睡眠時無呼吸症候群は眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。
この病気について調べられている方の多くが、「睡眠時無呼吸症候群 治るのか」「無呼吸症候群 治る」「睡眠時無呼吸症候群 完治」といった疑問をお持ちかもしれません。
CPAP療法をはじめとする様々な治療法がありますが、病気の状態によっては治療によって症状が改善しても原因そのものが完全になくなるわけではない場合もあります。
この記事では睡眠時無呼吸症候群における「完治」の考え方、様々な治療法が予後に与える影響、そして長期的な視点での病気との向き合い方について詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは 治療が必要な理由
睡眠中の呼吸停止が体に与える影響
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は文字通り睡眠中に呼吸が停止したり、浅くなったりする状態が繰り返される病気です。
これにより睡眠中に体内の酸素濃度が繰り返し低下し、脳や心臓に大きな負担がかかります。自覚症状としては大きないびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛などがあります。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
症状の種類 | 具体的な内容 |
---|---|
睡眠中の症状 | 大きないびき、無呼吸、呼吸の乱れ、寝汗 |
日中の症状 | 強い眠気、倦怠感、集中力低下、起床時頭痛 |
精神的な症状 | イライラ、抑うつ |
これらの症状は日常生活に支障をきたすだけでなく、放置すると様々な合併症を引き起こすリスクを高めます。
睡眠時無呼吸症候群の種類
睡眠時無呼吸症候群は原因によって主に二つのタイプに分けられます。
一つは空気の通り道である上気道が物理的に狭くなったり塞がったりすることで起こる「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」です。肥満、扁桃腺肥大、舌が大きいことなどが原因となります。
もう一つは脳からの呼吸指令が一時的に停止することで起こる「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」です。心不全や脳疾患などが関連することがあります。
治療法はタイプによって異なります。
診断方法の概要
睡眠時無呼吸症候群の診断は問診で自覚症状や既往歴を確認し、簡易検査や精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG検査)を行います。
PSG検査では脳波、眼球運動、筋電図、呼吸、心電図、血中酸素飽和度などを同時に測定し、睡眠中の呼吸状態や体の状態を詳細に評価します。
この検査結果に基づき、病気の有無や重症度、タイプを診断して適切な治療方針を決定します。
睡眠時無呼吸症候群の主な診断方法
検査方法 | 内容 |
---|---|
問診 | 自覚症状、既往歴、生活習慣 |
簡易検査 | 自宅で簡易的な呼吸状態を測定 |
PSG検査 | 医療機関で詳細な睡眠中の状態を測定 |
正確な診断が効果的な治療の第一歩となります。
睡眠時無呼吸症候群における「完治」の考え方
病気の状態と完治の定義
睡眠時無呼吸症候群における「完治」の定義は原因や病状によって異なります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合、上気道の閉塞という構造的な問題が原因であることが多いため、根本原因が解消されない限り治療によって症状が改善しても病気自体が完全になくなったとは言えない場合があります。
多くの場合は治療によって無呼吸や低呼吸の回数を正常に近いレベルに減らし、症状や合併症のリスクをコントロールすることが治療の目標となります。
自然治癒の可能性
成人における閉塞性睡眠時無呼吸症候群が自然に完治することは稀です。
ただし、小児の場合はアデノイドや扁桃腺の肥大が原因であることが多く、成長とともにこれらの組織が小さくなることで自然に改善したり、手術によって完治したりする可能性があります。
成人でも病気の原因となっている要素(例えば肥満)が大幅に改善されれば、CPAPなどの治療が不要になる場合もありますが、これは「完治」というよりは「寛解(症状が落ち着いた状態)」と捉える方が適切かもしれません。
治療法の種類と完治への影響
CPAP療法の位置づけ
CPAP(持続陽圧呼吸療法)は閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する最も一般的な治療法です。
寝ている間にマスクを介して一定の圧力の空気を送り込むことで狭くなった気道を広げ、無呼吸や低呼吸を防ぎます。
CPAP治療は非常に効果的に無呼吸を抑制して日中の眠気や合併症のリスクを軽減しますが、CPAPを使用している間だけ効果がある対症療法であり、CPAP自体が病気の原因を取り除くわけではありません。
そのためCPAP治療で症状が改善しても自己判断で中止すると再び無呼吸が現れます。
マウスピース治療
軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対しては、マウスピース(口腔内装置)による治療が行われることがあります。
就寝中にマウスピースを装着することで下あごを前方に移動させ、気道を広げる効果があります。
マウスピース治療もCPAPと同様に対症療法であり、装置を装着している間だけ効果があります。
主な睡眠時無呼吸症候群の治療法
治療法 | 内容 | 完治の可能性 |
---|---|---|
CPAP療法 | 陽圧換気 | 原因除去ではない |
マウスピース | 下あご前方移動 | 原因除去ではない |
外科的治療 | 気道の拡大手術 | 原因によっては可能 |
生活習慣改善 | 減量など | 原因によっては可能 |
どの治療法が適しているかは病気のタイプや重症度、原因によって異なります。
外科的治療の可能性
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因が扁桃腺やアデノイドの肥大、あごの骨格的な問題など、外科的治療によって改善が見込める場合、手術が検討されることがあります。
手術によって気道が十分に広がり、無呼吸が解消されれば、治療からの離脱(CPAPなどが不要になる状態)や病気の状態が改善することが期待できます。
ただし、手術の適応は限られており、効果も個人差があります。
生活習慣の改善
肥満は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の大きな原因の一つです。
減量によって首周りの脂肪が減り、気道への圧迫が軽減されることで無呼吸やいびきが改善し、CPAPの圧力設定を下げられたり、場合によってはCPAPが不要になったりすることがあります。
また、禁煙や節酒、寝る前のカフェイン摂取を控えるなどの生活習慣の改善も症状の軽減に繋がります。
生活習慣の改善は他の治療法と組み合わせて行うことが重要です。
CPAP治療による長期的な管理と予後
CPAP治療の効果と目的
CPAP治療の主な目的は睡眠中の無呼吸・低呼吸を抑制し、体内の酸素濃度を正常に保つことです。
これにより日中の眠気や倦怠感といった自覚症状を改善し、高血圧、心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)、糖尿病などの合併症の発症リスクを低減することができます。
CPAP治療は上記のような病気を予防または管理するために、長期にわたって継続することが推奨されます。
CPAP治療の主な効果
- 無呼吸・低呼吸の抑制
- 血中酸素飽和度の維持
- 日中の眠気改善
- いびきの軽減
- 合併症リスクの低減
これらの効果は、CPAPを毎晩適切に使用することで得られます。
治療の継続が重要な理由
前述の通り、CPAP治療は対症療法です。CPAPを使用しないと睡眠中の無呼吸が再び現れ、酸素濃度の低下が繰り返されます。
そうなると日中の症状が悪化するだけでなく、心臓や血管への負担が再びかかり始め、高血圧や心血管疾患などの合併症のリスクが再び高まります。
CPAP治療を継続することは睡眠時無呼吸症候群による健康への悪影響を防ぎ、健康寿命を延ばすために必要です。
CPAP治療中止の可能性
CPAP治療を開始した後でも病気の原因が大幅に改善された場合(例えば、減量に成功した、外科的治療で気道が広がったなど)は、医師の判断のもとCPAP治療が不要になることがあります。
ただし、自己判断で中止することは危険です。CPAP治療を中止できるかどうかは再度睡眠検査を行い、無呼吸の状態が改善しているかを確認した上で医師が総合的に判断します。
生活習慣の改善が予後に与える影響
減量と睡眠時無呼吸症候群
肥満は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の最も一般的な原因の一つです。体重を減らすことは気道周囲の脂肪を減らし、気道の閉塞を軽減するために非常に有効です。
数キログラムの減量でも無呼吸・低呼吸の回数が減少し、CPAPの圧力設定を下げられるなど治療効果に良い影響を与えることがあります。
大幅な減量は、CPAP治療からの離脱につながる可能性もあります。
減量による改善効果
減量による効果 | 睡眠時無呼吸症候群への影響 |
---|---|
首周りの脂肪減少 | 気道への圧迫軽減 |
AHIの改善 | 無呼吸・低呼吸の減少 |
CPAP圧の低下 | 治療の快適性向上 |
減量は容易ではありませんが、睡眠時無呼吸症候群の治療において非常に重要な要素です。
禁煙・節酒の効果
喫煙は上気道の炎症やむくみを引き起こし、気道を狭くする原因となります。禁煙することで、これらの影響が軽減され、睡眠時無呼吸症候群の症状改善に繋がることが期待できます。
また、アルコールは上気道の筋肉を弛緩させ、舌根沈下を引き起こしやすくするため、就寝前の飲酒は無呼吸を悪化させます。節酒、特に寝る前の飲酒を控えることは、症状の改善に有効です。
寝姿勢の工夫
仰向けで寝ると重力によって舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を狭くすることがあります(舌根沈下)。
横向きで寝ることで舌根沈下を防ぎ、無呼吸やいびきを軽減できる場合があります。抱き枕を使用するなど横向き寝を維持するための工夫も有効です。
ただし、寝姿勢の工夫だけで重症の睡眠時無呼吸症候群が完全に解消されるわけではありません。
治療の継続がもたらす長期的なメリット
合併症リスクの低減
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、不整脈などの様々な合併症を発症するリスクが高まります。
CPAP治療をはじめとする適切な治療を継続することで、これらの重篤な病気の発症リスクを大幅に低減し、健康な状態をより長く維持することが期待できます。
CPAP治療継続による合併症リスク低減
対象となる合併症 | CPAP治療による効果 |
---|---|
高血圧 | 血圧の安定化 |
心血管疾患 | 発症リスクの低減 |
糖尿病 | 血糖コントロールへの良い影響 |
不整脈 | 発生頻度の減少 |
CPAP治療はこれらの合併症予防に重要な役割を果たします。
日中の活動性向上
睡眠時無呼吸症候群による日中の強い眠気や倦怠感が改善されることで仕事や学業の効率が向上し、集中力が高まります。
集中力が高まれば日中の活動性が増し、生活の質が大きく向上します。運転中の眠気による事故リスクも低減します。
健康寿命への貢献
睡眠時無呼吸症候群を適切に管理し、合併症の発症を防ぐことは健康寿命を延ばすことに繋がります。治療を継続することで、より長く健康で活動的な生活を送ることが可能になります。
睡眠時無呼吸症候群は単なる「いびきがうるさい」病気ではなく、全身の健康に関わる重要な病気であることを理解し、しっかりと治療に取り組むことが大切です。
よくある質問
Q. CPAP治療を始めれば、もう睡眠時無呼吸症候群の心配はいりませんか?
A. CPAP治療は無呼吸や低呼吸を効果的に防ぎますが、病気の原因そのものをなくすわけではありません。CPAPを使用している間は症状が抑えられますが、中止すると再び現れます。
そのため、医師の指示に従い、継続して使用することが重要です。減量など原因にアプローチする治療も並行して行うことが望ましいです。
Q. CPAP治療以外で完治を目指せる治療法はありますか?
A. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因によっては外科的治療(扁桃腺摘出術やアデノイド切除術、あごの骨の手術など)によって気道が十分に広がり、CPAP治療が不要になる(寛解または完治に近い状態になる)可能性があります。
また、肥満が主な原因の場合は大幅な減量によって改善が見込めます。
ただしこれらの治療法が全ての方に有効なわけではなく、適応は医師が判断します。
Q. 治療を続ければ将来的にCPAPが不要になる可能性はありますか?
A. 病気の原因となっている要素が改善されればCPAPが不要になる可能性はあります。例えば大幅な減量に成功したり、外科的治療によって気道が広がったりした場合です。
ただし、これも医師の診断と検査に基づいて判断されるべきであり、自己判断でCPAPを中止することは避けてください。
Q. 睡眠時無呼吸症候群は遺伝しますか?
A. 睡眠時無呼吸症候群自体が直接遺伝するわけではありませんが、病気になりやすい体質や骨格(例えば、あごが小さいなど)が遺伝する可能性はあります。
家族に睡眠時無呼吸症候群の方がいる場合は、ご自身もなりやすい可能性があるため注意が必要です。
以上
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