「自分のいびきで目が覚める」「家族からいびきがうるさいと言われる」。

いびきは多くの人が経験する身近な悩みですが、単なる音の問題と軽視してはいけません。中には命に関わる病気のサインが隠れている「危険ないびき」もあります。

この記事では、いびきが起こる仕組みからご自身で今すぐ始められるセルフケア、市販グッズの正しい使い方、そして病院で行う根本的な治療法まで、いびき対策の全てを網羅的に解説します。

正しい知識で、静かで健康な睡眠を取り戻しましょう。

なぜ「いびき」はかくの?音が発生する仕組み

いびき対策を考える前に、まずはいびきがどのような仕組みで発生するのかを理解することが重要です。

空気の通り道「上気道」とは

鼻や口から吸い込んだ空気が肺に届くまでの通り道を「気道」と呼び、特に喉の周辺部分を「上気道」といいます。

この上気道は骨で囲まれておらず、舌や軟口蓋(なんこうがい)といった柔らかい組織で構成されています。

気道が狭くなるとなぜ音が出るのか

睡眠中は喉の周りの筋肉が弛緩するため、誰でも気道は少し狭くなります。この狭くなった気道を空気が通過する際に喉の粘膜や軟口蓋が振動して音が出ます。これが「いびき」の正体です。

ホースの先を指でつまむと水の勢いが強くなるのと同じ原理で、気道が狭いほど空気の流れるスピードが速くなり、振動が大きくいびきの音も大きくなります。

いびきの種類と危険ないびきのサイン

毎日かくわけではない「散発性のいびき」は、疲労や飲酒が原因のことが多く、あまり心配はいりません。しかし、毎晩のように大きないびきをかく「習慣性のいびき」は注意が必要です。

特に、いびきが途中で止まり、静かになった後に大きな呼吸とともに再開するような場合は危険な睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。

注意すべき危険ないびきの特徴

特徴考えられる状態
毎晩、大きな音でかく気道の狭窄が常態化している
いびきが途中で10秒以上止まる無呼吸状態に陥っている可能性
あえぐような呼吸で再開する体が酸素不足で苦しんでいるサイン

いびきの主な原因はこれ!生活習慣と体の特徴

気道が狭くなる原因は人それぞれです。ご自身の生活習慣や体の特徴に、当てはまるものがないか確認してみましょう。

肥満による首周りの脂肪

肥満は、いびきの最大の原因の一つです。

体重が増えると首周りや喉の内側にも脂肪が蓄積します。この脂肪が気道を内側と外側から圧迫し、空気の通り道を狭めてしまいます。

アルコール摂取と筋肉の弛緩

アルコールには筋肉を弛緩させる作用があります。

就寝前にお酒を飲むと喉の周りの筋肉が普段以上に緩み、舌が喉の奥に落ち込みやすくなります。このため普段はいびきをかかない人でも、飲酒後にはいびきをかきやすくなります。

疲労やストレスの影響

強い疲労やストレスは自律神経のバランスを乱し、筋肉の緊張をコントロールしにくくします。

また、深い睡眠に入ろうとして筋肉が過度に弛緩し、いびきにつながることがあります。

鼻炎やアレルギーによる鼻詰まり

アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)などで鼻が詰まっていると鼻呼吸がしにくくなり、自然と口呼吸になります。

口呼吸になると口が開き、舌が喉の奥に落ち込みやすくなるため、気道が狭くなりいびきの原因となります。

いびきの主な原因まとめ

分類具体的な原因対策の方向性
生活習慣肥満、飲酒、疲労生活習慣の見直し
身体的特徴顎が小さい、扁桃腺肥大専門的な治療
その他鼻詰まり、加齢対症療法、筋力維持

危険ないびきのサイン「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」

大きないびきは単にうるさいだけでなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という病気の重要なサインです。

いびきが止まる「無呼吸」状態

SASでは睡眠中に気道が完全に塞がれてしまい、10秒以上呼吸が停止する「無呼吸」の状態が、一晩に何度も繰り返されます。

家族からは「大きないびきが突然止まって静かになり、心配になった頃にあえぐような呼吸でまたいびきが始まる」というように見えます。

SASが体に及ぼす深刻なリスク

無呼吸によって体は深刻な酸素不足に陥り、心臓や血管に大きな負担がかかります。

この状態を放置すると高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳卒中といった命に関わる生活習慣病のリスクが著しく高まることが分かっています。

日中の強い眠気は要注意

SASのもう一つの代表的な症状が日中の耐えがたいほどの眠気です。夜間に何度も無呼吸と覚醒を繰り返しているため、脳も体も全く休まっていません。

この睡眠不足が、日中のパフォーマンス低下や居眠り運転による重大な事故の原因にもなります。

SASを疑ったら何科を受診すべきか

危険ないびきのサインや日中の強い眠気がある場合は自己判断せずに専門の医療機関を受診することが重要です。

まずは呼吸器内科や睡眠専門クリニック、あるいは耳鼻咽喉科に相談しましょう。

【今日からできる】いびき対策セルフケア

病院での治療の前に、まずはご自身でできる対策から始めてみましょう。生活習慣を見直すだけで、いびきが軽減されることも少なくありません。

横向きで寝る

仰向けで寝ると重力で舌が喉の奥に落ち込みやすくなります。

横向きで寝ることで舌の落ち込みを防ぎ、気道を確保しやすくなります。抱き枕などを活用して、自然に横向き寝を維持する工夫をしましょう。

枕の高さを調整する

枕が高すぎると首が圧迫されて気道が狭くなり、低すぎても顎が引けて気道を塞ぎやすくなります。

横向きになった時に首の骨から背骨までが一直線になる高さを目安に、タオルなどで微調整してみましょう。

適正体重を維持する(減量)

肥満が原因の場合、減量が最も効果的ないびき対策です。

数キログラム体重を落とすだけでも首周りの脂肪が減り、気道が広がっていびきが改善することがあります。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。

就寝前のアルコールを控える

いびきをかく日の多くが飲酒後であるなら、原因はアルコールである可能性が高いです。

特に就寝前の3〜4時間以内の飲酒は、いびきを悪化させるため控えましょう。

市販のいびき対策グッズ|効果と注意点

ドラッグストアなどでは様々な種類のいびき対策グッズが販売されています。手軽に試せますが、その効果と限界を正しく理解して使うことが大切です。

鼻腔拡張テープ

鼻に貼ることで鼻腔を物理的に広げ、鼻呼吸を楽にするテープです。鼻詰まりが原因のいびきには一定の効果が期待できます。

ただし、喉の奥の閉塞が原因のいびきには効果がありません。

マウスピース(市販品)

お湯で柔らかくして自分の歯形に合わせて作るタイプのマウスピースです。

下顎を少し前に出すことで気道を広げる効果を狙いますが、歯科で作製する医療用のものとは精度が全く異なります。歯や顎を痛めるリスクもあるため、使用には注意が必要です。

主な市販グッズと特徴

グッズの種類主な効果注意点
鼻腔拡張テープ鼻の通りを良くする喉の閉塞には無効
口閉じテープ口呼吸を防ぎ鼻呼吸を促す鼻詰まりがある場合は使用不可
マウスピース(市販)下顎を前方に固定する歯や顎を痛めるリスクあり

市販グッズだけに頼る危険性

これらのグッズは、一時的ないびきや軽度の症状を和らげるのには役立つかもしれません。

しかし、もし背景に睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合、市販グッズでいびきの音だけを消してしまうと根本的な病気の発見が遅れる危険性があります。

あくまで補助的な対策と考えましょう。

病院で行う根本的な「いびき治療」

セルフケアや市販グッズで改善しない場合や危険ないびきのサインがある場合は、病院での根本的な治療が必要です。

睡眠時無呼吸症候群の検査

まず、いびきの原因を特定するために検査を行います。

自宅でできる簡易検査や、入院して行う精密検査(PSG)で睡眠中の呼吸状態を詳細に調べ、SASの有無や重症度を正確に診断します。

CPAP(シーパップ)療法

中等症から重症のSASに対する標準的な治療法です。鼻に装着したマスクから圧力をかけた空気を送り込み、気道が塞がるのを物理的に防ぎます。

いびき・無呼吸を確実になくすことができ、治療効果が非常に高い方法です。

マウスピース(医療用)治療

軽症から中等症のSASが対象です。歯科で精密な歯型をとり、個々の患者さんに合わせて作製します。睡眠中に装着することで下顎を前方に移動させ、気道を広げます。

CPAPに比べて手軽ですが、適応とならない場合もあります。

耳鼻咽喉科での外科手術

扁桃腺やアデノイドの肥大が気道閉塞の明らかな原因である場合、それらを切除する手術が選択されることがあります。

特に子どものいびきでは、この手術が非常に有効です。

よくある質問

最後に、いびきやその対策に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
子どものいびきは放置しても大丈夫?
A

いいえ、放置してはいけません。

子どものいびきは正常な状態ではなく、多くはアデノイドや扁桃腺の肥大が原因です。

睡眠中の呼吸が妨げられると成長や発達、学力にも悪影響を及ぼす可能性があります。早めに小児科や耳鼻咽喉科に相談してください。

Q
自分のいびきを確認する方法はありますか?
A

スマートフォンには睡眠中の音を録音できるアプリがたくさんあります。これらを利用して自分のいびきの音量やリズム、止まっている時間がないかなどを客観的に確認することができます。

録音した音を診察時に医師に聞かせるのも診断の助けになります。

  • 睡眠記録アプリの録音機能を利用する
  • 家族に録画してもらう
Q
レーザー治療は効果がありますか?
A

かつて、いびき治療として口蓋垂(のどちんこ)などをレーザーで切除する手術が行われていました。

しかし長期的な効果が不安定であることや、瘢痕(傷跡)が硬くなってかえって気道を狭めるリスクがあることなどから、現在では多くの学会で推奨されていません。

安易なレーザー治療には注意が必要です。

以上

参考にした論文

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