「いびきや無呼吸を改善するために寝方を変えるだけで効果があるの?」と疑問に思っていませんか。

実は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の多くのケースで、「横向き寝」は症状を軽減する有効な対策の一つです。仰向けで寝ることで悪化するいびきや無呼吸を、寝る姿勢を変えるだけで改善できる可能性があります。

この記事ではなぜ横向き寝が効果的なのか、その仕組みと正しい寝方のコツ、そして横向き寝をサポートする寝具の選び方まで詳しく解説します。

なぜ横向き寝がいびき・無呼吸に効果的なのか

睡眠中の姿勢は空気の通り道である「上気道」の状態に大きく影響します。特に仰向け寝と横向き寝では、気道の広さに大きな違いが生まれます。

仰向け寝のリスクと舌の落ち込み

仰向けで寝ると重力の影響で舌の付け根(舌根)や喉の奥の軟口蓋が喉の奥側へ落ち込みやすくなります。これを「舌根沈下」と呼びます。

この舌根沈下によって上気道が狭められたり完全に塞がれたりすることが、いびきや無呼吸の主な原因です。

横向き寝が気道を確保する仕組み

一方、横向きで寝ると舌が横方向に落ちるため、喉の奥への落ち込みを防ぐことができます。このことにより上気道のスペースが物理的に確保され、空気がスムーズに通りやすくなります。

単純なことですが、この姿勢の変化が、いびきや無呼吸の回数を劇的に減らすことがあるのです。

寝姿勢と気道の状態

寝姿勢舌の動き気道の状態
仰向け寝重力で喉の奥に落ち込む狭くなりやすい、閉塞しやすい
横向き寝重力で横にずれるスペースが確保されやすい

いびきの音を軽減する効果

いびきは狭くなった気道を空気が通る際に喉の粘膜が振動して発生する音です。

横向き寝によって気道が広がれば空気の抵抗が減り、振動が起こりにくくなるため、いびきの音そのものを小さくする効果も期待できます。

横向き寝が特に有効な人の特徴

横向き寝は多くの人に有効ですが、特に効果が出やすいタイプがあります。ご自身の状態が当てはまるか確認してみましょう。

軽症から中等症のSAS患者

軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群(AHIが30未満)の方では横向き寝にするだけでAHIの数値が大幅に改善することが多くの研究で報告されています。

治療の第一歩として、まず試してみる価値のある対策です。

仰向け時のみ無呼吸が悪化するタイプ

精密検査(PSG)を受けると無呼吸や低呼吸が主に仰向けで寝ている時に集中して発生していることが分かる場合があります。

このような「体位依存性」のSASと診断された方にとって、横向き寝は極めて効果的な対策となります。

体位依存性SASの判断目安

項目基準
仰向け時のAHI横向き時のAHIの2倍以上

肥満傾向にある方や顎が小さい方

肥満によって首周りに脂肪がついている方や、もともと顎が小さいなど骨格的に気道が狭い方は、仰向け寝による舌の落ち込みの影響をより強く受けます。

そのため横向き寝による気道確保の効果を実感しやすい傾向にあります。

正しい横向き寝のやり方とコツ

ただ横を向いて寝るだけでは体に負担がかかったり、寝心地が悪くなったりすることがあります。

リラックスして質の高い睡眠を得るための正しい横向き寝のポイントを紹介します。

頭から背骨が一直線になる姿勢

横向きになった時、首の骨(頸椎)から背骨がまっすぐ一直線になるのが理想的な姿勢です。

頭が上がりすぎたり下がりすぎたりしないよう、枕の高さで調整することが重要です。この姿勢は気道を最も広く保ち、首や肩への負担も軽減します。

膝と腕を軽く曲げて体を安定させる

両膝を軽く曲げ、上の腕は体の前で楽な位置に置くと姿勢が安定しやすくなります。下の腕は枕の下や前に伸ばすなど、ご自身が楽だと感じる位置で構いません。

体を少し丸めるような姿勢を意識すると、リラックスしやすくなります。

正しい横向き寝のポイント

部位意識すること目的
頭・首首の骨と背骨を一直線にする気道の確保、首への負担軽減
腕・脚軽く曲げてリラックス体の安定、寝心地の向上

左右どちらを向いて寝るべきか

基本的にはご自身が寝やすい向きで構いません。ただし、胃食道逆流症の症状がある方は胃の形から、体の右側を下にすると胃酸が逆流しやすくなるため、左側を下にして寝る方が良いとされています。

ご自身の体調に合わせて向きを選びましょう。

横向き寝をサポートする寝具の選び方

快適な横向き寝を維持するためには寝具、特に枕とマットレスの選び方が非常に重要です。

自分に合った枕の高さと硬さ

横向き寝用の枕を選ぶ際は、「高さ」が最も重要です。

肩幅があるため、仰向け寝用の枕よりも高さが必要になります。横になった時に頭から背骨が一直線になる高さを選びましょう。

素材は頭が沈み込みすぎず、しっかりと支えてくれる程度の硬さがあるものが適しています。

  • 適度な高さがあること
  • 頭をしっかり支える硬さがあること
  • 寝返りが打ちやすい幅があること

横向き寝専用枕の活用

市販されている「横向き寝専用枕」は中央が低く両サイドが高くなっているなど、横向き寝の姿勢を安定させやすいように設計されています。

肩や首にフィットする形状のものや、抱き枕と一体になったタイプなど様々な種類があるため、試してみる価値はあります。

枕のタイプ別特徴

枕のタイプ特徴
標準的な枕タオルなどで高さ調整が必要な場合がある
横向き寝専用枕肩や首にフィットし、姿勢が安定しやすい
抱き枕体全体を支え、横向き姿勢を維持しやすい

体圧を分散させるマットレスの重要性

横向きで寝ると体の側面にある肩や腰に体重が集中し、痛みや血行不良の原因となることがあります。

体圧を適切に分散し、体が沈み込みすぎない程度の硬さがあるマットレスを選ぶことが、快適な横向き寝には大切です。

横向き寝を習慣化するための工夫

寝ている間に無意識に仰向けに戻ってしまうという方も多いでしょう。横向き寝を維持するための簡単な工夫を紹介します。

抱き枕を効果的に使う

抱き枕は横向き寝をサポートする最も有効なアイテムの一つです。抱きかかえることで体が安定し、安心感が得られます。

また、体の前に抱き枕があることで、無意識に仰向けに戻るのを防ぐ物理的な障害物にもなります。

背中にクッションや枕を置く

寝る際に背中側にクッションや丸めたタオルケットなどを置いてみましょう。

寝返りを打って仰向けになろうとした時に、背中の障害物がそれを防いでくれます。これは手軽に始められる効果的な方法です。

横向き寝を維持する工夫

方法効果
抱き枕姿勢の安定、安心感、仰向け防止
背中のクッション仰向けに戻るのを物理的に防ぐ
横向き寝支援グッズ振動などで仰向けを知らせる

市販の横向き寝支援グッズ

最近では仰向けになると軽い振動で知らせてくれるウェアラブルデバイスなど、横向き寝を促すための様々なグッズも販売されています。

どうしても仰向けに戻ってしまうという方は、このようなグッズの利用を検討してみるのも良いでしょう。

横向き寝の限界と専門的な治療

横向き寝は有効な対策ですが、それだけでは十分ではないケースも多く、根本的な解決には専門的な治療が必要です。

横向き寝だけでは改善しないSAS

重症のSAS(AHIが30以上)の場合や肥満度が極めて高い場合、骨格の問題が著しい場合などでは、横向き寝にしても無呼吸が十分に改善しないことがあります。

また、中枢性のSASには横向き寝の効果は期待できません。

自己判断は危険!まずは検査で現状把握を

いびきや無呼吸の症状がある場合、まずは専門の医療機関で検査を受け、ご自身のSASの重症度やタイプを正確に把握することが最も重要です。

「横向きで寝ているから大丈夫」と自己判断で放置すると、深刻な合併症につながる危険性があります。

CPAP療法などの専門的治療との併用

CPAP療法やマウスピース治療を受けている方も横向きで寝ることで、より治療効果が高まることがあります。

特にCPAP療法では必要な圧力を低く設定できる可能性があり、より快適な治療につながります。治療とセルフケアを組み合わせることが最善の結果を生みます。

よくある質問

最後に、横向き寝に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
横向きで寝ると肩や腰が痛くなるのですが
A

マットレスが硬すぎるか、柔らかすぎて体が沈み込んでいる可能性があります。体圧分散性に優れたマットレスに見直すことを検討しましょう。

また、膝の間にクッションを挟むと骨盤が安定し腰への負担が軽減されることがあります。

Q
寝ている間にどうしても仰向けになってしまいます
A

この記事で紹介した抱き枕や背中のクッションなどを試してみてください。

最初は違和感があるかもしれませんが、継続することで体が慣れていきます。根気強く続けてみることが大切です。

Q
CPAP治療中でも横向き寝は効果がありますか?
A

はい、効果が期待できます。

横向きになることで気道が広がりやすくなるため、CPAP装置が送り込む空気の圧力を低めに設定できる可能性があります。

圧力が低い方が治療の違和感が少なくなり、より快適に継続しやすくなります。ただし圧の変更は必ず医師と相談の上で行ってください。

以上

参考にした論文

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