「いびきがうるさいと言われる」「昼間にとても眠い」… もしかしたらそれは睡眠時無呼吸症候群(SAS)かもしれません。
SASは睡眠中に呼吸が止まる病気で、放置すると様々な健康問題を引き起こします。
この記事ではご自身やご家族がSASの可能性があるかどうかを考えるための「睡眠時無呼吸症候群 症状 チェックリスト」を提供します。
あくまで簡易的なチェックですが、受診のきっかけとして役立ててください。
気になる症状があれば早めに専門医に相談することが重要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、睡眠中に上気道(空気の通り道)が狭くなったり塞がったりすることで無呼吸(10秒以上の呼吸停止)や低呼吸(呼吸が浅くなる)を繰り返す病気です。
これにより体内の酸素濃度が低下し、睡眠が分断され、日中の眠気や倦怠感、さらには生活習慣病のリスク上昇につながります。
SASの主なタイプ
SASにはいくつかのタイプがありますが、最も一般的なのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。これは肥満や顎の骨格などが原因で、物理的に気道が塞がってしまうタイプです。
まれに脳からの呼吸指令が出なくなる「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」もあります。
SASのタイプ別特徴
タイプ | 主な原因 | 特徴 |
---|---|---|
閉塞性 (OSAS) | 肥満、顎の骨格、扁桃肥大など | 気道が物理的に塞がる、いびきを伴うことが多い |
中枢性 (CSAS) | 心不全、脳血管障害など | 呼吸努力自体が見られない、いびきは少ない傾向 |
混合性 | 閉塞性と中枢性の混合 | 両方の特徴を持つ |
この記事では主に最も頻度の高い閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の症状を中心に解説します。
なぜ症状チェックが重要か
SASは自覚症状がないまま進行しているケースも少なくありません。しかし放置すると高血圧や心臓病などのリスクを高めます。
症状チェックを通じて早期に可能性に気づき、適切な検査・治療につなげることが、将来の健康を守る上で非常に大切です。
特に「無呼吸症候群 症状 チェック」に関心のある方は、ご自身の状態を確認してみましょう。
睡眠中に現れる主な症状チェック
SASのサインは、まず睡眠中に現れることが多いです。ご本人は気づきにくい場合もあるため、ご家族やパートナーからの指摘も重要な手がかりとなります。
いびきとその特徴
大きないびきはSASの代表的な症状の一つです。ただし単にいびきをかくだけでなく、その「かき方」に特徴があります。
注意すべきいびきの特徴
- 非常に音が大きい
- いびきが一時的に止まり、その後あえぐような大きな呼吸とともに再開する
- 毎晩のようにいびきをかく
呼吸の停止・乱れ
睡眠中に呼吸が止まっている、または息苦しそうにしていると指摘されたことはないでしょうか。
これはSASの非常に重要なサインです。
睡眠中の覚醒
夜中に何度も目が覚めることはありませんか。
息苦しさや窒息感で目が覚める、あるいはトイレに行きたくなって目が覚める(夜間頻尿)のもSASが関連している可能性があります。
その他の睡眠中のサイン
寝汗を異常にかく、寝相が非常に悪いなども睡眠中に身体が低酸素状態になっているサインである可能性があります。
睡眠中の症状チェックリスト
チェック項目 | はい | いいえ |
---|---|---|
大きないびきをかく、または指摘される | □ | □ |
いびきが止まり、その後大きな呼吸をする | □ | □ |
睡眠中に呼吸が止まっていると指摘される | □ | □ |
息苦しさや窒息感で目が覚めることがある | □ | □ |
夜中に何度もトイレに起きる | □ | □ |
これらの項目に「はい」が多いほど、SASの可能性が考えられます。
日中に現れる主な症状チェック
SASによる睡眠の質の低下は日中の様々な不調として現れます。
十分な睡眠時間をとっているつもりでも、以下のような症状がないかチェックしてみましょう。
日中の過度な眠気
最も代表的な日中の症状です。会議中、仕事中、運転中など本来起きていなければならない状況で強い眠気を感じたり、実際に居眠りしてしまったりします。
集中力・記憶力の低下
頭がすっきりせず、仕事や勉強に集中できない、物忘れが多くなったと感じることはありませんか。
これも睡眠不足による脳機能の低下が原因と考えられます。
起床時の状態
朝起きたときに熟睡感がなく体がだるい、頭痛がする、口が渇いているといった症状もSASのサインである可能性があります。
起床時のチェックポイント
症状 | 頻度 | 考えられる原因 |
---|---|---|
熟睡感がない | ほぼ毎日 | 睡眠の分断 |
起床時の頭痛 | 週に数回以上 | 睡眠中の低酸素・CO2蓄積 |
口の渇き | ほぼ毎日 | 口呼吸、いびき |
全身の倦怠感・疲労感
十分寝ても疲れが取れない、常に体がだるいといった慢性的な疲労感も質の悪い睡眠が原因となっている可能性があります。
日中の症状チェックリスト
チェック項目 | はい | いいえ |
---|---|---|
日中、強い眠気を感じることがよくある | □ | □ |
会議中や運転中に居眠りしてしまうことがある | □ | □ |
集中力や記憶力が落ちたと感じる | □ | □ |
朝起きたときに熟睡感がない、頭痛がする | □ | □ |
常に体がだるく、疲れやすい | □ | □ |
日中の症状は他の病気や単なる寝不足でも起こりえますが、睡眠中の症状と合わせてチェックすることが重要です。
睡眠時無呼吸症候群になりやすい人の特徴(リスク因子)
どのような人がSASになりやすいのでしょうか。いくつかのリスク因子が知られています。
ご自身に当てはまるものがないか確認してみましょう。
肥満
最も重要なリスク因子です。特に首周りの脂肪が多いと、気道が圧迫されやすくなります。
BMI(体格指数)が25以上の方は注意が必要です。
顎の骨格・形態
生まれつき顎が小さい、下顎が後退している、首が短い・太いといった骨格的な特徴も気道が狭くなりやすく、SASの原因となります。
肥満でなくてもSASになる方は、このタイプが多い傾向があります。
注意したい顔・首の特徴
- 下顎が小さい、後退している
- 首が短い、太い(男性: 43cm以上, 女性: 38cm以上が目安)
- 二重あご
生活習慣
飲酒(特に寝る前)は、喉の筋肉を弛緩させ気道を狭くするため、症状を悪化させます。喫煙も喉の炎症を引き起こし、リスクを高めます。
また、一部の睡眠薬や精神安定剤も筋弛緩作用により影響する場合があります。
その他の要因
加齢による筋力の低下、性別(男性に多い傾向)、家族歴(血縁者にSAS患者がいる)、鼻詰まりなどの鼻疾患、扁桃腺が大きいことなどもリスク因子として挙げられます。
リスク因子チェック
リスク因子 | 該当 | 非該当 |
---|---|---|
肥満 (BMI 25以上) | □ | □ |
顎が小さい、または後退している | □ | □ |
首が短い、または太い | □ | □ |
習慣的な飲酒(特に寝る前) | □ | □ |
喫煙習慣がある | □ | □ |
家族にSASの人がいる | □ | □ |
リスク因子が多く当てはまる方は症状が軽くても一度検査を検討することをお勧めします。
セルフチェックの限界と注意点
ここまで紹介した症状チェックリストは、あくまでSASの可能性に気づくための簡易的なものです。
自己判断だけでSASと診断したり、重症度を判断したりすることはできません。
自己診断は不可能
SASの確定診断には専門的な睡眠検査(簡易検査や精密検査)が必要です。
これらの検査では睡眠中の呼吸状態、血中酸素飽和度、脳波などを客観的に測定し、無呼吸・低呼吸の回数(AHI)などを評価します。
症状チェックだけではこれらの客観的なデータは得られません。
他の病気の可能性
日中の眠気や倦怠感はSAS以外の病気(うつ病、甲状腺機能低下症、他の睡眠障害など)や、単なる睡眠不足が原因である可能性もあります。
自己判断でSASと思い込み、他の病気の発見が遅れることは避けなければなりません。
症状の感じ方には個人差がある
同じ程度のAHI(重症度)であっても、症状の感じ方には個人差があります。
症状が軽いからといって必ずしも軽症であるとは限りません。逆に、症状が強くても検査をしてみると軽症である場合もあります。
セルフチェックと専門医による診断の違い
項目 | セルフチェック | 専門医による診断 |
---|---|---|
評価方法 | 主観的な症状の確認 | 問診+客観的な睡眠検査 |
診断の確実性 | 可能性の示唆のみ | 確定診断が可能 |
重症度評価 | 不可能 | AHI等で客観的に評価 |
他の病気の鑑別 | 困難 | 可能 |
チェックリストの目的
この症状チェックリストの目的はSASの可能性に気づき、医療機関への受診を促すことです。
「もしかしたら?」と感じたら自己判断せずに専門医に相談してください。
症状チェックで気になったら:医療機関での診断
症状チェックリストで複数の項目が当てはまった場合や、ご自身やご家族がSASを疑う場合は、専門の医療機関を受診しましょう。
ここでは医療機関での一般的な診断の流れを説明します。
専門医への相談
まずは睡眠時無呼吸症候群を専門とする医師(呼吸器内科、睡眠専門医、耳鼻咽喉科など)に相談します。
問診ではチェックリストで確認したような症状、生活習慣、既往歴、家族歴などを詳しく伝えてください。ご家族からの情報(いびきの様子など)も重要です。
睡眠検査の種類
問診の結果、SASが疑われる場合は睡眠検査を行います。主に以下の2種類があります。
主な睡眠検査
- 簡易検査: 自宅で小型の装置を使って、呼吸、血中酸素飽和度などを測定するスクリーニング検査。
- 精密検査 (PSG): 医療機関に一泊入院し、脳波や心電図など多くの項目を測定する精密な検査。
どちらの検査を行うかは症状や医師の判断によります。多くの場合、まず簡易検査から行います。
診断の確定と重症度評価
睡眠検査の結果、睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)などを算出し、SASの診断を確定します。
同時に、AHIの値に基づいて重症度(軽症・中等症・重症)を評価します。
治療方針の決定
診断と重症度評価に基づき、医師と相談しながら治療方針を決定します。
治療法には生活習慣の改善、CPAP(シーパップ)療法、マウスピース(口腔内装置)などがあります。重症度や患者さんの状態に合わせて適切な治療法を選択します。
診断から治療までの流れ(例)
段階 | 内容 | 場所 |
---|---|---|
1. 受診・問診 | 症状や生活習慣の確認 | クリニック |
2. 睡眠検査 | 簡易検査 または 精密検査(PSG) | 自宅 または 医療機関 |
3. 結果説明・診断 | AHI算出、重症度判定 | クリニック |
4. 治療方針決定・開始 | CPAP、マウスピース、生活習慣改善など | クリニック、歯科等 |
よくある質問
Q1. 症状チェックでいくつか当てはまりましたが、必ず受診すべきですか?
A1. チェックリストはあくまで目安ですが、複数の項目(特に、いびき・呼吸停止の指摘、日中の強い眠気など)が当てはまる場合は、一度専門医に相談することを強くお勧めします。
自覚症状が軽くても検査をすると中等症以上であることもあります。放置すると健康リスクが高まるため、早期の対応が重要です。
Q2. 肥満ではないのですが、SASの可能性はありますか?
A2. はい、あります。
肥満は大きなリスク因子ですが、痩せている方でも顎が小さい、下顎が後退しているなどの骨格的な特徴があると気道が狭くなりやすくSASを発症することがあります。
特にアジア人は欧米人に比べて骨格的に不利な場合があると言われています。
肥満でなくても、いびきや日中の眠気などの症状があれば検査を検討する価値があります。
Q3. 子供でも症状チェックは有効ですか?
A3. 子供のSASは大人とは原因や症状の現れ方が異なる場合があります。
主な原因はアデノイドや扁桃腺の肥大であることが多く、いびき、口呼吸、落ち着きのなさ、夜尿、学業不振などがサインとなることがあります。
この記事のチェックリストは主に成人向けですが、お子さんに気になる症状がある場合は小児科や耳鼻咽喉科にご相談ください。
Q4. 検査や治療にはどのくらいの費用がかかりますか?
A4. 睡眠検査(簡易検査、精密検査)やCPAP療法は一定の基準を満たせば健康保険が適用されます。簡易検査は自己負担3割で数千円程度、精密検査は1泊入院で数万円程度が目安です。
CPAP療法は保険適用の場合、月額5,000円程度の自己負担(3割負担、定期受診料含む)となります。マウスピース治療は保険適用となる場合とならない場合があります。
詳細については、受診する医療機関にご確認ください。
以上
参考にした論文
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