「いびきは男性の悩み」と思っていませんか?実はいびきに悩む女性は少なくありません。

女性のいびきは男性とは異なり、ホルモンバランスの変化や骨格的な特徴が大きく影響します。特に更年期以降に急増することから、多くの女性が誰にも相談できずに悩んでいます。

この記事では女性特有のいびきの原因を深掘りし、ライフステージに合わせた具体的な改善法や専門的な治療について詳しく解説します。

健やかで静かな毎日を取り戻すためのヒントがここにあります。

女性のいびきはなぜ起こる?男性との違い

いびきは空気の通り道である「上気道」が狭くなることで起こりますが、その原因には男女差があります。

女性ならではの体の特徴や変化が、いびきを引き起こす要因となるのです。

女性ホルモンの役割と影響

女性ホルモンの一つであるプロゲステロンには上気道を開く働きを持つ筋肉(開大筋)の活動を活発にする作用があります。若い頃にいびきをかきにくいのは、このホルモンが気道の確保を助けているためです。

しかしこのホルモンが減少すると筋肉の働きが弱まり、気道が狭くなりやすくなります。

顎の小ささと骨格的な特徴

一般的に、女性は男性に比べて顎が小さく、気道も細い傾向にあります。もともと気道に余裕が少ないため、少しの体重増加や筋力の低下でも、いびきにつながりやすいという特徴があります。

男女のいびきの主な原因比較

要因女性男性
ホルモンホルモン減少による筋力低下が大きく影響影響は比較的少ない
骨格顎が小さく、気道が元々狭い傾向比較的気道が広い
肥満内臓脂肪より皮下脂肪がつきやすい首周りの脂肪(内臓脂肪)がつきやすい

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の見逃されやすさ

女性の睡眠時無呼吸症候群は男性のような大きないびきや典型的な無呼吸が目立たないことがあります。

そのため日中の眠気や疲労感といった症状があっても更年期障害や単なる疲れと自己判断してしまい、診断が遅れるケースが少なくありません。

ライフステージ別に見る女性のいびきの原因

女性の体は年代によってホルモンバランスが大きく変動します。その変化に伴い、いびきをかきやすくなる特定の時期があります。

妊娠中のいびき

妊娠中は体重の増加に加え、ホルモンバランスの変化や血液量の増加により鼻の粘膜がむくみやすくなります(妊娠性鼻炎)。

この鼻づまりが原因で口呼吸になり、いびきをかくことがあります。多くは出産後に改善します。

更年期といびきの深刻な関係

閉経を迎える更年期は女性のいびきが最も増える時期です。気道の筋力を維持していた女性ホルモンが急激に減少するため、上気道が狭くなりやすくなります。

さらにこの時期は内臓脂肪もつきやすくなるため、いびきや睡眠時無呼吸症候群のリスクが格段に高まります。

女性ホルモンの減少がもたらす変化

変化いびきへの影響
上気道開大筋の筋力低下気道が狭くなり、閉塞しやすくなる
内臓脂肪の増加首周りの脂肪が気道を圧迫する
自律神経の乱れ睡眠の質が低下し、症状を悪化させる

加齢による筋力の全体的な低下

更年期以降も加齢とともに全身の筋力は低下していきます。

喉や舌を支える筋肉も例外ではなく、年を重ねるごとに気道は狭くなりやすいため、いびきはより深刻になる可能性があります。

今日から始められる女性のためのいびき改善法

女性特有の原因を踏まえた上で日常生活で取り組めるいびきの改善法を紹介します。継続することで症状の軽減が期待できます。

寝具と睡眠環境の最適化

横向き寝は舌の落ち込みを防ぎ、気道を確保するのに最も効果的な寝姿勢です。

抱き枕やクッションを活用して自然に横向きをキープできるように工夫しましょう。また、自分に合った高さの枕を選ぶことも重要です。

口周りの筋肉を保つトレーニング

ホルモン減少による筋力低下を補うために意識的に口や舌の筋肉を鍛えることが有効です。

「あいうべ体操」などを毎日の習慣に取り入れ、舌を正しい位置に保つ筋力を維持しましょう。

おすすめのセルフケア

対策目的ポイント
横向き寝気道の確保抱き枕の活用が効果的
口・舌の体操筋力低下の抑制毎日続けることが大切
加湿鼻や喉の乾燥防止寝室の湿度を50~60%に保つ

体を温め、血行を促進する

女性は冷え性の方も多く、体が冷えると鼻づまりが悪化したり眠りが浅くなったりします。

就寝前にぬるめのお風呂にゆっくり浸かるなどして体を温め、リラックスすることで質の良い睡眠につながります。

いびき改善につながる食生活と栄養素

体重管理はもちろんのこと、女性ホルモンと似た働きをする栄養素を意識的に摂取することも、いびき対策の一つとして考えられます。

大豆製品でイソフラボンを摂取

大豆に含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンと似た構造を持ち、体内で似たような働きをします。

ホルモンバランスの乱れが気になる方は豆腐や納豆、豆乳などを日々の食事に積極的に取り入れると良いでしょう。

体重管理のための食事のポイント

特に更年期以降は基礎代謝が落ち、太りやすくなります。

高タンパク・低脂肪の食事を基本とし、食物繊維を多く含む野菜やきのこ類をしっかり摂ることで満腹感を得ながらカロリーをコントロールしやすくなります。

体重管理に役立つ食事の工夫

工夫期待できる効果
高タンパクな食材を選ぶ(鶏胸肉、魚など)筋肉量を維持し、代謝の低下を防ぐ
食物繊維を多く摂る(野菜、海藻など)血糖値の急上昇を抑え、満腹感を持続させる
よく噛んで食べる食べ過ぎを防ぎ、消化を助ける

専門医に相談すべき危険ないびきのサイン

セルフケアを続けても改善しない場合や特定の症状が見られる場合は、専門の医療機関を受診することが重要です。

見過ごされがちな女性の睡眠時無呼吸症候群のサインを知っておきましょう。

女性に見られやすいSASの症状

女性のSASは典型的な無呼吸よりも、以下のような一見すると睡眠とは関係なさそうな不調として現れることがあります。

  • 朝の頭痛
  • 日中の慢性的な疲労感や倦怠感
  • 気分の落ち込み、うつ症状
  • 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)

家族からの指摘が重要な手がかり

自分では気づきにくい睡眠中の呼吸の状態はパートナーや家族からの指摘が最も重要な情報源です。

「いびきの間に呼吸が止まっているよ」と言われたら、ためらわずに受診を検討してください。

受診を推奨する症状リスト

症状考えられる背景
日中の強い眠気・疲労感睡眠の質の著しい低下
起床時の頭痛睡眠中の低酸素状態
呼吸の停止を指摘された睡眠時無呼吸症候群の強い疑い

女性のいびき・無呼吸に対する専門的な治療法

医療機関では検査によっていびきの原因と重症度を正確に診断し、一人ひとりに合った治療法を提案します。

まずは検査で現状を把握

自宅で手軽にできる簡易検査や、病院に一泊して行う精密検査(PSG検査)で、睡眠中の呼吸の状態を詳しく調べます。

この検査結果に基づいて治療方針が決定されます。

マウスピース(スリープスプリント)治療

軽度から中等度のSASと診断された場合に有効な治療法です。

歯科医院で作製した専用のマウスピースを装着して寝ることで下顎を前方に移動させ、気道を広げます。手軽で持ち運びにも便利です。

CPAP(シーパップ)療法

中等症から重症のSASに対する標準的な治療法です。

鼻に装着したマスクから圧力をかけた空気を送り込み、気道が塞がるのを物理的に防ぎます。いびきや無呼吸を確実に止める効果があります。

主な治療法の選択肢

治療法主な対象特徴
マウスピース軽症~中等症SAS、いびき症手軽、保険適用(条件あり)
CPAP療法中等症~重症SAS効果が高い、保険適用

女性のいびきに特化したよくある質問

女性のいびきについて、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
美容クリニックのいびきレーザー治療は効果がありますか?
A

レーザーで喉の粘膜を引き締める治療は、一部の方には効果が見られる場合があります。

しかし、主に軟口蓋のたるみが原因の軽度のいびきに限られ、舌根の沈下や肥満が原因の場合は効果が期待しにくいです。また、自由診療で費用も高額になります。

まずは保険診療で原因を正確に調べることが重要です。

Q
パートナーにいびきを指摘されました。どうすればいいですか?
A

まずはいびきをかくことは恥ずかしいことではないと受け止めてください。そして、この記事で紹介したセルフケアを試してみましょう。

それでも改善しない場合や呼吸が止まっているなどの指摘があれば、それは体からの重要なサインです。勇気を出して専門のクリニックに相談してみてください。

Q
婦人科と睡眠外来、どちらに先に相談すべきですか?
A

いびきに加えて、ほてりや気分の落ち込みなど明らかな更年期症状がある場合は、まず婦人科に相談するのも良いでしょう。

しかし、いびきや日中の眠気が主症状であれば、耳鼻咽喉科や呼吸器内科などの睡眠外来を直接受診することをお勧めします。

必要に応じて両方の科が連携して治療にあたることもあります。

以上

参考にした論文

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