「いびきがうるさいよ」と家族やパートナーから指摘され、肩身の狭い思いをしていませんか。

自分では気づかないいびきも、その音が大きいほど身体に何らかの問題が起きているサインかもしれません。「ただのいびき」と軽く考えず、なぜ音が大きくなるのかその原因を知ることが大切です。

この記事では、うるさいいびきの原因から危険ないびきの見分け方、ご自身でできる対策、そして専門的な治療が必要なケースまで詳しく解説していきます。

なぜ「うるさいいびき」と「静かないびき」があるのか

いびきは狭くなった気道を空気が通る時の振動音です。この音の大きさは気道の狭さの度合いと深く関係しています。

つまり、いびきの音量は身体からの危険信号の大きさと考えることができます。

音の大きさは気道の狭さに比例する

ホースの先を指でつまむと水の勢いが強くなるように、気道が狭ければ狭いほど空気は速いスピードで通過しようとします。

この速い空気の流れが喉の粘膜や舌の根元を激しく振動させ、大きな音、つまり「うるさいいびき」を生み出すのです。

一時的なものと慢性的なものの違い

疲れている時や深酒をした時にかく一時的ないびきは誰にでも起こり得ます。

しかし毎晩のように「すごいいびき」をかく場合は気道が慢性的に狭くなっている可能性があり、注意が必要です。

いびきの音量と気道の状態

いびきの種類気道の状態主な原因
静かないびき(スースー音)軽度の狭窄疲労、軽い鼻づまり
うるさいいびき(ガーガー音)中等度以上の狭窄肥満、骨格、アルコール
いびきが止まる閉塞(塞がっている)睡眠時無呼吸症候群の疑い

「うるさいいびき」をかきやすい人の身体的な特徴

いびきの音量は生活習慣だけでなく、生まれ持った身体的な特徴にも影響されます。ご自身が当てはまるかチェックしてみましょう。

首周りの脂肪と肥満

肥満はうるさいいびきの最大の原因の一つです。体重が増えると首周りや喉の内部にも脂肪が蓄積します。

この内側の脂肪が睡眠中に気道を直接圧迫し、狭くしてしまうのです。特にBMIが25以上の方は注意が必要です。

顎の骨格や歯並び

顎が小さい、または下顎が後退している(引っ込んでいる)方は、もともと気道が狭い傾向にあります。

仰向けに寝ると舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道を塞ぎやすいため、大きないびきに繋がりやすいです。

扁桃腺やアデノイドの肥大

喉の奥にある扁桃腺や鼻の奥にあるアデノイド(咽頭扁桃)が大きいと、それ自体が物理的な障害物となり、気道を狭くします。

これは特に子供のいびきの主な原因ですが、大人でも見られます。

いびきをかきやすい身体的特徴

部位特徴理由
首・喉首が短い、首周りの脂肪が多い気道が内側から圧迫される
顎・口下顎が小さい、後退している舌が落ち込みやすく気道が狭い
鼻・喉扁桃腺やアデノイドが大きい物理的に気道を塞いでしまう

いびきの音を増幅させる生活習慣

もともと気道が狭い傾向にある人が特定の生活習慣を送ることで、いびきの音はさらに大きくなります。心当たりのある習慣はないか振り返ってみましょう。

就寝前のアルコール摂取

アルコールは喉の筋肉を弛緩させる作用があります。睡眠中はもともと筋肉が緩みますが、アルコールを摂取するとその弛緩がさらに強まり、舌が喉に落ち込みやすくなります。

このため気道が極端に狭くなり、激しいいびきを引き起こします。

喫煙による気道の炎症

タバコの煙は喉の粘膜を慢性的に刺激し、炎症や腫れを引き起こします。気道の粘膜が腫れると空気の通り道は当然狭くなります。

長年の喫煙習慣は、いびきを悪化させる大きな要因です。

疲労やストレスの蓄積

肉体的な疲労が溜まっていると筋肉の弛緩が強まり、いびきをかきやすくなります。

また、ストレスは自律神経のバランスを乱し、口呼吸を誘発することがあります。口呼吸は舌の沈下を招き、いびきの原因となります。

いびきを悪化させるNG習慣

習慣身体への作用
寝酒喉の筋肉を過度に弛緩させる
喫煙気道の粘膜を慢性的に炎症・腫脹させる
暴飲暴食肥満を助長し、首周りの脂肪を増やす

そのいびき、本当に大丈夫?危険度を判断する音以外のサイン

「いびきがうるさい」という指摘は単に音の問題だけではありません。あなたの身体が発しているSOSサインかもしれません。

音の大きさに加えて次のような症状がないか、ご自身やご家族に確認してみてください。

いびきのリズムや音質の変化

ただ大きいだけでなく、いびきの音質やリズムも重要な判断材料です。

例えば静かな呼吸から突然、豚の鳴き声やうめき声のような苦しそうな音に変わる場合、気道が塞がりかけている可能性があります。

危険ないびきの特徴

  • 音が不規則でリズムが乱れる
  • 息が詰まったような苦しそうな音が混じる
  • 大きないびきが突然10秒以上静かになる

呼吸の停止(無呼吸)の有無

最も注意すべきサインは大きないびきがピタッと止まり、静かになる瞬間です。これは気道が完全に塞がって呼吸が停止している「無呼吸状態」を示唆します。

その後、身体が酸素不足を感知して「ガガッ!」というしゃくりあげるような激しい呼吸とともに、いびきを再開するのが特徴です。

日中の身体の不調

夜間のいびきや無呼吸は睡眠の質を著しく低下させます。その結果、日中に様々な不調が現れます。

睡眠の質の低下が招く日中の症状

症状原因
日中の強い眠気夜間に脳が十分に休息できていない
起床時の頭痛睡眠中の酸素不足による血管拡張
倦怠感・集中力の低下慢性的な睡眠不足と身体への負担

放置は危険!「すごいいびき」に隠された病気のリスク

うるさいいびき、特に呼吸の停止を伴うものは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的な症状です。

この病気は単に睡眠を妨げるだけでなく、全身の健康に深刻な影響を及ぼします。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

睡眠中に10秒以上の呼吸停止が1時間あたり5回以上繰り返される状態を指します。

呼吸が止まるたびに体内の酸素濃度が低下し、心臓や血管に大きな負担がかかります。本人は眠っているため自覚がないことがほとんどです。

高血圧や心疾患のリスク増大

呼吸が止まると身体は酸素不足を補うために心拍数を上げ、血圧を上昇させます。

この状態が毎晩繰り返されることで高血圧が定着し、心筋梗塞や狭心症、不整脈といった心疾患の発症リスクが健常者の数倍に高まることが分かっています。

脳卒中や糖尿病との関連

睡眠中の低酸素状態は血管にダメージを与え、動脈硬化を促進します。このため脳の血管が詰まったり破れたりする脳卒中のリスクも高まります。

また、インスリンの働きを悪くさせ、糖尿病の発症や悪化にも関与することが指摘されています。

SASが引き起こす合併症のリスク

疾患名健常者とのリスク比較
高血圧約1.4~2.9倍
心疾患約2~4倍
脳卒中約3~4倍

専門医への相談|いつ、何科を受診すべきか

「いびきがうるさい」という悩みは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、健康状態を知る重要なきっかけです。

思い当たる節があれば専門医に相談することを強く推奨します。

受診を検討すべき具体的なサイン

セルフケアで改善しない場合や以下のようなサインが一つでも当てはまる場合は、医療機関の受診を検討してください。

受診の目安チェックリスト

  • 家族から呼吸が止まっていると指摘された
  • 日中の眠気が強く、仕事や運転に支障がある
  • 朝起きた時に頭が痛い、熟睡感がない
  • 肥満気味で血圧も高めである

何科を受診すればよいか

いびきや睡眠時無呼吸症候群の診療は主に呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などで行っています。

まずはかかりつけ医に相談するか、睡眠治療を専門に掲げているクリニックを探すのが良いでしょう。

クリニックで行う検査の流れ

まずは問診で詳しい症状を聞き、その後、自宅でできる簡易検査を行います。指と鼻に小さなセンサーをつけて一晩眠るだけで、呼吸の状態や血中の酸素濃度を測定できます。

この検査で重症と判断された場合や、より詳しい検査が必要な場合は入院して精密検査(PSG検査)を行います。

検査から治療までの流れ

段階内容場所
問診・診察症状や生活習慣の聞き取りクリニック
簡易検査携帯型の装置で呼吸状態を測定自宅
精密検査(PSG)脳波や心電図などを含めた詳細な検査クリニック(入院)

よくある質問

うるさいいびきに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
痩せているのにいびきがうるさいのはなぜですか?
A

痩せている方でも顎が小さい、扁桃腺が大きいといった骨格的・構造的な問題で気道が狭くなっている場合があります。

また、鼻炎や鼻中隔弯曲症などで鼻の通りが悪いことも原因になります。

肥満でなくても、うるさいいびきをかく場合は一度専門医に相談することをおすすめします。

Q
家族にどうやって受診を勧めたらいいですか?
A

本人は自覚がないことが多いため、頭ごなしに「うるさい」と責めるのではなく、「いびきの間に息が止まっていて心配だ」「日中眠そうでつらそうに見える」など、健康を心配している気持ちを伝えることが大切です。

この記事で解説したような、いびきに隠れた病気のリスクを一緒に見ながら話すのも良い方法です。

Q
治療にはどのような方法がありますか?
A

睡眠時無呼吸症候群の治療で最も標準的なのは、CPAP(シーパップ)療法です。これは寝ている間に鼻に装着したマスクから空気を送り、気道が塞がるのを防ぐ治療法です。

その他、軽症の方には歯科で作成するマウスピース(スリープスプリント)や、原因によっては耳鼻咽喉科での外科手術という選択肢もあります。

原因と重症度に応じて適切な治療法を決定します。

以上

参考にした論文

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