「いびきや無呼吸の治療でマウスピースを勧められたけど、本当に効果があるの?」「費用はどれくらいかかるんだろう?」と疑問に思っていませんか。
医療用マウスピース(スリープスプリント)は、軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)やいびき症の治療で広く用いられる方法です。
この記事では医療用マウスピースがなぜ効果的なのか、その仕組みから保険適用と自由診療での費用、作製する流れ、市販品との違いまで詳しく解説します。
ご自身に合った治療法か判断するための一助としてください。
医療用マウスピース(スリープスプリント)とは
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療で使われる医療用マウスピースは、一般的に「スリープスプリント」と呼ばれます。夜寝るときに装着する個人に合わせて作製された歯科装具です。
その基本的な構造と役割について解説します。
睡眠中の気道を広げるための装置
医療用マウスピースの主な役割は睡眠中に狭くなりがちな空気の通り道(上気道)を物理的に広げることです。多くの場合、下の顎が上の顎よりも少し前に出るように固定する構造になっています。
このことにより、喉の奥にある舌の付け根(舌根)が前方に移動し、気道に十分なスペースを確保します。
個人の歯型に合わせて作製
最大の特長は歯科医院で精密な歯型を採り、一人ひとりの顎の形や歯並びに合わせてオーダーメイドで作製する点です。
既製品とは異なり、高いフィット感と効果が期待できます。また、顎を前方に移動させる量も専門家がミリ単位で調整します。
マウスピースの主な構造
部分 | 役割 | 特徴 |
---|---|---|
上下一体型 | 下顎を前方に固定する | 構造がシンプルで比較的安価 |
上下分離型 | 下顎の位置を調整できる | より精密な調整が可能で効果が高い |
CPAP治療が合わない方の選択肢
中等症以上の睡眠時無呼吸症候群の標準治療はCPAP(シーパップ)療法ですが、装置の圧迫感や音、持ち運びの不便さなどから継続が難しい方もいます。
そのような場合にマウスピース治療が代替の選択肢として検討されます。
いびき・無呼吸に対するマウスピースの効果
マウスピースを装着することで、いびきや無呼吸はどの程度改善するのでしょうか。科学的な根拠に基づいた効果と、どのような症状に特に有効なのかを解説します。
気道を広げ、いびき・無呼吸を減少
マウスピースが下顎を前方に移動させることで舌根の沈み込みが防がれ、喉の奥のスペースが広がります。
この物理的な作用により、気道の狭窄が原因で発生するいびきの振動音や気道の閉塞による無呼吸・低呼吸が明らかに減少します。
睡眠の質の向上
無呼吸や低呼吸が減ると睡眠中に低下しがちだった血中の酸素濃度が正常に保たれるようになります。これにより体への負担が軽減され、深い睡眠を安定してとれるようになります。
結果として朝の目覚めがすっきりしたり、日中の眠気が改善したりといった効果が期待できます。
マウスピース治療による改善が期待できる症状
症状 | 改善の理由 |
---|---|
大きないびき | 気道の振動が抑制されるため |
睡眠中の呼吸停止 | 気道の閉塞が防がれるため |
日中の強い眠気 | 睡眠の質が向上するため |
特に効果を発揮する症状のタイプ
マウスピース治療は特に軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の方に高い効果を示します。
また、肥満度が比較的低い方や、仰向けで寝ると症状が悪化する方に有効な場合が多いと報告されています。
マウスピース治療の対象となる方・ならない方
効果的な治療法である一方、誰にでも適しているわけではありません。マウスピース治療が推奨される方と、適用が難しい方の条件について理解しておくことが重要です。
治療の主な対象者
以下の条件に当てはまる方はマウスピース治療の良い適応となります。まずは専門医に相談し、検査を受けることをお勧めします。
- 軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群と診断された方
- 大きないびきに悩んでいる方
- CPAP治療の継続が困難な方
- 旅行や出張が多く、持ち運びやすい治療法を希望する方
治療が難しいケース
一方で、口や顎の状態によってはマウスピースの作製や使用が難しい場合があります。事前の歯科検診で、これらの問題がないかを確認することが必要です。
マウスピース治療が困難な主な要因
要因 | 理由 |
---|---|
重度の歯周病 | 歯が不安定で装置を支えられないため |
残っている歯が少ない | 装置を固定できないため |
顎関節症 | 症状を悪化させる可能性があるため |
重症の睡眠時無呼吸症候群の方
AHI(無呼吸低呼吸指数)が30を超えるような重症の睡眠時無呼吸症候群の場合、第一選択はCPAP療法となります。
マウスピース治療では気道の確保が不十分な可能性があり、CPAPほどの効果が得られない場合があるためです。
マウスピース作製の流れと期間
医療用マウスピースは医科と歯科が連携して作製します。相談から完成までの一般的な流れと、必要となる期間の目安を解説します。
まずは睡眠専門の医療機関を受診
いびきや無呼吸の症状があれば、まずは耳鼻咽喉科や呼吸器内科などの睡眠外来を受診します。
問診や検査(簡易検査・精密検査)を行い、睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度の判定を行います。
診断後に歯科医院へ紹介
検査の結果、マウスピース治療が適していると医師が判断した場合、治療に精通した歯科医院への紹介状(診療情報提供書)が発行されます。
この紹介状があることで歯科医院でのマウスピース作製が保険適用となります。
歯科医院での型取りと調整
紹介状を持参して歯科医院を受診します。虫歯や歯周病がないか口の中の状態を確認した後、精密な歯型を採ります。
マウスピースの完成には通常2~3週間程度かかります。完成後は装着感や下顎の突出具合を微調整します。
作製にかかる期間の目安
段階 | 内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
医科受診・検査 | SASの診断 | 1日~1ヶ月 |
歯科受診・型取り | 口腔内チェック、歯型採り | 1日 |
完成・調整 | マウスピースの受け取りと調整 | 2~3週間後 |
保険適用と自由診療での費用
マウスピース作製にかかる費用は保険が適用されるかどうかで大きく異なります。それぞれの費用の目安と、何が違うのかを解説します。
保険適用で作製する場合の費用
睡眠外来などで睡眠時無呼吸症候群と診断され、医師からの紹介状がある場合、健康保険が適用されます。
3割負担の場合、マウスピースの作製にかかる費用は検査料や調整料などを含めて総額で15,000円から20,000円程度が一般的です。
自由診療で作製する場合の費用
SASの診断基準を満たさない軽度のいびき症の場合や、より高性能な素材や特殊な設計のマウスピースを希望する場合は自由診療となります。
費用は全額自己負担となり、医療機関によって異なりますが、50,000円から200,000円程度が相場です。
費用と特徴の比較
種類 | 費用目安 | 特徴 |
---|---|---|
保険診療 | 15,000円~20,000円 | 費用負担が少ない。SASの診断が必要。 |
自由診療 | 50,000円~200,000円 | 設計の自由度が高い。全額自己負担。 |
定期的なメンテナンス費用
マウスピースは作製して終わりではありません。効果を持続させ、快適に使用するためには定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが重要です。
調整や修理、クリーニングなどの費用が別途かかる場合があります。
市販品と医療用マウスピースの違い
インターネットやドラッグストアでは安価なマウスピースが販売されていますが、これらと医療機関で作製するものには大きな違いがあります。
フィット感と安全性の違い
市販品の多くは、お湯で温めて自分で歯型を取るタイプです。しかし、これでは精密なフィットは得られず、睡眠中に外れたり歯や顎に過度な負担をかけたりする危険性があります。
医療用は歯科医師が責任を持って作製するため、安全性とフィット感が格段に優れています。
効果と調整の可否
医療用マウスピースは専門家が症状に合わせて下顎の突出量を精密に調整することで、治療効果を最大限に引き出します。
市販品ではこのような微調整はできず、十分な効果が得られないばかりか、顎関節症などの問題を引き起こすリスクもあります。
医療用と市販品の比較
項目 | 医療用マウスピース | 市販のマウスピース |
---|---|---|
作製方法 | 歯科医院で精密に作製 | 自分で型取り(簡易的) |
調整 | 専門家によるミリ単位の調整が可能 | 調整はほぼ不可能 |
安全性 | 高い(歯科医師が管理) | 低い(自己責任) |
マウスピース使用上の注意点と手入れ方法
マウスピースの効果を長持ちさせ、安全に使い続けるためには、日々の取り扱いと手入れが重要です。
注意すべき点と正しいメンテナンス方法を解説します。
装着当初の違和感
使い始めは唾液が多く出たり、顎や歯に多少の痛みや圧迫感を感じたりすることがあります。
ほとんどの場合は1~2週間で慣れてきますが、痛みが続く場合は無理せず、作製した歯科医院に相談して調整してもらいましょう。
毎日の洗浄と保管方法
使用後は唾液や細菌が付着しているため、必ず洗浄が必要です。柔らかい歯ブラシなどを使って水で優しく洗い、専用の洗浄剤に浸けておくと、より清潔に保てます。
洗浄後はよく乾かし、専用のケースで保管してください。
日々のお手入れ
- 使用後はすぐに水で洗い流す
- 柔らかい歯ブラシで優しく磨く
- 週に数回は専用の洗浄剤を使用する
- 熱湯や歯磨き粉は変形・損傷の原因になるため使用しない
定期的な歯科検診の重要性
マウスピースを長期間使用していると、噛み合わせに変化が生じることがあります。また、装置の劣化や破損も起こりえます。
半年に一度程度は歯科医院で定期検診を受け、口の中の状態とマウスピースの適合性をチェックしてもらうことが大切です。
マウスピース治療に関するよくある質問
患者様からよくいただくマウスピース治療に関する質問と、その回答をまとめました。
- Qマウスピースの寿命はどれくらいですか?
- A
素材や使用状況、歯ぎしりの有無などによって異なりますが、一般的に保険適用のマウスピースの耐用年数は3年から5年程度が目安です。
装置に亀裂が入ったり、適合が悪くなったりした場合は、作り直しが必要です。
- Q装着して話したり、水を飲んだりできますか?
- A
医療用マウスピースは睡眠中に使用するものであり、装着したまま会話や飲食をすることは想定されていません。
構造上、話すことは難しく、飲食はできません。就寝直前に装着し、起床後すぐに外してください。
- Q旅行先に持っていくことはできますか?
- A
はい、できます。マウスピースは軽量でコンパクトなため、専用ケースに入れて手軽に持ち運べます。
CPAP装置と比べて携帯性に優れている点は、マウスピース治療の大きな利点の一つです。
以上
参考にした論文
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