日中の耐えがたい眠気や集中力の低下が続き、「もしかしたら睡眠時無呼吸症候群かもしれない」「仕事に支障が出ていて、このままでは続けられない」と悩んでいませんか。

睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや睡眠の問題だけでなく、日中の業務効率を著しく低下させ、重大な事故につながる危険性もはらんでいます。

症状によっては、治療に専念するために休職するという選択肢も考えられます。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群で休職を検討する際の判断基準、休職に必要な診断書のもらい方、職場での手続き、そして治療に専念しスムーズに復職するための具体的な手順を詳しく解説します。

睡眠時無呼吸症候群が仕事に与える深刻な影響

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで、体に様々な悪影響を及ぼす病気です。

この影響は夜間だけでなく、日中の活動、特に仕事の場面で深刻な問題を引き起こすことがあります。

日中の過度な眠気と集中力の欠如

SASの最も代表的な症状が、日中の強い眠気です。夜間に十分な質の睡眠がとれていないため、日中に突然、耐えがたい眠気に襲われます。

会議中やデスクワーク中はもちろん、車の運転中など、一瞬の居眠りが大事故につながりかねない状況でも眠気が生じます。

この眠気は、単なる睡眠不足とは異なり、意志の力だけではコントロールが難しいものです。

業務効率の低下を招く要因

要因具体的な影響職場での現れ方
持続的な眠気単純作業でもミスが増える。新しい情報を覚えられない。会議中の居眠り、入力ミス、指示の聞き間違い
集中力の低下長時間一つの作業に集中できない。話の要点が掴めない。作業の遅延、報告書の質の低下、上の空
記憶力の問題指示された内容や約束を忘れる。短期的な記憶が困難になる。約束の失念、同じことを何度も質問する

判断力の低下とヒューマンエラーのリスク

睡眠の質が悪い状態が続くと、脳の機能が低下し、冷静な判断ができなくなります。

特に複雑な状況判断や迅速な意思決定が求められる業務では、その影響が顕著に現れます。普段ならしないような単純なミスを犯したり、危険な状況で誤った判断を下したりするリスクが高まります。

このことにより、個人の評価だけでなく、会社全体に損害を与える可能性も否定できません。

感情の不安定化と人間関係への悪影響

慢性的な睡眠不足は、精神的な健康にも影響します。ささいなことでイライラしたり、落ち込みやすくなったりと、感情の起伏が激しくなる傾向があります。

このような感情の不安定さは、職場の同僚や上司との人間関係に亀裂を生じさせ、チームワークを乱す原因にもなり得ます。

本人の意図とは関係なく、周囲から「気難しい人」「扱いにくい人」という印象を持たれてしまうこともあります。

休職は可能?睡眠時無呼吸症候群で休職を考えるべきサイン

仕事への影響が深刻な場合、治療に専念するために一時的に休職することも一つの重要な選択肢です。

休職は「逃げ」ではなく、健康を回復し、再び万全の状態で働くための前向きな行動と捉えることが大切です。

休職を検討すべき具体的な症状

どのような状態になったら休職を考え始めるべきでしょうか。自分自身の状態を客観的に把握するためのサインをいくつか紹介します。

これらのサインが複数当てはまる場合は、専門医への相談とともに、休職の可能性を視野に入れることをお勧めします。

休職を考えるべき心身のサイン

分類具体的なサインの例
身体的サイン日中、場所を問わず強い眠気に襲われる。朝起きても全く疲れが取れない。頭痛や倦怠感が続く。
精神的サイン仕事への意欲が全く湧かない。理由もなくイライラしたり、不安になったりする。気分の落ち込みが激しい。
業務上のサイン明らかに仕事のミスが増えた。上司や同僚から注意されることが多くなった。車の運転中にヒヤリとすることがあった。

自己判断の危険性と専門医への相談の重要性

「まだ大丈夫」「もう少し頑張れるはず」といった自己判断は危険です。睡眠時無呼吸症候群の症状は、自覚している以上に心身を蝕んでいる可能性があります。

特に日中の眠気は、高血圧や心疾患、脳卒中といった生命に関わる病気のリスクを高めることも知られています。

まずは呼吸器内科や睡眠外来など、専門のクリニックを受診し、医師の客観的な診断を受けることが重要です。

休職が治療にもたらすメリット

休職して仕事から一時的に離れることで、治療に集中できる環境が整います。CPAP(シーパップ)療法などの治療機器に慣れるためには、ある程度の時間と精神的な余裕が必要です。

また、食生活の見直しや運動習慣の確立といった生活習慣の改善にも、腰を据えて取り組むことができます。心身のストレスから解放されることで、治療効果も高まりやすくなります。

休職に必要な診断書のもらい方と注意点

睡眠時無呼吸症候群を理由に休職するためには、医師が発行する「診断書」を会社に提出することが一般的です。

ここでは、診断書をスムーズに取得するための手順と注意点を解説します。

まずは専門のクリニックを受診する

診断書を発行してもらうためには、まず専門の医療機関を受診し、確定診断を受ける必要があります。

睡眠時無呼吸症候群の診断には、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査などの精密検査を行います。

自宅でできる簡易検査もありますが、休職のための診断書を依頼する場合は、入院して行う精密検査の結果が求められることが多いです。

受診から診断書発行までの流れ

手順内容ポイント
1. 専門医の受診問診、診察、検査の予約。日中の眠気や仕事への影響を具体的に伝える。
2. 精密検査(PSG検査)一泊入院し、睡眠中の脳波や呼吸の状態などを測定。会社の就業規則を確認し、必要な検査を把握しておく。
3. 診断と治療方針の決定検査結果に基づき、重症度を診断。CPAP療法などの治療を開始。治療と並行して、休職の必要性を医師に相談する。

診断書に記載してもらうべき内容

会社に提出する診断書には、休職の必要性を明確に伝えるための情報を含める必要があります。

会社のフォーマットがある場合はそれに従いますが、特に指定がない場合は、以下の内容を記載してもらうよう医師にお願いしましょう。

診断書記載項目のポイント

  • 病名(睡眠時無呼吸症候群)
  • 症状の具体的な内容
  • 休養を必要とする期間
  • 就業上の配慮(休職の必要性)

診断書を依頼する際の医師への伝え方

医師に診断書を依頼する際は、ただ「休みたいので診断書をください」と伝えるのではなく、自身の状況を正確に伝えることが大切です。

どのような症状で、仕事にどのような支障が出ているのかを具体的に説明し、「治療に専念するために一定期間の休養が必要である」という点を丁寧に相談しましょう。

日々の症状や業務上のミスなどを記録したメモを持参すると、状況が伝わりやすくなります。

休職手続きの進め方 職場への伝え方と準備

医師から休職が必要であるという診断を受けたら、次に行うのは職場での手続きです。円満に休職し、スムーズに復職するためには、適切な手順を踏んで準備を進めることが重要です。

就業規則の確認と相談窓口の把握

最初に、自社の就業規則を確認し、休職に関する規定を把握しましょう。「病気休職制度」や「私傷病休暇」といった項目に、休職可能な期間、給与の取り扱い、手続きに必要な書類などが記載されています。

不明な点があれば、人事部や労務担当部署、あるいは産業医などが相談窓口になります。誰に、どの順番で相談すべきかを確認しておきましょう。

確認すべき就業規則の主な項目

項目確認する内容
休職の定義と適用範囲どのような場合に休職が認められるか
休職期間勤続年数に応じた最長の休職期間
休職中の給与・待遇給与の有無、社会保険の取り扱いなど

直属の上司への報告と相談

次に、直属の上司に報告します。非常にデリケートな内容であるため、他の人がいない場所で、時間を確保してもらった上で話すのが望ましいです。

病状を詳細に話す必要はありませんが、「睡眠時無呼吸症候群と診断され、治療に専念するため、医師から一定期間の休職を勧められている」という事実を冷静に伝えましょう。

診断書を提示しながら説明すると、客観的な事実として理解を得やすくなります。

業務の引き継ぎと関係者への説明

休職期間中の業務が滞らないよう、後任者や同僚への引き継ぎを丁寧に行います。担当業務の内容、進捗状況、関係者の連絡先などを文書にまとめておくと、後任者が困らずに済みます。

取引先など社外の関係者へは、上司と相談の上で「一身上の都合により、しばらく休ませていただきます」など、簡潔に説明するのが一般的です。

あなたの不在が、職場に与える影響を最小限に抑える配慮が、円滑な復職につながります。

休職期間中の過ごし方 治療に専念するためのポイント

休職期間は、心身を休ませ、睡眠時無呼吸症候群の治療に集中するための貴重な時間です。この期間を計画的に過ごすことが、早期の回復とスムーズな復職の鍵となります。

CPAP療法への順応と継続

睡眠時無呼吸症候群の最も標準的な治療法が、CPAP(持続陽圧呼吸療法)です。これは、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、睡眠中に気道が塞がるのを防ぐ装置です。

最初はマスクの装着感に違和感を覚えるかもしれませんが、休職期間中であれば、日中の眠気を気にせず、夜間の装着に集中して慣れていくことができます。

毎日継続して使用することが、治療効果を高める上で何よりも重要です。

主な治療法の比較

治療法概要特徴
CPAP療法鼻マスクから空気を送り、気道を確保する。中等症から重症のSASに高い効果を示す。毎晩の装着が必要。
マウスピース(口腔内装置)下あごを前方に移動させ、気道を広げる。軽症から中等症のSASが対象。持ち運びが便利。
外科手術気道を狭めている扁桃などを切除する。適用となるケースは限定的。根治の可能性がある。

生活習慣の見直しと改善

治療効果を最大限に高めるためには、生活習慣の改善も並行して行う必要があります。

特に肥満は睡眠時無呼吸症候群の大きな原因の一つであるため、休職期間を利用して食生活の見直しや適度な運動に取り組みましょう。

取り組むべき生活習慣の改善点

  • バランスの取れた食事
  • 適度な有酸素運動(ウォーキングなど)
  • アルコールの摂取を控える
  • 睡眠薬の使用を避ける

定期的な通院と医師との連携

休職期間中も、定期的に主治医の診察を受けることが大切です。CPAP療法の使用状況や体調の変化を報告し、治療方針について相談します。

治療の経過が良好であれば、復職に向けた具体的な相談も始まります。自己判断で通院を中断することなく、医師の指示に従い、二人三脚で治療を進めていきましょう。

治療と経済的な支援制度の活用

休職中は給与が支払われないことが多いため、経済的な不安を感じる方も少なくありません。

しかし、日本の社会保険制度には、病気やけがで働けない期間の生活を支えるための仕組みがあります。これらの制度を正しく理解し、活用しましょう。

傷病手当金の申請と受給

傷病手当金は、会社の健康保険に加入している人が、業務外の病気やけがで連続して3日間会社を休んだ後、4日目以降も仕事に就けない場合に支給される制度です。

給与のおおよそ3分の2が、最長で1年6ヶ月間支給されます。睡眠時無呼吸症候群の治療による休職も対象となります。申請には医師の証明が必要ですので、主治医に相談しましょう。

傷病手当金のポイント

項目内容
支給対象者勤務先の健康保険に加入している本人
支給額の目安休職開始前の給与(標準報酬月額)の約3分の2
支給期間支給開始日から最長1年6ヶ月

自立支援医療制度の可能性

睡眠時無呼吸症候群が原因で、うつ病などの精神疾患を併発している場合には、「自立支援医療(精神通院医療)」という制度を利用できる可能性があります。

この制度は、精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担額を軽減するものです。該当するかどうかは、主治医やお住まいの市区町村の担当窓口に確認してください。

会社の福利厚生や保険の確認

会社によっては、独自の傷病見舞金制度や団体保険など、法定の制度を上回る保障を用意している場合があります。就業規則や福利厚生の案内を確認したり、人事部に問い合わせたりしてみましょう。

また、個人で加入している医療保険や所得補償保険なども、給付の対象になるか確認することをお勧めします。

復職に向けた準備と注意点

治療が進み、体調が安定してきたら、次は復職に向けた準備を始めます。焦らず、段階的に進めることが、再発を防ぎ、長く働き続けるために重要です。

主治医との相談と復職可能の判断

復職のタイミングは、自己判断ではなく、必ず主治医と相談して決定します。

CPAP療法の効果や日中の眠気の改善度などを客観的に評価してもらい、業務に耐えうる状態まで回復しているかどうかの判断を仰ぎます。

会社からは、復職を許可する旨を記載した「復職可能診断書」の提出を求められることが一般的です。

会社との連携と復職支援プランの作成

主治医から復職の許可が出たら、会社の上司や人事担当者に連絡し、復職に向けた面談を行います。この面談では、現在の体調や、復職後に必要な配慮などを伝えます。

会社によっては、産業医との面談が設定されることもあります。協力して、無理のない復職プランを作成しましょう。

復職プランの例

段階内容目的
短時間勤務半日勤務や週3日勤務から始める。まずは通勤や勤務に体を慣らす。
業務内容の制限負担の軽い内勤業務や定型業務から再開する。徐々に仕事の感覚を取り戻す。
通常勤務への移行体調を見ながら、徐々に勤務時間や業務内容を元に戻す。完全な復職を目指す。

復職後のセルフケアと再発防止

復職後も、治療の継続とセルフケアが不可欠です。CPAP療法を自己判断で中断したり、生活習慣が元に戻ってしまったりすると、症状が再発する可能性があります。

定期的な通院を続け、睡眠時間や体調管理に気を配りましょう。ストレスを溜めないように、自分なりのリフレッシュ方法を見つけることも大切です。

睡眠時無呼吸症候群の休職に関するよくある質問

ここでは、睡眠時無呼吸症候群による休職について、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
どのくらいの期間、休職する必要がありますか?
A

必要な休職期間は、個人の症状の重症度、治療への反応、仕事の内容などによって大きく異なります。一概に「何か月」とは言えません。

一般的には、CPAP療法に慣れ、日中の眠気などの自覚症状が十分に改善するまで、1か月から3か月程度の期間を要することが多いです。

まずは主治医とよく相談し、ご自身の状態に合わせた適切な期間を設定することが重要です。

Q
休職したことが、昇進やキャリアに影響しませんか?
A

病気を理由とした休職が、直接的に不利益な評価につながることは法律で禁じられています。

大切なのは、休職期間中にしっかりと治療を受け、万全の体調で復職し、再び仕事で成果を出すことです。

健康を回復することで、休職前よりも高いパフォーマンスを発揮できるようになれば、キャリアへの影響は最小限に抑えられます。

むしろ、体調不良のまま働き続けて評価を下げてしまうリスクの方が大きいと考えるべきです。

Q
会社に病気のことを詳しく知られたくないのですが。
A

会社への報告義務は、安全に業務を遂行するために必要な範囲に限られます。

診断書に記載された病名と、休職が必要であるという医師の判断を伝えれば、それ以上に詳細な症状や治療内容を報告する必要は必ずしもありません。

プライバシーに関わることですので、どこまで話すかは上司や人事担当者との信頼関係にもよります。

まずは「業務に支障をきたす可能性がある健康上の問題」として相談を始めるのがよいでしょう。

Q
復職後に症状が再発する可能性はありますか?
A

睡眠時無呼吸症候群は、高血圧などと同様に、継続的な管理が必要な慢性疾患です。

CPAP療法を自己判断でやめてしまったり、体重が再び増加したりすると、症状が再発する可能性は十分にあります。

復職後も油断せず、主治医の指示に従って治療を続け、良好な生活習慣を維持することが、再発を防ぐための鍵となります。

参考にした論文