家族からいびきを指摘されたり、日中の眠気が気になったりして、「いびきを治したいけれど、何科に行けばいいの?」と悩んでいませんか。

いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という重大な病気が隠れているサインかもしれません。放置すると生活習慣病や心血管疾患のリスクを高めることもあります。

この記事では、いびき治療の第一歩としてどの診療科を受診すべきか、特に耳鼻咽喉科(耳鼻科)や睡眠外来の役割を中心に、検査や治療の具体的な流れを詳しく解説します。

適切な医療機関で正しい診断を受け、質の高い睡眠を取り戻しましょう。

まずはセルフチェック!危険ないびきのサインとは?

すべてのいびきが治療対象となるわけではありません。しかし、中には睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因となっている「危険ないびき」も存在します。

治療を検討すべき、いびきの特徴とサインをいくつか紹介します。

睡眠中に呼吸が止まっている

家族など睡眠中の様子を見ている人から「いびきが急に静かになって、しばらくして大きな呼吸とともに再開する」「息が止まっているようだ」と指摘された場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が非常に高いと考えます。

これは睡眠中に気道が完全に塞がってしまっている危険な状態です。

日中に強い眠気がある

夜間に無呼吸や低呼吸を繰り返していると脳や体が十分に休息できず、深い睡眠が妨げられます。その結果、日中に耐えがたいほどの眠気を感じたり、集中力が続かなかったりします。

会議中や運転中など、重要な場面で居眠りをしてしまうこともあります。

日中の眠気に関連する症状

症状具体例影響
集中力の低下仕事や勉強に身が入らない、ミスが増える。業務効率の低下
倦怠感十分寝たはずなのに、体がだるく重い。活動意欲の低下
居眠り会話中や運転中にうとうとしてしまう。事故のリスク増大

起床時の頭痛や倦怠感

睡眠中の無呼吸によって体内の酸素濃度が低下すると朝起きた時に頭が重かったり、すっきりしない頭痛を感じたりすることがあります。

また、熟睡できていないため、どれだけ長く寝ても疲れが取れないといった倦怠感を伴うことも少なくありません。

いびき治療で受診すべき診療科

いびきの原因は多岐にわたるため、原因に応じて専門とする診療科が異なります。どの科が自分に合っているか、症状と照らし合わせて考えてみましょう。

耳鼻咽喉科(耳鼻科)が第一選択肢

いびきの主な原因は、鼻や喉といった空気の通り道(上気道)が狭くなることです。耳鼻咽喉科は、まさにこの鼻や喉の専門家です。

耳鼻咽喉科では鼻づまり(鼻中隔弯曲症、アレルギー性鼻炎など)や扁桃腺の大きさ、アデノイドの肥大といった構造的な問題を直接診察し、診断できます。

そのため、いびきで悩んだらまずは耳鼻咽喉科を受診することを推奨します。

睡眠外来・呼吸器内科も専門

睡眠外来や睡眠センターは、いびきや睡眠時無呼吸症候群をはじめとする睡眠障害全般を専門的に診療する科です。

呼吸器内科でも、特に睡眠時無呼吸症候群の検査やCPAP(シーパップ)療法などの治療を専門的に行っている医療機関が多くあります。

診療科ごとの主な役割

診療科主な役割得意とする分野
耳鼻咽喉科鼻・喉の形態的な診察、外科的治療気道の構造的問題の診断
睡眠外来・呼吸器内科睡眠検査、CPAP療法などの内科的治療睡眠全体の評価と管理
歯科・口腔外科マウスピース(口腔内装置)の作成下顎の位置調整による治療

歯科・口腔外科が対応する場合

いびきの原因が睡眠中に舌が喉の奥に落ち込んだり、下顎が小さかったりすることにある場合、歯科や口腔外科が専門となります。

主に睡眠中に下顎を前方に少し突き出させて気道を広げるためのマウスピース(口腔内装置)を作成します。

ただし、マウスピース治療の前に睡眠検査で重症度を診断する必要があるため、まずは耳鼻咽喉科や睡眠外来への相談が先決です。

なぜ耳鼻咽喉科が最初の相談先なのか

多くの診療科がいびき治療に関わっていますが、特に最初の相談先として耳鼻咽喉科が適しているのには明確な理由があります。

鼻や喉の構造的な問題を診断

耳鼻咽喉科の医師はファイバースコープなどの専門的な器具を用いて、鼻の奥から喉の深部まで気道の状態を直接観察できます。

この視診により、いびきの原因となっている物理的な狭窄部位を特定することが可能です。これは他の診療科では難しい、耳鼻咽喉科ならではの強みです。

耳鼻咽喉科で確認する主な部位

  • 鼻腔(鼻の中の空間)
  • 咽頭(喉の奥)
  • 扁桃(のどちんこの両脇)
  • 喉頭(声帯のある部分)

鼻づまりや扁桃腺肥大の確認

慢性的な鼻づまりは口呼吸を誘発し、いびきを悪化させる大きな要因です。

また、生まれつき扁桃腺が大きい「扁桃肥大」や、子供に見られる鼻の奥にあるリンパ組織の塊「アデノイド」の肥大も気道を狭くする代表的な原因です。

これらの状態は、耳鼻咽喉科の診察で正確に評価できます。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の初期評価

耳鼻咽喉科では問診や診察を通じて睡眠時無呼吸症候群の可能性を評価し、必要であれば専門的な睡眠検査へと進みます。

自宅で実施できる簡易検査の手配や、精密検査が必要な場合の専門医療機関への紹介など、いびき治療の入り口として総合的な判断を行います。

問診で確認する主な内容

項目質問の例
いびきの性状「毎晩かきますか?」「呼吸は止まりますか?」
日中の症状「日中の眠気はありますか?」「朝の目覚めはどうですか?」
生活習慣「飲酒や喫煙の習慣はありますか?」「体重の増減は?」

クリニック・病院選びのポイント

いざ受診しようと思っても、どの医療機関を選べばよいか迷うかもしれません。納得のいく治療を受けるために、いくつかのポイントを押さえておきましょう。

睡眠時無呼吸症候群の検査設備

正確な診断のためには睡眠検査が重要です。

自宅でできる簡易検査の機器を貸し出しているか、あるいは精密検査(PSG検査)が必要な場合に、自院または連携する施設で実施できる体制が整っているかを確認しましょう。

ウェブサイトなどで検査について明記しているクリニックは、いびき治療に積極的であると考えられます。

CPAP療法などの治療実績

睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法であるCPAP(シーパップ)療法や、マウスピース治療、外科手術など複数の治療選択肢を提示できる医療機関が望ましいです。

特にCPAP療法は導入後の定期的なフォローアップが治療継続の鍵となるため、実績が豊富でサポート体制がしっかりしているかどうかも重要なポイントです。

主な治療法の選択基準

治療法主な対象特徴
CPAP療法中等症~重症のSAS最も効果的で標準的な治療
マウスピース軽症~中等症のSAS持ち運びが便利。歯科で作成。
外科手術扁桃肥大など明確な原因がある場合根本的な改善が期待できる

日本睡眠学会専門医の在籍

睡眠医療は専門性の高い分野です。日本睡眠学会が認定する専門医が在籍しているかどうかは質の高い医療を受けられるかどうかのひとつの目安になります。

専門医は睡眠に関する深い知識と豊富な臨床経験を持っており、患者様一人ひとりに合った適切な治療方針を立てることができます。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査の流れ

睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、睡眠中の体の状態を客観的に調べるための検査を行います。検査は大きく分けて2段階あります。

自宅でできる簡易検査

まず最初に行うことが多いのが、携帯用の装置を自宅に持ち帰って行う簡易検査です。

手の指や鼻にセンサーを取り付けて普段通りに眠るだけで、睡眠中の呼吸の状態や血液中の酸素濃度などを記録できます。

この検査で無呼吸や低呼吸の頻度を調べ、睡眠時無呼吸症候群の可能性を評価します。

入院して行う精密検査(PSG検査)

簡易検査で中等症以上の無呼吸が疑われる場合や、より詳細な評価が必要な場合には、医療機関に1泊入院して精密検査(ポリソムノグラフィ検査、PSG検査)を行います。

脳波や心電図、筋電図など、体により多くのセンサーを取り付けて、睡眠の質や深さ、無呼吸の重症度を総合的に評価します。

この検査は治療方針を決定するための最も正確な情報をもたらします。

簡易検査と精密検査(PSG)の比較

項目簡易検査精密検査(PSG)
場所自宅医療機関(1泊入院)
主な測定項目呼吸、酸素飽和度、脈拍呼吸、酸素飽和度、脳波、心電図など多数
目的SASのスクリーニングSASの確定診断と重症度評価

検査結果の評価と重症度の判定

検査結果は、AHI(無呼吸低呼吸指数)という指標で評価します。

AHIは睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示し、この数値によって重症度が判定され、治療方針が決定します。

AHIによる重症度分類

  • 正常:5回未満
  • 軽症:5回以上15回未満
  • 中等症:15回以上30回未満
  • 重症:30回以上

いびきの主な治療法と選択肢

検査結果に基づき、重症度や原因、ライフスタイルに合わせて治療法を選択します。主な治療法には以下のようなものがあります。

CPAP(シーパップ)療法

中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群に対して最も効果的な標準治療です。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道に圧力をかけることで、睡眠中に気道が塞がるのを防ぎます。

治療を開始したその日からいびきや無呼吸が劇的に改善することが多く、日中の眠気解消も期待できます。

マウスピース(口腔内装置)による治療

主に軽症から中等症の患者様が対象です。睡眠中に装着することで下顎を少し前方に移動させ、舌の根元が沈み込むのを防いで気道を確保します。

旅行などへの持ち運びにも便利ですが、作製と調整は専門の歯科医が行います。

外科的手術という選択

扁桃肥大やアデノイド、鼻中隔弯曲症など、いびきの原因が解剖学的な問題であることが明らかな場合に検討します。

原因となっている部位を手術で切除・矯正することで気道を物理的に広げ、症状の根本的な改善を目指します。

手術の適応は耳鼻咽喉科医が慎重に判断します。

生活習慣の改善

すべての治療の基本となるのが生活習慣の見直しです。特に肥満は首周りの脂肪を増やし気道を狭くする大きな原因となるため、減量が重要です。

この他にも飲酒や睡眠薬を控えること、横向きに寝ることなども、いびきの軽減に有効です。

いびき改善のための生活習慣

項目具体的な行動
適正体重の維持バランスの取れた食事と定期的な運動で減量する
アルコールの制限就寝前の飲酒は筋肉を弛緩させ、気道を狭くするため控える
睡眠時の姿勢仰向けではなく、横向きで寝るように工夫する

いびき治療に関するよくある質問

最後に、いびき治療に関して患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
治療に保険は適用されますか?
A

はい、適用されます。ただし、「いびき」という症状だけでは保険適用にならず、睡眠検査の結果、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断されることが条件です。

SASと診断されれば、その後のCPAP療法やマウスピース治療(紹介状が必要)、外科手術など、ほとんどの治療が保険適用の対象となります。

Q
子供のいびきも相談できますか?
A

もちろん可能です。お子さんのいびきは、多くの場合アデノイドや扁桃肥大が原因です。

放置すると成長や発達、学力に影響を及ぼす可能性もあるため、気になる場合は早めに小児科または耳鼻咽喉科に相談してください。

特に耳鼻咽喉科はお子さんの鼻や喉の状態を直接診察できるため、的確な診断が可能です。

Q
治療期間はどのくらいかかりますか?
A

治療期間は治療法や個人の状態によって大きく異なります。

CPAP療法やマウスピース治療は対症療法であるため、根本的な原因(肥満など)が改善しない限り、継続的な使用が必要です。

外科手術の場合は術後の回復期間を経て症状が改善すれば治療は終了となります。

生活習慣の改善は治療効果を高め、治療期間を短縮するためにも、すべての患者様に継続して取り組んでいただくことが重要です。

以上

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