睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された方、またはその疑いがある方にとって、夜間の呼吸停止やいびきは深刻な悩みです。

これらの症状は睡眠の質を低下させるだけでなく、日中の眠気や集中力低下、さらには生活習慣病のリスクを高める可能性があります。

でも実は毎日の「寝方」や「枕の選び方」を少し工夫するだけで、症状の軽減が期待できます。

この記事では睡眠時無呼吸症候群の症状緩和に役立つ寝姿勢や、ご自身に合った枕を見つけるためのポイントを詳しく解説します。快適な睡眠を取り戻し、健やかな毎日を送るための一助となれば幸いです。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは何か

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、睡眠中に呼吸が一時的に止まったり、浅くなったりする状態を繰り返す病気です。

この呼吸の乱れが様々な健康問題を引き起こす原因となります。

主な症状と原因

SASの代表的な症状には大きないびき、睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感の欠如などがあります。

主な原因は睡眠中に喉の空気の通り道(上気道)が狭くなることです。肥満による首周りの脂肪沈着、扁桃腺の肥大、顎が小さいといった骨格的な特徴、加齢による筋力の低下などが関係します。

症状の具体例

症状具体例影響
いびき毎晩、非常に大きないびきをかく同室者の睡眠妨害、気道狭窄のサイン
呼吸停止睡眠中に数十秒間呼吸が止まる血中酸素濃度の低下
日中の眠気会議中や運転中に強い眠気を感じる集中力低下、事故のリスク

放置するリスク

SASを治療せずに放置すると睡眠の質が著しく低下し、日中の活動に支障をきたすだけでなく、高血圧、心臓病、脳卒中などの生活習慣病のリスクが高まります。

また、眠気による事故のリスクも無視できません。早期に適切な対策を講じることが重要です。

検査と診断

SASの診断には、まず問診や診察を行います。その後に睡眠中の呼吸状態、血中酸素濃度などを測定する検査(簡易検査や精密検査:ポリソムノグラフィー)を実施します。

これらの検査結果をもとに、SASの有無や重症度を判断します。

寝方と睡眠時無呼吸症候群の関係

どのような姿勢で寝るかは睡眠中の気道の確保に大きく影響します。特にSASの症状を持つ方にとっては、寝姿勢の選択が症状緩和の鍵となることがあります。

なぜ寝方が重要なのか

睡眠中は筋肉が弛緩するため、重力の影響で舌の根元(舌根)や軟口蓋(のどちんこのある部分)が喉の奥に落ち込みやすくなります。

このような状況になると気道が狭くなり、いびきや無呼吸が発生しやすくなります。寝姿勢によっては、この気道の閉塞を助長してしまう場合があります。

仰向け寝のリスク

仰向け寝は重力の影響を最も受けやすい寝姿勢です。舌根や軟口蓋が喉の奥に落ち込みやすく、気道を塞ぎやすいため、SASの症状が悪化する傾向があります。

特に肥満傾向のある方や顎が小さい方は注意が必要です。

仰向け寝による気道への影響

要素影響結果
重力舌根・軟口蓋が喉奥へ落ち込む気道狭窄・閉塞
筋肉の弛緩気道を支える力が弱まるいびき・無呼吸の発生
SAS症状悪化しやすい睡眠の質の低下

横向き寝のメリット

横向き寝は舌根や軟口蓋の落ち込みを軽減し、気道を確保しやすい寝姿勢です。多くのSAS患者さんにとって、いびきや無呼吸の回数が減少する効果が期待できます。

右向き、左向きのどちらでも効果はありますが、ご自身が楽な方向で寝るのが良いでしょう。

うつ伏せ寝について

うつ伏せ寝も気道の確保には有効な場合がありますが、首や肩への負担、呼吸のしにくさを感じる方もいます。

また、寝具との相性も重要です。一般的には、SAS対策としては横向き寝が推奨されることが多いです。

SASに効果的な寝姿勢「横向き寝」のポイント

SASの症状緩和に有効とされる横向き寝ですが、より快適に、そして効果的に行うためにはいくつかのポイントがあります。

正しい横向き寝の姿勢

理想的な横向き寝は背骨が首から腰までまっすぐになる状態です。体が「く」の字に曲がったり、ねじれたりしないように意識しましょう。

膝を軽く曲げると、姿勢が安定しやすくなります。

抱き枕の活用

抱き枕を使用すると横向き寝の姿勢を安定させやすくなります。また、腕や脚の重さを分散させ、体への負担を軽減する効果も期待できます。

現在抱き枕には様々な形状や素材のものがあるので、自分に合ったものを選びましょう。

抱き枕の選び方のヒント

ポイント説明選び方
形状I字型、C字型、U字型など体格や好みに合わせて選ぶ
素材綿、ビーズ、低反発ウレタンなど感触や通気性を考慮する
サイズ身長に合わせた長さ抱きしめた時に安定するもの

寝返りを妨げない工夫

一晩中同じ姿勢でいることは難しく、適度な寝返りは血行促進のためにも必要です。

横向き寝を維持しようとしすぎるあまり寝返りが打てなくなると、かえって体に負担がかかることがあります。

寝具の硬さやスペースを確保し、自然な寝返りができる環境を整えましょう。

横向き寝をサポートするグッズ

抱き枕以外にも、背中にクッションや専用のベストを装着し、仰向けになるのを防ぐグッズもあります。

ただし圧迫感を感じる場合もあるため、試用してみることが大切です。

睡眠時無呼吸症候群と枕の関係

寝姿勢と同様に、枕の選び方もSASの症状に影響を与えます。適切な枕を選ぶことで気道の確保を助け、より快適な睡眠を得ることができます。

枕の高さが重要な理由

枕の高さは寝ている間の首の角度を決定します。枕が高すぎると顎が引けて気道が圧迫され、低すぎると頭が落ち込んで首に負担がかかり、やはり気道が狭くなる可能性があります。

適切な高さの枕は首の自然なカーブを保ち、気道を確保するのに役立ちます。

高すぎる枕のリスク

枕が高すぎると顎が必要以上に引かれ、首の後ろの筋肉が緊張します。この状態になると喉の内部が圧迫され、気道が狭くなりやすくなります。

いびきや無呼吸が悪化する原因の一つにもなってしまいます。

低すぎる枕のリスク

枕が低すぎると頭が心臓よりも低い位置になり、血流が頭部に集まりやすくなることがあります。

また、首が反るような形になり、これも気道を狭める要因となり得ます。肩こりの原因にもなりやすいです。

枕の高さと気道の関係

枕の高さ首の状態気道への影響
高すぎる顎が引ける、首の後ろが緊張圧迫され狭くなる
適切自然なカーブを維持確保されやすい
低すぎる首が反る、頭が落ち込む狭くなる可能性がある

体格に合わせた枕選び

適切な枕の高さは個人の体格、特に首の長さや肩幅によって異なります。

一般的に体格が大きい方はやや高めの枕、小柄な方はやや低めの枕が合う傾向がありますが、実際に試してみることが最も重要です。

SAS対策に適した枕の選び方

SASの症状緩和を目指す場合、どのような点に注意して枕を選べば良いのでしょうか。具体的な選び方のポイントを見ていきましょう。

適切な高さの見つけ方

横向き寝の場合、枕の高さは「肩幅に合わせて、首とマットレスの間にできる隙間を埋める高さ」が目安です。

仰向け寝の場合は、「首の自然なカーブ(頸椎弧)を支え、額が顎より少し高くなる程度」が良いとされます。

実際に寝てみて呼吸が楽で、首や肩に負担を感じない高さを探しましょう。

寝姿勢別 枕の高さの目安

  • 横向き寝: 肩幅を考慮し、首と敷布団の隙間を埋める高さ
  • 仰向け寝: 頸椎のカーブを支え、額がやや高くなる高さ

素材の選び方

枕の素材は寝心地や通気性、メンテナンス性に影響します。自分の好みや季節に合わせて選びましょう。

低反発ウレタンは頭の形に合わせてフィットしやすいですが、通気性が低い場合があります。

パイプ素材は通気性が良く、高さを調整しやすいのが特徴です。

羽根やポリエステルわたは柔らかい感触ですが、へたりやすいこともあります。

代表的な枕の素材と特徴

素材特徴注意点
低反発ウレタンフィット感が高い、体圧分散性に優れる通気性が低い、温度で硬さが変わる
パイプ通気性が良い、高さ調整可能、丸洗い可音が気になる場合がある、硬めの感触
羽根・羽毛柔らかい、吸湿・放湿性が高いへたりやすい、アレルギー注意

形状の選び方

枕の形状も様々です。標準的な長方形タイプに加え、首元をしっかり支える頸椎支持型、横向き寝に適したサイドが高くなっているタイプ、肩口までサポートする大きめのタイプなどがあります。

自分の寝姿勢や好みに合わせて選んで結構ですが、SAS対策としては横向き寝をサポートする形状の枕も選択肢の一つです。

硬さの選び方

枕の硬さは頭の沈み込み具合に関係します。柔らかすぎると頭が沈み込みすぎて首の支えが不十分になり、硬すぎると頭や首に圧力が集中しやすくなります。

適度な反発力があり、頭をしっかりと支えてくれる硬さが理想的です。これも個人の好みが大きい部分なので、実際に試すことが大切です。

枕選びで失敗しないための注意点

せっかく選んだ枕が合わなかった、という経験は誰にでもあるかもしれません。失敗を防ぎ、自分に合った枕を見つけるための注意点をまとめました。

実際に試してみる

枕選びで最も重要なのは実際に試してみることです。可能であれば店舗で専門家のアドバイスを受けながら、様々な枕に実際に頭を乗せてみましょう。

その際、普段寝ているマットレスに近い硬さのベッドで試すと、より正確なフィット感を確認できます。

マットレスとの相性を考える

枕の適切な高さは使用しているマットレスの硬さによっても変わります。

柔らかいマットレスは体が沈み込むため相対的に低い枕が合いやすく、硬いマットレスは体が沈み込みにくいため、やや高めの枕が必要になることがあります。

枕単体だけでなく、マットレスとの組み合わせで寝姿勢全体を考えることが重要です。

マットレスの硬さと枕の高さの関係

マットレスの硬さ体の沈み込み推奨される枕の高さ
柔らかい大きい比較的低め
普通中程度標準的
硬い小さい比較的高め

高さ調整機能の有無

購入後に自宅で高さを微調整できる枕も多く販売されています。

中材を出し入れすることで高さを変えられるタイプは購入後の「合わない」リスクを減らすことができます。

特に通販などで試せない場合は高さ調整機能付きの枕を選ぶと安心です。

定期的な見直しとメンテナンス

枕は使用しているうちにへたってきたり、素材が劣化したりします。また、自分の体型や体重が変化することもあります。

枕が合わなくなってきたと感じたら買い替えや調整を検討しましょう。素材によっては定期的な洗浄や乾燥などのメンテナンスも必要です。

枕のメンテナンス方法例

  • パイプ素材: ネットに入れて洗濯機で丸洗い、しっかり乾燥
  • ポリエステルわた: 手洗いまたは洗濯機(洗濯表示確認)、陰干し
  • 低反発ウレタン: 洗濯不可、風通しの良い場所で陰干し

寝姿勢と枕以外のSAS対策

寝姿勢や枕の工夫はSASの症状緩和に有効ですが、根本的な治療や他の対策と組み合わせることで、より効果を高めることができます。

CPAP療法

CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)は中等症から重症のSASに対する標準的な治療法です。

寝るときに鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道が塞がるのを防ぎます。医師の診断と処方が必要です。

マウスピース(口腔内装置)

軽症から中等症のSASやCPAPが使用できない場合に用いられることがあります。

下顎を前方に少し移動させて固定することで気道を広げる装置であり、歯科で作成します。

治療法の比較

治療法対象仕組み
CPAP療法中等症~重症マスクから空気を送り気道確保
マウスピース軽症~中等症下顎を前方に移動し気道確保
外科手術特定の原因がある場合気道を狭める原因を除去

生活習慣の改善

肥満はSASの大きなリスク要因です。適正体重の維持、減量は非常に重要です。また、アルコールは筋肉を弛緩させるため、就寝前の飲酒は控えましょう。

睡眠薬の中にも筋弛緩作用を持つものがあるため、使用している場合は医師に相談が必要です。禁煙も推奨されます。

生活習慣改善のポイント

  • 減量・適正体重の維持
  • 就寝前のアルコール摂取を控える
  • 禁煙
  • 睡眠薬の使用について医師と相談

専門医への相談

いびきや日中の眠気などSASが疑われる症状がある場合は、自己判断せずに専門医(呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠専門クリニックなど)に相談することが最も重要です。

適切な検査を受けて診断に基づいた治療方針を決めることが症状改善への第一歩となります。

よくある質問

睡眠時無呼吸症候群の寝方や枕に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 横向き寝が良いのは分かりましたが、どうしても仰向けになってしまいます。どうすれば良いですか?

A. 抱き枕を使用したり背中にクッションを置いたりして、物理的に仰向けになりにくい状況を作る方法があります。また、横向き寝をサポートする形状の枕を試すのも良いでしょう。

完全に防ぐのは難しい場合もありますが、少しでも横向きで寝る時間を増やすことを意識してみてください。

Q. 枕の「適切な高さ」は具体的に何センチですか?

A. 残念ながら、「誰にでも合う〇センチ」という明確な基準はありません。適切な高さは個人の体格(特に首の長さや肩幅)、寝姿勢、使用しているマットレスの硬さによって大きく異なります。

店舗で試したり、高さ調整機能付きの枕を選んだりしてご自身にとって呼吸が楽で首や肩に負担のない高さを探すことが大切です。

高さ選びの参考情報

要素考慮点調整方法
体格肩幅、首のカーブタオル等で微調整、高さ調整機能
マットレス沈み込み具合枕と合わせて試す
寝姿勢横向きか仰向けか姿勢に合った形状・高さを選ぶ

Q. SAS専用の枕を使った方が良いのでしょうか?

A. 「SAS専用」として販売されている枕もありますが、必ずしもそれが全ての人に合うとは限りません。

横向き寝をしやすい形状や気道を確保しやすい構造になっているものが多いですが、最も重要なのはご自身の体格や寝姿勢に合っているかどうかです。

「専用」という言葉にとらわれず、前述した枕選びのポイント(高さ、素材、形状、硬さ)を参考に、ご自身にフィットするものを選びましょう。

Q. 枕を変えたらすぐに効果が出ますか?

A. 枕を変えることでいびきが軽減されたり、寝起きの首や肩の痛みが和らいだりといった効果をすぐに感じる方もいます。

しかし、SASの症状は枕だけで完全に解決するものではありません。効果の感じ方には個人差がありますし、慣れるまでに少し時間がかかる場合もあります。

枕の変更はあくまで対策の一つと考え、必要であればCPAP療法などの治療や生活習慣の改善も併せて行いましょう。

以上

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