大きないびきや日中の眠気、それはもしかしたら睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインかもしれません。そして、SASと深く関わっているのが「肥満」です。
体重が増えるとなぜSASになりやすいのか、そして「痩せたらSASは治るの?」と疑問に思っている方もいるでしょう。
この記事では睡眠時無呼吸症候群と肥満の密接な関係、体重減少が症状に与える影響、そして具体的な体重管理の方法について詳しく解説します。
SASの改善を目指す上で体重管理がなぜ重要なのかを理解し、健康的な生活を送るための参考にしてください。
睡眠時無呼吸症候群と肥満のつながり
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は睡眠中に繰り返し呼吸が止まる、または浅くなる病気です。この病気の最大の原因の一つに「肥満」があります。
肥満は首周りや気道周辺に脂肪が蓄積することで、空気の通り道を狭くしてしまいます。
なぜ肥満がSASを引き起こすのか
体重が増えると首の周りや舌の付け根、喉の奥に脂肪が沈着します。特に仰向けで寝ると、これらの余分な脂肪が重力で気道に落ち込み、空気の通り道を物理的に狭くしたり完全に塞いだりします。
空気の通り道が狭くなったりふさがれてしまうと睡眠中に無呼吸や低呼吸が頻繁に発生し、SASを発症したり悪化させたりします。
肥満による気道への影響
部位 | 影響 | 結果 |
---|---|---|
首周り | 脂肪沈着 | 気道外からの圧迫 |
舌の付け根 | 脂肪沈着 | 気道内への落ち込み |
喉の奥 | 脂肪沈着 | 空気の通り道が狭くなる |
肥満以外のリスク要因
SASのリスクを高めるのは肥満だけではありません。他にもいくつかの要因が関与します。
- 首が短い・太い
- 顎が小さい・後退している
- 扁桃腺が大きい
- 鼻の病気(鼻炎、鼻中隔湾曲症など)
- 加齢
- 喫煙
- 過度の飲酒
これらの要因が単独または複数組み合わさることで気道が狭くなりSASを発症しやすくなります。
しかしその中でも肥満は最も一般的な、そして改善によって大きな効果が期待できるリスク要因です。
肥満が睡眠時無呼吸症候群に与える影響
肥満は単に気道を狭くするだけでなく全身の健康にも様々な悪影響を与え、SASの症状を悪化させたり、合併症のリスクを高めたりします。
気道への物理的な影響
前述の通り、肥満による脂肪の沈着は気道を物理的に狭くします。特に睡眠中は喉の周りの筋肉が緩むため、狭くなった気道がさらに閉塞しやすくなります。
それが原因でいびきが大きくなったり、無呼吸や低呼吸の頻度が増加したりします。
肥満による気道閉塞のメカニズム
状態 | 影響 | 結果 |
---|---|---|
体重増加 | 首周り、喉への脂肪沈着 | 気道が狭くなる |
睡眠中 | 喉の筋肉が緩む | 気道がさらに狭くなる/閉塞 |
呼吸停止/低下 | 体内の酸素不足 | 脳が覚醒、睡眠分断 |
全身への影響
肥満は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こしたり悪化させたりします。これらの病気はSASと相互に悪影響を与え合います。
例えば、SASによる低酸素状態や睡眠分断は血糖値や血圧のコントロールを難しくします。
また、肥満自体が全身の慢性的な炎症を引き起こすことが知られており、これが気道のむくみを招き、さらに気道を狭くするという悪循環を生むこともあります。
体重減少が睡眠時無呼吸症候群に効果的な理由
肥満がSASの大きな原因であるため、体重を減らすことはSASの症状を改善させる上で非常に有効な手段です。
「痩せたら治る」という期待は科学的な根拠に基づいています。
気道の閉塞改善
体重が減少すると、首周りや喉の奥に蓄積された脂肪が減ります。これにより睡眠中に気道が物理的に圧迫されたり、舌の付け根が落ち込んだりすることが軽減されます。
結果として空気の通り道が広がり、無呼吸や低呼吸の回数が減少します。
炎症の軽減
肥満に伴う全身の慢性炎症が軽減されることも体重減少の重要な効果です。炎症が治まることで気道のむくみが改善し、空気の流れがスムーズになります。
これは特に炎症が気道狭窄に関与している場合に効果を発揮します。
体重減少によるSAS改善のメカニズム
変化 | 影響 | 結果 |
---|---|---|
体重減少 | 首周り、喉の脂肪減少 | 気道が広がる |
体重減少 | 全身の炎症軽減 | 気道のむくみ改善 |
気道確保 | 無呼吸・低呼吸の減少 | SAS症状の改善 |
体重減少による睡眠時無呼吸症候群の改善度
体重減少はSASの症状改善に有効ですが、どの程度改善するかは個人差があります。
また、どのくらいの体重を減らせば効果が出るのかも気になるところでしょう。
どのくらいの減量で効果があるか
一般的に現在の体重から5%~10%程度の体重減少でもSASの症状に改善が見られることが多いと言われています。例えば体重が80kgの人であれば、4kg~8kgの減量で効果が期待できます。
しかし、これはあくまで目安であり、個々の体質やSASの重症度によって異なります。
減量効果の個人差
体重減少によるSASの改善度は患者さんによって大きく異なります。
- 減量目標と達成度
- SASの重症度
- 肥満以外のリスク要因の有無
- 減量の方法(食事、運動など)
これらの要因が複雑に関係するため、一概に「〇kg痩せれば必ず治る」とは言えません。しかし多くの研究で体重減少がSASの症状を軽減することが示されています。
減量効果に影響する要因
要因 | 影響 | 備考 |
---|---|---|
減量幅 | 大きいほど効果的 | 5-10%でも効果あり |
元の体重 | 重いほど効果が出やすい傾向 | 個人差あり |
併存疾患 | 影響を受ける可能性 | 医師に相談 |
体重管理のための具体的な方法
SASの改善を目指す上で体重管理は重要ですが、無理なダイエットは健康を損なう可能性があります。健康的かつ継続可能な方法で体重を管理することが大切です。
食事療法のポイント
バランスの取れた食事は体重管理の基本です。
- 摂取カロリーの管理
- 栄養バランスの考慮(タンパク質、野菜、炭水化物など)
- 規則正しい食事時間
- 寝る前の食事を避ける
- アルコール摂取量の制限
極端な食事制限ではなく、長期的に続けられる食習慣の改善を目指しましょう。
運動療法の重要性
運動はカロリー消費を増やし、筋肉量を維持・増加させることで基礎代謝を上げます。
運動療法の効果
効果 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
カロリー消費 | 体重減少を促進 | 継続が大切 |
筋力アップ | 基礎代謝向上 | リバウンド予防 |
健康増進 | 生活習慣病予防 | 全身の健康 |
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせるとより効果的です。
無理のない範囲で毎日続けられる運動を見つけましょう。
専門家のサポート
ご自身だけで体重管理を行うのが難しい場合は医師や管理栄養士などの専門家に相談することをおすすめします。個々の健康状態や生活習慣に合わせた具体的なアドバイスや指導を受けられます。
当クリニックでもSAS治療の一環として体重管理に関するサポートを行っています。
体重減少以外の治療法との組み合わせ
体重減少はSASの改善に有効ですが、それだけで症状が十分に改善しない場合や重症の場合には他の治療法と組み合わせることが必要です。
CPAP療法との併用
CPAP(シーパップ)療法はSASに対する最も一般的な治療法の一つです。マスクを装着して寝ることで、一定の圧力を気道に送り込み、睡眠中の気道の閉塞を防ぎます。
体重減少とCPAP療法を併用することで、より高い治療効果が期待できます。減量によってCPAPの圧力を下げられる場合もあります。
マウスピースとの併用
マウスピース(口腔内装置)は下顎を前方に突き出すように固定することで気道を広げ、いびきや無呼吸を軽減する治療法です。軽症から中等症のSASに有効な場合があります。
体重減少とマウスピース治療を組み合わせることで、相乗効果が得られることもあります。
SAS治療法の組み合わせ
治療法 | 特徴 | 体重減少との関係 |
---|---|---|
体重減少 | 根本的な改善 | 他の治療効果を高める |
CPAP療法 | 気道閉塞の防止 | 減量で圧力を下げられる可能性 |
マウスピース | 下顎を前進 | 減量で効果を高められる可能性 |
よくある質問
痩せれば必ず治りますか?
体重減少は睡眠時無呼吸症候群の症状を大きく改善させる可能性が高いですが、必ずしも完全に治るとは限りません。SASの原因には肥満以外にも様々な要因があります。
体重減少によって症状が軽くなることで他の治療法(CPAPなど)の効果が高まったり、治療が不要になったりする場合もあります。
まずは医師に相談し、適切な診断と治療計画を立てることが大切です。
標準体重でもSASになりますか?
はい、標準体重の方でも睡眠時無呼吸症候群になる可能性はあります。肥満以外にも顎の形状、扁桃腺の大きさ、鼻の病気など、気道を狭くする要因は複数存在します。
標準体重だからといって安心せず、いびきや日中の眠気などの症状がある場合は一度専門医に相談することをおすすめします。
リバウンドした場合どうなりますか?
体重減少によって睡眠時無呼吸症候群の症状が改善した場合でも、リバウンドして体重が増加すると再び症状が悪化する可能性が高いです。
体重管理はSAS治療において継続が重要です。減量に成功した後も健康的な食生活と適度な運動を続け、体重を維持するよう心がけましょう。
リバウンドしてしまった場合は早めに医師に相談してください。
以上
参考にした論文
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