いびきや日中の眠気にお悩みで、睡眠時無呼吸症候群の治療法として「マウスピース」に関心をお持ちではありませんか。

CPAP療法と並ぶ有力な選択肢ですが、「どうやって作るの?」「費用はいくら?」「保険は使える?」など、具体的な疑問も多いでしょう。

マウスピース治療は、特に軽症から中等症の方にとって手軽で効果的な方法となり得ます。

この記事では、治療用のマウスピースの仕組みから、メリット・デメリット、保険適用で作るための流れと費用まで詳しく解説します。あなたに合った治療法を見つけるためにお役立てください。

睡眠時無呼吸症候群とマウスピース治療

マウスピース治療(口腔内装置治療)は、睡眠中の気道の閉塞を防ぐための有効な方法です。まずはその基本的な仕組みを理解しましょう。

マウスピース(口腔内装置)とは

睡眠時無呼吸症候群の治療で用いるマウスピースはスポーツ用や歯ぎしり防止用とは全く異なる、専門の医療機器です。

睡眠中に装着することで下あごを前方に少し突き出させた状態に固定します。このことにより、舌の付け根が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道を物理的に広げて空気の通り道を確保します。

CPAP療法との違い

CPAP療法がマスクから空気を送り込んで気道を広げるのに対し、マウスピースは下あごの位置を調整することで気道を確保します。

CPAPのような大掛かりな装置が不要で、手軽に始められるのが大きな違いです。

CPAPとマウスピースの比較

項目CPAP療法マウスピース治療
仕組み空気圧で気道を広げる下あごを前進させ気道を確保
装置本体、チューブ、マスクが必要マウスピースのみ
電源必要不要

どんな人に向いているか

マウスピース治療は主に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の方に良い適応となります。

また、CPAP治療が身体的・環境的に困難な方や、出張・旅行時のみCPAPの代わりに使用したい方にも選ばれています。

マウスピース治療が推奨されるケース

症状・状態具体例
軽症~中等症のSASAHI(無呼吸低呼吸指数)が30未満の方
CPAPが使えない方圧迫感や閉所感でCPAPが苦手な方
携帯性を重視する方出張や旅行が多い方

マウスピース治療のメリット・デメリット

手軽さが魅力のマウスピース治療ですが、良い点ばかりではありません。メリットとデメリットの両方を理解した上で治療法を選択することが重要です。

主なメリット

最大のメリットは、その簡便さと携帯性です。CPAPのように電源を必要とせず、装置も小さいため、旅行や出張先にも気軽に持っていくことができます。

また、装着に慣れれば違和感も少なく、治療を継続しやすいという利点もあります。

  • 装置が小さく、持ち運びが容易
  • 電源が不要
  • CPAPに比べて違和感が少ない
  • 比較的安価に始められる(保険適用時)

知っておきたいデメリットと注意点

一方で、いくつかのデメリットも存在します。装着し始めは、あごの関節に痛みを感じたり、よだれが多くなったりすることがあります。

また、効果はCPAPに比べてややマイルドであり、重症の方には第一選択とならない場合があります。

残っている歯の本数や、あごの関節の状態によっては作製できないこともあります。

メリット・デメリットの比較

治療法を選択する際は、ご自身の重症度やライフスタイル、そして何を優先したいかを考えることが大切です。

治療法の長所と短所

項目メリット(長所)デメリット(短所)
マウスピース手軽、携帯性が良い、電源不要効果が比較的マイルド、あごの違和感、適応が限られる
CPAP効果が高い、重症例にも対応装置が大きい、電源が必要、毎月の通院と費用

マウスピース治療で期待できる効果

適切に作製・調整されたマウスピースを使用することで睡眠の質が改善し、日中の活動性向上につながります。

いびきと無呼吸の改善

マウスピース治療の最も直接的な効果は、いびきと無呼吸の減少です。

気道が確保されることで空気の通りがスムーズになり、いびきの原因となる喉の振動や気道の閉塞による無呼吸が改善します。

睡眠の質の向上

無呼吸がなくなると睡眠が途中で妨げられることがなくなり、深い睡眠をしっかりとれるようになります。

このことにより、朝起きた時の熟睡感や日中の眠気・倦怠感の改善が期待できます。

合併症リスクの軽減

睡眠中の無呼吸は体に大きな負担をかけ、高血圧や心臓病、脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めます。

マウスピース治療によって無呼吸状態を改善することは、これらの深刻な合併症を予防する上でも重要な意味を持ちます。

【保険適用】マウスピースの作り方の流れ

治療用のマウスピースは保険適用で作製できます。そのためには医科と歯科の連携による、決められた手順を踏む必要があります。

①睡眠時無呼吸症候群の確定診断

まず、当院のような睡眠障害を専門とする医療機関(医科)を受診し、問診や簡易検査、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)検査などを受けて、睡眠時無呼吸症候群であるという確定診断を受けます。

これが保険適用のための第一歩です。

②歯科医への紹介と診察

確定診断が出たら、医師からマウスピース作製に対応している連携歯科医院へ紹介状(診療情報提供書)をお渡しします。

その紹介状を持って歯科医院を受診し、マウスピース作製の適応があるか、口の中の状態(歯やあごの状態)を診察してもらいます。

③歯型の採取と装置の作製

作製が可能と判断されたら、歯科医院で上下の歯の型を採ります。

この歯型をもとに、歯科技工士が患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドのマウスピースを作製します。完成までには通常2~3週間程度かかります。

④装着と調整

完成したマウスピースを歯科医院で受け取り、実際に装着します。この際、装着感やあごの位置などを細かく調整してもらいます。

その後も効果を確認しながら数回にわたって調整を行うことが一般的です。

マウスピース作製の流れ(保険適用)

段階場所主な内容
1. 診断医科(当院など)PSG検査で確定診断、紹介状の作成
2. 診察・型採り歯科口腔内の診察、歯型の採取
3. 装着・調整歯科完成した装置の装着、微調整

マウスピース治療にかかる費用

保険適用の場合と、自費診療の場合で費用は大きく異なります。

保険適用の場合の自己負担額

上記の流れに沿って作製した場合、マウスピースの作製費用は健康保険が適用されます。

3割負担の方で、総額は5万円から6万円程度が目安となります。これには医科での検査・診断費用と、歯科での作製・調整費用が含まれます。

保険適用時の費用内訳(3割負担の目安)

項目費用
医科での検査・診断料約15,000円~20,000円
歯科での作製・調整料約30,000円~40,000円
合計約45,000円~60,000円

保険適用外(自費診療)の場合

医科からの紹介状がない場合や保険適用の基準を満たさない軽症の方などが作製を希望する場合は、自費診療となります。

費用は歯科医院によって異なりますが、一般的に10万円から20万円程度かかることが多いようです。

マウスピース使用上の注意点とメンテナンス

作製したマウスピースの効果を維持し、長く安全に使うためには日々の管理が重要です。

装着時の違和感と慣れ

使い始めは、あごの関節の痛みや歯の圧迫感、よだれの増加などを感じることがあります。

ほとんどの場合では数週間で慣れてきますが、痛みが続く場合や、かみ合わせに異常を感じる場合は、我慢せずに作製した歯科医院に相談してください。

日々のお手入れ方法

マウスピースは毎日口の中に入れるものなので、清潔に保つことが大切です。使用後は柔らかい歯ブラシなどを使って優しく水洗いします。

汚れが気になる場合は専用の洗浄剤を使用しましょう。熱いお湯は変形の原因になるため使用しないでください。

マウスピースの清掃方法

手順ポイント
1. 水洗い使用後すぐに流水で洗い流す
2. ブラッシング柔らかい歯ブラシで優しくこする(歯磨き粉はつけない)
3. 乾燥・保管しっかり乾かして専用ケースで保管する

定期的な歯科受診の重要性

マウスピースを長期間使用していると、かみ合わせに変化が生じることがあります。また、装置自体も経年劣化します。

作製後も半年に一度程度は歯科医院を受診し、かみ合わせのチェックや装置の状態を確認してもらうことが重要です。

よくある質問(Q&A)

最後に、マウスピース治療に関してよくある質問にお答えします。

Q
市販のマウスピースではだめですか?
A

絶対に使用しないでください。

市販されている安価なマウスピースは個人の歯型に合わせて作られていないため、かみ合わせを悪化させたり、あごの関節を痛めたりする危険性が非常に高いです。

また、気道を確保するという治療効果も期待できません。治療用のマウスピースは、必ず専門の医療機関で作製してください。

Q
誰でも作れますか?
A

作製できない場合もあります。

例えば、残っている歯が少ない方、重度の歯周病がある方、あごの関節に問題がある方などはマウスピース治療の適応とならないことがあります。

最終的な判断は、歯科医師が口腔内の状態を診察して行います。

Q
どのくらいで効果が出ますか?
A

いびきや無呼吸の改善効果は、装着したその日から実感できることがほとんどです。

日中の眠気などの自覚症状の改善には個人差がありますが、数週間から数ヶ月で感じられることが多いようです。

Q
マウスピースの寿命はどのくらいですか?
A

使用状況やメンテナンスの状態によって異なりますが、一般的に保険適用で作製したマウスピースの耐用年数は3年から5年程度とされています。

装置が破損したり、かみ合わせが大きく変わったりした場合は、作り直しが必要です。

以上

参考にした論文

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