「いびきが大きい」「日中の眠気がひどい」といった症状に心当たりはありませんか?
それは睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインかもしれません。SASは放置すると様々な健康リスクを高めるため、早期の診断と治療が重要です。
診断のためにはいくつかの検査方法がありますが、大きく分けて自宅で行う簡易検査と医療機関で行う精密検査があります。
この記事ではそれぞれの検査方法の特徴や違い、どちらの検査を選ぶべきかについて詳しく解説します。ご自身の症状に合わせた適切な検査選びの参考にしてください。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に呼吸が止まったり、浅くなったりすることを繰り返す病気です。この症状によって体内の酸素濃度が低下し、脳や体に負担がかかります。
自覚症状としては大きないびきや日中の強い眠気がよく知られていますが、ご自身では気づきにくい場合も多くあります。
放置するとどうなる
SASを放置すると高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などの生活習慣病や循環器疾患のリスクが大幅に高まります。
また、日中の眠気による集中力低下は交通事故や労働災害の原因となる可能性もあります。
健康な生活を送る上でSASの早期発見と適切な治療は非常に重要です。
診断の重要性
SASの正確な診断は適切な治療法を選択するために欠かせません。
診断によって無呼吸や低呼吸の頻度、睡眠中の酸素レベル、睡眠の質などを詳細に把握できます。
これらの情報に基づき、患者さん一人ひとりに合った治療計画を立てられます。
診断検査の種類を知る
睡眠時無呼吸症候群の診断に用いられる検査にはいくつかの種類があります。どの検査を行うかは、まず問診で症状や既往歴などを詳しく伺った上で決定します。
主な検査方法は自宅で行う簡易検査と医療機関で行う精密検査(PSG検査)です。
主な検査方法
SASの診断には、睡眠中の呼吸状態や体の動きを記録する検査が必要です。これらの検査は、睡眠の専門的な医療機関で受けられます。症状の程度や疑われる病態に応じて、適切な検査が選択されます。
自宅検査と医療機関検査
自宅検査はご自身の寝室で手軽に行える検査です。一方、医療機関検査は専門の検査室に一泊して行うより詳細な検査です。
それぞれの検査には特徴があり、得られる情報や負担が異なります。
自宅検査と医療機関検査の比較
項目 | 自宅検査(簡易検査) | 医療機関検査(PSG検査) |
---|---|---|
場所 | 自宅 | 医療機関の検査室 |
測定項目 | 呼吸、酸素飽和度など | 呼吸、酸素飽和度、脳波、眼球運動、筋電図など |
精度 | 簡易的 | より詳細 |
自宅で行う簡易検査(アプノモニター)
自宅で行う簡易検査はパルスオキシメーターや呼吸センサーなどの機器をご自宅に持ち帰り、ご自身で装着して一晩眠る検査です。
この検査はスクリーニングを目的としており、SASの可能性が高いかどうかを判断するために行われます。
検査の流れ
簡易検査は、まずクリニックで検査機器を受け取り、使用方法の説明を受けます。
その日の夜、ご自宅で就寝前に機器を装着し、普段通りに眠ります。翌朝、機器を取り外してクリニックに返却します。
検査でわかること
簡易検査では主に睡眠中の呼吸の状態と血中酸素飽和度を測定します。
- 無呼吸や低呼吸の回数
- いびきの状態
- 血中酸素飽和度の変化
これらのデータからAHI(無呼吸低呼吸指数)などが算出され、SASの重症度の目安を把握できます。
自宅検査の利点と注意点
自宅検査の大きな利点は、ご自身の慣れた環境でリラックスして検査を受けられることです。このような環境づくりをすると普段の睡眠状態に近いデータを取得しやすいと言えます。
また、医療機関に宿泊する必要がないため、時間的な制約が少ないのも特徴です。
自宅検査の利点
利点 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
手軽さ | 自宅で検査できる | 医療機関への宿泊不要 |
普段通り | 慣れた環境で眠れる | より自然なデータが得やすい |
時間 | 比較的短時間で済む | 機器の受け渡しと返却 |
ただし、簡易検査は測定項目が限られているため、SAS以外の睡眠障害の診断はできません。
また、機器の装着方法が適切でない場合、正確なデータが得られない可能性もあります。
医療機関で行う精密検査(PSG検査)
精密検査であるポリソムノグラフィー(PSG検査)は睡眠の専門施設に一泊して行う検査です。簡易検査よりも多くの項目を同時に測定し、睡眠の状態をより詳細に評価します。
SASの確定診断や重症度の正確な評価には、このPSG検査が必要です。
検査の流れ
PSG検査は、夕方に医療機関を訪れ、検査室に宿泊します。就寝前に、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、血中酸素飽和度、いびき、体の動きなどを測定するためのセンサーを体に装着します。一晩眠った後、翌朝センサーを取り外し、帰宅となります。
検査でわかること
PSG検査では睡眠の深さ(睡眠段階)、睡眠の分断、無呼吸や低呼吸の回数と種類、それに伴う酸素飽和度の低下、不整脈の有無、周期性四肢運動など多岐にわたる情報を得られます。
PSG検査で測定する主な項目
項目 | 内容 | 関連情報 |
---|---|---|
脳波 | 睡眠段階 | 睡眠の質 |
呼吸 | 無呼吸・低呼吸 | SASの有無と重症度 |
血中酸素飽和度 | 酸素レベルの変化 | 体への負担 |
眼球運動 | レム睡眠 | 夢を見ている睡眠 |
筋電図 | 体の動き | 周期性四肢運動など |
これらの詳細なデータに基づいてSASの診断を確定し、その重症度を正確に評価します。
また、SAS以外のナルコレプシーやむずむず脚症候群といった他の睡眠障害の合併も診断できます。
PSG検査の重要性
PSG検査はSASの確定診断と適切な治療法を選択する上で非常に重要です。簡易検査でSASが疑われた場合や、より詳細な睡眠の状態を知る必要がある場合に行われます。
多角的な視点から睡眠を評価することで、患者さんの状態に合わせたきめ細やかな治療計画を立てられます。
自宅検査と医療機関検査の比較
自宅検査と医療機関検査はそれぞれ異なる特徴を持っています。どちらの検査が適切かは患者さんの症状や状況によって異なります。
ここでは両者の違いを様々な側面から比較します。
検査項目の違い
最も大きな違いは測定する項目の数です。
測定項目の違い
検査 | 主な測定項目 | 詳細度 |
---|---|---|
自宅検査 | 呼吸、酸素飽和度、いびき | 限定的 |
医療機関検査 | 脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、酸素飽和度、いびき、体位など | 広範囲 |
自宅検査はSASのスクリーニングに特化しているのに対し、医療機関検査は睡眠全体の質や他の睡眠障害の有無も評価できます。
診断の精度
診断の精度においても医療機関検査の方が優れています。PSG検査は睡眠の専門家が詳細なデータを分析するため、SASの確定診断や重症度の評価をより正確に行えます。
簡易検査でSASが疑われた場合でも、治療方針を決定するためにPSG検査が必要となるケースが多くあります。
費用と負担
費用や患者さんの負担も異なります。一般的に自宅検査の方が費用は安く、ご自宅で手軽に行えるため身体的な負担も少ないと言えます。
一方、医療機関検査は専門施設での宿泊が必要となり、センサーの装着などもあるため、自宅検査に比べて費用や負担は大きくなります。
費用と負担の比較
検査 | 費用 | 身体的負担 |
---|---|---|
自宅検査 | 比較的安い | 少ない(自宅で実施) |
医療機関検査 | 自宅検査より高い | 自宅検査より大きい(施設宿泊、センサー装着) |
どちらの検査を選ぶべきか
自宅検査と医療機関検査のどちらを選ぶべきかは、現在の症状や医師の判断によります。
はじめは簡易的な自宅検査から始めるケースが多いですが、より詳細な情報が必要な場合や他の睡眠障害が疑われる場合は精密検査が推奨されます。
まずは簡易検査から
いびきや日中の眠気などSASが疑われる初期の段階では、まず自宅で手軽に行える簡易検査が選択されることが一般的です。
簡易検査でSASの可能性が高いと判断された場合に、より詳しいPSG検査に進むという流れになります。
精密検査が必要な場合
以下のような場合には最初から精密検査(PSG検査)が必要となることがあります。
- 簡易検査で十分なデータが得られなかった場合
- 簡易検査の結果と症状が一致しない場合
- SAS以外の睡眠障害が強く疑われる場合
- SASの重症度を正確に評価し、適切な治療法(CPAP療法など)を選択する必要がある場合
医師との相談が大切
ご自身の症状や状況に合った最適な検査方法を選択するためには、医師との十分な相談が大切です。
問診で詳しくお話を伺い、簡易検査で得られたデータなどを踏まえ、一人ひとりに合った検査計画を提案します。疑問や不安があれば遠慮なく医師に質問してください。
検査後の診断と治療
検査の結果が出たら医師から診断結果の説明を受けます。
診断された場合は、その重症度や患者さんの状態に応じた治療法が提案されます。SASの治療にはいくつかの選択肢があります。
診断結果の見方
検査結果では、AHI(無呼吸低呼吸指数)などが重要な指標となります。AHIは1時間あたりの無呼吸および低呼吸の合計回数を示し、この数値によってSASの重症度が軽症、中等症、重症に分類されます。
医師がこれらの数値を分かりやすく説明し、診断を伝えます。
SAS重症度の目安(AHI)
重症度 | AHI | 備考 |
---|---|---|
軽症 | 5回以上15回未満 | 注意が必要 |
中等症 | 15回以上30回未満 | 治療を検討 |
重症 | 30回以上 | 積極的な治療が必要 |
主な治療法
SASの主な治療法には以下のようなものがあります。
- CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
- マウスピース(口腔内装置)
- 外科的治療
- 生活習慣の改善(減量、禁煙、飲酒制限など)
重症度や原因に応じてこれらの治療法が単独あるいは組み合わせて行われます。CPAP療法は中等症から重症のSASに対して最も効果的な治療法として広く行われています。
クリニックでのサポート
当クリニックではSASの診断から治療、そして継続的なサポートまで一貫して提供しています。
検査結果に基づき患者さんにとって最適な治療法を提案し、治療開始後も定期的な診察や機器のメンテナンスを通じて安心して治療を続けられるようサポートします。
SASに関するご不安やご質問があればいつでもご相談ください。
よくある質問
検査は痛いですか?
睡眠時無呼吸症候群の診断検査は基本的に痛みを伴いません。簡易検査もPSG検査も体にセンサーなどを装着して睡眠中のデータを記録するものです。
センサーの装着時に多少の違和感があるかもしれませんが、痛みを感じることはありません。安心して検査を受けていただけます。
検査費用はどのくらいですか?
検査費用は簡易検査かPSG検査か、また医療機関によって異なります。健康保険が適用される検査ですので自己負担額は保険の種類によって変わります。
具体的な費用については受診時にクリニックのスタッフにお尋ねください。
検査結果はいつわかりますか?
検査結果が出るまでの期間は検査の種類や医療機関によりますが、通常は検査を受けてから数日から1週間程度で結果が出ます。
結果が出次第、改めて受診していただき、医師から詳しい説明があります。
治療は保険適用されますか?
睡眠時無呼吸症候群の診断に基づき行われる治療の多くは健康保険が適用されます。特にCPAP療法やマウスピース治療は保険適用となる場合がほとんどです。
ただし、保険適用には一定の条件がありますので、詳細は医師にご確認ください。
以上
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