「いびきがうるさい」と家族に指摘された経験はありませんか?

いびきは多くの人が経験するありふれた現象ですが、その原因は性別や年齢によって大きく異なります。特に男性に多く見られる一方で、若い女性や子供にも特有の原因があります。

この記事では、いびきをかく人の割合や、男性・女性・子供それぞれの主な原因、年代による特徴、そして自分でできる対策について詳しく解説します。

いびきを正しく理解し、隠れた健康問題のサインを見逃さないようにしましょう。

いびきはなぜ起こる?基本的な仕組み

いびきは睡眠中に空気の通り道である「上気道」が狭くなることで発生する振動音です。その仕組みを知ることが、原因を理解する第一歩となります。

空気の通り道「上気道」の狭窄

上気道とは、鼻からのどまでの空気の通り道を指します。起きている間は筋肉の緊張によって気道の広さが保たれていますが、睡眠中は全身の筋肉が緩みます。

この時、のどの周りの筋肉も緩み、特に仰向けで寝ると舌がのどの奥に落ち込む(舌根沈下)ことで上気道が狭くなりやすい状態になります。

振動音としてのいびき

狭くなった気道を空気が無理に通過しようとすると、のどの粘膜や軟口蓋(口の奥の柔らかい部分)が振動します。この振動によって生じる音が「いびき」です。

ホースの先を指でつぶすと水の勢いが強くなるように、狭い場所を空気が高速で通過することで音が発生します。

「単純いびき」と「危険ないびき」

いびきには、一時的で心配のいらない「単純いびき」と、病気が隠れている可能性のある「危険ないびき」があります。

毎晩のように大きないびきをかき、途中で呼吸が止まるような場合は睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインかもしれません。

単純いびきと危険ないびきの比較

項目単純いびき危険ないびき(SASの疑い)
頻度疲労時、飲酒後など一時的毎晩、習慣的
音の特徴規則正しい音音が途切れる、無呼吸後に激しい呼吸
日中の症状特になし強い眠気、倦怠感、集中力低下

いびきをかく人の割合はどのくらい?

いびきは決して珍しいものではありません。調査によって多少の差はありますが、多くの成人がいびきをかくことが知られています。

成人におけるいびきの有病率

習慣的にいびきをかく人の割合は、成人男性で約20〜40%、成人女性で約10〜20%と報告されています。

つまり、成人男性の3人に1人、女性の5人に1人程度がいびきに悩んでいる、あるいは周囲に迷惑をかけている可能性があるということです。

性別による割合の違い

いびきをかく割合は明らかに男性に多く見られます。これは男性の方が女性に比べて首周りに脂肪がつきやすく、上気道が狭くなりやすい身体的な特徴を持つためです。

また、後述する女性ホルモンの影響も関係しています。

年齢とともに増加する傾向

いびきは年齢を重ねるごとにかきやすくなります。加齢により、のどの筋肉が衰えてたるみ、気道が狭くなりやすくなるためです。

また、閉経後の女性では、いびきをかく人の割合が男性と同じレベルまで増加することが知られています。

年代・性別によるいびき有病率の目安

年代男性女性
30〜40代比較的高い比較的低い
50〜60代非常に高い急激に増加
70代以降高い水準で維持高い水準で維持

【男性】いびきの主な原因と年代別の特徴

男性はいびきをかきやすい身体的特徴や生活習慣を持つ人が多く、特に中年期以降はその傾向が顕著になります。

肥満と首周りの脂肪

男性のいびきの最大の原因は肥満です。特に首周りに脂肪がつくと、気道を内側から圧迫して狭くします。体重が増えると舌にも脂肪がついて分厚くなり、舌根沈下を起こしやすくなります。

メタボリックシンドロームの診断基準である腹囲も、いびきのリスクと関連があります。

アルコールと喫煙の習慣

アルコールには筋肉を弛緩させる作用があります。就寝前にお酒を飲むと、のどの筋肉が普段以上に緩み、気道が塞がりやすくなります。喫煙は、のどの粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、気道を狭くする原因となります。

骨格的な特徴

生まれつき顎が小さい、下顎が後退している、首が短いといった骨格的な特徴も、いびきの原因となります。

これらの特徴があると痩せている人でも気道が狭くなりやすく、いびきをかきやすい傾向があります。

男性のいびきを悪化させる主な要因

要因気道が狭くなる理由
肥満首周りの脂肪が気道を圧迫する
アルコールのどの筋肉が緩み、舌が落ち込みやすくなる
喫煙のどの粘膜が腫れ、空気の通り道が狭くなる

年代による変化(30代~50代以降)

30代から40代にかけては仕事の付き合いでの飲酒機会の増加や運動不足による体重増加がいびきの原因となりやすいです。

50代以降はこれらの要因に加えて加齢による筋力低下が重なり、いびきがさらに悪化して睡眠時無呼吸症候群を発症するリスクが高まります。

【女性】いびきの原因とライフステージの変化

女性はいびきをかきにくいと思われがちですが、若い女性でも悩む方はおり、ライフステージの変化がいびきの大きな原因となります。

若い女性のいびき(顎の小ささなど)

若い女性の場合、肥満でなくてもいびきをかくことがあります。その主な原因は骨格的な特徴です。

特に顎が小さい、または下顎が後方に引っ込んでいる方は仰向けで寝たときに舌が気道を塞ぎやすくなります。痩せ型の方でも注意が必要です。

妊娠中のいびき

妊娠中は体重増加やホルモンバランスの変化、むくみなどにより、いびきをかきやすくなります。特に妊娠後期には大きくなった子宮が横隔膜を押し上げ、呼吸が浅くなることも影響します。

妊娠中のいびきは妊娠高血圧症候群のリスクと関連があるため、注意が必要です。

更年期以降の女性ホルモンの影響

女性ホルモンの一つであるプロゲステロンには上気道を開く筋肉(開大筋)の活動を維持する働きがあります。

更年期を迎え、女性ホルモンの分泌が減少するとこの働きが弱まり、気道が狭くなりやすくなります。このことにより、閉経後の女性はいびきをかく人の割合が著しく増加します。

女性のライフステージといびきの関係

ライフステージいびきの主な原因
若年期顎が小さいなどの骨格的要因
妊娠期体重増加、ホルモン変化、むくみ
更年期以降女性ホルモンの減少による筋力低下

【子供】のいびきで見逃せないサイン

子供のいびきは単なる寝息ではなく、成長や発達に影響を及ぼす重要なサインである可能性があります。大人のいびきとは原因が異なることが多いです。

アデノイド・扁桃肥大が最大の原因

子供のいびきの最も一般的な原因は、アデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)や口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)の肥大です。

これらが物理的に空気の通り道を塞いでしまうことで、いびきや口呼吸、睡眠時無呼吸を引き起こします。特に3歳から6歳頃に大きくなる傾向があります。

アレルギー性鼻炎との関連

アレルギー性鼻炎による鼻づまりも子供のいびきの大きな原因です。

鼻で呼吸ができないため、口呼吸になります。口呼吸になると舌がのどの奥に落ち込みやすくなり、いびきにつながります。

子供のいびきがもたらす影響

いびきや睡眠時無呼吸によって睡眠の質が低下すると、成長ホルモンの分泌が妨げられることがあります

この結果、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 低身長などの成長障害
  • 日中の眠気や多動、集中力の低下
  • 学習能力の低下
  • おねしょ

子供のいびきで注意すべき症状

分類具体的な症状
睡眠中の様子呼吸が止まる、口呼吸、寝汗が多い
日中の様子落ち着きがない、いつも眠そう、不機嫌
身体的特徴成長が遅い、胸の形がへこんでいる

いびきを改善するためのセルフケアと対策

いびきの原因によっては生活習慣を見直すことで症状を軽減できる場合があります。専門的な治療が必要になる前に、まずは自分でできる対策から始めてみましょう。

適正体重の維持と減量

肥満が原因の場合、減量が最も効果的ないびき対策です。数キログラム体重を落とすだけでも首周りの脂肪が減り、気道が広がっていびきが改善することがあります。

バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。

生活習慣の見直し(飲酒・喫煙)

就寝前のアルコールは控えましょう。特に寝酒の習慣がある方は見直しが必要です。

また、禁煙は喉の炎症を抑え、いびきだけでなく全身の健康状態を改善します。

横向き寝の習慣化

仰向けで寝ると舌が落ち込みやすくなるため、横向きで寝る習慣をつけることが有効です。

抱き枕を利用したり背中にクッションを置いたりして、自然に横向きを維持できるように工夫すると良いでしょう。

自分でできるいびき対策

対策期待できる効果
減量気道の圧迫を減らし、通りを広くする
横向き寝舌の落ち込みを防ぐ
鼻呼吸テープ口呼吸を防ぎ、鼻での呼吸を促す

いびきの原因に関するよくある質問

最後に、いびきの原因について患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
痩せているのにいびきをかくのはなぜですか?
A

痩せている方のいびきは骨格的な特徴が原因であることが多いです。

顎が小さい、下顎が後退している、首が細くて長いといった方は気道が狭くなりやすく、いびきをかきやすい傾向にあります。

また、扁桃腺が大きいことや、鼻の病気(アレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症など)が原因の場合もあります。

Q
女性はいびきをかきにくいというのは本当ですか?
A

閉経前の女性は女性ホルモンの働きによって男性よりもいびきをかきにくいのは事実です。

しかし、更年期以降は女性ホルモンが減少し、男性と同じくらい、あるいはそれ以上にいびきをかきやすくなります。

また、若い女性でも顎が小さいなどの骨格的な問題でいびきに悩む方は少なくありません。

Q
いびき防止グッズは効果がありますか?
A

市販のいびき防止グッズには、鼻腔を広げるテープや口を閉じるテープ、横向き寝を促進する枕など様々なものがあります。

鼻づまりや口呼吸が原因の軽いいびきには、ある程度の効果が期待できる場合があります。

しかし、睡眠時無呼吸症候群が原因のいびきに対しては、これらのグッズでは根本的な解決にはならず、かえって治療の開始を遅らせてしまう可能性もあるため注意が必要です。

いびき防止グッズの種類と主な対象

グッズの種類主な対象となるいびきの原因
鼻腔拡張テープ鼻づまり
マウスピース軽度の舌の落ち込み
横向き寝促進枕仰向け寝によるいびき
Q
子供のいびきは成長すれば治りますか?
A

アデノイドや扁桃腺の肥大が原因の場合、体の成長とともに気道が相対的に広がり、10歳頃までに自然に改善することも多いです。

しかし、いびきが非常に大きい、呼吸が止まっている、日中の活動に影響が出ているなどの場合は、成長を待たずに耳鼻咽喉科や小児科で相談することが重要です。

放置すると成長や発達に悪影響を及ぼす可能性があります。

以上

参考にした論文

OTSUKA, Yuichiro, et al. Associations among alcohol drinking, smoking, and nonrestorative sleep: A population-based study in Japan. Clocks & Sleep, 2022, 4.4: 595-606.

KAMEDA, Yoshihito, et al. Epidemiology of Sleep Apnea Syndrome in Adult: What is the Current Prevalence of Obstructive Sleep Apnea in Adults?. In: The Current State of Sleep Disordered Breathing in Japan and Around the World. Singapore: Springer Nature Singapore, 2025. p. 3-16.

YAEGASHI, Toru, et al. Association between Asthma and Sleep-Disordered Breathing in Elementary School Children in Japan. Sleep Medicine, 2025, 106749.

MATSUMOTO, Takeshi, et al. Sleep disordered breathing and haemoglobin A1c levels within or over normal range and ageing or sex differences: the Nagahama study. Journal of Sleep Research, 2023, 32.3: e13795.

WANG, Ping, et al. Does seasonality affect snoring? A study based on international data from the past decade. Sleep and Breathing, 2023, 27.4: 1297-1307.

OKADA, Reiko, et al. Sleep duration and daytime napping and risk of type 2 diabetes among Japanese men and women: the Japan collaborative cohort study for evaluation of cancer risk. Journal of Epidemiology, 2023, 33.11: 562-568.

DAI, Ningbin, et al. Snoring frequency and risk of type 2 diabetes mellitus: a prospective cohort study. BMJ open, 2021, 11.5: e042469.

HIRASAWA, Toshiyuki, et al. Anthropometric screening approach for obstructive sleep apnea in Japanese men: development and validation of the ABC scale. Sleep Science and Practice, 2023, 7.1: 10.

RYU, Borim, et al. Snoring-related polygenic risk and its relationship with lifestyle factors in a Korean population: KoGES study. Scientific Reports, 2023, 13.1: 14212.

WEI, Yuxia, et al. Age-specific associations between habitual snoring and cardiovascular diseases in China: a 10-year cohort study. Chest, 2021, 160.3: 1053-1063.