「いびきがうるさいと言われる」「日中の眠気がひどい」それは睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインかもしれません。
SASの代表的な治療法であるCPAP(シーパップ)治療を始めるには、まず専門の医療機関を受診し、適切な検査を受ける必要があります。
しかしCPAP治療は何科にかかれば良いのか、どんな検査をするのか、保険は使えるのか、など疑問も多いでしょう。
この記事ではCPAP治療の受診先から検査内容、CPAPの適応基準、保険適応の条件まで患者さんが知りたい情報を網羅的に解説します。正しい知識を得て適切な治療への第一歩を踏み出しましょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインと受診の目安
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。放置すると様々な健康リスクを高めるため、早期発見・早期治療が大切です。
どのような症状があれば受診を考えるべきか、CPAP 何 科を受診する前に確認しましょう。
代表的な自覚症状
以下のような症状が複数当てはまる場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
- 大きないびきをかく、または家族から指摘される
- 睡眠中に呼吸が止まっていると指摘される
- 日中に強い眠気を感じる、居眠りしてしまう
- 朝起きた時に頭痛がする、熟睡感がない
- 集中力や記憶力の低下を感じる
家族やパートナーからの指摘
睡眠中のいびきや無呼吸は本人が気づきにくい症状です。家族やベッドパートナーからの指摘は受診の重要なきっかけとなります。
「いびきが急に大きくなった」「時々息が止まっているようで心配」といった声があれば、一度専門医に相談することを勧めます。
セルフチェックと受診勧奨
睡眠時無呼吸症候群の簡易的なセルフチェックツールもインターネットなどで見つけることができます。
これらのチェックでリスクが高いと判定された場合や上記のような自覚症状、他覚症状がある場合は専門の医療機関への受診を考えましょう。
CPAP 検査を受けることではっきりとした診断がつきます。
主なSASリスク因子
カテゴリ | リスク因子 | 関連性 |
---|---|---|
体型 | 肥満(特に首周りの脂肪) | 気道の狭窄 |
骨格 | 顎が小さい、下顎が後退している | 気道が構造的に狭い |
生活習慣 | 喫煙、多量の飲酒 | 上気道の炎症・筋弛緩 |
CPAP治療の相談ができる主な診療科
睡眠時無呼吸症候群の診断とCPAP治療は専門的な知識を持つ医師が行います。CPAP 何 科を受診すればよいか主な診療科を紹介します。
呼吸器内科
呼吸器内科は肺や気管支など呼吸器全般の病気を専門とする診療科です。
睡眠時無呼吸症候群も呼吸に関わる疾患であるため、多くの呼吸器内科で診断・治療を行っています。CPAPの導入や管理に精通した医師が在籍していることが多いです。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は鼻や喉(上気道)の病気を専門とします。いびきや無呼吸の原因が扁桃肥大や鼻中隔弯曲症など、鼻や喉の形態的な問題である場合も少なくありません。
これらの問題を診断し、必要に応じて外科的治療も検討できるのが耳鼻咽喉科の特徴です。CPAP 検査と並行して上気道の評価も行います。
循環器内科・内科
睡眠時無呼吸症候群は高血圧や心臓病などの循環器疾患と深く関連しています。そのため循環器内科や一般内科でも睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングや治療を行っている医療機関があります。
特に生活習慣病の管理と合わせてSASの治療を考える場合に相談しやすいでしょう。
診療科ごとの特徴と主な対応範囲
診療科 | 主な特徴 | SASへの対応 |
---|---|---|
呼吸器内科 | 呼吸器疾患全般の専門 | SAS診断、CPAP導入・管理 |
耳鼻咽喉科 | 鼻・喉の専門、外科的治療も | 上気道評価、SAS診断、CPAP導入 |
循環器内科・内科 | 生活習慣病との関連を重視 | SASスクリーニング、CPAP導入連携 |
睡眠専門クリニック・いびき外来
近年では睡眠医療を専門とするクリニックや、いびき・睡眠時無呼吸に特化した外来を設けている医療機関も増えています。
これらの施設では睡眠に関する専門的な知識を持つ医師や技師が在籍し、より詳細な検査や多角的な治療アプローチを提供しています。
CPAPにつて何科で診察を受けるか迷ったら、こうした専門施設を検討するのも良いでしょう。
CPAP治療の検査内容と流れ
CPAP治療を開始する前には睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度の評価が必要です。そのためにいくつかのCPAP 検査を行います。
初診時の問診と診察
まず、医師が患者さんの自覚症状、既往歴、生活習慣などを詳しく問診します。いびきや無呼吸の状況、日中の眠気の程度、睡眠時間などを具体的に伝えます。
その後、体重測定、血圧測定、口腔内や鼻腔内の視診など身体診察を行います。
簡易検査(アプノモニター、簡易PSG)
自宅で行える簡単な検査です。手の指や鼻の下にセンサーを取り付けた小型の装置を就寝中に装着し、呼吸の状態や血液中の酸素飽和度などを記録します。
この検査で睡眠時無呼吸症候群の疑いが強いと判断された場合や中等症以上が疑われる場合に、さらに精密検査に進むことがあります。CPAP検査の第一歩として広く行われています。
簡易検査で測定する主な項目
- 呼吸の気流(鼻や口からの空気の流れ)
- いびきの音
- 血液中の酸素飽和度(SpO2)
- 脈拍数
精密検査(睡眠ポリグラフ検査:PSG)
睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度判定のために行う最も詳細な検査です。通常、医療機関に1泊入院して行います。
脳波、眼球運動、心電図、筋電図、呼吸、血液中の酸素飽和度など多くのセンサーを身体に取り付けて睡眠中の状態を総合的に記録・解析します。
この検査結果がCPAP 適応の判断に重要な役割を果たします。
PSG検査で評価する主な睡眠指標
指標 | 内容 | SAS診断における意義 |
---|---|---|
AHI(無呼吸低呼吸指数) | 1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数 | SASの重症度分類の基本 |
睡眠効率 | 実際の睡眠時間 ÷ 床に入っていた時間 | 睡眠の質の評価 |
最低SpO2 | 睡眠中の血液中酸素飽和度の最低値 | 低酸素状態の程度の評価 |
検査結果の説明と治療方針の決定
簡易検査や精密検査の結果が出たら医師から詳しい説明を受けます。
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、その重症度や他の合併症の有無などを考慮して、CPAP治療を含む今後の治療方針を決定します。
CPAP 適応 基準を満たしていれば、CPAP療法の具体的な説明があります。
CPAP治療の適応基準
CPAP治療は全ての睡眠時無呼吸症候群の患者さんに行われるわけではありません。一定のCPAP 適応 基準を満たす場合に推奨されます。
AHI(無呼吸低呼吸指数)による重症度分類
睡眠時無呼吸症候群の重症度は主にPSG検査で測定されるAHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)によって分類します。
AHIは睡眠1時間あたりの無呼吸(10秒以上の呼吸停止)と低呼吸(呼吸量が半分以下になり、酸素飽和度が低下する状態)の合計回数を示します。
AHIによるSAS重症度
重症度 | AHI (回/時) |
---|---|
軽症 | 5以上15未満 |
中等症 | 15以上30未満 |
重症 | 30以上 |
このAHIの値がCPAP 適応 基準の重要な指標となります。
CPAP治療が推奨される主なケース
一般的に中等症以上(AHIが15回/時以上)の睡眠時無呼吸症候群の患者さんにはCPAP治療が第一選択として推奨されます。
また、軽症(AHIが5以上15未満)であっても日中の強い眠気、高血圧、心血管系の疾患などの合併症がある場合にはCPAP治療の適応となることがあります。
他の治療法との比較検討
CPAP治療以外にもマウスピース(口腔内装置)による治療や生活習慣の改善(減量、禁煙、節酒など)、耳鼻咽喉科的な外科手術などの選択肢があります。
患者さんの重症度、症状、上気道の状態、合併症、ライフスタイルなどを総合的に考慮し、医師と相談しながら最適な治療法を選択します。
CPAP 適応であっても他の治療法が適切な場合もあります。
小児の睡眠時無呼吸症候群の場合
小児の睡眠時無呼吸症候群では成人とCPAP 適応 基準が異なる場合があります。
小児の場合は扁桃肥大やアデノイド肥大が原因であることが多く、まず耳鼻咽喉科的な手術(アデノトミー、扁桃摘出術)が検討されることが一般的です。
手術で改善しない場合や他の原因による場合にはCPAP治療が考慮されます。
CPAP治療の保険適応について
CPAP治療は一定の基準を満たせば健康保険が適用されます。CPAP 適応 基準と保険適応の条件は密接に関連しています。
保険診療でCPAP治療を受けるための条件
CPAP療法が保険適用となるのは医師が睡眠時無呼吸症候群と診断し、かつ簡易検査または精密検査(PSG)の結果、一定の基準を満たした場合です。
具体的にはPSG検査でAHIが20回/時以上、または簡易検査でAHIが40回/時以上の場合に、CPAP治療が保険診療として認められます。
CPAP保険適応の主な検査基準
検査の種類 | AHIの基準 (回/時) |
---|---|
精密検査 (PSG) | 20以上 |
簡易検査 | 40以上 |
これらの基準を満たし、医師がCPAP治療を必要と判断した場合に保険診療での治療が開始できます。
治療費の目安(自己負担額)
保険診療でCPAP治療を受ける場合、患者さんの自己負担額は医療費の1割~3割(年齢や所得によって異なる)となります。
CPAP装置は医療機関からレンタルする形となり、毎月のレンタル料と診察料がかかります。
一般的に3割負担の場合で月額5,000円程度が目安ですが、医療機関や治療内容によって異なりますので事前に確認しておくとよいでしょう。
定期的な受診の必要性
保険診療でCPAP治療を継続するためには原則として毎月1回の定期的な受診が必要です。受診時にはCPAP装置の使用状況の確認、治療効果の評価、副作用のチェック、生活指導などが行われます。
この定期受診を怠ると保険適用が継続できなくなる場合があるので注意が必要です。
高額療養費制度の利用
CPAP治療費自体は高額療養費制度の対象となることは稀ですが、睡眠時無呼吸症候群の検査(特にPSG検査のための入院)や他の合併症の治療費が高額になった場合には、高額療養費制度を利用できる可能性があります。
詳しくは医療機関の窓口や加入している健康保険組合にご相談ください。
CPAP治療開始後のフォローアップ
CPAP治療は開始したら終わりではありません。効果的かつ安全に治療を継続するためには定期的なフォローアップが重要です。
定期受診の頻度と内容
CPAP治療開始後は通常、月に1回程度の頻度で医療機関を受診します。診察ではCPAP装置の使用データ(使用時間、AHI、マスクの空気漏れなど)を確認し、治療効果を評価します。
また、体調の変化や副作用の有無、日常生活での困りごとなどを医師に相談し、適切なアドバイスを受けます。
CPAPについて何科で治療を受けていても、このフォローアップは共通して重要です。
CPAP装置のデータ確認と圧力調整
CPAP装置には日々の使用状況が記録されています。医師はこのデータをもとに、治療が適切に行われているかを確認します。
必要に応じてCPAPの圧力設定の微調整を行うこともあります。自己判断で圧力を変更することは絶対に避けてください。
マスクや付属品のメンテナンスと交換
CPAPのマスクやチューブ、フィルターなどの付属品は消耗品です。快適かつ衛生的に治療を続けるためには日常的な清掃と定期的な交換が必要です。
交換時期やメンテナンス方法は医療機関の指示に従ってください。適切な管理がCPAP 検査で得られた効果を持続させます。
CPAP付属品の交換目安
- マスク本体:約6ヶ月~1年
- マスククッション・ピロー:約1ヶ月~3ヶ月
- ヘッドギア:約6ヶ月
- チューブ:約6ヶ月~1年
- フィルター:種類により異なる(1週間~3ヶ月)
生活習慣の改善指導
CPAP治療と並行して減量、禁煙、節酒、睡眠衛生の改善といった生活習慣の見直しも重要です。医師や看護師、管理栄養士などから具体的なアドバイスを受けることができます。
生活習慣の改善により
CPAPの治療効果が高まったり、将来的にはCPAPからの離脱を目指せる可能性もあります。
医療機関の選び方のポイント
CPAP治療を安心して継続するためには信頼できる医療機関を選ぶことが大切です。CPAP治療で何科を選ぶかだけでなく、以下の点も参考にしてください。
睡眠医療の専門医・認定医がいるか
日本睡眠学会が認定する専門医や認定医、あるいは日本呼吸器学会の呼吸器専門医など睡眠医療や呼吸器疾患に関する専門的な資格を持つ医師が在籍しているかを確認しましょう。
専門知識に基づいた的確な診断と治療が期待できます。
検査設備(PSG検査など)の有無
睡眠時無呼吸症候群の精密検査であるPSG検査を実施できる設備があるか、または連携施設でスムーズに検査を受けられる体制が整っているかを確認します。
自院でCPAP 検査から治療まで一貫して行える医療機関が便利です。
CPAP治療の実績とサポート体制
CPAP治療の導入実績が豊富で、治療開始後のフォローアップ体制がしっかりしている医療機関を選びましょう。
CPAP装置の取り扱い説明、マスクフィッティングの相談、トラブル時の対応など、きめ細やかなサポートが受けられると安心です。
医療機関選びのチェックポイント
チェック項目 | 確認内容 |
---|---|
専門性 | 睡眠専門医、呼吸器専門医の在籍 |
検査体制 | PSG検査の実施可否、連携体制 |
治療実績・サポート | CPAP導入実績、定期フォロー、相談窓口 |
通院のしやすさ | 立地、診療時間、予約の取りやすさ |
通院のしやすさと予約の取りやすさ
CPAP治療は長期にわたるため、自宅や職場から通いやすい場所にある医療機関を選ぶことも大切です。
また、診療時間や予約の取りやすさなども治療を継続する上で重要なポイントになります。
よくある質問(FAQ)
CPAP治療の受診や検査、保険適用に関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- QCPAP治療を始めたいのですが、どの科を受診すれば良いか分かりません。
- A
まずは呼吸器内科、耳鼻咽喉科、あるいは睡眠専門クリニックやいびき外来を標榜している医療機関に相談してみるのが良いでしょう。
かかりつけの内科医がいる場合はそこで相談して専門医を紹介してもらう方法もあります。
CPAP治療は何科が良いか迷う場合は医療機関のホームページで睡眠時無呼吸症候群の診療を行っているか確認してみてください。
- QCPAPの検査は痛いですか?入院は必要ですか?
- A
自宅で行う簡易検査はセンサーを装着するだけで痛みはありません。精密検査(PSG検査)は体に多くのセンサーを取り付けますが、これも痛みは伴いません。
ただし、センサーが多くて寝返りがしにくいなど多少の違和感を感じることはあります。
PSG検査は通常1泊の入院が必要です。検査の内容については事前に医師から詳しい説明があります。
- QCPAP治療は一度始めたら一生やめられないのですか?
- A
CPAP治療は対症療法であり、根本的に睡眠時無呼吸症候群を治すものではありません。そのため多くの場合は長期的な継続が必要です。
しかし減量や生活習慣の改善、あるいは外科的治療などによって無呼吸の状態が大幅に改善すれば、医師の判断のもとでCPAP治療を終了できる場合もあります。
CPAP 適応 基準を下回る状態を目指すことも治療目標の一つです。
- Q保険適用の基準に満たない場合でもCPAP治療は受けられますか?
- A
保険適用のCPAP 適応 基準(AHIがPSGで20以上、簡易検査で40以上)を満たさない場合でも医師が治療の必要性を認めれば、自費診療でCPAP治療を受けることは可能です。
ただし費用は全額自己負担となるため高額になります。
まずは医師とよく相談し、他の治療法も含めて検討することが大切です。
以上
参考にした論文
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