夜間の大きないびきや、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘されたことはありませんか。また、日中に強い眠気を感じて仕事や生活に支障が出ている方もいるかもしれません。
それらの症状は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインである可能性があります。睡眠時無呼吸症候群の治療にはいくつか選択肢がありますが、
この記事では「レーザー治療」に焦点を当てます。レーザー治療の効果や費用、そして知っておくべきデメリットや注意点について、詳しく解説していきます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、略してSAS)は、睡眠中に呼吸が一時的に止まる(無呼吸)、または弱くなる(低呼吸)状態を繰り返す病気です。
多くの場合、空気の通り道である上気道(のど)が狭くなるか、塞がってしまう「閉塞性」のタイプです。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
ご自身やご家族に、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。
主な自覚症状と他覚症状
- 大きないびき(しばしば呼吸停止後に再びかき始める)
- 睡眠中の呼吸停止(家族などからの指摘)
- 日中の我慢できないほどの強い眠気
- 起床時の頭痛や口の渇き
- 熟睡感の欠如、中途覚醒
無呼吸が引き起こす健康リスク
睡眠中に無呼吸状態が続くと、体内に取り込まれる酸素の量が減少します。この酸素不足の状態は、心臓や血管に大きな負担をかけます。
このことにより、高血圧、心筋梗塞、脳卒中といった重大な生活習慣病を引き起こすリスクが高まることが知られています。また、日中の強い眠気は、交通事故や労働災害の原因ともなり得ます。
なぜ治療が必要なのか
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、前述のような深刻な合併症のリスクが高まるだけでなく、日中のパフォーマンス低下により社会生活にも悪影響を及ぼします。
治療を行うことで、これらのリスクを軽減し、睡眠の質を改善します。結果として、日中の活力を取り戻し、より健康的な生活を送ることを目指せます。
睡眠時無呼吸症候群の主な治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、重症度や原因、患者さんのライフスタイルに応じて選択します。代表的な治療法を紹介します。
CPAP(シーパップ)療法
中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群における標準的な治療法です。睡眠中、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道が塞がるのを防ぎます。
効果が高い治療法ですが、毎晩装置を装着する必要があります。
マウスピース(口腔内装置)治療
軽症から中等症の方が主な対象です。睡眠中に専用のマウスピースを装着し、下あごを前方に少し移動させることで、気道を広げます。
持ち運びが便利な一方、作成には専門の歯科医との連携が必要です。
外科的手術(レーザー治療を含む)
気道を狭めている物理的な原因(扁桃肥大、口蓋垂が長いなど)を取り除く治療法です。レーザー治療(LAUPPなど)もこの外科的治療の一種に含まれます。
CPAPやマウスピース治療が合わない場合や、根本的な改善を目指す場合に検討します。
生活習慣の改善
すべての患者さんにとって重要なのが、生活習慣の見直しです。特に肥満は大きな要因となるため、減量が重要です。
また、アルコールの摂取を控える、睡眠薬の使用を見直す、横向きに寝るなどの工夫も症状の緩和に役立ちます。
代表的な治療法の概要
| 治療法 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| CPAP療法 | 中等症~重症 | 持続的に空気を送り気道確保。効果が高い。 |
| マウスピース治療 | 軽症~中等症 | 下あごを前方に移動させ気道確保。携帯性に優れる。 |
| 外科的手術 | 軽症~重症(原因による) | 気道を狭める物理的な原因を切除・処置する。 |
睡眠時無呼吸症候群のレーザー治療(LAUPPなど)の概要
いびきや無呼吸の治療として「レーザー治療」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは主に「口蓋垂軟口蓋形成術(LAUPP)」と呼ばれる術式を指すことが多いです。
レーザー治療とはどのようなものか
レーザー治療は、主にいびきの原因となる「のどちんこ(口蓋垂)」や、その周辺の「軟口蓋(なんこうがい)」と呼ばれる部分にレーザーを照射する治療法です。
局所麻酔下で、レーザーを用いて口蓋垂や軟口蓋の一部を切除・焼灼(しょうしゃく)します。この処置により、空気の通り道である咽頭部を広げ、いびきや無呼吸の症状を改善することを目指します。
治療の対象となる方
レーザー治療は、主に軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群で、特に軟口蓋や口蓋垂の形態が原因で気道が狭くなっている方に適していることが多いです。
また、CPAP療法の装置がどうしても合わない方や、マウスピース治療で効果が得られなかった方が選択肢として検討することもあります。
レーザー治療を検討しやすい方の特徴
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| SASの重症度 | 軽症~中等症 |
| 主な原因部位 | 軟口蓋、口蓋垂の肥大や沈下 |
| 他の治療の状況 | CPAPやマウスピースが継続困難な場合 |
治療が適さない場合
一方で、重症の睡眠時無呼吸症候群の方や、肥満が主な原因である方、あごが小さいなどの骨格的な問題がある方には、レーザー治療単独での効果は限定的である可能性があります。
また、扁桃腺が非常に大きい場合は、レーザー治療ではなく扁桃摘出術の方が適している場合もあります。正確な適応は、専門医による診察と検査によって判断します。
レーザー治療の期待できる効果
レーザー治療によって咽頭部が広がると、睡眠中の空気の通りがスムーズになります。これにより、いくつかの具体的な効果が期待できます。
いびきの改善
最も多くの方が実感しやすい効果が、いびきの音量の減少や回数の低下です。いびきは、狭くなった気道を空気が通る際に粘膜が振動して発生します。
レーザー治療で気道を広げることで、この振動が起こりにくくなります。ご家族から「いびきが静かになった」と喜ばれるケースも少なくありません。
無呼吸・低呼吸の減少
気道が物理的に広がるため、睡眠中に呼吸が止まったり、弱くなったりする回数(無呼吸低呼吸指数:AHI)の減少が期待できます。
AHIが改善することで、睡眠中の体への酸素供給が安定し、心臓や血管への負担が軽減されます。
睡眠の質の向上と日中の眠気改善
無呼吸や低呼吸が減ると、睡眠が途切れ途切れになることが少なくなり、深い睡眠を得やすくなります。
ぐっすり眠れるようになることで、起床時の爽快感が増し、日中の強い眠気や倦怠感が改善する効果が期待できます。
レーザー治療による主な期待効果
| 改善が期待できる点 | 具体的な内容 |
|---|---|
| いびき | 音量の低下、発生頻度の減少 |
| 無呼吸・低呼吸 | AHI(無呼吸低呼吸指数)の数値改善 |
| 日中の自覚症状 | 眠気、倦怠感、集中力低下の改善 |
レーザー治療のデメリットと注意点
レーザー治療には多くのメリットが期待できる一方で、知っておくべきデメリットや注意点も存在します。治療を受ける前には、これらの点を十分に理解しておくことが大切です。
治療中の痛みや不快感
治療は局所麻酔で行いますが、レーザーを照射する際には熱感や軽い痛みを感じることがあります。また、口を大きく開けた状態を保つ必要があるため、あごのだるさなどを感じる場合もあります。
治療後の喉の違和感や痛み
治療後、麻酔が切れると、強い喉の痛み(風邪で喉が痛む時や扁桃炎のような痛み)が出ることが一般的です。この痛みは数日から1〜2週間程度続くことがあります。
食事や水分を摂る際に、しみる感じやつばを飲み込む際の痛みを伴うことが多いです。
治療後に見られる主な症状
- 喉の強い痛み(特に嚥下時)
- 喉のつっぱり感、違和感
- 一時的な声の変化
- 少量の出血
効果の個人差と後戻りの可能性
レーザー治療の効果には個人差があります。特に、無呼吸の原因が軟口蓋以外(舌根沈下、肥満など)にもある場合、効果が十分に出ない可能性があります。
また、治療直後は効果があっても、時間の経過とともに組織が元に戻ろうとしたり(瘢痕拘縮)、加齢や体重増加によって再び気道が狭くなったりする「後戻り」のリスクもゼロではありません。
合併症のリスク
頻度は高くありませんが、外科的な処置である以上、合併症のリスクは伴います。
術後の出血や感染、非常に稀ですが味覚の変化や、軟口蓋の機能不全(食べた物が鼻に逆流しやすくなるなど)が起こる可能性も報告されています。
主なデメリットとリスクのまとめ
| 項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 治療後の痛み | 強い喉の痛み(1~2週間程度) | 食事や会話に支障が出る場合がある。 |
| 効果 | 個人差あり。後戻りの可能性。 | 重症例や肥満例では効果が限定的なことも。 |
| 合併症 | 出血、感染、稀に機能障害など。 | 頻度は低いが、リスクとして認識が必要。 |
レーザー治療の流れと費用
実際にレーザー治療を受ける場合、どのような流れで進むのか、またどの程度の費用がかかるのかをご説明します。
初診から検査までの流れ
まずは専門のクリニックを受診し、医師による問診と診察を受けます。いびきや無呼吸の状況、日中の眠気などについて詳しく伝えてください。
医師が睡眠時無呼吸症候群を疑い、レーザー治療が適応となる可能性があると判断した場合、睡眠中の状態を評価するための検査を行います。
一般的には、自宅で行える簡易アポノモニター検査や、入院して行う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、無呼吸・低呼吸の回数(AHI)や重症度を客観的に評価します。
睡眠時無呼吸症候群の主な検査
| 検査名 | 検査場所 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 簡易検査 | 自宅 | 呼吸、酸素飽和度、いびき音などを測定。 |
| PSG検査 | 病院(1泊入院) | 脳波、筋電図などを含め、睡眠状態を詳細に評価。 |
治療当日の流れ
検査結果に基づき、医師がレーザー治療の適応があると判断し、患者さんご自身も治療に同意された場合、治療日を決定します。治療は多くの場合、外来(日帰り)で行います。
クリニックに来院後、喉に局所麻酔(スプレーや注射)を行います。麻酔が十分に効いたことを確認した後、レーザーで口蓋垂や軟口蓋の処置を行います。
治療時間自体は、15分から30分程度が目安です。治療後はしばらく安静にし、問題がないことを確認してから帰宅します。
治療にかかる費用(保険適用と自費診療)
睡眠時無呼吸症候群の治療としてレーザー治療(LAUPPなど)を行う場合、一定の基準を満たせば保険適用となります。
ただし、いびきの改善のみを目的とした場合や、施設基準によっては自費診療となるケースもあります。
レーザー治療(LAUPP)の費用目安
| 適用 | 費用目安(3割負担の場合) | 備考 |
|---|---|---|
| 保険適用 | 約3万円~5万円程度 | 検査費用、診察料、薬剤費などは別途。 |
| 自費診療 | 約10万円~30万円程度 | クリニックにより設定が大きく異なる。 |
※上記はあくまで目安です。実際の費用は、行う術式、保険適用の有無、各医療機関の設定によって異なります。必ず事前に確認してください。
他の治療法との比較
レーザー治療を検討する上で、他の主要な治療法とどのように違うのかを理解しておくことは重要です。
CPAP療法との違い
CPAP療法は、中等症以上のSASに対して非常に効果の高い治療法ですが、装置を毎晩装着し続ける「対症療法」です。
一方、レーザー治療は気道を広げる「外科的治療」であり、うまくいけば装置から解放される可能性があります。しかし、CPAPほどの確実な効果が全員に得られるとは限らず、適応も異なります。
マウスピース治療との違い
マウスピース治療も軽症から中等症が対象ですが、下あごを動かすことで気道を広げます。携帯性に優れ、外科的な処置も不要です。
レーザー治療は軟口蓋が主な原因の場合に選択され、マウスピースは下あごが小さい、または後退している場合に効果が出やすい傾向があります。どちらも効果には個人差があります。
外科的手術(口蓋扁桃摘出など)との違い
扁桃腺が著しく大きい場合は、レーザー治療(LAUPP)と同時に、あるいは優先して扁桃摘出術を行うことがあります。
扁桃摘出術はLAUPPよりも侵襲が大きく(体への負担が大きく)、入院が必要となることが一般的ですが、気道を広げる効果はより大きい場合があります。原因に応じて適切な術式を選択します。
代表的な治療法の比較(閉塞性SASの場合)
| 治療法 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| CPAP療法 | 効果が確実(特に中等症以上) | 毎晩の装着が必要。装置の違和感。 |
| マウスピース治療 | 携帯性が良い。比較的安価。 | 効果に個人差。あごの違和感。 |
| レーザー治療 | 日帰り可。装置不要の可能性。 | 術後の痛みが強い。後戻りの可能性。 |
よくある質問(Q&A)
最後に、レーザー治療に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- Q治療は痛いですか?
- A
治療中は局所麻酔を使用するため、強い痛みを感じることは少ないですが、熱感や押されるような感覚がある場合があります。
治療後、麻酔が切れてから1〜2週間程度、特に食事や飲み込みの際に強い喉の痛みを伴うことが一般的です。鎮痛剤を処方しますので、それで痛みをコントロールします。
- Q治療後すぐに効果は出ますか?
- A
A. 治療直後は、処置による腫れやむくみで、一時的にいびきが悪化したり、喉の違和感が強くなったりすることがあります。
腫れが引き、傷が治癒していくにつれて、徐々に気道が広がり効果を実感し始めます。多くの場合、効果が安定するまでには1ヶ月程度かかります。
- Q保険は適用されますか?
- A
睡眠時無呼吸症候群の診断がつき、医師が治療(LAUPPなど)の必要性を認めた場合は、保険適用となります。
ただし、単なる「いびき」の改善目的の場合や、検査結果が基準に満たない場合は自費診療となることもあります。詳細は受診するクリニックにご確認ください。
- Q誰でも治療を受けられますか?
- A
いいえ、誰でも受けられるわけではありません。
重症の睡眠時無呼吸症候群の方、肥満が著しい方、気道の狭窄原因が軟口蓋以外(舌根沈下など)にある方、あごの骨格に問題がある方などは、効果が出にくいか、適応外となる場合があります。
必ず専門医による診察と検査が必要です。
