家族やパートナーから「いびきがうるさい」と指摘された経験はありませんか。
いびきは多くの人がかくものですが、単なる迷惑な音と軽視してはいけません。中には睡眠時無呼吸症候群などの病気が隠れている「危険ないびき」も存在します。
また、いびきの原因は肥満や飲酒といった共通の要因だけでなく、性別による骨格やホルモンの違いも関係します。
この記事では、いびきが発生する仕組みから男女それぞれの原因、そして放置してはいけない危険ないびきの見分け方まで専門的な観点から詳しく解説します。
いびきが発生する基本的な仕組み
いびきは、睡眠中に空気が狭くなった上気道(のどや鼻)を通る際に、周囲の粘膜が振動して発生する音です。
なぜ睡眠中に気道が狭くなるのか、その基本的な成り立ちを理解することが大切です。
睡眠中に気道が狭くなる理由
起きている間は、のど周りの筋肉が緊張しているため気道は十分に開いています。しかし眠りにつくと全身の筋肉がゆるみ、のど周りの筋肉も弛緩します。
特に仰向けで寝ていると、重力によって舌の付け根(舌根)やのどの奥にある軟口蓋が気道の方へ落ち込みやすくなり、空気の通り道が狭くなります。
狭くなった気道を空気が通る時の振動音
狭くなった気道を空気が無理に通ろうとすると、空気の流れが速くなります。この速い空気の流れが、ゆるんだのどの粘膜や軟口蓋を振動させます。この振動によって生じる音が「いびき」です。
ホースの先を指でつぶすと水の勢いが強まるのと同じ原理で気道が狭いほど空気の流速は上がり、振動も大きくなるため、いびきの音も大きくなります。
いびきの音の変動要因
要因 | 気道の状態 | いびきの音 |
---|---|---|
深い睡眠・疲労 | 筋肉の弛緩が強まり、より狭くなる | 大きくなりやすい |
飲酒 | 筋肉がより弛緩し、気道が狭くなる | 大きく、不規則になりやすい |
鼻づまり | 口呼吸になり、舌が落ち込みやすくなる | 大きくなりやすい |
いびきの音の大きさや種類
いびきの音は気道の狭さの程度や振動する場所によって変わります。
「ガーガー」という大きな音はのどの奥が狭くなっている場合が多く、「スーピースーピー」という静かな寝息に近い音は鼻が原因の場合もあります。
音の大きさだけでなく、呼吸が止まったり、むせたりするような不規則な音は注意が必要です。
いびきの主な原因【男女共通】
いびきの根本的な原因は気道の狭窄ですが、その背景には性別を問わず共通するいくつかの要因が存在します。生活習慣が大きく関わっていることも少なくありません。
肥満と首周りの脂肪
体重が増加すると、体だけでなく首周りやのどの内側にも脂肪がつきます。この内側の脂肪が気道を内側から圧迫し、空気の通り道を狭めてしまいます。
肥満は、いびきや睡眠時無呼吸症候群の最も大きな危険因子の一つです。
飲酒や睡眠薬の影響
アルコールには筋肉を弛緩させる作用があります。寝る前に飲酒をすると喉の筋肉が通常よりもゆるみ、舌が気道に落ち込みやすくなるため、いびきをかきやすくなります。
また、一部の睡眠薬や精神安定剤にも同様の筋弛緩作用があり、いびきの原因や悪化につながることがあります。
いびきを悪化させる可能性があるもの
分類 | 具体例 | 主な作用 |
---|---|---|
アルコール類 | ビール、ワイン、日本酒など | 筋肉の弛緩を促す |
薬剤 | 一部の睡眠薬、精神安定剤など | 筋弛緩作用を持つ場合がある |
喫煙 | タバコ | のどの粘膜の炎症・むくみ |
疲労やストレス
体がひどく疲れている時や強いストレスを感じている時は、筋肉の緊張がとれて深い眠りに入りやすくなります。
このとき喉の筋肉も大きく弛緩するため、普段はいびきをかかない人でも一時的にいびきをかくことがあります。
「疲れている時のいびき」は、体が休息を必要としているサインでもあります。
鼻の疾患(アレルギー性鼻炎など)
鼻づまりもいびきの大きな原因です。鼻での呼吸がしにくいと、体は無意識に口で呼吸しようとします。
口呼吸になると口が開いた状態になるため舌がのどの奥に落ち込みやすくなり、気道を狭めてしまいます。
- アレルギー性鼻炎
- 副鼻腔炎(蓄膿症)
- 鼻中隔弯曲症
これらの鼻の疾患を治療することで、いびきが改善するケースも多くあります。
女性特有のいびきの原因とホルモンバランス
「いびきは男性のもの」というイメージがあるかもしれませんが、多くの女性もいびきに悩んでいます。女性の場合、ホルモンバランスの変化が大きく影響することが特徴です。
妊娠中の体重増加と体の変化
妊娠中は体重が増加しやすく、首周りにも脂肪がつくため、いびきをかきやすくなります。
また、大きくなった子宮が横隔膜を押し上げることで呼吸が浅くなることや、ホルモンの影響で鼻の粘膜がむくみやすくなることも、いびきの原因となります。
多くの場合、産後に体重が戻るといびきも改善します。
更年期と女性ホルモンの減少
女性ホルモンの一種であるプロゲステロンには上気道の筋肉の働きを活性化させ、気道を開いた状態に保つ作用があります。閉経前後の更年期になると、この女性ホルモンの分泌が急激に減少します。
このことにより、上気道の筋肉の張りが弱まり、気道が狭くなりやすくなるため、いびきが目立つようになる女性は少なくありません。
女性ホルモンといびきの関係
時期 | 女性ホルモンの状態 | いびきへの影響 |
---|---|---|
月経周期 | プロゲステロンが増加する時期がある | 比較的いびきをかきにくい |
更年期以降 | ホルモン分泌が大幅に減少 | 気道の筋力が低下し、いびきをかきやすい |
小さな顎や骨格的な特徴
もともと顎が小さい、または下顎が後退している骨格の女性は気道が狭くなりやすいため、若くても、また痩せていてもいびきをかきやすい傾向があります。
仰向けに寝ると舌が落ち込むスペースが元々狭いため、気道が塞がれやすいのです。
男性に多いいびきの原因と生活習慣
男性は女性に比べていびきをかく人の割合が高いことが知られています。これには体の構造的な違いや、生活習慣が関係しています。
女性との気道の構造的な違い
一般的に男性は女性よりも首が太く、気道周りの脂肪がつきやすい傾向があります。また、喉頭(のどぼとけ)の位置が女性より低いなど解剖学的に上気道が長く、塞がりやすい構造をしています。
このため、同じような体重増加でも、男性のほうが気道への影響が大きく現れやすいのです。
喫煙による気道の炎症
喫煙は、いびきの大きなリスク因子です。タバコの煙に含まれる化学物質は、のどや鼻の粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。
炎症を起こした粘膜は腫れてむくんだ状態になり、空気の通り道を物理的に狭くしてしまいます。この結果いびきが悪化しやすくなります。
喫煙がいびきに与える影響
影響 | 内容 |
---|---|
慢性の炎症 | のどや鼻の粘膜が腫れ、気道が狭くなる |
痰の増加 | 気道に痰が絡み、空気の通りを妨げる |
口呼吸の習慣
男性は女性に比べて口呼吸の割合が高いという報告もあります。鼻炎などの問題がなくても習慣的に口呼吸になっていると睡眠中に舌が落ち込みやすくなり、いびきの原因となります。
肥満と口呼吸が合わさると、いびきのリスクはさらに高まります。
ただのいびきと危険ないびきの見分け方
全てのいびきが病的なわけではありません。しかし、中には睡眠時無呼吸症候群(SAS)という治療が必要な病気が隠れている「危険ないびき」があります。
そのサインを見逃さないことが重要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサイン
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。いびきは、この病気の最も代表的な症状です。狭くなった気道が完全に塞がってしまうことで、一時的に呼吸が停止します。
危険ないびきのチェックリスト
チェック項目 | 詳細 |
---|---|
いびきの音 | 非常に大きい、不規則(静かになったり激しくなったりする) |
呼吸の状態 | いびきの間に10秒以上呼吸が止まる、むせる、あえぐ |
睡眠中の様子 | 寝汗をかく、何度も寝返りをうつ、苦しそうにしている |
呼吸が止まる・途切れる
「大きないびきが突然静かになり、しばらくして『ガガッ!』という大きないびきとともに呼吸を再開する」というパターンは、睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状です。
呼吸が止まっている間、体は酸欠状態に陥っています。家族などベッドパートナーからの指摘で気づくことがほとんどです。
日中の強い眠気や倦怠感
夜間に無呼吸を繰り返していると脳や体が十分に休息できず、深い睡眠がとれません。
その結果、日中に強い眠気を感じたり、朝起きた時に頭痛がしたり、熟睡感がなく体がだるいといった症状が現れます。
- 会議中や運転中に強い眠気を感じる
- 起床時の頭痛や体の重さ
- 集中力や記憶力の低下
これらの症状は、日常生活に支障をきたすだけでなく、重大な事故の原因にもなり得ます。
いびきを放置するリスクと体への影響
特に睡眠時無呼吸を伴ういびきを放置すると体は毎晩のように酸欠と覚醒を繰り返すことになり、心臓や血管に大きな負担をかけ続けます。
この状態が、様々な生活習慣病を引き起こす原因となります。
高血圧や心疾患のリスク上昇
呼吸が止まると体内の酸素濃度が低下し、それを補うために心臓は心拍数を上げて全身に血液を送ろうとします。このような理由で血圧が上昇します。
この夜間の血圧上昇が慢性化すると日中の高血圧につながります。また、心臓への負担が続くことで不整脈、心不全、心筋梗塞などの心疾患のリスクも高まります。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす主な合併症
合併症 | SAS患者における発症リスク(健常者との比較) |
---|---|
高血圧 | 約1.4~2.9倍 |
心筋梗塞・狭心症 | 約2~3倍 |
脳卒中・脳梗塞 | 約1.6~3.3倍 |
脳卒中や糖尿病との関連
夜間の低酸素状態や睡眠の分断は交感神経を緊張させ、血糖値をコントロールするインスリンの働きを悪くすることが分かっています。このため、糖尿病の発症や悪化につながる可能性があります。
また、血圧の上昇や動脈硬化の進行は、脳卒中(脳梗塞や脳出血)の引き金にもなります。
集中力低下と事故のリスク
質の良い睡眠がとれないことによる日中の強い眠気は仕事や学業の能率を低下させるだけではありません。
居眠り運転による交通事故や、危険な作業中の労働災害など、社会生活における重大な事故のリスクを著しく高めます。
家庭でできるいびき対策とセルフケア
危険ないびきのサインがある場合は医療機関の受診が必要ですが、比較的軽いいびきであれば、生活習慣を見直すことで改善が期待できます。
適切な枕選びと寝る姿勢の工夫
枕が高すぎると首が圧迫されて気道が狭くなります。一方で低すぎると頭が下がり、これも気道を狭める原因となります。
自分に合った高さの枕を選び、気道がまっすぐになるようにしましょう。
また、仰向け寝はいびきをかきやすいため、横向きに寝ることを心がけるだけでも効果的です。抱き枕などを利用して、自然に横向きの姿勢を保つ工夫も有効です。
寝る姿勢といびきの関係
寝る姿勢 | 気道の状態 | いびきへの影響 |
---|---|---|
仰向け寝 | 舌が落ち込みやすく、気道が狭まりやすい | 悪化しやすい |
横向き寝 | 舌の落ち込みが防がれ、気道が確保されやすい | 改善が期待できる |
体重管理と食生活の見直し
肥満がいびきの大きな原因であるため、適正体重を維持することは最も基本的な対策です。バランスの取れた食事と定期的な運動を組み合わせ、無理のない範囲で減量に取り組みましょう。
特に寝る直前の食事や飲酒は、いびきを悪化させるため控えることが大切です。
鼻呼吸を促すテープやグッズの活用
口呼吸がいびきの原因になっている場合、市販の口閉じテープを使って睡眠中の口を閉じることで鼻呼吸を促すことができます。
また、鼻腔を広げるタイプのテープやクリップも鼻の通りを良くするのに役立ちます。
ただしこれらは対症療法であり、根本的な原因の解決にはならない場合もあります。
いびきに関するよくある質問
ここでは、患者さんからよく寄せられるいびきに関する質問とその回答をご紹介します。
- Q子どものいびきは問題ありませんか?
- A
子どものいびきは、大人と同様に気道が狭くなっているサインであり、注意が必要です。
特に扁桃腺(へんとうせん)やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)が大きいことが原因の場合が多く、睡眠時無呼吸を引き起こしている可能性もあります。
子どもの無呼吸は成長や発達に影響を与えることもあるため、大きないびきが続く、口をぽかんと開けて寝ているなどの様子が見られたら、小児科や耳鼻咽喉科に相談してください。
- Qいびきは遺伝しますか?
- A
いびきそのものが直接遺伝するわけではありません。しかし、いびきをかきやすい骨格(顎が小さい、首が短いなど)や体質(太りやすいなど)は遺伝的な影響を受けることがあります。
そのため血縁関係にある家族にいびきをかく人が多い場合、自分もいびきをかきやすい傾向があると考えられます。
- Qどのようないびきなら病院に行くべきですか?
- A
以下のような特徴がある場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性を考え、専門の医療機関(呼吸器内科、睡眠外来、耳鼻咽喉科など)の受診を勧めます。
- 毎晩のように大きないびきをかく
- いびきの間に呼吸が止まっていると指摘された
- 日中に耐えがたいほどの強い眠気がある
- 朝起きた時に頭痛やだるさがある
適切な検査と治療によって、いびきだけでなく、将来の健康リスクを減らすことができます。
以上
参考にした論文
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