いびきや日中の眠気で睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われ、検査を受けたものの、結果の見方がよく分からない、診断基準について詳しく知りたいと考えている方もいるでしょう。

SASの検査結果には病気の状態や重症度を示す様々な数値が含まれています。これらの数値を正しく理解することは、ご自身の睡眠の状態を知り、適切な治療を受けるために大切です。

この記事ではSASの主な検査である簡易検査と精密検査(PSG検査)の結果の見方、そして診断がどのように行われるのかについて分かりやすく解説します。

睡眠時無呼吸症候群の検査とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が停止したり弱くなったりすることを繰り返し、体内の酸素レベルが低下する病気です。

正確な診断を行うには睡眠中の呼吸状態や体の情報を記録する検査が必要です。

検査の種類

SASの診断に用いられる主な検査には自宅で手軽に行える簡易検査と、医療機関に宿泊して行う精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG検査)があります。

どちらの検査を行うかは症状や医師の判断によって決定します。

SAS診断の主な検査

検査方法実施場所目的
簡易検査自宅スクリーニング
精密検査(PSG)医療機関確定診断、詳細評価

なぜ検査が必要か

SASは高血圧や心疾患、脳卒中などの重篤な病気を引き起こすリスクを高めます。また、日中の強い眠気は日常生活や仕事に支障をきたし、居眠り運転などの事故につながる危険性もあります。

これらのリスクを避けるためには正確な診断に基づいた早期の治療が大切であり、そのために検査が欠かせません。

自宅で行う簡易検査の結果の見方

簡易検査はご自宅で睡眠中の呼吸や酸素の状態を記録する検査です。医療機関から貸し出された機器をご自身で装着して行います。

この検査はSASの可能性が高いかどうかを判断する目的で行われます。

簡易検査でわかること

簡易検査では主に以下の項目を測定します。

  • 無呼吸や低呼吸の回数
  • いびきの状態
  • 血中酸素飽和度の変化

これらの測定結果からSASの重症度を判断するための重要な指標が算出されます。

AHI(無呼吸低呼吸指数)とは

簡易検査結果で最も重要視される指標の一つがAHI(Apnea Hypopnea Index)です。

AHIは1時間あたりの無呼吸(呼吸が10秒以上停止すること)と低呼吸(換気が50%以上低下し、酸素飽和度が3%以上低下するか覚醒を伴うもの)の合計回数を示します。

この数値が高いほどSASの重症度が高いと判断されます。

AHIによる重症度分類(簡易検査の目安)

AHI重症度備考
5未満正常範囲ただし症状があれば要検討
5以上15未満軽症治療を検討する場合がある
15以上中等症以上精密検査や治療が必要な可能性が高い

簡易検査結果の解釈

簡易検査の結果はAHIの数値を中心に評価します。AHIが15回以上の場合はSASの可能性が非常に高く、精密検査(PSG検査)に進むことが推奨されます。

AHIが5回以上15回未満の軽症の場合でも日中の強い眠気などの自覚症状がある場合は治療を検討したり、精密検査でより詳しく調べたりすることがあります。

簡易検査はあくまでスクリーニングであり、確定診断には精密検査が必要です。

医療機関で行う精密検査(PSG検査)の結果の見方

精密検査であるPSG検査は睡眠の専門施設に一泊して行う検査です。簡易検査よりも多くの項目を詳細に測定し、睡眠の状態を多角的に評価します。

SASの確定診断や、より正確な重症度の評価、他の睡眠障害の合併の有無などを調べます。

PSG検査でわかること

PSG検査では睡眠中の様々な生体情報を同時に記録します。

  • 脳波(睡眠の深さ、睡眠段階)
  • 眼球運動(レム睡眠、ノンレム睡眠の評価)
  • 筋電図(体の動き、周期性四肢運動など)
  • 心電図(不整脈の有無)
  • 呼吸(無呼吸、低呼吸の種類と回数)
  • 血中酸素飽和度(酸素レベルの変化)
  • いびき
  • 体位

これらの詳細なデータから睡眠の質や呼吸異常の状態を正確に把握します。

睡眠段階と無呼吸の関係

PSG検査では脳波などから睡眠の深さ(睡眠段階)を判定します。睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に分けられ、ノンレム睡眠はさらに段階があります。

SASによる無呼吸や低呼吸は特に深いノンレム睡眠中やレム睡眠中に発生しやすい傾向があります。睡眠段階の情報はSASが睡眠の質にどの程度影響を与えているかを評価する上で重要です。

睡眠段階と呼吸イベント

睡眠段階特徴呼吸イベントの発生
ノンレム睡眠(浅い)入眠期比較的少ない
ノンレム睡眠(深い)熟睡期発生しやすい
レム睡眠夢を見る発生しやすい

その他の重要な指標

AHI以外にもPSG検査結果には診断や治療方針決定に役立つ様々な指標が含まれます。

  • 最低酸素飽和度(SpO2):睡眠中に血中酸素飽和度が最も低下した値
  • 覚醒指数(ArI):1時間あたりの脳波上の覚醒反応の回数
  • 睡眠効率:ベッドにいた時間に対する実際に眠っていた時間の割合

これらの指標はSASが体に与える影響の大きさや睡眠の分断の程度を示し、病態をより詳細に理解するために役立ちます。

睡眠時無呼吸症候群の診断基準

睡眠時無呼吸症候群の診断は検査結果と患者さんの自覚症状や身体所見を総合的に評価して行われます。

単に検査数値だけで判断するのではなく、医師が様々な情報を考慮して診断を確定します。

診断に必要な要素

SASの診断には主に以下の要素が必要です。

  • いびきや日中の眠気などの自覚症状
  • 簡易検査またはPSG検査による呼吸異常の確認
  • AHIなどの数値
  • 身体所見(肥満度、顎の形状など)
  • 既往歴や生活習慣

これらの情報が揃った上で医師が総合的に判断し、SASであるかどうかを診断します。

診断に考慮する要素

要素内容備考
症状いびき、眠気など問診で確認
検査結果AHI、SpO2など簡易検査またはPSG
身体所見肥満度、顎の形状診察で確認

重症度の分類

SASの重症度は主にPSG検査で得られたAHIの数値に基づいて分類されます。

SAS重症度分類(PSG検査)

AHI重症度治療の目安
5未満正常または軽微経過観察または生活指導
5以上15未満軽症生活指導、マウスピースなど
15以上30未満中等症CPAP療法、マウスピースなど
30以上重症CPAP療法が第一選択

この分類は治療法を選択する上で重要な目安となりますが、症状の程度や合併症の有無なども考慮して最終的な治療方針を決定します。

診断確定までの流れ

一般的にSASの診断は以下のような流れで進みます。

  • 問診で症状や既往歴を確認
  • 簡易検査でスクリーニング
  • 必要に応じて精密検査(PSG検査)を実施
  • 検査結果と症状を総合的に評価し診断
  • 診断に基づき治療方針を決定

症状がある場合は、まずは医療機関を受診して医師に相談することから始まります。

検査結果に基づく治療法の選択

睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、検査結果や重症度、患者さんの状態に合わせて適切な治療法が提案されます。

治療によって無呼吸や低呼吸を減らし、睡眠の質や日中の症状を改善させます。

治療法の種類

SASの主な治療法には、CPAP(シーパップ)療法、マウスピース(口腔内装置)、外科的治療、生活習慣の改善などがあります。

主なSAS治療法

治療法概要適応
CPAP療法マスクで空気を送り込む中等症~重症
マウスピース下顎を前進させる軽症~中等症
生活習慣改善減量、禁煙など全ての重症度

検査結果と治療法の関係

検査結果、特にAHIの数値はどの治療法を選択するかを決定する上で重要な情報源となります。

例えばAHIが30回以上の重症SASに対してはCPAP療法が第一選択となることが一般的です。軽症や中等症の場合はマウスピースや生活習慣の改善から始めることもあります。

また、PSG検査で得られる睡眠段階や酸素飽和度の情報も治療効果を予測したり、治療中の管理に役立てたりします。

医師との相談の重要性

検査結果を正確に理解し、ご自身に合った治療法を選択するためには医師との十分な相談が大切です。

医師は検査結果を分かりやすく説明し、患者さんのライフスタイルや希望も考慮しながら最適な治療計画を一緒に立てます。

検査結果や治療について疑問や不安があれば遠慮なく質問してください。

よくある質問

検査結果の数値が悪いとどうなりますか?

検査結果の数値、特にAHIが高い場合や最低酸素飽和度が低い場合は睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いと判断されます。

重症の場合、心血管疾患などの合併症のリスクが高まるため、CPAP療法などの積極的な治療が必要となります。

医師から検査結果について詳しい説明を受け、ご自身の状態を正しく理解することが大切です。

簡易検査で異常がなくてもSASではないですか?

簡易検査で異常がなかったとしても、症状が続く場合や他の睡眠障害が疑われる場合は精密検査(PSG検査)が必要となることがあります。

簡易検査はスクリーニングであり、測定項目が限られています。より詳細な睡眠の状態や呼吸異常の種類を評価するにはPSG検査が必要です。

症状がある場合は簡易検査の結果にかかわらず、医師に相談することをおすすめします。

検査結果は毎回同じですか?

睡眠時無呼吸症候群の検査結果は体調や睡眠環境、測定機器の装着状態などによって多少変動することがあります。しかし、病気の状態が大きく変化しない限り、劇的に数値が変わることは少ないです。

治療を開始した後も、治療効果を確認するために定期的に検査を行うことがあります。

以上

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