呼吸器疾患の一種である慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)とは、長期間にわたる肺への刺激により気道の狭窄や肺胞の損傷が進行する病気です。

この疾患は主に喫煙が要因となって発症しますが、大気汚染や職業環境での粉塵吸入なども関与する場合があります。

初期段階では自覚症状が乏しいため気づきにくい特徴がありますが、病状の進行に伴い息切れや持続的な咳、痰の増加などの症状が顕在化するでしょう。

我が国では40歳以上の方の約8.6%がこの病気に罹患していると見積もられており、社会の高齢化とともに患者数の増加傾向が続いています。

COPDの二つの主要病型

慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)は主に慢性気管支炎と肺気腫という二つの病型に分類されます。

これらの病型はそれぞれ特徴的な構造的変化と機能的障害を引き起こしますが、多くの患者ではこの二つの病型が混在しているのが一般的です。

慢性気管支炎の特徴

慢性気管支炎は気道の持続的な炎症と粘液の過剰分泌を特徴とする病態です。他の原因がない状態で、1年のうち3ヶ月以上、連続する2年間にわたって痰を伴う咳が続く際に該当します。

持続的な炎症反応によって気道上皮の杯細胞の増加や粘液腺の肥大を引き起こし、結果として粘液の過剰産生につながります。

  • 気道の慢性炎症
  • 粘液分泌の増加
  • 気道壁の肥厚
  • 気道内腔の狭小化

肺気腫の病態生理

肺気腫(はいきしゅ)は肺胞壁の破壊と肺の過膨張を特徴とする病態です。肺胞壁の破壊によって小さな肺胞が融合して大きな気腔を形成し、肺の弾性収縮力が低下します。

進行に伴って肺の過膨張が生じ、横隔膜の平低化や胸郭の樽状変形などの形態学的変化が観察されるでしょう。

肺気腫の特徴影響
肺胞壁の破壊ガス交換面積の減少
肺の過膨張呼吸筋の機能低下
弾性収縮力の低下呼気流量の減少

病型の混在と臨床的意義

実際の臨床現場では純粋な慢性気管支炎型や純粋な肺気腫型のCOPDは稀であり、多くの患者さんで両者の特徴が混在しています。

この混在の割合は個々の患者さんによって異なり、それぞれの病態の優位性が症状や予後に影響を与えることがあるのです。

慢性気管支炎の特徴が優位な患者さんでは咳や痰の症状が顕著である一方、肺気腫が優位な患者さんでは労作時の息切れが主な症状となる傾向になります。

優位な病型主な臨床症状
慢性気管支炎優位型咳、痰の増加
肺気腫優位型労作時呼吸困難

COPDの主な症状

慢性閉塞性肺疾患の主な症状は息切れ、長引く咳、痰の増加です。これらの症状は患者の日々の生活に大きく影響し、生活の質を著しく低下させる恐れがあります。

COPDの中核症状:息切れ

慢性閉塞性肺疾患の最も特徴的な症状は息切れです。初期段階では激しい運動時にのみ現れますが、病気の進行に伴い日常的な活動でも感じられるようになります。

多くの患者さんは階段の上り下りや軽い散歩でさえ息苦しさを感じ、日常生活に支障をきたすようになるでしょう。

息切れの進行段階症状の特徴
初期激しい運動時のみ
中期日常的な活動時
後期安静時でも発生

慢性の咳と痰の増加

COPDのもう一つの主要な症状は長引く咳と痰の増加です。

これらの症状は特に朝方に顕著に現れるため患者さんの睡眠の質を低下させたり、社会生活に支障をきたしたりすることがあります。

一般的には乾いた咳から始まり、病気の進行に伴って痰を伴うようになります。痰の量や性状の変化は、感染の兆候であることが多く、注意が必要です。

  • 長引く咳の特徴
    • 持続期間が長い(数週間から数ヶ月)
    • 朝方に悪化する傾向がある
    • 時間とともに痰を伴うようになる
  • 痰の特徴
    • 量の増加
    • 粘稠度の変化
    • 色の変化(感染時に黄色や緑色になることがある)

その他の関連症状

上記の主要症状以外にもCOPDでは病気の進行や合併症によって以下のような関連症状が引き起こされる場合があるのです。

関連症状特徴
胸部圧迫感息苦しさと関連して感じることがある
喘鳴呼吸時に高音の笛のような音がする
体重減少進行した病期でみられることがある
疲労感慢性的な呼吸困難による

症状の変動と増悪

COPDの症状は日によっても季節によっても変動しやすいのも特徴です。多くの患者さんは寒冷な気候や大気汚染が悪化している時期に症状が悪化するでしょう。

また、急性増悪と呼ばれる症状の急激な悪化を経験することがあり、これは入院や集中治療を必要とするほど重篤になる可能性もあります。

急性増悪の主な特徴

  • 息切れの急激な悪化
  • 咳や痰の増加
  • 発熱や全身倦怠感を伴うこともある

急性増悪の頻度や重症度は病気の進行度合いや患者の全体的な健康状態によって異なります。

発症要因とリスク:喫煙から環境因子まで

慢性閉塞性肺疾患の主たる要因は長期の喫煙習慣ですが、職業上の有害物質への曝露や大気汚染などの環境因子、遺伝的背景も重要な役割を担います。修正可能なリスク因子も複数存在するのです。

喫煙:COPDの最大のリスク因子

慢性閉塞性肺疾患の最も重大なリスク因子は長期にわたる喫煙習慣です。

タバコの煙に含まれる有害物質は肺の組織を直接的に損傷し、慢性的な炎症を引き起こします。この持続的な炎症反応が気道の狭窄や肺胞の破壊につながり、COPDの特徴的な病態を形成するのです。

喫煙者は非喫煙者と比較してCOPDを発症するリスクが顕著に高く、喫煙期間や喫煙量が増加するほどそのリスクは上昇します。

さらに受動喫煙もCOPDのリスクを高める要因となり、特に子供や若年者への影響が懸念されているのです。

職業性曝露:化学物質や粉塵による影響

職業環境における有害物質への長期的な曝露はCOPDの発症リスクを高める重要な要因です。特に以下のような職業に従事するかたはCOPDのリスクが高くなる可能性があります。

  • 鉱山労働者(石炭粉塵への曝露)
  • 建設作業員(セメント粉塵、シリカ粉塵への曝露)
  • 農業従事者(有機粉塵、農薬への曝露)
  • 化学工場労働者(有害化学物質への曝露)

これらの職業環境で吸入される粉塵や化学物質は肺組織に慢性的な炎症や損傷を引き起こし、長期的にはCOPDの発症につながる可能性が高くなるのです。

大気汚染

大気汚染は特に都市部や工業地帯に居住する人々にとってCOPDの重要なリスク因子となります。

大気中の微小粒子状物質(PM2.5)や二酸化窒素、オゾンなどの汚染物質は肺の組織に炎症を引き起こし、長期的な曝露はCOPDの発症リスクを高めてしまうのです。

大気汚染物質COPDへの影響
PM2.5肺深部への侵入、炎症誘発
二酸化窒素気道刺激、炎症促進
オゾン肺機能低下、酸化ストレス

これらの汚染物質への長期的な曝露は特に喫煙者や職業性曝露のある人々においてCOPDのリスクをさらに増大させる可能性があります。

遺伝的要因:α1-アンチトリプシン欠乏症

一部のCOPD患者さんでは遺伝的要因が重要な役割を果たしていますが、なかでも最もよく知られている遺伝的リスク因子はα1-アンチトリプシン欠乏症です。

この遺伝子異常は肺を保護する重要なタンパク質であるα1-アンチトリプシンの産生不足を引き起こし、早期からの肺気腫の発症につながります。

α1-アンチトリプシン欠乏症の特徴

  • 若年期からのCOPD症状発現
  • 非喫煙者でも発症の可能性
  • 家族歴が重要な診断の手がかり

この遺伝子異常を持つかたは喫煙や環境汚染物質への曝露によってCOPDのリスクがさらに高まってしまうのです。

その他のリスク因子

COPDの発症には上記の主要な原因以外にもいくつかの要因が関与する可能性があります。

例えば幼少期の呼吸器感染症の既往や低体重出生などの周産期の問題、慢性的な喘息の存在などもCOPDのリスクを高める可能性が指摘されているのです。

リスク因子影響
幼少期の呼吸器感染症肺の発達阻害、気道過敏性増大
低体重出生肺機能低下のリスク増加
慢性喘息気道のリモデリング促進

これらの要因は単独ではCOPDの直接的な原因とはならないものの、他のリスク因子と組み合わさることで発症のリスクを高める可能性があるとされています。

診察と診断

慢性閉塞性肺疾患の診断と評価は単一の検査結果だけでなく、多面的なアプローチを組み合わせて行われます。早期の診断と適切な評価が患者さんの生活の質向上に重要な役割を果たすでしょう。

問診:COPDの診断における第一歩

慢性閉塞性肺疾患の診断プロセスは詳細な問診から始まります。特に注目される点は以下の通りです。

  • 喫煙歴(喫煙期間、1日の喫煙量)
  • 職業上の有害物質への曝露
  • 家族歴(特にCOPDや呼吸器疾患)
  • 症状の発症時期と進行

これらの情報はCOPDの可能性を評価し、他の呼吸器疾患との区別を行う上で重要です。

身体診察

身体診察では次のようなCOPDに特徴的な身体所見を確認して、重症度や合併症の有無を評価する上で貴重な情報を探ります。

観察項目特徴的な所見
呼吸様式口すぼめ呼吸、努力性呼吸
胸郭形状樽状胸郭
聴診呼気時の延長、喘鳴

重症例ではチアノーゼや下肢の浮腫などの全身症状も確認します。

肺機能検査:COPDの確定診断の要

COPDの確定診断には肺機能検査が欠かせません。特にスパイロメトリーはCOPDの診断と重症度評価において中心的な役割を果たします。

主要な測定項目と診断基準は以下の通りです。

測定項目診断基準
FEV1/FVC70%未満
FEV1予測値重症度分類に使用

FEV1(1秒量)とFVC(努力肺活量)の比が70%未満であることがCOPDの診断基準です。さらに気管支拡張薬投与後の測定値を用いることで可逆性のある喘息との区別も行います。

画像診断

画像診断はCOPDの診断を補完して病変の程度や分布を評価するために重要です。胸部X線写真では以下の所見が観察されることがあります。

  • 肺の過膨張
  • 横隔膜の平低化
  • 心陰影の縦長化

一方、胸部CTはより詳細な情報を提供し、特に以下の評価に有用です。

  • 肺気腫の程度と分布
  • 気道壁の肥厚
  • 気管支拡張の有無

高分解能CT(HRCT)は肺気腫の早期診断や他の肺疾患との区別に役立ちます。

その他の補助的検査

上記の主要検査に加えて、COPDの重症度評価や合併症の検出に役立つのは以下のような検査です。

動脈血ガス分析換気障害や低酸素血症の評価
6分間歩行試験運動耐容能の評価
血液検査貧血や全身性炎症の評価

α1-アンチトリプシン欠乏症が疑われる際には血清α1-アンチトリプシン値の測定も検討されます。

COPDの画像所見

慢性閉塞性肺疾患の画像診断は単に疾患の有無を判断するだけでなく、その重症度評価や経過観察、治療効果の判定など多岐にわたる目的で活用されます。

特にCTによる詳細な評価は個々の患者さんの病態を正確に把握し、個別化された管理を行う上で不可欠な情報です。

胸部X線写真

COPDの画像診断において胸部X線写真は最初に行われる基本的な検査です。COPDの特徴的なX線所見には以下のようなものがあります。

  • 肺の過膨張
  • 横隔膜の平低化
  • 肋骨の水平化
  • 心陰影の狭小化

これらの所見は肺の過膨張を示唆し、特に肺気腫が進行した患者さんで顕著に観察されます。

しかし、軽度から中等度のCOPDではこれらの所見が明確でない場合もあり、その際はCTなどのより詳細な画像検査が必要です。

Posteroanterior and LatWashko, George R. “Diagnostic imaging in COPD.” Seminars in respiratory and critical care medicine vol. 31,3 (2010): 276-85. doi:10.1055/s-0030-1254068

所見:正常な健康被験者の後前および側面胸部X線写真(AおよびB)と、肺実質の複数の肺気腫性破壊が見られる被験者の後前および側面胸部X線写真(CおよびD)。肺の過膨脹や横隔膜の平坦化、肋骨の水平化が認められる。

胸部CT

胸部CTはCOPDの診断と評価において非常に重要な役割を果たします。

特に高分解能CT(HRCT)は肺の微細な構造を詳細に観察可能となり、以下のような所見が明らかにできるのです。

  • 肺気腫の程度と分布
  • 気道壁の肥厚
  • 気管支拡張
  • 小葉中心性肺気腫(センターロビュラーエンフィセマ)
Posteroanterior and LatWashko, George R. “Diagnostic imaging in COPD.” Seminars in respiratory and critical care medicine vol. 31,3 (2010): 276-85. doi:10.1055/s-0030-1254068

所見:それぞれ中心小葉性肺気腫(A)、汎小葉性肺気腫(B)、および傍中隔性肺気腫(C)が認められる。

気道病変の評価

COPDにおける気道病変の評価もCTが有用です。気道壁の肥厚は慢性気管支炎の特徴的な所見であり、以下のような変化が観察されます。

  • 気管支壁の肥厚
  • 気管支内腔の狭小化
  • 気管支周囲の間質の肥厚

これらの所見は特に断面像で明確に観察されるでしょう。

気道病変の程度を定量的に評価するために気道壁面積(WA)と全気道面積(TA)の比(WA%)が用いられるケースもあります。

Lynch, David A et al. “CT-Definable Subtypes of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Statement of the Fleischner Society.” Radiology vol. 277,1 (2015): 192-205.

所見:喫煙者のCTスキャンでは、区域気管支および亜区域気管支の著しい肥厚が認められるが、気腫性変化は目立たない。

定量的CT解析

近年、COPDの評価において定量的CT解析の重要性が増しているのです。これは特殊なソフトウェアを用いてCT画像を解析し、次のような指標を算出することでCOPDの重症度評価や経過観察を行います。

定量的CT指標意味
低吸収域の割合(LAA%)肺気腫の程度
平均肺密度(MLD)全体的な肺密度
気道壁厚(WT)気道壁の肥厚度

定量的CT解析は従来の視覚的評価では困難だった微細な変化を捉えることが可能となり、より正確な病態評価につながるのです。

Tobino, Kazunori et al. “Difference of the progression of pulmonary cysts assessed by computed tomography among COPD, lymphangioleiomyomatosis, and Birt-Hogg-Dubé syndrome.” PloS one vol. 12,12 e0188771. 8 Dec. 2017,

所見:CT画像におけるLAAクラスタの解析。下肺野のオリジナルCT画像と、LAAが連続する個々のクラスタを対比色で示した同じ画像が、代表的な患者のCOPD(AおよびB)、LAM(CおよびD)、BHDS(EおよびF)で示されている。COPDでは、LAAは一見正常な領域にも存在し、連続するLAA領域(色付き領域)は融合して大きくなっている。一方、LAMおよびBHDSでは、一見正常な領域にはLAAが少なく、連続するLAA領域(色付き領域)は独立しているように見える。BHDS: Birt-Hogg-Dubé症候群 COPD: 慢性閉塞性肺疾患 LAA: 低吸収領域 LAM: リンパ脈管筋腫症。

その他の画像検査

COPDの評価にはX線やCT以外にも例えば以下のような画像検査が補助的に行われることがあるでしょう。

  • 換気血流シンチグラフィ:肺の換気と血流の分布を評価
  • MRI:特に換気MRIによる肺機能評価

これらの検査はCOPDの病態をより詳細に把握するために用いられ、個々の患者さんの状態に応じて選択されます。

Myc, Lukasz A et al. “Role of medical and molecular imaging in COPD.” Clinical and translational medicine vol. 8,1 12. 15 Apr. 2019,

所見:COPD患者における高解像度CTおよびhyperpolarized 129Xe dissolved-phase MR画像。順に、ガス(左上)、組織(左中)、および赤血球(左下)のコンパートメントの画像再構成が提示されている。ペアのカラグラデーション画像は、異なるコンパートメント内の相対的なガス含量を示す融合再構成を示している。これには、組織/ガス、RBC/ガス、およびRBC/組織が含まれます。

治療アプローチ

慢性閉塞性肺疾患の治療には、薬物療法を中心とした多角的なアプローチが必要です。現時点では完治は困難ですが、適切な治療により症状の緩和と生活の質の向上が期待できます。

COPDの治療目標と基本戦略

慢性閉塞性肺疾患の治療は症状の軽減、増悪の予防、運動耐容能の改善、生活の質の向上を目指して行われます。

治療アプローチは以下の要素で構成されるのが一般的です。

  • 薬物療法
  • 禁煙支援
  • 呼吸リハビリテーション
  • 栄養指導
  • 酸素療法(必要な場合)

これらの要素を組み合わせた包括的な治療がCOPDの管理において重要です。

薬物療法

COPDの薬物療法は主に気管支拡張薬を中心に行われます。主な薬剤クラスとその特徴は以下の通りです。

薬剤クラス作用機序主な薬剤例
長時間作用性β2刺激薬(LABA)気管支平滑筋弛緩サルメテロール、ホルモテロール
長時間作用性抗コリン薬(LAMA)気道収縮抑制チオトロピウム、グリコピロニウム
吸入ステロイド薬(ICS)気道炎症抑制フルチカゾン、ブデソニド

これらの薬剤は単剤または併用で使用され、患者さんの症状や重症度に応じて選択されます。

急性増悪時には短時間作用性気管支拡張薬や全身性ステロイド薬が用いられることもあるでしょう。

非薬物療法

薬物療法と並行して、以下のような非薬物療法も重要です。

  • 禁煙支援:COPDの進行抑制に最も効果的
  • 呼吸リハビリテーション:運動耐容能の改善と呼吸困難の軽減
  • 栄養指導:適切な栄養状態の維持
  • ワクチン接種:インフルエンザや肺炎球菌感染の予防

これらの非薬物療法は薬物療法と組み合わせることで、より効果的な治療成果が期待できるでしょう。

増悪時の治療

COPDの急性増悪時には通常の治療に加えて以下のような対応が必要となります。

増悪時の治療目的
気管支拡張薬の増量気道閉塞の改善
ステロイド薬の短期使用炎症の抑制
抗生物質の投与細菌性感染への対処

増悪の早期認識と迅速な対応が重症化の予防と回復の促進につながるのです。

治療の個別化と長期管理

COPDの治療は患者さんの症状、重症度、併存疾患などを考慮して個別化される必要があります。長期的な管理においては以下の点が重要です。

  • 定期的な肺機能検査による経過観察
  • 症状や生活の質の評価
  • 薬物療法の効果と副作用のモニタリング
  • 増悪の予防と早期対応

これらの要素を考慮しながら継続的な治療の最適化を図ることが大切です。

治癒までの期間と予後

COPDは現在のところ完治が困難な疾患であり、長期的な管理が必要となります。しかし適切な治療により症状の軽減や生活の質の向上が期待できるでしょう。

治療効果は個人差が大きく、以下のような要因に影響されます。

  • 診断時の重症度
  • 禁煙の成功
  • 治療への遵守度
  • 併存疾患の有無

COPDの治療は症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することを目標としています。そのため長期的な視点で治療に取り組むことが重要です。

治療に伴う副作用とリスク

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療は効果的ですが、様々な副作用やリスクを伴う可能性があります。これらを理解し、医療チームと協力して管理することが、安全で効果的な治療につながります。

気管支拡張薬の副作用

慢性閉塞性肺疾患の主要な治療薬である気管支拡張薬(β2刺激薬、抗コリン薬)で報告されている副作用は以下の通りです。

薬剤クラス主な副作用
β2刺激薬頻脈、手指の震え、筋肉痛、低カリウム血症
抗コリン薬口内乾燥、排尿困難、眼圧上昇

これらの副作用の多くは軽度で一時的ですが、患者さんによっては日常生活に支障をきたす場合もあります。

吸入ステロイド薬のリスク

吸入ステロイド薬はCOPDの炎症を抑制する効果がありますが、長期使用に伴う次のようなリスクがあることも否めません。

吸入ステロイド薬のリスク発生頻度
口腔カンジダ症比較的高頻度
肺炎中等度
骨密度低下長期使用で増加

また、上記に加えて嗄声や皮膚の菲薄化といったリスクも考慮しなければなりません。

全身性ステロイド薬の副作用

急性増悪時に使用される全身性ステロイド薬は強力な抗炎症作用を持つ一方で、以下のような重大な副作用のリスクがあることも知っておかなければいけません。

  • 血糖値上昇(糖尿病の悪化や新規発症)
  • 骨粗鬆症
  • 消化性潰瘍
  • 白内障
  • 感染リスクの増加
  • 精神症状(不眠、興奮、抑うつなど)

これらの副作用は使用期間や用量に依存して発生リスクが高まるため、可能な限り短期間の使用にとどめることが重要です。

酸素療法のリスクと注意点

重症COPDの患者さんに対して行われる酸素療法にも次のようなリスクと注意点があります。

酸素療法のリスク対策
二酸化炭素蓄積適切な流量調整
皮膚・粘膜の乾燥加湿器の使用
火災火気厳禁の徹底

非薬物療法のデメリット

呼吸リハビリテーションでは、以下のようなリスクに注意が必要です。

  • 過度の運動による呼吸困難の悪化
  • 骨格筋の損傷
  • 心血管系への負担

再発の可能性と予防法

COPDは完治が難しい疾患であり、急性増悪が再び起こるリスクが高いです。しかし適切な予防法を実践することで再発の頻度を減らして生活の質を保つことが可能です。

COPDにおける再発の特徴

慢性閉塞性肺疾患の急性増悪は呼吸器症状が突然悪化することと定義され、通常の日々の変動を超えた症状の悪化を指します。

増悪の頻度は患者さんによって異なりますが、年間1〜4回程度経験する方が多いとされています。

増悪の重症度特徴
軽度日常生活に支障が出る程度
中等度医療機関の受診が必要
重度入院を要する

再発リスク因子

COPDの再発には様々な要因が関係していますが、次のなリスク因子を持つ患者さんは再発リスクが高いとされています。

  • 過去の増悪歴(特に前年の増悪回数)
  • 重度の気流制限
  • 低栄養状態
  • 併存疾患(心疾患、糖尿病など)
  • 持続的な喫煙
  • 大気汚染への曝露

再発の予防戦略

COPDの再発を予防するためには総合的なアプローチが必要で、特に以下のようなことが効果的です。

  1. 禁煙の徹底
  2. ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)
  3. 適度な運動と呼吸リハビリテーション
  4. 栄養管理
  5. 感染予防(手洗い、マスク着用など)

これらの予防法を日常生活に取り入れることで再発リスクを減らすことができるでしょう。

環境因子の管理

COPDの急性増悪を予防する上では環境因子の管理も重要です。特に注意すべき環境因子には以下のようなものがあります。

環境因子予防法
大気汚染外出時のマスク着用
気温変化適切な衣服の選択
花粉花粉情報のチェック

これらの環境因子への曝露を最小限に抑えることで、急性増悪のリスクを低減できるでしょう。

セルフマネジメントの重要性

COPDの急性増悪(再発)を予防する上で、患者さん自身による自己管理が不可欠で特に効果的な要素は以下の通りです。

  • 症状の日々の観察と記録
  • 定期的な肺機能測定(ピークフローメーターの使用)
  • 処方薬の正しい使用
  • ストレス管理
  • 生活習慣の改善(禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事)

これらの取り組みを続けることで急性増悪の早期発見と予防につながります。

COPDの治療にかかる医療費

COPDの治療費は症状の程度や治療内容によって大きく異なります。治療が長期間にわたり高額になる傾向があるため、経済的な負担を考えた治療計画を立てることが大切です。

初診料と再診料

初診料は2,910円、再診料は750円程度で、これに各種加算が付きます。

検査費用

呼吸機能検査は2,300円~5,700円、胸部CT検査は14,700円~20,700円程度です。

検査項目概算費用
呼吸機能検査2,300円~5,700円
胸部CT14,700円~20,700円

処置費と薬剤費

吸入薬の処方は例えばスピリーバ2.5μgレスピマット60吸入を1日1回2吸入で月額3320.4円、HOT(酸素療法)は月額76,710円(在宅酸素療法指導管理料+在宅酸素療法材料加算+酸素濃縮装置加算+酸素ボンベ加算+呼吸同期式デマンドバルブ加算)かかります。

入院費

急性増悪時の入院費は1日あたり約20,000〜30,000円で、長期入院では高額になることもあるでしょう。

詳しく述べると、日本の入院費計算方法は、DPC(診断群分類包括評価)システムを使用しています。
DPCシステムは、病名や治療内容に基づいて入院費を計算する方法です。以前の「出来高」方式と異なり、多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。

主な特徴:

  1. 約1,400の診断群に分類
  2. 1日あたりの定額制
  3. 一部の治療は従来通りの出来高計算

表:DPC計算に含まれる項目と出来高計算項目


DPC(1日あたりの定額に含まれる項目)出来高計算項目
投薬手術
注射リハビリ
検査特定の処置
画像診断(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)
入院基本料

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

例えば、14日間入院とした場合は下記の通りとなります。

DPC名: 慢性閉塞性肺疾患 手術なし 手術処置等1なし 手術処置等2なし 定義副傷病名なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥355,000 +出来高計算分

保険適用となると1割~3割の自己負担であり、更に高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
なお、上記値段は2024年6月時点のものであり、最新の値段を適宜ご確認ください。

以上

参考にした論文