睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断され、マウスピースを用いた治療法に関心をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
特に「費用はどのくらいかかるのか」「保険は使えるのか」といった点は治療を始める上で重要な情報です。
この記事では睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療(スリープスプリント)について費用の一般的な相場、保険が適用されるための具体的な条件、治療の進め方などを分かりやすく解説します。
マウスピース治療はいびきや日中の眠気といった症状の緩和が期待できる治療選択肢の一つです。この記事が皆様の治療法選択の一助となれば幸いです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基礎知識
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS)は睡眠中に呼吸が一時的に停止したり、浅くなったりする状態を繰り返す病気です。この状態が続くと身体に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
まずは、この病気に関する基本的な情報を理解することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす主な症状
睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状として、大きないびきや睡眠中の呼吸停止が挙げられます。
しかしそれ以外にも日中の活動に影響を及ぼす多様なサインが現れることがあります。ご自身やご家族に該当する症状がないか確認してみましょう。
睡眠中に現れる主な兆候
症状のタイミング | 具体的な症状例 | 補足情報 |
---|---|---|
睡眠中 | 激しいいびき、呼吸の停止、息苦しさ | ご家族など、周囲の方から指摘されて気づくことが多いです。 |
起床時 | 頭痛、口の渇き、熟睡感の欠如 | 質の高い睡眠が得られていない可能性があります。 |
日中 | 強い眠気、集中困難、倦怠感 | 学業や仕事、車の運転などに影響が出ることもあります。 |
その他にも夜間に何度もトイレに起きる、寝汗をかくといった症状が見られることもあります。
睡眠時無呼吸症候群の主な原因
睡眠時無呼吸症候群は主に空気の通り道である上気道が狭窄することによって発生します。その原因は一つに限らず、複数の要因が複合的に関与している場合も少なくありません。
上気道の狭窄を引き起こす要因
- 肥満(首周りの脂肪沈着)
- 扁桃やアデノイドの肥大
- 舌が大きい(巨舌症)
- 顎が小さい、または後退している
- 加齢に伴う筋力の低下
特に肥満は睡眠時無呼吸症候群の主要な原因の一つと考えられています。
また、日本人は欧米人と比較して顎が小さい傾向にあるため、肥満体型でなくても発症しやすいと言われています。
睡眠時無呼吸症候群を放置した場合のリスク
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると身体に様々な負担が蓄積し、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
質の低い睡眠は日中の活動パフォーマンスだけでなく、長期的な健康状態にも影響を及ぼします。
放置による健康上の問題例
関連する疾患群 | 具体的なリスク | 簡単な説明 |
---|---|---|
生活習慣病 | 高血圧、糖尿病、脂質異常症 | 間欠的な低酸素状態が自律神経やホルモンバランスを乱します。 |
循環器系疾患 | 心筋梗塞、脳卒中、不整脈 | 心臓や血管に大きな負荷がかかります。 |
精神・神経系 | うつ傾向、集中力・記憶力の低下 | 慢性的な睡眠不足や低酸素状態が影響すると考えられます。 |
日中の強い眠気は交通事故や労働災害の原因となることもあり、社会生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群の診断プロセス
睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合、医療機関で検査を受けて正確な診断を得ることが重要です。診断は主に睡眠中の呼吸状態を詳細に調べる検査によって行います。
多くの場合、まずご自宅で実施可能な簡易検査(アプノモニターなど)でスクリーニングを行います。この検査では指や鼻にセンサーを装着し、睡眠中の呼吸パターンや血中酸素飽和度などを記録します。
簡易検査の結果、より詳細な検査が必要と判断された場合や初めから精密な評価が求められる場合には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を実施します。
PSG検査は通常、医療機関に1泊入院して行い、脳波、心電図、筋電図、眼球運動、呼吸状態、血中酸素飽和度など、より多くの生体情報を詳細に記録・分析します。
これらの検査結果を総合的に評価し、医師が睡眠時無呼吸症候群の診断と重症度の判定を行います。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療(スリープスプリント)の概要
睡眠時無呼吸症候群の治療法の一つとして、マウスピース(スリープスプリントとも呼ばれます)を用いる方法があります。
これは就寝時に特殊な形状のマウスピースを装着することで気道の閉塞を予防し、呼吸を円滑にする治療法です。
特に軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方に有効性が期待されます。
マウスピース治療の作用機序
マウスピース治療では歯科で個々の患者さんの歯型に合わせて作製した装置を夜間睡眠中に装着します。
このマウスピースは下顎をわずかに前方に移動させた状態で固定するように設計されています。
下顎が前方に移動することにより舌の付け根(舌根部)や軟口蓋が持ち上がり、咽頭部の気道が物理的に拡張されます。
この作用によって睡眠中の気道の狭窄や閉塞が軽減され、いびきや無呼吸の発生を抑制する効果が期待できます。
マウスピースの主な種類とそれぞれの特徴
睡眠時無呼吸症候群の治療に用いるマウスピースにはいくつかの種類が存在します。主に上下の歯列を一体で覆うものと、上下が分離しているものに大別されます。
材質も硬質のレジン(歯科用プラスチック)で作製されるものや、ある程度の弾性を持つ材料で作製されるものなど様々です。
代表的なマウスピースのタイプ
種類 | 特徴 | 調整の柔軟性 |
---|---|---|
一体型マウスピース | 上下の歯列弓が一体化している。構造が比較的単純。 | 下顎の前方移動量の微調整が難しい場合がある。 |
分離型マウスピース | 上下のパーツが独立しており、連結装置で下顎の前方移動量を調整可能。 | 細やかな調整が可能で、治療効果の最適化を図りやすい。 |
どちらのタイプが適しているかは患者さんの口腔内の状態、症状の程度、顎関節の状態などを総合的に考慮して歯科医師が判断します。
一般的には調整が比較的容易な分離型が多く用いられる傾向にあります。
他の主要な治療法との比較(CPAP療法、外科的治療)
睡眠時無呼吸症候群の治療法にはマウスピース治療の他にCPAP(シーパップ)療法や外科的治療があります。
それぞれの治療法には特有の性質があり、患者さんの状態や希望に応じて適切な方法を選択します。
CPAP療法との相違点
CPAP療法は鼻に装着したマスクから持続的に陽圧の空気を送り込み、気道が塞がるのを防ぐ治療法です。主に中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群に対する標準的な治療法として認識されています。
マウスピース治療と比較して、より確実に気道を開存させる効果が見込めます。
一方で装置が比較的大きく持ち運びが不便であること、毎晩装着する必要があること、顔にマスクを装着することへの抵抗感などがデメリットとして挙げられることがあります。
外科的治療との相違点
外科的治療は扁桃肥大やアデノイドなどが原因で気道が物理的に狭窄している場合など解剖学的な問題を改善し気道を拡大することを目的として行います。
原因が明確で手術によって改善が見込める場合に選択肢となります。
しかし手術には入院が必要となる場合があり、術後の疼痛や合併症のリスクも伴います。全ての方に適応となるわけではありません。
主な治療法の比較概要
治療法 | 主な対象 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
マウスピース治療 | 軽症~中等症SAS、いびき | 携帯性良好、電源不要、比較的安価(保険適用時) | 顎関節への負担、効果の個人差、定期調整が必要 |
CPAP療法 | 中等症~重症SAS | 高い治療効果、重症例にも対応 | 装置の大きさ、毎晩装着、マスクの違和感、旅行時の不便さ |
外科的治療 | 解剖学的異常が明らかな場合 | 根本的改善の可能性 | 侵襲性、入院の必要性、効果不確実な場合も |
マウスピース治療の効果が現れるまでの期間
マウスピース治療を開始してから効果を実感するまでの期間には個人差があります。多くの場合、装着を開始した当日から数日以内にいびきの軽減や呼吸のしやすさを感じる方が多いようです。
ただしマウスピース自体に慣れるまでに数週間を要することもありますし、最適な下顎の突出量を見つけるために数回の調整が必要となることもあります。
日中の眠気や倦怠感といった症状の改善には、もう少し時間がかかる場合もあります。
治療効果を正確に評価するためには定期的な診察と、必要に応じて再度の睡眠検査を受けることが重要です。
マウスピース治療の適応と非適応
マウスピース治療は睡眠時無呼吸症候群の有効な治療法の一つですが、全ての方に適しているわけではありません。
ご自身の状態がマウスピース治療に適しているかどうか、事前に専門医と十分に相談することが大切です。
マウスピース治療が推奨される症状の目安
一般的に以下のような場合にマウスピース治療が検討されます。
マウスピース治療の主な適応ケース
- 軽症から中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHIが概ね5以上30未満)と診断された方
- いびきに悩んでいる方(SASの診断がなくても、いびき軽減目的で使用することがあります)
- CPAP療法の圧に耐えられない、マスクが適合しない、旅行や出張が多くCPAP装置の携帯が困難など、CPAP療法の継続が難しい方
- 外科的治療を希望しない方
重症の睡眠時無呼吸症候群(AHIが30以上)の方でもCPAP療法がどうしても受け入れられない場合には、代替案としてマウスピース治療が選択されることもあります。
マウスピース治療が困難なケース
一方で以下のような場合にはマウスピース治療が難しい、あるいは慎重な判断が必要となることがあります。
マウスピース治療の適用に注意が必要な状態
状態 | 理由 |
---|---|
重度の鼻閉(鼻づまり)を有する方 | 口呼吸が主体となり、マウスピースの効果が得られにくいことがあります。 |
重度の歯周病、多数の未治療う蝕がある方 | マウスピース装着により歯や歯周組織に負担がかかるため、症状を悪化させる可能性があります。 |
顎関節症の症状が顕著な方 | マウスピース装着により顎関節への負担が増し、症状が悪化する可能性があります。 |
残存歯が極端に少ない方、総義歯の方 | マウスピースを安定して固定することが困難なためです。 |
嘔吐反射が非常に強い方 | マウスピースを口腔内に装着すること自体が困難な場合があります。 |
これらのケースに該当する場合でも他の治療法との兼ね合いや、原因となっている問題を先に治療することでマウスピース治療が可能になることもあります。
まずは専門医にご相談ください。
専門医への相談の重要性
ご自身がマウスピース治療に適しているかどうかは自己判断せずに必ず専門の医師(主に睡眠外来、呼吸器内科、耳鼻咽喉科など)や歯科医師に相談しましょう。
睡眠検査の結果や口腔内の状態、全身状態などを総合的に評価し、最適な治療法を提案してくれます。
疑問や不安な点があれば遠慮なく質問し、納得のいく説明を受けることが治療を進める上で大切です。
睡眠時無呼吸症候群の簡易セルフチェック
ご自身やご家族に以下の様な兆候がないか簡単なチェックをしてみましょう。複数当てはまる場合は専門医への相談を推奨します。
睡眠時無呼吸症候群の主な兆候
- 大きないびき、睡眠中の呼吸停止の指摘
- 日中の頻繁な強い眠気(会議中、運転中など)
- 起床時の頭痛、爽快感の欠如
- 夜間の頻尿
- 集中力や記憶力の低下感
マウスピース治療の利点と注意点
マウスピース治療を検討する際には、その利点と注意すべき点をよく理解しておくことが大切です。
他の治療法と比較しながら、ご自身にとって何が最も重要かを考えてみましょう。
マウスピース治療の主な利点
マウスピース治療にはCPAP療法など他の治療法にはないいくつかの利点があります。
マウスピース治療のメリット
利点 | 詳細 |
---|---|
携帯が容易 | 小型軽量なため旅行や出張にも気軽に持参できます |
装着が比較的簡便 | 義歯のような感覚でご自身で容易に着脱可能です |
電源不要 | CPAP療法と異なり電源を必要としないため、使用場所を選びません |
騒音なし | CPAP装置のような作動音がないため、ご自身も周囲も静かに就寝できます |
比較的安価(保険適用時) | CPAP療法を長期間継続する場合と比較して総費用を抑えられることがあります |
マウスピース治療の主な注意点
一方でマウスピース治療には以下のような注意点や潜在的なデメリットも存在します。
マウスピース治療のデメリットと留意事項
注意点 | 詳細 |
---|---|
顎や歯の痛み・違和感 | 装着開始時や調整後に顎関節や歯、歯肉に痛みや圧迫感を感じることがあります。多くは一時的ですが、持続する場合は調整が必要です。 |
唾液量の変化 | 異物を口腔内に挿入するため、唾液の分泌量が増加または減少することがあります |
定期的な調整と清掃が必須 | 効果を持続させ、口腔内の問題を防ぐために、歯科での定期的な調整やマウスピースの清掃が重要です |
効果の個人差 | 全ての人に同等の効果があるわけではなく、特に重症例では効果が限定的なことがあります |
歯列や咬合への影響の可能性 | 長期間の使用により稀に歯並びや噛み合わせに変化が生じることがあります。定期的なチェックで早期発見・対処します。 |
注意点への対応策
マウスピース治療の注意点の多くは適切な調整や対処によって軽減できる可能性があります。
例えば顎や歯の痛みについてはマウスピースの形状を調整したり、下顎の前方移動量を段階的に増やしたりすることで対応します。唾液の問題も慣れと共に改善することが多いです。
定期的な歯科受診はこれらの問題に早期に対応し、快適な治療を継続するために非常に重要です。
マウスピース治療の費用相場
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療を検討する上で費用は重要な関心事の一つです。ここでは保険が適用される場合と、自費診療となる場合の費用の目安について解説します。
「無呼吸症候群 マウスピース 値段」や「睡眠時無呼吸症候群 マウスピース 費用」といったキーワードで情報を探している方も参考にしてください。
保険適用の場合の費用
一定の条件を満たせば睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療は健康保険の適用対象となります。
保険適用の場合、医療費の自己負担は原則として3割(年齢や所得に応じて1割または2割)です。
保険適用時の費用目安(3割負担のケース)
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
初診・検査費用(医科) | 約5,000円~20,000円 | 睡眠検査の種類(簡易検査か精密検査か)により変動します。 |
マウスピース製作費用(歯科) | 約15,000円~30,000円 | マウスピース本体、型取り、調整料等を含みます。 |
調整・メンテナンス費用(歯科) | 1回あたり数百円~数千円 | 治療効果の確認、マウスピース調整、口腔内チェック等。 |
上記の費用はあくまで一般的な目安であり、医療機関や検査内容、マウスピースの種類によって異なります。精密検査(PSG)を受ける場合は検査費用が比較的高くなる傾向があります。
初診時に総額でどの程度の費用が見込まれるのか、内訳などを確認しておくと安心です。
保険適用外(自費診療)の場合の費用
保険適用の条件を満たさない場合や、いびきの改善のみを目的とする場合などは、自費診療(自由診療)となります。
自費診療の場合、費用は全額自己負担となり、医療機関が独自に価格を設定するため、費用に幅が生じます。
自費診療の場合の費用目安
項目 | 費用の目安 | 備考 |
---|---|---|
マウスピース製作費用 | 約50,000円~150,000円程度 | 使用するマウスピースの種類や材質、製作する歯科医院により大きく異なります。 |
調整・メンテナンス費用 | 1回あたり数千円~10,000円程度 | 保険診療の場合と同様に、定期的な調整が必要です。 |
自費診療の場合は初診料や検査費用も別途発生することがあります。
治療を開始する前に総額や支払い方法について十分な説明を受け、納得した上で治療に進むことが大切です。
医療費控除の適用について
医師の診断に基づき、治療目的で行われる睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療にかかる費用は保険診療・自費診療を問わず、医療費控除の対象となる場合があります。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に所得税の一部が還付される制度です。
対象となるかどうか、また手続き方法については、お住まいの地域を管轄する税務署や税理士にご確認ください。領収書は必ず保管しておきましょう。
支払い方法の選択肢
マウスピース治療の費用は比較的高額になることもあります。
医療機関によっては現金払い以外にクレジットカード払いやデンタルローンに対応しているところもあります。支払い方法についても事前に確認しておくと良いでしょう。
マウスピース治療で保険適用を受けるための条件
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療を保険適用で受けるためには、いくつかの条件をクリアする必要があります。
「睡眠時無呼吸症候群 マウスピース 保険 適応」の条件について詳しく知りたい方は、こちらをご確認ください。
保険適用の基準となるAHI(無呼吸低呼吸指数)
保険適用の可否を判断する上で最も重要な指標となるのが、AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)です。
AHIとは、睡眠1時間あたりの無呼吸(10秒以上の呼吸停止)と低呼吸(呼吸量が通常の半分以下になる状態)の合計回数を示します。
AHI(無呼吸低呼吸指数)と重症度の分類目安
AHI(回/時間) | 重症度 | 一般的な治療選択 |
---|---|---|
5未満 | 正常範囲 | 原則として積極的治療の対象外(いびきが強い場合は相談) |
5以上15未満 | 軽症 | 生活習慣の改善、マウスピース治療など |
15以上30未満 | 中等症 | マウスピース治療、CPAP療法など |
30以上 | 重症 | CPAP療法が第一選択(状況によりマウスピースも検討) |
マウスピース治療が保険適用となるのは、原則として睡眠検査の結果、AHIが5以上と診断された閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんです。
ただし、この基準の運用は医療機関や医師の判断によって若干異なる場合もあります。
必要な検査と医師による診断
保険適用でマウスピース治療を受けるためには、専門医による正確な診断が不可欠です。
まず、睡眠時無呼吸症候群の確定診断のために医療機関で終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)または簡易検査(アプノモニターなど)を受ける必要があります。
特に終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、より詳細で正確な診断と重症度判定に寄与します。
これらの検査結果に基づき、医師が「睡眠時無呼吸症候群」と診断し、マウスピース治療が適応であると判断した場合に、歯科医院宛ての紹介状(診療情報提供書)が発行されます。
この紹介状を持参してマウスピース製作に対応している歯科医院を受診することで、保険診療でのマウスピース作製に進むことができます。
保険適用されるマウスピースの種類について
保険適用されるマウスピースは厚生労働省によって薬事承認された特定の装置に限られます。
歯科医師は患者さんの口腔内の状態や症状に合わせて、保険適用が可能なマウスピースの中から適切なものを選択します。
どのような種類のマウスピースが保険適用となるかについては、治療を受ける医療機関で確認してください。
保険適用で治療を受ける際の留意点
保険適用でマウスピース治療を受ける場合でも、いくつかの留意点があります。
まず、マウスピースを作製した後も定期的な歯科受診による調整やメンテナンスが重要です。このことにより、治療効果の維持や副作用の早期発見・対処につながります。
また、睡眠時無呼吸症候群の管理のため、マウスピース治療を開始した後も必要に応じて睡眠検査を再度実施し、治療効果を客観的に確認することが推奨されます。
医科と歯科が連携し、継続的なフォローアップを受けることが大切です。
マウスピース治療開始からアフターケアまでの流れ
実際にマウスピース治療を受ける場合、どのような手順で進んでいくのでしょうか。
ここでは初診からマウスピースの作製、そして治療開始後のアフターケアまでの一般的な流れを解説します。
初診・カウンセリング(医科)
まず、睡眠時無呼吸症候群の診療を行っている医療機関(呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠専門クリニックなど)を受診します。
問診では、いびきや日中の眠気などの自覚症状、睡眠習慣、既往歴、生活習慣などについて詳しく聞き取ります。
その後、口腔内の状態(歯並び、顎の状態、粘膜の状態など)を診察し、マウスピース治療の適応の可能性や治療の概要、利点・注意点、おおよその費用などについて説明を受けます。
検査・診断(医科)
次に睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度評価のために睡眠検査を実施します。自宅で行う簡易検査、または医療機関に1泊入院して行う精密検査(PSG)のいずれか、あるいは両方を行います。
検査結果が出るまでには数日から数週間程度かかる場合があります。
検査結果が出たら再度医療機関を受診し、医師から診断結果と治療方針についての説明を受けます。この時点でマウスピース治療が適応と判断されれば、歯科医院への紹介状が発行されます。
マウスピースの製作(歯科)
紹介状を持参し、睡眠時無呼吸症候群のマウスピース製作に習熟した歯科医院を受診します。歯科医師が改めて口腔内の診査を行い、問題がなければマウスピース製作のための精密な歯型採得を行います。
その他、噛み合わせの記録や顔貌の写真撮影などを行うこともあります。
歯型に基づいて歯科技工士がオーダーメイドのマウスピースを製作します。マウスピースが完成するまでの期間は、通常1週間から数週間程度です。
完成したマウスピースを実際に装着し、適合状態や噛み合わせ、下顎の前方移動量などを歯科医師が細かく調整します。装着方法やお手入れ方法についても指導を受けます。
治療開始後の定期的な調整とメンテナンス(歯科)
マウスピース治療を開始したら、それで終わりではありません。効果を最大限に引き出し、安全に治療を継続するためには、定期的な歯科受診が重要です。
通常、装着開始から数週間後、その後は1ヶ月後、3ヶ月後、半年後といった頻度で受診し、マウスピースの適合状態や破損の有無、顎関節や歯周組織の状態などをチェックします。必要に応じてマウスピースの調整を行います。
また、治療効果を確認するために、定期的に睡眠検査を受けることも推奨されます。ご自宅でのマウスピースの適切な清掃も長持ちさせるために大切です。
治療開始からアフターケアまでの期間の目安
段階 | 主な内容 | おおよその期間 |
---|---|---|
初診・カウンセリング(医科) | 問診、診察、治療説明 | 当日 |
睡眠検査 | 簡易検査または精密検査 | 検査自体は1夜~、結果説明まで数日~数週間 |
診断・歯科紹介(医科) | 検査結果説明、治療方針決定、紹介状作成 | 当日 |
歯科受診・マウスピース製作 | 口腔内診査、歯型採り、マウスピース完成・調整 | 型採りから完成まで1~数週間 |
定期メンテナンス(歯科) | 効果確認、マウスピース調整、口腔内チェック | 数週間~数ヶ月ごと |
よくある質問
ここでは睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- Qマウスピースはどのくらいの期間使用できますか?
- A
マウスピースの耐久年数は使用状況やお手入れの状態、材質によって異なりますが、一般的には2年から5年程度が目安とされています。
毎日の使用で徐々に摩耗したり、変形したりすることがあります。定期的な歯科検診でマウスピースの状態をチェックしてもらい、必要であれば作り替えを検討します。
保険診療でマウスピースを作製した場合、前回の作製から一定期間(通常は半年以上など、規定があります)が経過していないと再作製が保険適用にならない場合があるので確認が必要です。
- Qマウスピースのお手入れは難しいですか?
- A
マウスピースのお手入れは比較的簡単です。基本的な清掃方法を歯科医院で指導します。
マウスピース清掃のポイント
- 使用後は、流水で丁寧に洗浄する。
- 歯ブラシ(専用のものか、毛先が柔らかいもの)を使用し、優しく磨く。研磨剤入りの歯磨き粉はマウスピースを傷つける可能性があるため、使用を避けるか専用の洗浄剤を使用する。
- 週に数回程度、専用の洗浄剤に浸けて除菌する。
- 洗浄後は十分に乾燥させ、専用のケースに入れて保管する。
- 熱湯消毒は変形の原因となるため避ける。
適切なお手入れを続けることでマウスピースを清潔に保ち、長持ちさせることができます。
- Q治療中に痛みが出た場合はどうすればよいですか
- A
マウスピースを装着し始めた初期や調整後数日間は、歯や顎に圧迫感や軽い痛み、違和感が生じることがあります。多くの場合、数日から1週間程度で慣れてきます。
しかし、痛みが強い場合や長引く場合は我慢せずに速やかにマウスピースを作製した歯科医院に相談してください。マウスピースの調整が必要な場合があります。
自己判断で装着を中止したり、マウスピースを削ったりしないようにしましょう。
- Q旅行先にも持っていくことは可能ですか?
- A
はい、マウスピースは小型で軽量なため、旅行や出張先にも簡単に持っていくことができます。
CPAP療法のように電源も必要ないため、場所を選ばずに使用できるのが大きな利点です。専用のケースに入れて持ち運び、紛失や破損に注意しましょう。
旅行・出張時のマウスピース取り扱い留意点
留意点 具体的な内容 専用ケースでの保管 破損や紛失を予防します。 清掃用品の持参 旅行先でも清潔を保つため、洗浄剤やブラシなどを持参すると良いでしょう。 万一の破損への備え 長期の旅行などの場合は、事前に歯科医師に相談しておくと安心です。
以上
参考にした論文
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