いびきや日中の眠気を相談した際、医師から「精密検査(PSG検査)を受けてみましょう」と勧められることがあります。

しかし、「どんな検査?」「入院が必要?」「費用は?」など、多くの疑問が浮かぶのではないでしょうか。

この記事では睡眠時無呼吸症候群の確定診断に重要な精密検査(PSG)について、検査内容から入院の流れ、費用までを網羅的に解説します。

検査への不安を解消し、安心して治療への一歩を踏み出しましょう。

睡眠時無呼吸症候群の精密検査(PSG)とは

まずは、精密検査(PSG)がどのような検査なのか、その目的と位置づけについて理解を深めましょう。

睡眠の質を「見える化」する検査

PSG検査(ポリソムノグラフィ検査)は、睡眠時無呼吸症候群の診断における「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」とされる精密検査です。

脳波や呼吸、心電図など、体に取り付けた多くのセンサーから一晩中の睡眠状態を記録し、睡眠の質や量、無呼吸の回数や重症度を客観的に評価します。

なぜ精密検査が必要なのか

自宅で行う簡易検査でも無呼吸の有無はある程度分かりますが、PSG検査ではより詳細な情報が得られます。

例えば無呼吸が睡眠のどの段階で、どのような姿勢で起きているのか、また、無呼吸が脳や心臓にどれだけ負担をかけているのかまで分析できます。

この詳細な分析により、個々の患者さんに合った、より的確な治療方針を立てることが可能になります。

PSG検査の正式名称と意味

PSGは「Polysomnography」の略です。

「Poly(多くの)」「Somno(睡眠)」「Graphy(記録法)」という言葉の組み合わせで、その名の通り「睡眠に関する多くの情報を記録する検査」という意味を持っています。

PSGの語源

単語意味
Poly (ポリ)多くの、複数の
Somno (ソムノ)睡眠
Graphy (グラフィ)記録法、検査法

PSG検査で何を調べるのか

PSG検査では体にたくさんのセンサーを取り付けます。

痛みを伴うものはありませんが、どのような情報を得ているのかを知っておくと安心して検査に臨めます。

脳波・眼球運動・筋電図(睡眠の評価)

頭や顔に取り付けたセンサーで、睡眠の深さ(睡眠段階)やレム睡眠・ノンレム睡眠のバランスを評価します。

本当に眠れているのか、睡眠の質は良いのか、といった根本的な部分を調べます。

睡眠を評価する主なセンサー

センサー測定内容分かること
脳波計脳の電気活動睡眠の深さ、覚醒反応
眼電図眼球の動きレム睡眠の有無
オトガイ筋電図あごの筋肉の緊張レム睡眠時の筋弛緩

呼吸の状態(無呼吸・低呼吸の評価)

鼻や口のセンサーで呼吸の有無を胸やお腹のバンドで呼吸努力(呼吸しようとする動き)を記録します。

これにより、呼吸が止まっている回数や時間、そのタイプ(閉塞性か中枢性か)を正確に判定します。

心電図と酸素飽和度(体への影響評価)

胸のセンサーで心電図を指先のセンサーで血液中の酸素飽和度(SpO2)を測定します。

無呼吸によって心臓に不整脈などの負担がかかっていないか、体内の酸素がどれだけ低下しているかを評価します。

このことは治療の必要性を判断する上で非常に重要です。

いびきや体位(睡眠中の様子の評価)

のどに取り付けたマイクでいびきの音を、体に貼ったセンサーで寝ている時の姿勢(仰向け、横向きなど)を記録します。

どのような姿勢でいびきや無呼吸が悪化するのかを分析し、治療法の選択に役立てます。

1泊2日の検査入院 当日の流れ

PSG検査は、通常1泊2日の入院で行います。仕事帰りでも検査が受けられるよう配慮している医療機関がほとんどです。

一般的な流れを把握しておきましょう。

夕方~夜 来院と検査の説明

指定された時間に病院へ行きます。多くは夕方から夜にかけての時間帯です。

到着したら病室に案内され、看護師や臨床検査技師から当日の流れや検査についての説明を受けます。

夕食は済ませてから来院するか、院内でとるかなど事前に確認しておきましょう。

就寝前 センサーの装着

就寝時間に合わせて、臨床検査技師がセンサーを装着します。頭、顔、胸、腹、足など全身に20個以上のセンサーを手際よく貼り付けていきます。装着にかかる時間はおおよそ30分~1時間程度です。

装着後はトイレに行くことなどは可能ですが、動きが少し制限されます。

主なセンサーの装着部位

部位センサーの種類
頭部・顔脳波、眼電図、筋電図
鼻・口呼吸センサー
胸部・腹部心電図、呼吸バンド

夜間 睡眠とモニタリング

センサーを装着したら、あとは普段通りに眠るだけです。

検査室(モニタリングルーム)では技師が別室から一晩中、モニターで脳波や呼吸の状態を監視しています。

センサーが外れたり、何か困ったことがあったりした場合は、インターホンですぐに対応してもらえます。

早朝 センサーの取り外しと退院

朝、指定された時間に起床し、技師がセンサーを取り外します。

シャワーを浴びて身支度を整えた後、そのまま出勤することも可能です。朝食の提供の有無は医療機関によります。

以上で検査は終了し、会計を済ませて退院となります。

PSG検査の費用と保険適用について

精密検査となると、費用がどのくらいかかるのかは最も気になるところです。

ここでは費用の目安と公的保険の適用について解説します。

PSG検査は健康保険が適用される

医師が必要と判断して行うPSG検査は、公的医療保険の適用対象です。

そのため実際の費用の全額を支払うわけではなく、自己負担割合(通常は1割~3割)に応じた金額を窓口で支払います。

3割負担の場合の費用目安

保険適用で自己負担割合が3割の場合、PSG検査にかかる費用は入院費なども含めておおよそ2万5千円~5万円程度が一般的です。

この金額は医療機関の施設基準や入院する部屋の種類(個室か大部屋か)などによって変動します。

PSG検査の費用内訳(目安)

項目費用(3割負担)の目安
検査料約12,000円 ~ 15,000円
入院料・その他約13,000円 ~ 35,000円
合計約25,000円 ~ 50,000円

高額療養費制度の対象になるか

PSG検査の費用は通常、高額療養費制度の自己負担限度額を下回ることがほとんどです。

しかし、同月内に他の高額な医療を受けた場合などは、合算して制度の対象となる可能性があります。

簡易検査と精密検査(PSG)の違い

PSG検査の前に、まず自宅でできる簡易検査を行うことが多くあります。両者の違いを理解しておきましょう。

自宅でできる簡易検査とは

簡易検査は手のひらサイズの小さな機器を医療機関から借りて帰り、自分で指や鼻にセンサーを付けて一晩眠る検査です。

主に血液中の酸素飽和度と脈拍、いびきや呼吸の状態を記録します。

検査でわかる情報の違い

簡易検査は手軽ですが、測定項目が少ないため、無呼吸の「有無」や「程度」を推定するにとどまります。

一方、PSG検査は脳波も測定するため睡眠の質そのものを評価でき、無呼吸の確定診断や、より詳細な病態の把握が可能です。

簡易検査とPSG検査の比較

項目簡易検査精密検査(PSG)
場所自宅医療機関(入院)
主な測定項目酸素飽和度、呼吸脳波、呼吸、心電図など多数
診断スクリーニング(疑い)確定診断

どちらの検査を先に受けるのか

一般的には、まず問診や診察で睡眠時無呼吸症候群が強く疑われた場合にスクリーニングとして簡易検査を行います。

その結果、中等症以上と判断されたり、より詳しい評価が必要とされたりした場合に、精密検査(PSG)へ進むという流れが標準的です。

検査入院の前に準備しておくこと

安心して検査を受けるために、入院前に準備しておくと良いものや、注意点について確認しておきましょう。

入院時の持ち物リスト

基本的には普段の旅行と同じような準備で問題ありません。パジャマやアメニティグッズは病院で用意されている場合もあります。

  • 健康保険証、診察券
  • パジャマ(前開きのものが望ましい)
  • 洗面用具、タオル
  • 普段服用している薬、お薬手帳

検査当日の食事や服薬の注意点

食事は通常通りで構いませんが、睡眠に影響を与える可能性があるため、検査当日の午後はカフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶など)やアルコールの摂取は控えるように指示されることがほとんどです。

普段飲んでいる薬については、必ず事前に主治医に確認してください。

検査への不安を解消するために

「センサーをたくさん付けて眠れるだろうか」と心配される方は多いですが、ほとんどの方が普段通りに眠れています。

センサーは技師が外れにくいように工夫して装着しますし、痛みもありません。何か気になることがあれば遠慮なくスタッフに質問し、不安を解消しておくことが大切です。

よくある質問

最後に、PSG検査に関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
検査で一睡もできなかったらどうなりますか?
A

環境が変わって緊張し、眠りが浅くなることはありますが、全く眠れないということは稀です。短時間でも睡眠がとれれば、ある程度の評価は可能です。

万が一、十分なデータがとれなかった場合は、医師の判断で再検査となることもあります。

Q
センサーを付けたままトイレに行けますか?
A

はい、行けます。体に取り付けたセンサー類は手のひらサイズの本体装置にまとめられています。この本体を一緒に持って移動すれば、トイレに行くことは可能です。

移動の際は断線を防ぐため、技師に一声かけるとより安全です。

Q
検査結果はいつ頃わかりますか?
A

検査結果は専門の医師が膨大なデータを解析・判読するため、すぐには出ません。

通常、退院後1週間から2週間程度で結果が出揃い、次回の外来診察で医師から詳しい説明を受けます。

Q
簡易検査だけで治療は始められますか?
A

簡易検査の結果、AHI(無呼吸低呼吸指数)が40回以上などの重症であると判断された場合は、精密検査を経ずにCPAP療法を開始することもあります。

しかし、治療方針をより正確に決定するためには、PSG検査で詳細な状態を把握することが望ましいとされています。

以上

参考にした論文

ITO, Kazuki; UETSU, Masahiro; KADOTANI, Hiroshi. Validation of oximetry for diagnosing obstructive sleep apnea in a clinical setting. Clocks & sleep, 2020, 2.3: 364-374.

HUNG, Chuan-Jen, et al. Comparison of a home sleep test with in-laboratory polysomnography in the diagnosis of obstructive sleep apnea syndrome. Journal of the Chinese Medical Association, 2022, 85.7: 788-792.

IKEDA, Yukiko, et al. Comparison between the apnea-hypopnea indices determined by the REMstar Auto M series and those determined by standard in-laboratory polysomnography in patients with obstructive sleep apnea. Internal Medicine, 2012, 51.20: 2877-2885.

MIENO, Yuki, et al. Availability of Home sleep apnea test equipment LS-140 on a comparison with Polysomnography. Fujita Medical Journal, 2022, 8.1: 17-24.

SHIROSHITA, Nanako, et al. Validation of Automated Respiratory Event Scoring in Type 3 Home Sleep Apnea Testing. Nature and Science of Sleep, 2025, 1629-1637.

AZUMA, Masanori, et al. Associations among chronic obstructive pulmonary disease and sleep-disordered breathing in an urban male working population in Japan. Respiration, 2014, 88.3: 234-243.

ENDO, Yuri, et al. Prevalence of complex sleep apnea among Japanese patients with sleep apnea syndrome. The Tohoku journal of experimental medicine, 2008, 215.4: 349-354.

KASAI, Takatoshi, et al. Comparison of the Apnea-Hypopnea Index Determined by a Peripheral Arterial Tonometry-Based Device With That Determined by Polysomnography―Results From a Multicenter Study―. Circulation Reports, 2020, 2.11: 674-681.

KOGURE, Takamasa, et al. Validation of a sheet-shaped body vibrometer for screening of obstructive sleep apnea. Drug Discoveries & Therapeutics, 2017, 11.3: 126-132.

SHIGETA, Yuko, et al. Diagnosis and treatment for obstructive sleep apnea: Fundamental and clinical knowledge in obstructive sleep apnea. Journal of Prosthodontic Research, 2015, 59.3: 161-171.