CPAP治療を始めたけれど、マスクが合わなくて悩んでいませんか。特に鼻だけを覆う「鼻マスク(ネイザルマスク)」は圧迫感が少なく人気のタイプですが、メリットとデメリットがあります。
この記事では鼻マスクの特徴やフルフェイスマスクとの違い、そして自分に合ったマスクを選ぶための重要なポイントを詳しく解説します。
快適な治療を続けるための、マスク選びの参考にしてください。
CPAP治療の成功を左右するマスク選びの重要性
CPAP療法は睡眠時無呼吸症候群に対する非常に効果的な治療法ですが、その成功は「自分に合ったマスクを継続して使えるか」にかかっています。
マスクは体と治療器をつなぐ唯一の接点であり、最も重要なパーツです。
なぜマスクが治療の鍵となるのか
CPAP療法の効果は装置から送られる空気を漏れなく気道に届けられて初めて発揮されます。
マスクが顔に合っていなかったり、不快感が強かったりすると空気漏れ(リーク)が起きて治療効果が下がるだけでなく、気になって眠れなくなり、治療そのものをやめてしまう原因にもなります。
主なCPAPマスクの種類
CPAPマスクは主に顔のどの部分を覆うかによって3つのタイプに分けられます。それぞれに特徴があり、患者さんの状態や好みに合わせて選択します。
マスクの種類と特徴
種類 | カバー範囲 | 主な特徴 |
---|---|---|
鼻マスク(ネイザル) | 鼻 | 標準的で多くの人に合う。開放感がある。 |
フルフェイスマスク | 鼻と口 | 口呼吸や鼻詰まりがある人に適している。 |
ピローマスク | 鼻の穴 | 接触面が最小限。視界が最も広い。 |
自分に合わないマスクを使い続けるリスク
合わないマスクを我慢して使い続けると、さまざまな問題が生じます。空気漏れによる騒音や不快感で睡眠が妨げられ、かえって睡眠不足が悪化することがあります。
また、皮膚のかぶれや痛み、治療への意欲低下にもつながり、最終的に治療中断に至るケースも少なくありません。
鼻マスク(ネイザルマスク)の基本的な特徴
鼻マスクは英語のnasal(鼻の)という言葉の通り、鼻だけを覆うタイプのマスクです。CPAP治療で最も標準的に使用されるタイプの一つです。
鼻だけを覆う構造
シリコンなどでできた三角形のクッションで鼻全体をすっぽりと覆い、ヘッドギア(ストラップ)で頭に固定します。
額に当たる部分があるタイプとないタイプがあり、ないタイプの方がより視界が広く開放感があります。
どのような人に向いているか
鼻マスクは睡眠中に口を閉じて鼻呼吸ができる人にとって、第一の選択肢となります。
圧迫感が比較的少なく、日常生活に近い感覚で過ごせるため、多くの方に適しています。
- 睡眠中に鼻呼吸ができる方
- 圧迫感や閉塞感が苦手な方
- 寝る前に眼鏡をかけて読書などをしたい方
ピローマスクとの違い
ピローマスクも鼻マスクの一種とされますが、鼻全体を覆うのではなく、鼻の穴の入り口に直接クッションを当てるタイプです。
接触面積がさらに小さく、最も開放感がありますが、鼻の穴に直接当たる感覚が苦手な方もいます。
鼻マスクのメリット(利点)
鼻マスクが多くの患者さんに選ばれるのには、フルフェイスマスクにはない多くのメリットがあるからです。
圧迫感が少なく視界が広い
口周りが完全に自由になるため、フルフェイスマスクに比べて圧迫感が少なく、開放的なのが最大のメリットです。
視界が遮られないため、閉所恐怖症の傾向がある方でも受け入れやすいです。
マスク装着中の会話や読書が可能
マスクをつけたまま寝る直前まで眼鏡をかけて本を読んだり、ベッドサイドで家族と少し話したりすることも可能です。
このような日常生活の延長線上で使える手軽さが、治療を継続する上で心理的な負担を軽減します。
肌との接触面が少なく皮膚トラブルが起きにくい
顔の皮膚に触れる面積が小さいため、マスクによるかぶれやニキビ、跡が残るといった皮膚トラブルのリスクが低いのも利点です。
肌が敏感な方には特に適しています。
マスクタイプと肌への影響
マスクタイプ | 接触面積 | 皮膚トラブルのリスク |
---|---|---|
鼻マスク | 小 | 低い |
フルフェイスマスク | 大 | 比較的高め |
鼻マスクのデメリット(注意点)
多くのメリットがある一方、鼻マスクにはいくつかの注意点もあります。ご自身の状態によっては使用が難しい場合があります。
口呼吸の癖があると空気が漏れる
最大のデメリットは睡眠中に無意識に口が開いてしまうと、鼻から送り込まれた空気が口から大量に漏れてしまう点です。
この「口漏れ」が起こると、喉が乾燥するだけでなく治療効果が著しく低下してしまいます。
鼻詰まりの時は使用が困難
風邪や花粉症などで鼻が詰まっている時は鼻から空気を送り込むことができないため、使用が困難になります。
CPAP装置の加湿器を使ったり、点鼻薬を併用したりする対策がありますが、重度の鼻炎がある方には不向きな場合があります。
鼻マスク使用時のトラブルと対策
トラブル | 原因 | 対策例 |
---|---|---|
口からの空気漏れ | 口呼吸の癖、口の開き | チンストラップ、マウスケアテープ |
鼻詰まり | 風邪、アレルギー性鼻炎 | 加温加湿器、点鼻薬 |
高い圧力設定には不向きな場合がある
重症のSASで治療に非常に高い圧力が必要な場合、鼻マスクでは空気漏れが起きやすくなることがあります。
そのようなケースでは、より密閉性の高いフルフェイスマスクの方が安定した治療を行えることがあります。
フルフェイスマスクとの徹底比較
鼻マスクとフルフェイスマスクはどちらが良いというものではなく、それぞれに適した人がいます。
両者の違いを理解し、自分に合うのはどちらか考えてみましょう。
構造とカバー範囲の違い
鼻マスクが鼻のみを覆うのに対し、フルフェイスマスクは鼻と口を同時に覆う大きなクッションを持っています。
この構造の違いが、それぞれのメリット・デメリットを生み出します。
メリット・デメリットの比較
開放感や手軽さでは鼻マスクが優れていますが、口呼吸や鼻詰まりへの対応力ではフルフェイスマスクに軍配が上がります。
鼻マスク vs フルフェイスマスク
比較項目 | 鼻マスク | フルフェイスマスク |
---|---|---|
開放感・視界 | 優れている | 劣る |
口呼吸への対応 | 不可 | 可能 |
鼻詰まり時の使用 | 困難 | 可能 |
どちらを選ぶべきかの判断基準
マスクを選ぶ際の最も重要な判断基準は「睡眠中に主に鼻で呼吸しているか、口で呼吸しているか」です。
普段から鼻の通りが良く、口を閉じて眠れる方は鼻マスクから試してみるのが良いでしょう。
一方、朝起きると喉がカラカラになっている方や慢性的な鼻炎がある方は、フルフェイスマスクの方が適している可能性が高いです。
自分に合った鼻マスクを選ぶためのポイント
鼻マスクを使うと決めたら、次は数ある製品の中から自分にぴったりの一つを見つけることが重要です。
顔の形と鼻の高さに合わせる
マスクのクッションが鼻の形や高さに合っていないと隙間ができて空気漏れの原因になったり、一部分が強く当たって痛みの原因になったりします。
各メーカーから様々な形状のマスクが出ているため、ご自身の顔立ちに合ったものを選ぶことが大切です。
フィッティングとサイズ選びの重要性
ほとんどのマスクにはS、M、Lといったサイズ展開があります。自己判断で選ばず、サイズを測定するためのゲージなどを使って適切なサイズを選びましょう。
サイズが合わないと、どんなに良いマスクでも効果を発揮できません。
サイズ選びのポイント
ポイント | 確認事項 |
---|---|
鼻の幅 | クッションが小鼻の脇にしっかりフィットするか |
鼻の高さ | 鼻筋や鼻の下に隙間ができないか |
圧迫感 | ストラップを締めた時に痛みがないか |
医療機関での試着と相談
最も確実な方法は、治療を開始する医療機関で専門のスタッフと一緒に複数のマスクを実際に試着してみることです。
寝た時の姿勢でフィッティングを確認し、それぞれのマスクの特徴について説明を受けることが最適なマスク選びへの近道です。
よくある質問
最後に、鼻マスクの使用に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- Q鼻マスクで口が開いてしまう場合はどうすればいいですか?
- A
口が開くのを防ぐために、口を閉じるための医療用テープ(マウスケアテープ)を使用したり、下顎が下がるのを防ぐための「チンストラップ(顎ひも)」を併用したりする方法があります。
どちらも効果的な対策ですが、まずは主治医や担当の技師に相談してください。
- Qマスクの跡が顔に残ってしまいます
- A
多くの場合、ヘッドギアのストラップを締めすぎていることが原因です。
空気漏れを心配して強く締めがちですが、ストラップは指が1〜2本入る程度のゆとりを持たせるのが基本です。
それでも跡が残る場合はストラップの位置を調整したり、専用のパッドを使用したりする方法もあります。
- Q鼻が乾燥したり詰まったりします
- A
CPAP装置に付属している「加温加湿器」を使用すると鼻の乾燥や刺激感を大幅に和らげることができます。特に冬場やエアコンの効いた部屋では効果的です。
また、アレルギー性鼻炎などがある場合は事前に点鼻薬を使用することも有効です。症状が続く場合は医師に相談しましょう。
以上
参考にした論文
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