「最近、声がかすれる」「思うように声が出ない」といった悩みはありませんか。一時的なものだろうと軽く考えていても、症状が続くと日常生活や仕事にも影響が出かねません。

声の不調は、のどの使いすぎから病気のサインまで、様々な原因が考えられます。

この記事では、声が出にくい、のどがかすれるといった症状の原因や、ご自身でできるケア、医療機関を受診する目安などを詳しく解説します。

声が出にくい、のどのかすれとは?

声が出にくい、あるいは声がかすれるという状態は、医学的には「嗄声(させい)」と呼ばれます。これは、声の高さ、大きさ、音質に何らかの変化が生じている状態を指します。

多くの方が一度は経験する症状かもしれませんが、その程度や持続期間によっては注意が必要です。

声のかすれ(嗄声)の主な状態

声のかすれは、一言で言っても様々な状態があります。がらがらした声、弱々しい声、息が漏れるような声など、人によって感じ方も異なります。

声帯の振動が不規則になったり、左右の声帯がうまく閉じなくなったりすると、声がかすれて聞こえます。これらの変化は、声の質を著しく低下させることがあります。

声のかすれ方の種類と特徴

かすれ方の種類特徴考えられる主な要因
がらがら声(粗ぞう性嗄声)声がざらざらして、不規則な雑音が混じる声帯の炎症、ポリープ、結節など
息漏れ声(気息性嗄声)声に息が混じり、弱々しく聞こえる声帯麻痺、声帯萎縮など
力み声(努力性嗄声)声を出すのに力が必要で、しわがれたような声過緊張性発声障害、心因性など

声が出にくいと感じる状況

声が出にくいと感じる状況も様々です。

朝起きた時だけ声が出にくい、長時間話すと声が出なくなる、特定の高さの声が出せないなど、症状が現れるタイミングや状況によって、原因を探る手がかりになることがあります。

また、声を出そうとしても、かすれてしまったり、十分な音量が出なかったりすることも、声が出にくいという感覚につながります。

日常生活への影響

声の不調は、単に声が出にくいというだけでなく、日常生活の様々な場面で影響を及ぼします。例えば、仕事で人と話す機会が多い方にとっては、業務に支障をきたすこともあります。

また、友人や家族との会話が楽しめなくなったり、電話でのコミュニケーションが困難になったりするなど、精神的なストレスを感じる方も少なくありません。

趣味の歌が歌えなくなるなど、生活の質の低下にもつながります。

声が出にくい、のどのかすれを引き起こす主な原因

声の不調は、様々な原因によって引き起こされます。原因を特定することが、適切な対処への第一歩です。ここでは、主な原因をいくつか紹介します。

声の使いすぎや炎症によるもの

最も一般的な原因の一つが、声の使いすぎです。教師、歌手、保育士など、日常的に大きな声を出したり、長時間話し続けたりする職業の方は、声帯に負担がかかりやすく、炎症を起こしやすい傾向があります。

また、風邪やインフルエンザなどの感染症による喉頭炎(こうとうえん)も、声のかすれを引き起こす代表的な原因です。喉頭炎は、ウイルスや細菌の感染により声帯が腫れることで起こります。

声帯に負担をかける行為

  • 大声を出す
  • 長時間話し続ける
  • 無理な高音や低音を出す
  • 咳払いが多い

加齢による変化

年齢を重ねるとともに、声帯も変化します。声帯の筋肉が痩せたり、粘膜の潤いが失われたりすることで、声帯がうまく振動しなくなり、声がかすれたり、弱々しくなったりすることがあります。

これは「加齢性音声障害」や「声帯萎縮」と呼ばれる状態で、特に高齢の方に見られます。適切なトレーニングやケアで改善することもあります。

生活習慣や環境的要因

喫煙は、声帯にとって非常に有害です。タバコの煙に含まれる有害物質が声帯を刺激し、慢性的な炎症を引き起こすことで、声がかすれる原因となります(喫煙者喉頭)。

また、アルコールの過度な摂取も、声帯の粘膜を乾燥させ、炎症を悪化させる可能性があります。空気が乾燥している環境や、ホコリっぽい場所なども、のどに負担をかけ、声の不調につながることがあります。

声に影響を与える生活習慣と環境

要因声への影響対策のポイント
喫煙声帯の慢性炎症、声質の悪化禁煙が最も重要
過度な飲酒声帯粘膜の乾燥、炎症の助長飲酒量を控える、水分補給
乾燥した空気のどの乾燥、声帯の潤い不足加湿器の使用、こまめな水分補給

病気が隠れている可能性

声のかすれが長期間続く場合や、他の症状を伴う場合は、何らかの病気が隠れている可能性も考えられます。代表的なものには、声帯ポリープ、声帯結節、喉頭がんなどがあります。

また、甲状腺の病気や、神経系の病気(反回神経麻痺など)が原因で声がかすれることもあります。これらの病気は早期発見・早期治療が重要ですので、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。

声のかすれを伴う可能性のある主な病気

病名主な特徴備考
声帯ポリープ声帯にできる良性の腫瘤。片側にできることが多い。声の使いすぎが主な原因。
声帯結節声帯にできるペンだこのような硬い隆起。両側にできることが多い。慢性的な声の酷使が原因。
喉頭がん喉頭に発生する悪性腫瘍。喫煙との関連が深い。進行すると呼吸困難なども。
反回神経麻痺声帯を動かす神経の麻痺。原因は多岐にわたる。手術の影響や腫瘍による圧迫など。

声帯と発声の仕組み

私たちが普段何気なく出している声は、声帯という器官の複雑な働きによって生み出されています。声の不調を理解するためには、まず声がどのように作られるのかを知ることが役立ちます。

声帯の構造と役割

声帯は、喉頭(のどぼとけの奥)にある左右一対のひだ状の組織です。

粘膜、靭帯、筋肉から構成されており、呼吸時には左右に開いて空気の通り道を確保し、発声時には閉じて振動することで音の元を作り出します。声帯の長さや厚さ、緊張度合いによって声の高さが決まります。

声が出る仕組み

声を出すとき、まず肺から送られた呼気が声帯に達します。閉じている声帯の間を呼気が通過する際に、声帯粘膜が細かく振動します。この振動によって生じた音が「喉頭原音」と呼ばれる声の元です。

この喉頭原音が、咽頭、口腔、鼻腔といった声道で共鳴し、さらに舌や唇、顎の動きによって調音されることで、私たちが普段話しているような「声」になります。

声質が変わる理由

声質は、声帯の振動の仕方や、声道の形によって変化します。例えば、声帯に炎症が起きたり、ポリープができたりすると、声帯の振動が不規則になり、がらがらした声になります。

また、声帯の閉じ方が不十分だと、息が漏れてかすれた声になります。加齢によって声帯が萎縮すると、張りが失われて弱々しい声になることがあります。

このように、声帯やその周辺組織の状態が声質に大きく影響します。

自宅でできるセルフケアと予防法

声の不調を感じ始めたときや、日常的に声をよく使う方は、セルフケアを心がけることが大切です。ここでは、ご自身でできるケアや予防法を紹介します。

のどの保湿と加湿

のどや声帯の粘膜が乾燥すると、炎症を起こしやすくなったり、声帯の振動が悪くなったりします。

こまめに水分を摂取し、のどを潤すことが基本です。特に空気が乾燥しやすい季節や、冷暖房の効いた室内では、加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を適切に保つよう心がけましょう。

マスクの着用も、のどの保湿に役立ちます。

のどの保湿に役立つ方法

  • こまめな水分補給(水や白湯など)
  • 加湿器の使用(湿度50~60%が目安)
  • マスクの着用
  • うがい(刺激の少ないもので)

声の安静と正しい発声

声の不調を感じたら、まずは声を休ませることが重要です。無理に声を出そうとせず、筆談やジェスチャーを利用するなどして、声帯への負担を減らしましょう。

また、普段から正しい発声方法を意識することも予防につながります。腹式呼吸を基本とし、のどに力を入れすぎず、リラックスして発声する練習をすると良いでしょう。

早口で話したり、無理に高い声や低い声を出したりするのも避けるべきです。

生活習慣の見直し

健康な声を保つためには、規則正しい生活習慣が基本です。十分な睡眠時間を確保し、バランスの取れた食事を心がけましょう。

前述の通り、喫煙は声帯に悪影響を及ぼすため、禁煙することが最も効果的な予防策の一つです。アルコールの過度な摂取も控え、刺激の強い香辛料なども摂りすぎないように注意しましょう。

ストレスも声の不調につながることがあるため、適度な運動や趣味などで上手にストレスを発散することも大切です。

のどに良い食べ物・飲み物

特定の食品が直接的に声のかすれを治すわけではありませんが、のどの粘膜を保護したり、炎症を和らげたりする効果が期待できるものがあります。

一方で、刺激物やカフェインを多く含むものは、のどを乾燥させたり刺激したりする可能性があるため、摂取量に注意が必要です。

のどへの影響を考慮したい食品・飲料

カテゴリ積極的に摂りたいもの(例)控えめにしたいもの(例)
飲み物水、白湯、ハーブティー(カモミールなど)コーヒー、紅茶、緑茶(カフェイン)、炭酸飲料、アルコール
食べ物はちみつ、大根、生姜、緑黄色野菜香辛料の強いもの、極端に熱いもの・冷たいもの、脂っこいもの

はちみつは、1歳未満の乳児には与えないでください(乳児ボツリヌス症のリスクがあるため)。

医療機関を受診する目安

声のかすれや声の出しにくさは、多くの場合一時的なものですが、症状が長引いたり、悪化したりする場合は注意が必要です。ここでは、医療機関の受診を検討すべき目安について説明します。

こんな症状が続いたら注意

声のかすれが2週間以上続く場合は、単なるのどの使いすぎや風邪によるものではない可能性があります。

特に、徐々に症状が悪化している場合や、一度良くなったと思ってもすぐに再発する場合は、専門医の診察を受けることを推奨します。原因を特定し、適切な治療を開始することが大切です。

声のかすれ以外の症状がある場合

声のかすれに加えて、以下のような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。これらの症状は、喉頭がんなどの重篤な病気のサインである可能性も否定できません。

受診を検討すべき併発症状

症状考えられること
のどの痛み、飲み込むときの違和感炎症、腫瘍など
呼吸困難、息苦しさ喉頭や気道の狭窄、腫瘍など
血痰(痰に血が混じる)炎症、腫瘍などからの出血
首のしこりリンパ節の腫れ、腫瘍の転移など
原因不明の体重減少悪性腫瘍の可能性

症状が悪化する場合

最初は軽微な声のかすれでも、徐々に声が出しにくくなったり、完全に声が出なくなったりするなど、症状が明らかに悪化している場合は、速やかに医療機関を受診してください。

進行性の病気が隠れている可能性も考慮し、早期の対応が必要です。

不安を感じる場合

特定の症状がなくても、声の状態について強い不安を感じる場合は、一度専門医に相談することをお勧めします。

医師に相談し、適切な検査を受けることで、不安が解消されることもありますし、もし何か問題が見つかれば早期に対処できます。

医療機関での検査と診断

医療機関を受診すると、まず問診で症状や生活習慣について詳しく聞かれます。その後、のどの状態を観察するための検査が行われ、診断が下されます。

問診と視診

問診では、いつから症状があるのか、どのような声の変化があるのか、声を使う頻度、喫煙歴、既往歴、服用中の薬などについて詳しく質問されます。

これらの情報は、原因を特定するための重要な手がかりとなります。その後、医師が口を開けてのどの奥をペンライトなどで観察する視診を行います。

扁桃腺の腫れや、咽頭粘膜の発赤など、大まかな状態を確認します。

声帯の検査(内視鏡検査など)

声帯の状態を詳しく調べるためには、喉頭内視鏡検査(ファイバースコープ検査)が行われるのが一般的です。これは、細いカメラを鼻または口から挿入し、喉頭や声帯を直接観察する検査です。

声帯の形、色、動き、振動の状態などを詳細に確認でき、ポリープや結節、腫瘍の有無、声帯麻痺の程度などを診断するのに役立ちます。検査中の不快感を軽減するために、局所麻酔を使用することもあります。

喉頭内視鏡検査でわかること

観察項目主な確認点
声帯の形状・色ポリープ、結節、腫瘍の有無、炎症の程度
声帯の動き左右の声帯が対称的に動くか、麻痺がないか
声帯の振動ストロボスコピーを用いて、振動の規則性や波の伝わり方を確認

必要に応じて行われるその他の検査

喉頭内視鏡検査で診断が確定できない場合や、より詳しい情報が必要な場合には、追加の検査が行われることがあります。

例えば、腫瘍が疑われる場合には、組織の一部を採取して調べる生検や、CT検査、MRI検査などの画像検査を行うことがあります。

また、声の機能を客観的に評価するために、音響分析や空気力学的検査などの音声機能検査を行うこともあります。

アレルギーが疑われる場合はアレルギー検査、胃食道逆流症が疑われる場合は胃カメラ検査などを検討することもあります。

診断と治療方針の説明

各種検査の結果を総合的に判断し、医師が診断をくだします。診断結果に基づいて、現在の声の状態や考えられる原因、今後の治療方針などについて詳しい説明があります。

患者さん自身が病状を理解し、納得して治療を受けられるように、疑問点や不安なことがあれば遠慮なく質問することが大切です。

のどのかすれや声の出しにくさに対する治療法

声のかすれや声の出しにくさの治療は、その原因によって異なります。原因に応じた適切な治療を行うことで、症状の改善を目指します。

原因に応じた治療の基本

治療の基本は、原因となっている疾患や要因を取り除くことです。例えば、声の使いすぎが原因であれば声の安静が第一ですし、感染症によるものであれば抗生物質や消炎剤などが処方されます。

声帯ポリープや声帯結節、喉頭がんなどの器質的な病変がある場合は、それに対する専門的な治療が必要になります。

保存的治療(薬物療法、音声治療)

多くの声のトラブルは、保存的治療で改善が期待できます。

薬物療法としては、炎症を抑えるための消炎鎮痛薬、感染が原因であれば抗菌薬、痰を出しやすくする去痰薬、胃酸の逆流を抑える薬などが用いられます。

音声治療(音声リハビリテーション)は、理学療法士や言語聴覚士などの専門家の指導のもと、正しい発声方法を習得したり、声帯に負担の少ない声の出し方を訓練したりする治療法です。

声帯結節や加齢による声の変化、機能性発声障害などに有効な場合があります。

音声治療の主な内容

  • リラックス法
  • 呼吸訓練(腹式呼吸など)
  • 発声訓練(楽な声の出し方、共鳴の利用)
  • 日常生活での声の衛生指導

保存的治療で用いられる薬の例

薬の種類主な作用対象となる主な状態
消炎鎮痛薬炎症や痛みを和らげる喉頭炎、声帯炎など
抗菌薬(抗生物質)細菌感染を抑える細菌性喉頭炎など
去痰薬痰の切れを良くする痰が絡む場合
制酸薬・PPI胃酸の分泌を抑える胃食道逆流症が関与する場合

外科的治療が必要な場合

保存的治療で改善が見られない場合や、声帯ポリープが大きい場合、喉頭がんなどの悪性腫瘍が疑われる場合には、外科的治療が検討されます。

声帯ポリープや初期の声帯結節に対しては、喉頭微細手術(ラリンゴマイクロサージェリー)という、顕微鏡を使って声帯の病変を切除する手術が行われることが一般的です。

喉頭がんの場合は、進行度に応じて放射線治療、化学療法、手術などが組み合わせて行われます。

治療後のケアとリハビリテーション

手術後や治療後は、医師の指示に従い、声の安静を保つことが重要です。声帯の回復を促し、再発を防ぐために、引き続き音声治療や生活習慣の改善が必要になることもあります。

定期的な診察を受け、声の状態を確認しながら、焦らずにケアを続けることが大切です。

よくある質問

ここでは、のどのかすれや声の出しにくさに関して、多くの方が疑問に思う点についてお答えします。

Q
のど飴は効果がありますか?
A

のど飴には、のどの粘膜を潤したり、清涼感を与えたりすることで、一時的に症状を和らげる効果が期待できるものがあります。しかし、のど飴だけで声のかすれの原因が治るわけではありません。

特に糖分の多いものは摂りすぎに注意が必要です。症状が続く場合は、医療機関を受診してください。

Q
声変わりと声のかすれの違いは何ですか?
A

声変わりは、主に思春期にホルモンの影響で喉頭が成長し、声帯が長くなることによって起こる生理的な声質の変化です。通常、声が低くなり、安定するまでに数ヶ月から1年程度かかります。

一方、声のかすれは、何らかの原因で声帯の振動がうまくいかなくなり、声質が悪化する状態を指します。声変わり以外の時期に声がかすれる場合は、何らかの異常が考えられます。

Q
喫煙は声にどのような影響がありますか?
A

喫煙は声帯に慢性的な炎症を引き起こし、声帯の粘膜を厚く硬くさせることがあります(ポリープ様声帯、喫煙者喉頭)。これにより、声が低くなったり、がらがら声になったりします。

また、喉頭がんの最大の危険因子でもあります。禁煙することが、声を健康に保つために非常に重要です。

Q
ストレスで声が出にくくなることはありますか?
A

はい、あります。強いストレスや精神的な緊張が原因で、声帯や発声に関わる筋肉が過度に緊張したり、逆に力が入りにくくなったりして、声が出にくくなることがあります。

これを心因性発声障害や機能性発声障害と呼びます。喉頭自体に器質的な異常がないにもかかわらず声が出ない、あるいはかすれるといった症状が現れます。

心理的なケアやリラックス、音声治療などが有効な場合があります。

以上

参考にした論文