家族やパートナーの寝姿を見ていて、いびきの音量以上に「喉の動き」に恐怖を感じたことはありませんか。
息を吸おうとするタイミングで、喉仏が不自然なほど大きく下に引っ張られたり、胸やお腹が激しく波打ったりする様子は、単なる寝癖や疲れではありません。
それは医学的に「呼吸努力」と呼ばれる現象であり、閉塞した気道を無理やりこじ開けようとして体が必死に抵抗している証拠です。放置すれば心臓や脳へ深刻なダメージを与えかねません。
この記事では、喉仏の激しい動きがなぜ起こるのか、それが示す無呼吸症候群のリスクと、今すぐ確認すべきポイントについて詳しく解説します。
いびきと一緒に喉仏が動くのはなぜ?気道が塞がって息ができなくなっている証拠
いびきをかいている最中に喉仏が上下に激しく動く現象は、正常な睡眠呼吸では見られない特徴的なサインです。
これは、空気が通る道である「気道」が狭くなっている、あるいは完全に塞がってしまっているにもかかわらず、体が酸素を取り込もうとして強い力で呼吸を行っているために発生します。
医学的にはこの状態を「呼吸努力」と呼び、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の典型的な症状の一つとして重視します。
私たちが起きている間は、喉の周りの筋肉が緊張を保っているため、気道は十分に広い状態を維持します。
しかし、睡眠に入ると全身の筋肉が緩み、重力の影響もあって舌根(舌の付け根)や軟口蓋(のどちんこ周辺)が喉の奥へと沈み込みます。健康な人であれば、多少気道が狭くなっても呼吸に支障はありません。
ところが、肥満や骨格的な要因を持つ人の場合、気道が極端に狭くなり、空気が通るたびに粘膜が激しく振動して「いびき」が発生します。さらに症状が悪化して気道が完全に閉じてしまうと、肺には空気が入ってきません。
それでも脳は「酸素が足りない、息を吸え」という指令を出し続けます。この指令を受けた横隔膜や肋間筋などの呼吸筋は、なんとかして空気を肺に引き込もうとして、普段以上の強い力で胸郭を広げようとします。
このとき、胸腔内(肺が入っている空間)の圧力が極端な陰圧(吸い込む力)になります。行き場を失ったその強い吸引力が、喉仏や鎖骨周辺の皮膚を内側へ、そして下側へと激しく引きずり込むのです。
正常な呼吸と閉塞時の呼吸はどう違うのか
健康的な睡眠時の呼吸は、非常に静かで穏やかです。胸やお腹の動きも小さく、一定のリズムを刻みます。喉仏の位置も呼吸に合わせてわずかに動く程度で、目視で確認できるほどの大きな変動はありません。
空気は抵抗なくスムーズに鼻から気管、肺へと流れていきます。一方で、気道が閉塞している時の呼吸は、見た目にも苦しそうな様相を呈します。まるでストローの先を指で塞いで強く吸い込んでいるような状態です。
ストロー自体がぺちゃんこに潰れようとするのと同じ力が、人間の喉にもかかります。この強烈な陰圧によって喉仏が下方向へグッと引き下げられる動き(陥没呼吸の一種)が見られ、これが「喉仏が激しく動く」正体です。
さらに、この状態は「真空パック」を作るときのような強力な吸引力が体内で働いているとイメージしてください。柔らかい組織である喉周辺が、内側からの吸引力に負けて変形してしまうほどの負担がかかっているのです。
「陥没呼吸」という危険なサインを見逃さない
喉仏の動きだけでなく、鎖骨の上のくぼみや、みぞおちあたりが息を吸うタイミングでペコっと凹む現象も同時に見られるケースが多いです。これを「陥没呼吸」と言います。
通常は大人の睡眠で見られることは稀であり、これが見られるということは、相当強い力で呼吸をしようともがいている証拠です。この状態が毎晩続けば、呼吸筋は休息どころか過剰な重労働を強いられます。
朝起きたときに「寝たはずなのにひどく疲れている」「胸や喉が痛い」と感じるのは、寝ている間にマラソンをしているような呼吸努力が続いているからです。筋肉痛のようなダルさが上半身に残る方も珍しくありません。
呼吸状態の比較
| 観察ポイント | 正常な睡眠呼吸 | 閉塞・呼吸努力がある場合 |
|---|---|---|
| 喉仏の動き | ほとんど動かない、またはわずか | 息を吸う時に大きく下に下がる |
| 胸と腹の動き | 同調して穏やかに動く | 激しく動く、または逆の動きをする |
| 呼吸音 | 静か、無音に近い | 大きないびき、途切れる、あえぎ |
| 鎖骨・みぞおち | 変化なし | 息を吸う時に凹む(陥没呼吸) |
胸とお腹が逆の動きをする「奇異呼吸」とは
喉仏の激しい動きとセットで確認してほしいのが「シーソー呼吸」や「奇異呼吸」と呼ばれる現象です。通常、息を吸う時は胸もお腹も膨らみます。
しかし、気道が閉塞している状態で無理やり息を吸おうとすると、胸郭は広がろうとするのに対し、横隔膜の強い収縮によってお腹だけが膨らみ、逆に胸が凹んで見える、あるいはその逆の動きをするときがあります。
胸とお腹がシーソーのように互い違いに動くこの現象は、重度の気道閉塞を示唆する非常に危険なサインです。呼吸の効率が極端に悪くなっており、酸素不足が急速に進行している可能性が高いと言えます。
放置すると体はどうなってしまう?睡眠時無呼吸症候群が引き起こす全身へのダメージ
喉仏が激しく動くほどの呼吸努力を伴う睡眠時無呼吸症候群は、単に「眠りが浅くなる」だけの病気ではありません。
毎晩繰り返される低酸素状態と、呼吸再開時の交感神経の興奮は、全身の血管や臓器に深刻なダメージを蓄積させていきます。
いわば、真綿で首を絞められるようなストレスが心臓や脳にかかり続けている状態です。
呼吸が止まると、血中の酸素濃度(SpO2)が低下します。ひどい場合では、本来96%以上あるべき数値が70%台や60%台まで下がるときもあります。
これはエベレストの山頂に生身で放り出されたような極限状態です。体は生命の危機を感じて心拍数を上げ、血圧を急上昇させて酸素を全身に巡らせようとします。
これが一晩に何百回も繰り返されるため血管はボロボロになり、動脈硬化が急速に進行します。
特に注意が必要なのは、自覚症状が乏しいまま病状が進行することです。本人は「よく寝ている」つもりでも、体の中では時限爆弾のスイッチが押され続けているようなものです。
高血圧や心疾患との密接な関係性
高血圧症の患者さんの中で、実は睡眠時無呼吸症候群が原因であるケースは非常に多いです。これを「二次性高血圧」と呼びます。
薬を飲んでも血圧が下がりにくい場合、背景に無呼吸が隠れている可能性を疑います。無呼吸による交感神経の緊張は、夜間だけでなく日中の血圧も高く維持してしまうためです。
また、心臓への負担は心不全、不整脈(特に心房細動)、狭心症、心筋梗塞のリスクを跳ね上げます。
夜中に突然死するリスクも、健常者に比べて数倍高くなると言われています。心臓は本来、睡眠中に休むべき臓器ですが、無呼吸の人は寝ている間こそ心臓が過重労働を強いられているのです。
脳卒中リスクの上昇と脳へのダメージ
酸素不足と血圧の乱高下は、脳血管にも直撃します。脳梗塞や脳出血の発症リスクは、無呼吸がない人に比べて約2倍から4倍になるとのデータもあります。
また、慢性的な酸素不足は認知機能にも影響を与え、集中力の低下、記憶力の減退、日中の強い眠気を引き起こします。これらは仕事のパフォーマンス低下や、重大な交通事故の原因にもなり得ます。
さらに、脳内の老廃物を除去するシステムは深い睡眠中に最も活発になりますが、無呼吸による覚醒反応で睡眠が分断されると、このシステムが機能せず、将来的な認知症リスクを高める可能性も指摘されています。
代謝異常と糖尿病の悪化ループ
睡眠不足や低酸素状態は、糖の代謝に関わるインスリンの働きを悪くします。これをインスリン抵抗性と呼びます。
その結果、血糖値が下がりにくくなり、2型糖尿病の発症リスクを高めたり、既存の糖尿病を悪化させたりします。
さらに、無呼吸は食欲を抑制するホルモンを減らし、食欲を増進させるホルモンを増やすため、肥満になりやすくなります。肥満になると喉の脂肪が増えてさらに無呼吸が悪化するという、負のスパイラルに陥りやすくなります。
- 夜間の頻尿(心臓への負担から利尿ホルモンが出るため)
- 起床時の頭痛(二酸化炭素が体内に溜まるため)
- 逆流性食道炎(胸腔内の陰圧で胃酸が吸い上げられるため)
- 性機能障害(ED)やリビドーの低下
- 日中の耐え難い眠気や倦怠感
ただのいびきか危険な無呼吸かを見分けるには?家族や自分がチェックすべきポイント
「いびきをかく=睡眠時無呼吸症候群」とは限りません。お酒を飲んだ日や疲れた日だけにかく一時的な単純性いびきであれば、健康への即時的なリスクは低いと考えられます。
しかし、治療が必要な病的ないびきとの境界線を見極めることは、早期発見のために極めて重要です。病的な無呼吸を疑う最大のポイントは「音の変化」と「呼吸の停止」です。
ずっと同じ調子で「ゴーゴー」とかいているいびきよりも、音が強弱を繰り返したり、突然「ピタッ」と止まって静寂が訪れ、その後に「ガガッ!プハッ!」と爆発的な音と共に呼吸が再開したりするパターンは非常に危険です。
この静寂の間こそが、気道が閉塞して無呼吸になっている時間だからです。10秒以上の停止が1時間に5回以上あれば、医学的に睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
家族やパートナーが確認すべき観察項目
本人は眠っているため、自分のいびきや呼吸停止に気づくのは困難です。そのため、ベッドパートナーの観察が診断の決定打になるときが多々あります。
もしパートナーがいびきをかいていたら、以下の点を確認してみてください。音が止まっている時間はどれくらいか、その時に胸やお腹が動いているか(呼吸努力があるか)、顔色は悪くなっていないか。
スマートフォンの録音機能や動画撮影を使って、実際の様子を記録するのがおすすめです。医師に見せると診断が非常にスムーズになります。百聞は一見に如かずで、動画があれば医師も重症度を即座に判断できます。
日中の自覚症状から探るサイン
夜間の症状がわからなくても、日中の体調から逆算して無呼吸を疑うことができます。十分な睡眠時間を確保しているはずなのに、昼食後に抗えないほどの眠気に襲われる、会議中や運転中に意識が飛びそうになる、といった症状は要注意です。
また、朝起きた瞬間に口がカラカラに乾いているのも、夜間に口呼吸をしており、いびきをかいている証拠です。
朝起きた時に頭が重い、あるいはズキズキと痛む場合は、夜間の呼吸不全によって体内に二酸化炭素が溜まっている可能性があります。
セルフチェックで気づく体の変化
体重の増加も重要なサインです。若い頃に比べて体重が10kg以上増えた、首回りが太くなってワイシャツのボタンが閉まらなくなった、といった変化がある場合、気道周辺にも脂肪がついて狭くなっている可能性が高いです。
また、下顎が小さい、小顔であるといった骨格的な特徴も、痩せていても無呼吸になりやすい要因の一つです。
鏡を見て口を開けたとき、のどちんこ(口蓋垂)が見えにくい場合は、舌が大きくて気道が狭い可能性があります。
いびきの種類と特徴比較
| 特徴 | 単純性いびき(心配なし) | 睡眠時無呼吸症候群(要受診) |
|---|---|---|
| 音のリズム | 一定のリズムで連続的 | 大きくなったり止まったり不規則 |
| 呼吸の停止 | なし | 頻繁にある(10秒以上) |
| 寝相 | 比較的良い | 激しい、寝返りが多い |
| 発生頻度 | 飲酒や疲労時のみ | 毎晩のようにかく |
| 体位の影響 | 仰向けのみで発生 | 横向きでも発生する |
喉仏の動きの原因を突き止めるには?病院で行う検査で何がわかるのでしょうか
喉仏が激しく動くことは、気道のどこかが詰まっていることを示唆しますが、具体的に「鼻」「軟口蓋」「舌根」のどこが原因なのか、あるいはそれらが複合しているのかを特定するには専門的な検査が必要です。
閉塞部位によって、マウスピースが効くのか、CPAP(シーパップ)療法が必要なのか、あるいは外科手術が適応になるのか、治療方針が大きく変わるからです。
耳鼻咽喉科や睡眠専門外来では、まずファイバースコープを使って鼻や喉の形状を直接確認します。扁桃腺の肥大はないか、舌が大きすぎないか、鼻中隔が曲がっていないかなどをチェックします。
さらに、実際に睡眠中の脳波や呼吸状態を測定する検査を行い、無呼吸の重症度を数値化します。
最近では、自宅で簡易的に検査できるキットも普及しています。指先にセンサーをつけて血中の酸素濃度と脈拍を測るものや、鼻の下にチューブをつけて気流を測るものなどがあります。
簡易検査(スクリーニング)でわかること
自宅で行う簡易検査(パルスオキシメータや簡易アプノモニター)は、主に「無呼吸の回数」と「酸素低下の度合い」を測定します。
これでAHI(無呼吸低呼吸指数)という数値を出し、40以上などの重症判定が出れば、そのままCPAP治療へ進む場合もあります。
しかし、この検査では脳波を測らないため、「本当に眠っているか」がわからず、症状を過小評価してしまう可能性があります。あくまでスクリーニング(ふるい分け)としての位置づけであると理解しておきましょう。
精密検査(PSG)でわかること
ポリソムノグラフィー(PSG)検査は、睡眠検査のゴールドスタンダードです。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸フロー、胸腹部の動き(呼吸努力)、酸素飽和度、いびきの音、体位などを同時に記録します。
特に、胸とお腹に巻くバンドのセンサーによって、喉仏が動くような「呼吸努力があるのに気流がない(閉塞性)」のか、呼吸努力そのものがない「中枢性」なのかを明確に区別できます。
一泊入院が必要ですが、睡眠の質(深い睡眠が取れているか)や、脚が勝手に動く周期性四肢運動障害などの他の睡眠障害の有無も同時に調べられるため、確定診断には不可欠です。
閉塞部位を特定する画像診断
骨格的な問題を把握するために、頭部のレントゲン(セファログラム)やCT、MRIを撮る場合もあります。
これにより、気道の断面積や、顎の骨の位置関係、舌のボリュームなどを立体的に把握し、なぜ気道が塞がりやすいのかを解剖学的に分析します。
この分析は、特にマウスピース治療や外科手術を検討する際に必要です。自分の気道がどの部分で狭くなっているのかを画像で見ることは、治療への納得感を高める上でも役立ちます。
主な検査方法とその目的
| 検査名 | 場所 | わかること・目的 |
|---|---|---|
| 簡易モニター検査 | 自宅 | 無呼吸の有無、酸素低下レベル、重症度の目安 |
| PSG検査 | 病院(1泊) | 睡眠の質、無呼吸のタイプ、正確な重症度 |
| 内視鏡検査 | 診察室 | 鼻腔・咽頭・喉頭の形態的狭窄の確認 |
| セファログラム | 診察室 | 顎の骨格や気道の奥行きの計測 |
自分でできる対策はある?気道を狭くしてしまう生活習慣や寝室環境を見直してみましょう
喉仏が動くほどの呼吸困難を引き起こす背景には、生まれつきの骨格だけでなく、日々の生活習慣が大きく関わっています。
筋肉の緊張度合いや脂肪の付き方、体内の水分分布などは、私たちの行動によって変化します。つまり、生活習慣を見直すと、いびきや無呼吸の症状を軽減できる可能性があるということです。
最も影響が大きいのは「アルコール」です。お酒を飲むと、喉の筋肉が麻痺したように緩んでしまいます。
普段はいびきをかかない人でも、飲酒後は舌が喉の奥に落ち込みやすくなり、激しいいびきをかくのはこのためです。無呼吸症候群の人が寝る前にお酒を飲むと、無呼吸の時間が長くなり、低酸素状態がさらに悪化することが分かっています。
肥満と首回りの脂肪沈着
体重増加は気道を物理的に圧迫します。お腹周りの脂肪だけでなく、舌そのものにも脂肪がつくと考えられており、気道のスペースが狭くなります。
首回りの太さが男性で40cm以上、女性で35cm以上ある場合はリスクが高いとされます。
減量は根本的な解決策の一つであり、体重を減らすだけでいびきが劇的に改善するケースも少なくありません。まずは現体重の5%減量を目標にするだけでも、気道の通りやすさに変化が現れる場合があります。
寝姿勢の工夫で重力の影響を減らす
仰向け(上向き)で寝ると、重力によって舌や軟口蓋が喉の奥へ垂直に落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。このとき、呼吸努力による喉仏の動きも顕著になります。
一方、横向き(側臥位)で寝ると、これらの組織が横に流れるため、気道が確保されやすくなります。抱き枕を活用したり、パジャマの背中にテニスボールを縫い付けて仰向けを防ぐといった工夫も、軽症の場合には有効です。
枕の高さも重要です。高すぎる枕は首を圧迫して気道を狭め、低すぎる枕は舌根沈下を招きます。自分の首のカーブに合った適切な高さの枕を選びましょう。
口呼吸から鼻呼吸への転換
口を開けて寝ると、下顎が後退して気道が狭くなります。また、鼻には加湿機能やフィルター機能がありますが、口呼吸では乾燥した空気が直接喉を刺激し、炎症や腫れを招きます。
鼻炎や鼻中隔弯曲症などの鼻の病気がある場合は、まず耳鼻科で鼻の通りを良くする治療を行うことが、いびき改善の第一歩です。
市販の鼻拡張テープや口閉じテープも補助的に役立ちますが、無理やり口を閉じると窒息のリスクがあるため、鼻詰まりがないことを確認してから使用してください。
- 就寝4時間前のアルコール摂取を控える
- 禁煙または本数を減らす
- 適正体重を目指して減量する
- 抱き枕を使用して横向き寝を習慣化する
- 鼻洗浄や点鼻薬で鼻の通りを良くする
子供のいびきで喉仏が動く時はどうする?大人とは違う原因と早めの対処が必要
ここまで主に大人の無呼吸について解説しましたが、子供が激しく喉仏を動かして寝ている場合は、さらに緊急性が高いと捉える必要があります。子供の体は成長段階にあり、脳や身体の発育には十分な酸素と質の高い睡眠が必要不可欠だからです。
大人の無呼吸の主因が肥満であるのに対し、子供の場合は「アデノイド(咽頭扁桃)や口蓋扁桃の肥大」が原因であるケースがほとんどです。
物理的に空気の通り道が塞がれているため、子供は小さな体で必死に呼吸をしようとします。その結果、胸がペコペコ凹む陥没呼吸や、喉を反らせて寝る姿勢が常態化します。
これを放置すると、「漏斗胸」といって胸の骨が変形してしまったり、成長ホルモンの分泌が阻害されて低身長になったりする恐れがあります。
また、夜間の睡眠の質が悪いために、日中に落ち着きがなくなったり、集中力が続かなかったりして、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と間違われるケースも報告されています。
学業への影響と性格の変化
睡眠不足は子供の学習能力に直結します。授業中に居眠りをするだけでなく、イライラして攻撃的になったり、逆に無気力になったりと、性格や行動面に影響が出る場合があります。
おねしょ(夜尿症)が治らないのも、無呼吸によるホルモンバランスの乱れが原因であるケースがあります。深い睡眠中に分泌されるはずの抗利尿ホルモンが出ないため、夜間に尿が作られすぎてしまうのです。
手術が必要になるケース
子供のいびきや無呼吸が著しい場合、扁桃腺やアデノイドを切除する手術が第一選択となることが多いです。大人と違い、原因となっている組織を取り除くと劇的に症状が改善し、完治する可能性が高いのが特徴です。
手術後は身長が伸び、顔つきもしっかりとし、日中の活動性が向上することが多くの症例で見られます。
親御さんとしては全身麻酔の手術に不安を感じるかもしれませんが、発育への悪影響を取り除くメリットは非常に大きいです。
小児科ではなく耳鼻科への相談
子供がいびきをかいて苦しそうにしている場合、風邪だと思って小児科を受診しがちですが、いびきや無呼吸の専門的な診断には耳鼻咽喉科が適しています。
ファイバースコープでアデノイドの大きさを確認したり、必要に応じてレントゲンを撮ったりして、気道の狭さを評価します。
喉仏の動きが激しい場合は、早急に専門医に見せる必要があります。いびきの音声を録音して持参すると、医師への説明がスムーズになります。
子供の無呼吸の特徴と影響
| 項目 | 子供の特徴 |
|---|---|
| 主な原因 | アデノイド・扁桃肥大 |
| 呼吸の様子 | 陥没呼吸(胸が凹む)、いびき、口呼吸 |
| 日中の症状 | 多動、注意散漫、居眠り、口が開いている |
| 身体への影響 | 低身長、体重増加不良、胸郭変形、夜尿 |
| 治療法 | 手術療法(摘出術)が第一選択になることが多い |
診断されたらどんな治療をするの?CPAPやマウスピースなど自分に合う方法を選びましょう
喉仏が激しく動くほどの無呼吸症候群と診断された場合、治療は待ったなしです。しかし、治療法は一つではありません。重症度、原因部位、生活スタイルに合わせて適切なものを医師と相談して決定します。
治療のゴールは、いびきを止めることだけではなく、睡眠中の酸素不足を解消し、合併症のリスクを下げることにあります。
現在、最も標準的で確実な効果が期待できるのが「CPAP(持続陽圧呼吸)療法」です。鼻にマスクを装着し、機械から空気を送り込んで気道を内側から押し広げる方法です。
物理的に空気の圧力をかけて気道の壁を支えるため、喉仏が下がるような呼吸努力は消失し、睡眠が静かで安らかなものに変わります。
多くの方が、使い始めた翌朝から「世界が変わったような目覚め」を実感します。マスクの装着感に慣れるまで時間がかかる場合もありますが、最近は小型で静音性の高い機器や、肌当たりの良いマスクも開発されています。
外科手術という選択肢
扁桃腺が極端に大きい場合や、軟口蓋が長くて垂れ下がっている場合には、それらを切除・形成する手術(UPPPなど)を行うケースもあります。
ただし、成人の場合、手術だけでは完全に無呼吸が治らないこともあり、慎重な適応判断が必要です。
最近では、舌下神経を電気刺激して舌を前に出す埋め込み型デバイスによる治療も登場していますが、適応は限られています。手術は「一度行えば終わり」というメリットがありますが、再発のリスクや術後の痛みを考慮する必要があります。
治療を継続する重要性
CPAPもマウスピースも、視力が悪い人が眼鏡をかけるのと同じで、「対症療法」です。使用している間は無呼吸が止まりますが、やめれば元の状態に戻ります(減量などで根本原因が解消された場合は別です)。
しかし、治療を継続すると、高血圧や心臓病のリスクは健常者と同レベルまで下がることが多くの研究で証明されています。
治療は一生の付き合いになる可能性がありますが、それは健康寿命を延ばすための強力なパートナーを得たとも言えます。
主な治療法の比較
| 治療法 | 仕組み | 対象・特徴 |
|---|---|---|
| CPAP療法 | 空気圧で気道を広げる | 中等症〜重症。最も効果が高い標準治療。 |
| マウスピース | 下顎を前に固定する | 軽症〜中等症。携帯に便利。 |
| 外科手術 | 邪魔な組織を切除する | 扁桃肥大など原因が明らかな場合。 |
| 生活指導 | 減量、横向き寝など | 全患者。基本となる対策。 |
よくある質問
- Qいびきで喉仏が動く症状は、痩せれば必ず治りますか?
- A
肥満が主原因であれば、減量によって首回りの脂肪が減り、気道が広がって症状が改善する可能性は高いです。
しかし、骨格(顎が小さい、後退している)や扁桃腺肥大が原因の場合は、痩せてもいびきや呼吸努力が消失しないことがあります。
減量は重要ですが、それだけで完治するとは限らないため、専門医による診断が必要です。
- Qいびき防止グッズを使えば、喉仏の激しい動きは止まりますか?
- A
市販のいびき防止テープや鼻腔拡張グッズは、鼻づまりや口開きの改善には役立ちますが、喉仏が動くほどの重度な気道閉塞(舌根沈下など)に対しては効果が限定的です。
呼吸努力が見られるレベルの場合、物理的に気道をこじ開けるCPAPなどの医療的な介入が必要なケースが多く、市販グッズだけで解決しようとするのは危険な場合があります。
- Qお酒を飲んだ時だけいびきで喉仏が動く場合も受診が必要ですか?
- A
飲酒時のみであれば緊急性は低いかもしれませんが、それは「潜在的な無呼吸予備軍」であることを示しています。
アルコールの筋弛緩作用で気道が保てなくなるということは、加齢やわずかな体重増加で、シラフの時でも無呼吸になるリスクが高い状態です。
一度検査を受けて現状の気道の余裕度を知っておくことは有益です。
- Q子供がいびきで喉仏を動かして寝ている場合、何科に行けばいいですか?
- A
まずは「耳鼻咽喉科」を受診してください。
子供のいびきや呼吸努力の原因の多くはアデノイドや扁桃腺の肥大であり、耳鼻科での視診やファイバースコープ検査が診断の近道です。
小児の睡眠障害に詳しい専門医がいる医療機関を探すのが理想的です。
- Q女性でもいびきで喉仏が動くような無呼吸症候群になりますか?
- A
女性もなります。特に閉経後は女性ホルモンの減少により筋肉の張りが弱くなり、発症率が急上昇します。
また、女性は男性に比べて「いびき音」が小さい傾向にありますが、それでも気道抵抗が高まって喉仏が動くような呼吸努力をしている「隠れ無呼吸」のケースが少なくありません。
音が小さくても苦しそうな呼吸があれば要注意です。
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