盤内疾患と類似していることがあるため、鑑別診断が重要となります。医師は、患者の症状や検査結果を慎重に評価し、PIDと以下のような疾患との区別を行います。

  • 虫垂炎
  • 子宮外妊娠
  • 卵巣嚢腫茎捻転
  • 子宮内膜症

これらの疾患は、PIDと似た症状を呈することがありますが、治療法が大きく異なるため、正確な鑑別が求められます。例えば、子宮外妊娠は緊急手術が必要な場合があり、PIDとの早期鑑別が生命予後に関わるのです。

鑑別疾患PIDとの類似点鑑別のポイント
虫垂炎下腹部痛痛みの位置、発熱パターン
子宮外妊娠下腹部痛、不正出血妊娠反応、超音波所見
卵巣嚢腫茎捻転急性腹痛突然の激痛、嘔吐
子宮内膜症慢性骨盤痛月経との関連、画像所見

鑑別診断の過程では、各疾患に特徴的な検査や所見を丁寧に評価します。これにより、PIDの正確な診断と適切な治療方針の決定が可能となるのです。

骨盤内炎症性疾患(PID)の画像所見:診断を導く視覚的証拠

骨盤内炎症性疾患(PID)のの画像所見について詳細に解説いたします。

超音波検査、CT、MRIなどの各種画像診断法で観察される特徴的な所見を紹介し、それぞれの検査法の利点と制約について触れます。

画像所見を正確に解釈することが、PIDの早期発見と適切な診断につながる道筋となるでしょう。

超音波検査:PID診断の最初の一手

超音波検査は、PIDの診断において最初に選択される画像診断法です。非侵襲的で放射線被曝がなく、リアルタイムで骨盤内の状態を観察できるという長所があります。

PIDの超音波所見には、以下のようなものが含まれます。

  • 子宮付属器の腫大
  • 卵管の拡張
  • 骨盤内の液体貯留
  • 卵巣周囲の炎症性変化

これらの所見は、PIDの進行度や重症度を評価する上で貴重な情報源となります。特に、卵管の拡張や骨盤内の液体貯留は、PIDを特徴づける所見とされています。

超音波所見意義
子宮付属器腫大炎症による組織の腫脹
卵管拡張膿瘍形成の可能性
骨盤内液体貯留炎症性滲出液の存在
卵巣周囲炎症卵巣への炎症波及

超音波検査は、外来でも簡便に実施できるため、PIDの経過観察にも適しています。ただし、肥満患者や腸管ガスが多い場合には、画質が低下する欠点があります。

CT検査:骨盤内構造の精密な評価

CT検査は、超音波検査よりも詳細に骨盤内の構造を評価することが可能です。PIDのCT所見には、次のようなものが含まれます。

  • 子宮付属器の腫大と境界不明瞭化
  • 骨盤内脂肪織の濃度上昇
  • 骨盤内液体貯留
  • 卵管膿瘍や卵巣膿瘍の形成

CTは特に、膿瘍形成の有無や範囲の評価に優れています。さらに、PIDの合併症である腹膜炎の診断にも有用性を発揮します。

CT所見臨床的意義
付属器腫大炎症の程度を反映
脂肪織濃度上昇周囲組織への炎症波及
液体貯留炎症性滲出液の存在
膿瘍形成重症化の指標

CTは放射線被曝を伴うため、若年女性への使用には慎重な判断が求められます。しかし、重症例や診断が困難な場合には、その詳細な画像情報が診断の決め手となることも少なくありません。

MRI検査:軟部組織の精密な評価

MRI検査は、軟部組織のコントラスト分解能に優れており、PIDの詳細な評価に適しています。MRIで観察されるPIDの主な所見には、以下のようなものがあります。

  • T2強調画像での子宮付属器の高信号
  • 拡散強調画像での高信号域
  • 造影後の子宮付属器の増強効果
  • 卵管の拡張と内容物の信号変化

MRIは特に、卵管や卵巣の微細な変化を捉えることができ、PIDの早期診断や他の骨盤内疾患との鑑別に威力を発揮します。

MRI所見解釈
T2高信号浮腫や液体貯留を反映
拡散制限炎症や膿瘍形成を示唆
造影増強効果活動性炎症の存在
卵管拡張卵管炎や卵管留水腫の可能性

MRIは放射線被曝がなく、軟部組織の評価に優れていますが、検査時間が長く、コストが高いという短所があります。そのため、通常は超音波やCTで診断が困難な場合や、詳細な評価が必要な場合に選択されることが多いのです。

画像診断の限界と総合的判断の必要性

画像診断は、PIDの評価において非常に有用ですが、いくつかの限界点も存在します。

  • 早期のPIDでは、明確な画像所見が現れないことがある
  • 非特異的な所見が多く、他の骨盤内疾患との鑑別が難しい場合がある
  • 患者の体型や検査時の条件により、画質が影響を受ける

このため、画像所見のみでPIDを確定診断することは困難です。画像診断は、臨床症状や検査所見と併せて総合的に判断されるべきなのです。

画像診断法長所短所
超音波簡便、非侵襲的検者依存性が高い
CT広範囲の評価が可能放射線被曝がある
MRI軟部組織の詳細な評価高コスト、長時間

画像診断の結果は、常に患者の臨床像と照らし合わせて解釈する必要があります。また、経時的な変化を追跡することで、より正確な診断と経過評価が可能となるのです。

治療方法と薬、治癒までの期間

骨盤内炎症性疾患(PID)の治療は、主に抗生物質療法を軸に展開されます。

抗生物質療法:PID治療の核心

PIDの治療において、抗生物質療法は中心的役割を担います。通常、複数の抗生物質を組み合わせて使用するのが一般的です。これは、PIDが複数の細菌によって引き起こされることが多いためです。

主に使用される抗生物質には、以下のようなものが挙げられます。

  • セフトリアキソン
  • ドキシサイクリン
  • メトロニダゾール
  • オフロキサシン

これらの抗生物質は、単独で使用されることは稀で、通常は2種類以上を組み合わせて投与されます。

抗生物質主な標的細菌
セフトリアキソン淋菌
ドキシサイクリンクラミジア
メトロニダゾール嫌気性菌
オフロキサシン広範囲の細菌

抗生物質の選択は、患者の症状の重症度、アレルギー歴、地域の薬剤耐性パターンなどを考慮して慎重に行われます。医師は、これらの要因を総合的に判断し、最適な抗生物質の組み合わせを決定するのです。

外来治療と入院治療:症状の程度による選択

PIDの治療は、症状の重症度に応じて外来治療と入院治療に分類されます。軽度から中等度の症状の場合は外来治療が選択されますが、重症の場合や合併症が認められる場合は入院治療が必要となります。

外来治療の場合は、次のような対応が取られます。

  • 経口抗生物質の投与
  • 定期的な外来受診による経過観察
  • 症状改善が見られない場合は入院治療への移行

一方、入院治療の場合は、以下のような対応が行われます。

  • 静脈内抗生物質投与
  • 24時間体制の医療監視
  • 必要に応じて外科的処置の実施
治療形態適応主な治療内容
外来治療軽度~中等度のPID経口抗生物質、定期的な経過観察
入院治療重症PID、合併症あり静脈内抗生物質、24時間監視

治療形態の選択は、患者の全身状態、症状の程度、合併症の有無などを総合的に評価して決定されます。外来治療で開始しても、症状の改善が見られない場合は入院治療に切り替えられることもあります。

治療期間と経過観察:完治への道のり

PIDの治療期間は、通常2週間程度を要しますが、症状の重症度や治療への反応によって変動します。治療開始後、72時間以内に症状の改善が見られない場合は、治療方針の再検討が求められます。

治療中の経過観察では、以下のポイントに注目します。

  • 発熱や腹痛などの症状の改善状況
  • 炎症マーカー(CRPなど)の低下傾向
  • 超音波検査での骨盤内所見の変化

完治の判断は、これらの臨床所見と検査結果を総合的に評価して行われます。

治療段階期間主な観察項目
初期治療3-5日症状の改善、炎症マーカーの変化
継続治療7-10日症状の消失、画像所見の改善
経過観察1-2ヶ月再発の有無、月経周期の正常化

治療終了後も、1-2ヶ月程度の経過観察が重要です。この期間中に再発の兆候がないか、月経周期が正常化しているかなどを確認していきます。

治療中の留意点:回復を促進するために

PIDの治療中は、以下の点に注意することが大切です。

  • 処方された抗生物質を指示通りに服用する
  • 性行為を控える
  • 十分な休養をとる
  • 定期的な受診と検査を受ける

これらの注意点を守ることで、治療の効果を最大限に引き出し、早期の回復につながります。また、パートナーの検査と治療も重要な要素です。

PIDは性感染症が原因となることが多いため、パートナーの治療を同時に行うことで再感染を防ぐことができるのです。

合併症への対応:長期的な健康管理

PIDの治療において、合併症への対応も重要な課題となります。主な合併症とその対応方法は以下の通りです。

  • 卵管膿瘍:抗生物質治療に加え、経皮的ドレナージや手術が必要となる場合がある
  • 慢性骨盤痛:鎮痛剤の使用や理学療法が有効
  • 不妊:治療後の妊孕性評価と必要に応じた生殖医療の介入

これらの合併症は、早期発見と適切な対応が鍵となります。治療後も定期的な健康チェックを続けることが望ましいでしょう。

骨盤内炎症性疾患(PID)治療の副作用とリスク

抗生物質療法がもたらす副作用

PID治療の中心となる抗生物質療法には、様々な副作用が伴う可能性があります。主な副作用として、以下のようなものが挙げられます。

  • 消化器症状(吐き気、下痢、腹痛)
  • アレルギー反応(発疹、かゆみ)
  • 膣カンジダ症
  • 薬剤耐性菌の出現

これらの副作用の多くは一過性のものですが、患者さんの生活の質に影響を与えることがあります。特に、消化器症状は比較的高頻度で見られ、治療の継続に支障をきたすケースもあります。

副作用発生頻度対処法
消化器症状食事の工夫、制吐剤の使用
アレルギー反応抗ヒスタミン薬、薬剤変更
膣カンジダ症抗真菌薬の併用
薬剤耐性菌適切な抗生物質の選択と用法用量の遵守

これらの副作用に対しては、医師との緊密な連携が欠かせません。症状が出現した場合は速やかに医師に相談し、必要に応じて薬剤の変更や追加の治療を検討することが肝要です。

長期的な合併症のリスク

PIDの治療を受けた後も、長期的な合併症のリスクが存在します。主な長期合併症には以下のようなものがあります。

  • 慢性骨盤痛
  • 不妊
  • 子宮外妊娠のリスク増加
  • 骨盤内癒着

これらの合併症は、PIDの重症度や治療の遅れによって発生リスクが高まります。特に、不妊は患者さんの人生に多大な影響を及ぼす可能性がある重大な問題です。

合併症推定発生率影響
慢性骨盤痛15-20%QOLの低下
不妊10-15%妊娠困難
子宮外妊娠7-10倍増加妊娠時のリスク
骨盤内癒着不明慢性痛、不妊の原因

これらの長期合併症のリスクを最小限に抑えるためには、早期診断と適切な治療が不可欠です。また、治療後も定期的な経過観察を続けることが重要です。

骨盤内炎症性疾患(PID)の治療費面

処方薬の薬価

PID治療で用いられる抗生物質の価格は、種類ごとに異なります。よく使われるドキシサイクリンの場合、1日分の薬価はおよそ200円から300円です。

重症例で使用されるセフトリアキソンは、1回の注射でおよそ1,000円から1,500円ほどになります。これらの薬価は、症状や治療方針によって選択される薬剤の種類や量に応じて変動します。

1週間の治療費

外来で治療を受ける場合、1週間の医療費は以下のように見積もられます。

  • 初診料:2,820円
  • 再診料(2回):1,440円
  • 処方薬(7日分):2,100円
  • 検査費用:5,000円~10,000円

これらを合計すると、おおよそ11,360円から16,360円程度となります。ただし、症状の程度や必要な検査の種類によって、この金額は上下する可能性があります。

1か月の治療費

症状が重い場合や合併症がある場合、1か月以上の治療が必要となることもあります。このような場合、医療費は以下のように増加します。

  • 外来診療費:約20,000円
  • 処方薬(30日分):9,000円
  • 追加検査費用:15,000円~30,000円

合計すると、約44,000円から59,000円程度になる見込みです。長期治療が必要な場合は、医療費の負担が大きくなることを念頭に置く必要があります。

治療期間概算費用
1週間11,360円~16,360円
1か月44,000円~59,000円

これらの費用は参考値であり、実際の治療費は個々の状況や医療機関によって変動します。早期発見・早期治療が、医療費の抑制にもつながる重要なポイントです。

以上

参考にした論文