食事中や飲み物を飲んだ時にむせたり、特に何もしていないのに喉に何かがひっかかるような違和感が続いたりすると、気になるものです。
このような症状は、多くの方が一度は経験するかもしれませんが、その背景にはさまざまな原因が隠れていることがあります。
この記事では、喉のひっかかりやむせがなぜ起こるのか、その原因から考えられる病気、ご自身でできる対処法、そして医療機関を受診する目安まで、詳しく解説していきます。
喉のひっかかりやむせとは?基本的な知識
喉の不快な症状は、体の防御反応や機能低下のサインとして現れることがあります。まずは、これらの症状がどのようなものなのか、基本的なところから見ていきましょう。
喉のひっかかり感(咽喉頭異常感症)の正体
検査をしても明らかな異常が見つからないのに、喉に何かがあるような感覚が続く状態を「咽喉頭異常感症」と呼びます。
かつては「ヒステリー球」とも言われていましたが、現在ではストレスや自律神経の乱れ、あるいは軽微な炎症などが複雑に関わっていると考えられています。
患者さんが訴える感覚は多様で、ご自身でしか分からないつらい症状であることが多いです。
喉のひっかかり感の主な表現
感覚のタイプ | 具体的な表現例 | 考えられる背景 |
---|---|---|
異物感 | 喉にボールや塊がある感じ | 筋肉の過度な緊張 |
閉塞感 | 喉が締め付けられる感じ | 精神的なストレス |
刺激感 | イガイガする、チクチクする | 胃酸の逆流、乾燥 |
「むせる」という反射の働き
むせは、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入りそうになった時、それを外に排出しようとする重要な防御反応です。気管の入り口にある声帯が瞬間的に閉鎖し、強い呼気とともに異物を吹き飛ばします。
この反射機能が正常に働くことで、私たちは誤嚥(ごえん)やそれによる肺炎を防いでいます。
なぜ食べ物や飲み物でむせるのか
通常、食べ物を飲み込む(嚥下する)際には、喉頭蓋(こうとうがい)というフタが気管に栓をして、食道へと食べ物が送られます。
しかし、加齢や病気によってこの一連の動きがスムーズに行えなくなると、タイミングがずれて気管に異物が入りやすくなります。
特に、水分のようなサラサラしたものは動きが速いため、むせの原因になりやすい傾向があります。
喉にひっかかる感じがする主な原因
喉の違和感は、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って生じることが少なくありません。ここでは、主な原因を4つのカテゴリーに分けて解説します。
食道や喉の物理的な問題
喉や食道に物理的な異常があると、それが直接的なひっかかり感の原因となります。
例えば、喉の炎症(咽頭炎・喉頭炎)や扁桃炎による腫れ、あるいはまれにポリープや腫瘍などができると、異物感として自覚することがあります。
食道の動きが悪くなる病気も、食べ物の通過を妨げ、つかえ感を引き起こします。
飲み込む機能(嚥下機能)の低下
嚥下機能は、食べ物を認識し、口の中でまとめ、喉を通過させて食道へ送り込むまでの一連の動作を指します。この機能は非常に多くの筋肉や神経が協調して働くことで成り立っています。
加齢や特定の病気により、この機能が低下すると、飲み込みがうまくいかずにむせたり、食べ物が喉に残る感覚が生じたりします。
嚥下機能が低下する要因
要因の分類 | 具体例 | 機能への影響 |
---|---|---|
加齢 | 喉周りの筋力低下、反射の遅れ | 飲み込む力やタイミングがずれる |
病気 | 脳梗塞後遺症、パーキンソン病など | 神経の伝達や筋肉の動きが障害される |
薬の副作用 | 一部の精神安定剤、降圧薬など | 唾液の分泌を減らしたり、筋肉を弛緩させたりする |
胃酸の逆流による刺激
胃の内容物、特に強い酸性である胃酸が食道へ逆流すると、食道の粘膜を傷つけて炎症を起こします。
これが「逆流性食道炎」です。さらに、胃酸が喉(咽頭・喉頭)まで上がってくると、喉の粘膜も刺激され、ひっかかり感や咳、声がれなどの原因になります。
胸やけのような典型的な症状がなくても、喉の違和感だけが現れることもあります。
ストレスや心因的な要因
強いストレスや不安、抑うつ気分などが続くと、自律神経のバランスが乱れます。
自律神経は食道や喉の筋肉の緊張をコントロールしているため、その乱れが食道の異常な収縮や知覚過敏を引き起こし、ひっかかり感として感じられることがあります。
特に、他に明らかな原因が見当たらない場合の咽喉頭異常感症では、心因的な要因が大きく関わっていると考えられます。
喉のひっかかりに関連する代表的な病気
喉の不快な症状の裏には、治療が必要な病気が隠れていることがあります。ここでは、代表的なものをいくつか紹介します。
逆流性食道炎
胃酸が食道に逆流することで、食道に炎症が起きる病気です。主な症状は胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱいものが上がってくる感じ)ですが、喉の違和感、つかえ感、慢性的な咳の原因にもなります。
食生活の欧米化や肥満、加齢による下部食道括約筋(胃と食道のつなぎ目の筋肉)のゆるみなどが原因で起こります。
咽喉頭酸逆流症(LPRD)
逆流性食道炎の一種で、胃酸が喉(咽頭や喉頭)まで達することで症状を引き起こす状態を指します。胸やけは感じにくい一方で、喉の症状が前面に出ることが特徴です。
声がれ、咳払い、喉のひっかかり感が主な症状で、耳鼻咽喉科の病気と間違われることもあります。
逆流性食道炎と咽喉頭酸逆流症の症状の違い
症状 | 逆流性食道炎(GERD) | 咽喉頭酸逆流症(LPRD) |
---|---|---|
主な症状の場所 | 胸(胸やけ) | 喉(違和感、咳、声がれ) |
症状が出やすい体勢 | 横になった時、前かがみになった時 | 日中の立っている時でも起こる |
自覚の有無 | 胸やけを自覚しやすい | 酸の逆流を自覚しにくい |
食道アカラシア
食道の運動機能に異常が起こり、食べ物が胃へスムーズに流れなくなる病気です。食道の下端にある下部食道括約筋が、食べ物が通過する際に十分に緩まないことが原因です。
食べたものが食道につかえる感覚や、胸の痛み、逆流(吐き戻し)などの症状が見られます。進行すると食道が拡張してしまうこともあります。
その他の考えられる病気
頻度は低いものの、注意が必要な病気もあります。甲状腺の腫れが食道を圧迫してつかえ感を生じさせたり、食道がんや咽頭がんが原因で症状が現れたりすることもあります。
特に、症状が急に悪化した場合や、他の気になる症状を伴う場合は、早めに医療機関に相談することが重要です。
- 食道裂孔ヘルニア
- 好酸球性食道炎
- 食道カンジダ症
- 咽頭がん・喉頭がん・食道がん
危険なサイン?すぐに医療機関を受診すべき症状
ほとんどの喉のひっかかりは緊急を要しませんが、中には重大な病気が隠れているサインの場合もあります。以下のような症状が見られる場合は、放置せずに医療機関を受診しましょう。
飲み込めない、食事が通らない
ひっかかり感が強く、水分さえも飲み込みにくい、あるいは食べたものが明らかにつかえて通らないという症状は、食道が物理的に狭くなっている可能性があります。
食道がんなどの腫瘍や、強い炎症による狭窄(きょうさく)が考えられるため、早急な検査が必要です。
体重が急に減少した
食事の量が減ったわけでもないのに、意図せず数ヶ月で体重が数キログラム以上減少した場合は注意が必要です。がんなどの消耗性の病気や、食べ物の吸収がうまくできていない可能性を示唆します。
つかえ感と体重減少が同時に見られる場合は、特に注意深く原因を探る必要があります。
胸の痛みや圧迫感を伴う
喉の症状に加えて、胸に強い痛みや締め付けられるような感覚がある場合、食道の病気だけでなく、心臓の病気(狭心症や心筋梗塞)の可能性も考える必要があります。
特に、痛みが背中や肩に広がる場合は、速やかに医療機関に連絡してください。
受診を急ぐべき症状のチェックリスト
チェック項目 | 詳細 |
---|---|
食べ物が全く通らない | 固形物だけでなく、水分もつかえる。 |
意図しない体重減少 | 半年で5%以上の体重が減った。 |
持続する胸痛 | 食事に関係なく、胸の痛みや圧迫感がある。 |
吐血や黒い便 | 消化管からの出血が疑われる。 |
声がかすれる状態が続く
逆流性食道炎などでも声がれは起こりますが、数週間にわたって改善しない、または悪化する声がれは、声帯ポリープや喉頭がんのサインである可能性も否定できません。
特に喫煙歴のある方は注意が必要です。
日常生活でできるセルフケアと予防法
症状の緩和や悪化の予防のために、日常生活の中で取り組めることも多くあります。原因に合わせて適切なケアを行うことが大切です。
食生活の見直しと工夫
胃酸の逆流が疑われる場合は、胃酸の分泌を促進する食事や、胃と食道のつなぎ目を緩める食事を避けることが有効です。
具体的には、脂肪分の多い食事、チョコレートなどの甘いもの、香辛料の強いもの、柑橘類、炭酸飲料などを控えると良いでしょう。
また、一度にたくさん食べるのではなく、食事の回数を分けて一回量を減らすことも胃への負担を軽減します。
食べやすくするための調理の工夫
工夫 | 目的 | 具体例 |
---|---|---|
とろみをつける | 食べ物の通過速度をゆっくりにする | 汁物や飲み物に片栗粉や市販のとろみ剤を使う |
細かく刻む・ペースト状にする | 噛む負担を減らし、まとまりを良くする | 野菜や肉をミキサーにかける |
柔らかく調理する | 飲み込みやすくする | 長時間煮込む、蒸す、圧力鍋を活用する |
正しい食事の姿勢と食べ方
食事をする際は、少し前かがみの姿勢をとり、あごを軽く引くように意識すると、食べ物が気管に入りにくくなり、誤嚥の予防につながります。
また、一口の量を少なくし、完全に飲み込んでから次の一口を口に運ぶように、ゆっくりと時間をかけて食事をすることも重要です。テレビを見ながらなどの「ながら食い」は避け、食事に集中しましょう。
喉の乾燥を防ぐ
空気が乾燥すると喉の粘膜も乾燥し、刺激に対して敏感になります。特に冬場やエアコンの効いた室内では、加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を適切に保つことが大切です。
また、こまめに水分補給をすることも、喉を潤し、粘膜の保護に役立ちます。
- 加湿器の使用(湿度50~60%が目安)
- こまめな水分補給(カフェインの入っていない麦茶や水)
- マスクの着用
ストレス管理とリラックス法
ストレスが原因で症状が出ている場合は、自分なりのリラックス方法を見つけることが症状緩和の鍵となります。深呼吸や軽い運動、趣味に没頭する時間を作るなど、心と体を休ませることを意識しましょう。
十分な睡眠をとることも、自律神経のバランスを整える上で非常に重要です。
ストレスが喉に与える影響
影響 | 説明 |
---|---|
自律神経の乱れ | 交感神経が優位になり、喉の筋肉が異常に緊張する。 |
知覚過敏 | わずかな刺激を「ひっかかり」として強く感じてしまう。 |
胃酸分泌の増加 | ストレスが胃の働きに影響し、胃酸の逆流を助長することがある。 |
医療機関ではどのような検査を行うのか
症状が続く場合は、原因を特定するために検査を行います。どのような検査があるのかを知っておくと、安心して受診に臨めるでしょう。
問診で確認すること
診断において最も重要な情報源は、患者さんご自身の訴えです。医師は、症状の具体的な内容や生活習慣について詳しく質問します。
- いつから症状があるか
- どのような時に症状が強くなるか
- 食事の内容や習慣
- 喫煙や飲酒の習慣
- 他に服用している薬
内視鏡検査(胃カメラ)
口または鼻から細いカメラを挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察する検査です。逆流性食道炎の有無や程度、潰瘍、ポリープ、がんなどの病気を見つけることができます。
喉の違和感を訴える患者さんに対しては、カメラを挿入・抜去する際に咽頭や喉頭の状態も注意深く観察します。必要に応じて、組織の一部を採取して詳しく調べることも可能です。
内視鏡検査でわかること
観察部位 | 確認できる主な所見 |
---|---|
咽頭・喉頭 | 炎症、腫瘍、声帯の動き |
食道 | 逆流性食道炎、食道がん、食道裂孔ヘルニア、アカラシアの兆候 |
胃・十二指腸 | 胃炎、胃潰瘍、ピロリ菌感染の兆候、がん |
嚥下機能の評価
嚥下機能の低下が強く疑われる場合には、専門的な検査を行うことがあります。
造影剤を含んだ模擬食品を食べながらレントゲン撮影を行う「嚥下造影検査(VF)」や、鼻から内視鏡を入れて飲み込みの様子を直接観察する「嚥下内視鏡検査(VE)」などがあります。
これらの検査により、飲み込みのどの段階に問題があるのかを詳細に評価できます。
その他の検査
甲状腺の病気が疑われる場合は、超音波(エコー)検査や血液検査を行います。また、食道の運動機能をより詳しく調べるために、食道内圧測定検査といった専門的な検査が必要になることもあります。
喉のひっかかりに関する治療の選択肢
治療は、原因となっている病気や状態に応じて行います。ここでは主な治療法を紹介します。
原因に応じた薬物療法
逆流性食道炎や咽喉頭酸逆流症が原因の場合は、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やカリウムイオン競合型アシッドブロッカーなど)が治療の中心となります。
食道の運動機能を改善する薬や、粘膜を保護する薬、不安やストレスを和らげる薬などを併用することもあります。
生活習慣の指導
薬物療法と並行して、生活習慣の改善は非常に重要です。
特に逆流性食道炎では、食事内容の見直し、食後すぐに横にならない、就寝時に上半身を少し高くして寝る、ベルトを締めすぎない、肥満を解消するといった指導を行います。
これらの積み重ねが、症状の再発を防ぎます。
嚥下リハビリテーション
嚥下機能の低下が見られる場合には、機能の維持・改善を目的としたリハビリテーションを行います。専門家の指導のもと、安全に訓練を進めることが大切です。
- 間接訓練:食べ物を使わずに、口や喉の筋肉を鍛える体操や発声練習を行う。
- 直接訓練:実際に食べ物を使って、正しい姿勢や食べ方を学びながら飲み込む練習を行う。
よくある質問
最後に、喉のひっかかりに関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- Q何科を受診すれば良いですか?
- A
症状によって適切な診療科は異なりますが、まずはかかりつけの内科や消化器内科に相談するのが一般的です。
胸やけなど消化器症状が強い場合は消化器内科、声がれや耳の症状も伴う場合は耳鼻咽喉科が適していることもあります。
どの科を受診すればよいか迷う場合は、まずはお近くのクリニックで相談し、必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらうのが良いでしょう。
受診を検討する診療科とその役割
診療科 主な対象となる状態・病気 行うことが多い検査 内科・消化器内科 逆流性食道炎、食道がんなど消化管の病気全般 内視鏡検査(胃カメラ)、血液検査 耳鼻咽喉科 咽喉頭酸逆流症、咽頭・喉頭の炎症や腫瘍、声帯の異常 喉頭ファイバースコープ検査 心療内科・精神科 ストレスや不安が主な原因と考えられる咽喉頭異常感症 問診、心理検査
- Q年齢とともに悪化しますか?
- A
加齢は、喉や食道の筋力低下、唾液の分泌量減少、反射機能の低下などを引き起こすため、嚥下機能にとっては不利な要因となります。
そのため、年齢を重ねるにつれて、むせやすくなったり、食べ物がひっかかりやすくなったりする傾向はあります。
しかし、日頃から意識して口の体操をしたり、食事の工夫をしたりすることで、機能の低下を緩やかにすることは可能です。
- Q喉のトレーニングで改善しますか?
- A
嚥下機能の維持・改善を目的とした「嚥下おでこ体操」や、口周りの筋肉を動かす「パタカラ体操」などは、ご自宅でもできる簡単なトレーニングです。
これらの運動は、飲み込みに関わる筋肉を鍛え、唾液の分泌を促す効果が期待できます。ただし、自己流で行う前に、一度医療機関で正しい方法について指導を受けることが望ましいです。
- Qこの症状は他の人にうつりますか?
- A
逆流性食道炎や加齢による嚥下機能低下、ストレスなどが原因の喉のひっかかりは、感染症ではないため、他の人にうつることはありません。
ただし、喉の炎症の原因がウイルスや細菌である場合は、その原因となる病原体が感染する可能性はあります。咳やくしゃみが出る場合は、咳エチケットを心がけましょう。
以上