「いびきが大きい」「日中に強い眠気がある」といった症状に心当たりはありませんか。もしかすると、睡眠時無呼吸症候群(SAS)かもしれません。

この病気は放置すると生活習慣病や心血管疾患のリスクを高めるため、早期発見が重要です。しかし、いきなり病院で精密な検査を受けるのはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。

そこで役立つのが、ご自宅で手軽に行える「簡易検査」です。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群の簡易検査の具体的な内容、診断の基準となるAHI(無呼吸低呼吸指数)、保険適用時の費用について詳しく解説します。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?いびきとの違い

睡眠時無呼吸症候群は、多くの方が悩んでいる「いびき」と深い関係があります。しかし、すべてのいびきが危険なわけではありません。

ここでは、病気としての睡眠時無呼吸症候群の基本と、注意すべきいびきの特徴について解説します。

睡眠中に呼吸が止まる病気

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)とは、その名の通り、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする状態を繰り返す病気です。

医学的には、10秒以上の呼吸停止を「無呼吸」、呼吸の換気量が50%以上低下する状態を「低呼吸」と定義します。この無呼吸や低呼吸が、1時間あたり5回以上認められる場合に診断されます。

呼吸が止まることで体内の酸素濃度が低下し、身体に大きな負担がかかります。この状態が毎晩続くことで、様々な健康上の問題を引き起こす原因となります。

いびきは危険信号のサイン

いびきは、空気の通り道である上気道が何らかの原因で狭くなり、そこを空気が通る際に粘膜が振動して鳴る音です。

特に、大きないびきが突然止まり、その後、あえぐような激しい呼吸とともに再びいびきが始まるような場合は注意が必要です。

これは、気道が完全にふさがって無呼吸状態に陥り、苦しくなって呼吸を再開しているサインと考えられます。単なるいびきと放置せず、睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑うことが大切です。

放置するリスクと合併症

睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、体に様々な悪影響を及ぼします。

睡眠中の低酸素状態は、心臓や血管に大きな負担をかけ、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中といった深刻な生活習慣病の発症リスクを高めます。

また、質の高い睡眠がとれないため、日中に強い眠気や集中力の低下が生じ、仕事中のミスや居眠り運転による交通事故の原因となることも少なくありません。


睡眠時無呼吸症候群のセルフチェック

チェック項目はいいいえ
家族やパートナーから大きないびきを指摘される
睡眠中に呼吸が止まっていると言われる
日中、我慢できないほどの眠気がある
朝起きたときに頭痛やだるさがある
集中力が続かない、記憶力が低下したと感じる

当てはまる項目が多いほど、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高まります。

自宅でできる睡眠時無呼吸症候群の簡易検査

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合、まずは自宅で手軽に行える簡易検査を検討します。

医療機関に入院して行う精密検査と比べて、心身の負担が少なく、普段通りの環境で睡眠の状態を調べられるのが特徴です。

簡易検査の目的と位置づけ

簡易検査は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高い人を見つけ出すためのスクリーニング(ふるい分け)検査です。

指や鼻にセンサーを取り付けるだけで、睡眠中の呼吸の状態や血液中の酸素濃度を測定できます。

この検査で異常が見つかった場合に、診断を確定させるためにより詳しい精密検査(PSG検査)へ進むのが一般的な流れです。

あくまで「簡易」的な検査であり、これだけで確定診断ができるわけではありませんが、治療が必要かどうかを判断する上で重要な手がかりを得られます。

指先で測定するパルスオキシメトリー

パルスオキシメトリーは、指先にクリップ状のセンサーを装着し、血液中の酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定する検査です。

呼吸が止まると体内の酸素濃度が低下するため、その変動パターンから無呼吸・低呼吸の状態を推定します。

非常に簡単な検査ですが、呼吸の努力やいびきの音などは記録できないため、得られる情報は限定的です。

鼻と指で測定するアプノモニター

アプノモニターは、パルスオキシメトリーの機能に加え、鼻に装着したカニューレ(チューブ)で気流(呼吸)の状態を直接測定する検査です。呼吸の有無や強弱をより正確に捉えることができます。

いびきの音や体の向き(体位)を記録できる機種もあり、パルスオキシメトリーよりも多くの情報を得られるため、現在の簡易検査ではこちらが主流となっています。


簡易検査のメリット・デメリット

項目内容
メリット自宅でリラックスして検査を受けられる
入院が不要で仕事や日常生活への影響が少ない
精密検査に比べて費用が安い
デメリット得られる情報が限定的で確定診断はできない
脳波を測定しないため、睡眠の質は評価できない
無呼吸のタイプ(閉塞性・中枢性)の判別は困難

簡易検査でわかることと検査の流れ

実際に簡易検査を受けることになった場合、どのような流れで進むのでしょうか。ここでは、検査機器の受け取りから返却、結果の確認までの具体的な手順を解説します。

検査機器の受け取りと準備

まず、医師の診察を受け、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合に簡易検査の実施が決まります。検査機器はクリニックで直接受け取るか、専門の業者から自宅へ郵送されます。

機器と一緒に、分かりやすい説明書が同封されているので、使用前に必ず内容を確認してください。機器は充電式のものが多いため、検査の前に十分に充電しておく必要があります。

自宅での検査機器の取り付け方

就寝前に、説明書に従って自分でセンサー類を体に装着します。

アプノモニターの場合、本体を手首に腕時計のように装着し、指先に酸素飽和度を測るセンサー、鼻に呼吸を検知するカニューレを取り付けます。

正しく装着しないと正確なデータが記録できないため、鏡を見ながら慎重に取り付けてください。装着が完了したら、機器の電源を入れて就寝します。

検査中の注意点

検査当日は、普段通りの生活を心がけてください。ただし、正確なデータを取るために、飲酒や睡眠薬の服用は控えるよう指示される場合があります。医師の指示に従ってください。

就寝中にセンサーが外れてしまうことがありますが、多くの機器は再装着すれば記録を継続できます。夜中に目覚めた際に、センサーが外れていないか確認するとよいでしょう。


簡易検査の基本的な流れ

手順内容ポイント
1. 診察医師が問診や診察を行い、検査の必要性を判断する。症状や生活習慣を正確に伝える。
2. 機器の受け取りクリニックまたは郵送で検査機器を受け取る。内容物と説明書を確認し、機器を充電する。
3. 自宅での検査就寝前に自分でセンサーを装着し、1~2晩検査を行う。説明書通りに正しく装着する。
4. 機器の返却クリニックに持参するか、郵送で返却する。全ての付属品を忘れずに返却する。
5. 結果説明後日、クリニックで医師から検査結果の説明を受ける。今後の治療方針について相談する。

検査機器の返却と結果の確認

通常、1晩から2晩の検査を行います。検査終了後、機器をクリニックに持参するか、送られてきた箱に入れて郵送で返却します。返却された機器のデータを専門家が解析し、レポートを作成します。

解析には1〜2週間程度の時間がかかります。後日、予約した日時に再度クリニックを受診し、医師から直接、検査結果についての詳しい説明を受けます。

睡眠時無呼吸症候群の診断基準「AHI(無呼吸低呼吸指数)」とは

簡易検査や精密検査の結果を評価する上で、最も重要な指標が「AHI(無呼吸低呼吸指数)」です。この数値によって、睡眠時無呼吸症候群の有無や重症度が判断されます。

AHIの計算方法

AHI(Apnea Hypopnea Index)は、睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数を示す数値です。

例えば、7時間の睡眠中に無呼吸と低呼吸が合計で70回あった場合、AHIは「70回 ÷ 7時間 = 10」となります。

この数値が高いほど、睡眠中に呼吸が頻繁に乱れていることを意味し、重症度が高いと判断されます。

AHIの数値でわかる重症度分類

AHIの数値に基づいて、睡眠時無呼吸症候群の重症度は「正常」「軽症」「中等症」「重症」に分類されます。この分類は、治療方針を決定する上で重要な基準となります。

特に、AHIが20以上で日中の眠気などの症状がある場合は、CPAP(シーパップ)療法という治療の保険適用となります。


AHIによる重症度分類

AHI (回/時間)重症度状態の目安
5未満正常治療の必要はないと判断されることが多い。
5以上 15未満軽症生活習慣の改善やマウスピースによる治療を検討。
15以上 30未満中等症CPAP療法などの積極的な治療を検討。
30以上重症合併症リスクが高く、CPAP療法が強く推奨される。

簡易検査におけるAHIの限界

簡易検査で算出されるAHIは、脳波を測定していないため、実際に眠っていた時間ではなく、検査機器が作動していた時間で計算されます。

このため、実際の睡眠時間で計算する精密検査のAHIよりも、数値が低く出る傾向があります。簡易検査で軽症と判断されても、精密検査を行うと中等症以上と診断されるケースも少なくありません。

簡易検査の結果はあくまで目安と捉えることが重要です。

その他の重要な指標

AHIの他にも、睡眠中の体の状態を示すいくつかの指標があります。特に重要なのが、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)です。無呼吸の間は酸素が取り込まれないため、この数値が低下します。

健康な人の睡眠中のSpO2は96%以上を保ちますが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、90%を下回ることも珍しくありません。酸素飽和度の最低値や低下の頻度も、重症度を判断する上で参考にします。


SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の目安

SpO2の値状態
96~99%正常
90%未満呼吸不全の可能性があり、体に負担がかかっている状態。

簡易検査にかかる費用と保険適用について

睡眠時無呼吸症候群の検査や治療を検討する際、費用は気になる点の一つでしょう。ここでは、簡易検査を中心に、保険適用時の費用について解説します。

簡易検査の費用(保険適用の場合)

睡眠時無呼吸症候群を疑う症状(いびき、日中の眠気など)があり、医師が必要と判断した場合は、簡易検査に健康保険が適用されます。

保険適用時の自己負担額は、加入している保険の種類(負担割合)によって異なりますが、3割負担の場合、一般的に3,000円から4,000円程度です。

この費用には、機器のレンタル料、データの解析料、医師の診断料が含まれます。


簡易検査の費用目安(3割負担)

検査項目自己負担額の目安
簡易検査(アプノモニターなど)約3,000円 ~ 4,000円

※上記はあくまで目安であり、初診料や再診料、その他に行う検査によって変動します。

保険適用を受けるための条件

簡易検査に保険を適用するためには、医師による診察が前提となります。問診や視診の結果、医師が睡眠時無呼吸症候群を疑い、検査が必要であると判断した場合に保険が適用されます。

自己判断で市販の検査キットを使用したり、医療機関を介さずに検査を受けたりした場合は、保険適用外となり全額自己負担となるため注意が必要です。

精密検査や治療にかかる費用

簡易検査の結果、さらに詳しい検査が必要と判断された場合、入院による精密検査(PSG検査)を行います。

この検査も保険適用となり、3割負担の場合の費用は25,000円から50,000円程度です(入院費などを含む)。診断が確定し、CPAP療法を開始する場合、治療も保険適用となります。

CPAP療法は毎月の定期的な受診が必要で、3割負担の場合、月々の自己負担額は約4,500円程度です。


CPAP治療の費用目安(3割負担・月額)

項目自己負担額の目安
CPAP療法(機器レンタル・管理料・診察料)約4,500円/月

簡易検査の結果が出たら?精密検査(PSG検査)への移行

簡易検査は、あくまでスクリーニング検査です。その結果を受けて、次にどうするべきかを医師と相談することが重要になります。

ここでは、検査結果の解釈から精密検査、そして治療への流れを解説します。

検査結果の解釈と医師からの説明

検査データの解析後、医師からAHIの数値や睡眠中の酸素飽和度の変動などについて詳しい説明を受けます。

この結果をもとに、睡眠時無呼吸症候群の可能性がどの程度あるのか、重症度はどのくらいかを評価します。

たとえAHIの数値が低くても、いびきが頻繁であったり、酸素飽和度の低下が著しかったりする場合には、精密検査を勧められることがあります。

精密検査(PSG検査)が必要になるケース

簡易検査の結果、中等症以上(AHIが15以上など、基準は医療機関による)と判断された場合や、軽症であっても症状が強い場合、また他の睡眠障害が疑われる場合には、確定診断のために精密検査(PSG検査)を勧めます。

  • 簡易検査でAHIの数値が高い場合
  • 簡易検査の結果と自覚症状に乖離がある場合
  • 無呼吸のタイプ(閉塞性か中枢性か)を判別する必要がある場合

精密検査(ポリソムノグラフィー検査)とは

精密検査であるポリソムノグラフィー検査(PSG検査)は、通常、1泊入院して行います。簡易検査で測定する項目に加えて、脳波、眼球の動き、心電図、筋電図など、より多くの生体情報を記録します。

この検査により、実際の睡眠時間や睡眠の深さ、睡眠の質を正確に評価でき、睡眠時無呼吸症候群の確定診断が可能です。

また、無呼吸のタイプや、むずむず脚症候群など他の睡眠障害の有無も調べることができます。

診断後の治療法

精密検査の結果、睡眠時無呼吸症候群と確定診断された場合、重症度や患者さん一人ひとりの状態に合わせて治療方針を決定します。

治療法にはいくつかの選択肢があり、医師と相談しながら最適な方法を選びます。

  • CPAP(持続陽圧呼吸)療法
  • マウスピース(口腔内装置)
  • 生活習慣の改善(減量、禁酒、睡眠姿勢の工夫など)
  • 外科手術(耳鼻咽喉科的治療)

中等症から重症の患者さんには、CPAP療法が最も標準的で効果の高い治療法として選択されることが一般的です。

検査や治療を受けるクリニックの選び方

睡眠時無呼吸症候群の検査や治療は、長く付き合っていくものです。そのため、信頼できるクリニックを選ぶことが非常に重要です。

ここでは、クリニック選びの際に確認したいポイントをいくつか紹介します。

睡眠医療に関する専門知識

睡眠時無呼吸症候群は、呼吸器内科、循環器内科、耳鼻咽喉科、精神科など、複数の診療科が関わる疾患です。

日本睡眠学会の専門医や認定医など、睡眠医療に関する専門的な知識と経験を持つ医師が在籍しているクリニックを選ぶと安心です。

専門医は、診断だけでなく、合併症の管理や長期的な治療計画についても的確なアドバイスを提供してくれます。

検査設備と治療法の選択肢

簡易検査だけでなく、必要に応じて精密検査(自院での実施または連携施設への紹介)が可能な体制が整っているかを確認しましょう。

また、治療法に関しても、CPAP療法だけでなく、マウスピースの作成が可能な歯科と連携しているか、生活習慣改善の指導を丁寧に行っているかなど、幅広い選択肢を提示してくれるクリニックが望ましいです。

このことにより、個々の患者さんに合った治療法を見つけやすくなります。

通いやすさと継続的なサポート体制

特にCPAP療法を行う場合、月に1回の通院が基本となります。そのため、自宅や職場からアクセスしやすく、無理なく通い続けられる立地であることは重要なポイントです。

また、治療に関する不安や疑問にいつでも相談に乗ってくれる、看護師や臨床工学技士などのスタッフによるサポート体制が整っているかも確認しておくと、安心して治療を継続できます。

  • 日本睡眠学会の専門医・認定医が在籍しているか
  • 精密検査まで対応できる体制か
  • CPAP以外の治療選択肢(マウスピース連携など)があるか
  • 定期的に通院しやすい場所にあるか

睡眠時無呼吸症候群の簡易検査に関するよくある質問

Q
検査は苦しいですか?痛みはありますか?
A

簡易検査は体にセンサーを取り付けるだけで、痛みや苦しさを伴うことはありません。センサーも小型で軽量なため、多くの方は装着したまま普段通りに眠ることができます。

ただし、鼻にチューブを装着するため、多少の違和感を覚える方はいらっしゃいます。ほとんどの場合、眠ってしまえば気にならなくなります。

Q
検査の日はお酒を飲んでも大丈夫ですか?
A

アルコールは筋肉を弛緩させる作用があり、いびきや無呼吸を悪化させる可能性があります。正確なデータを測定するために、検査当日の飲酒は控えてください。

また、睡眠薬や精神安定剤などを常用している場合は、自己判断で中断せず、事前に必ず医師に相談し、指示を仰いでください。

Q
自分で購入した機器での測定結果は診断に使えますか?
A

現在はスマートフォンアプリと連携するデバイスなど、個人で購入できる測定機器もあります。

これらはご自身の睡眠状態を知る上での参考にはなりますが、医療機器として国から承認されていないものが多く、そのデータを用いて医師が診断を下したり、保険診療の治療を開始したりすることはできません。

正確な診断と適切な治療のためには、必ず医療機関で保険適用の検査を受けてください。

Q
子供でも簡易検査を受けられますか?
A

子供のいびきや無呼吸にも簡易検査を行うことは可能です。しかし、子供の場合はアデノイドや扁桃肥大が原因であることが多く、大人とは検査や治療のアプローチが異なります。

センサーの装着を嫌がってしまうこともあります。お子さんのいびきや無呼吸が気になる場合は、まずは小児科や耳鼻咽喉科の医師に相談することをお勧めします。

参考にした論文