睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断され、CPAP(シーパップ)療法を始めることになった方へ。

CPAP療法は中等症以上のSASに対する標準的な治療法ですが、その効果を最大限に引き出すためにはご自身に合った装置、特に「マスク」を選ぶことが非常に重要です。

この記事ではCPAP装置の基本的な仕組み、様々な種類のマスクの特徴、そして自分に合ったマスクを選ぶためのポイントについて詳しく解説します。

「睡眠時無呼吸症候群 マスク」について知りたい方は、ぜひお読みください。

CPAP療法とは何か

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)は睡眠中に専用の装置から圧力をかけた空気を鼻(または鼻と口)に送り込み、空気の通り道(上気道)が塞がるのを防ぐ治療法です。

これにより睡眠中の無呼吸や低呼吸を効果的に減らし、いびきを解消し、睡眠の質を改善します。

CPAP療法の目的

CPAP療法の主な目的は以下の通りです。

  • 睡眠中の無呼吸・低呼吸の抑制
  • いびきの改善
  • 血中酸素飽和度の維持・改善
  • 睡眠の質の向上
  • 日中の眠気や倦怠感の軽減
  • SASに伴う合併症(高血圧、心血管疾患など)のリスク低減

CPAP療法の仕組み

CPAP装置は室内の空気を取り込み、フィルターを通してきれいにした後、設定された圧力で加圧し、チューブとマスクを介して患者さんの気道に送り込みます。

この空気の圧力が睡眠中に緩んで塞がりやすくなる喉の奥(咽頭)を内側から支え、気道の閉塞を防ぎます。薬を使う治療ではなく、空気の圧力で物理的に気道を広げる対症療法です。

CPAP療法の対象となる人

主に中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHIが20以上または30以上など、診断基準による)の患者さんが対象となります。

軽症であっても日中の眠気が強い場合や合併症がある場合には適応となることがあります。

医師が睡眠検査の結果や症状を総合的に判断してCPAP療法の必要性を決定します。

CPAP装置の基本構成

CPAP療法で使用する装置はいくつかの主要な部品から構成されています。それぞれの役割を理解しておきましょう。

CPAP装置本体

空気を取り込み、加圧して送り出す装置の中心部分です。

内部には空気を送り出すためのファン(ブロワー)、空気圧を調整する機能、空気を取り込むフィルターなどが内蔵されています。

機種によっては加温加湿機能が一体化されているものや、使用状況を記録する機能(データカードなど)が付いているものもあります。

エアチューブ(回路)

CPAP装置本体とマスクをつなぐ蛇腹状のチューブです。装置から送られてくる加圧された空気がこのチューブを通ってマスクに届けられます。

チューブ内に結露が発生するのを防ぐために、加温機能付きのチューブもあります。

マスク

顔に装着し、装置から送られてくる空気を鼻や口から気道に送り込むための重要な部品です。

様々な種類があり、顔の形や呼吸の仕方、寝相などに合わせて適切なものを選ぶ必要があります。

マスクの選択がCPAP療法の快適性や効果を大きく左右します。

CPAPシステムの構成要素

構成要素主な役割ポイント
CPAP装置本体空気の取り込み、加圧、送気圧力設定、加湿機能、データ記録機能など
エアチューブ本体とマスクを接続、空気の通路長さ、柔軟性、加温機能の有無など
マスク顔に装着し、空気を気道へ送る種類、サイズ、フィット感、密閉性が重要

加湿器(オプション)

CPAPから送られる空気は乾燥しているため、鼻や喉の乾燥感、不快感を引き起こすことがあります。これを防ぐために装置に加湿器を取り付け、空気を加温・加湿して送ることができます。

多くの装置で、加湿器は一体型またはオプションとして用意されています。

CPAP装置の種類と機能

CPAP装置本体にもいくつかの種類や付加機能があります。

主治医が患者さんの状態に合わせて適切な装置を選択しますが、基本的な種類を知っておくとよいでしょう。

固定圧CPAP(Standard CPAP)

最も基本的なタイプのCPAP装置です。あらかじめ設定された一定の圧力の空気を吸気・呼気に関わらず送り続けます。

処方された圧力で気道を確実に広げることができますが、人によっては息を吐くときに圧力を感じて苦しいと感じることがあります。

オートCPAP(APAP: Auto-adjusting PAP)

睡眠中の呼吸状態(いびき、気流の変化、気道抵抗など)を装置がモニタリングし、必要に応じて自動的に空気圧を調整するタイプの装置です。

無呼吸や低呼吸が起こりそうな時に圧力を上げ、安定している時には低い圧力に保つため、固定圧CPAPに比べてより快適に使用できる場合があります。多くの医療機関で標準的に用いられています。

固定圧CPAPとオートCPAPの比較

特徴固定圧CPAPオートCPAP (APAP)
圧力一定(処方圧)変動(必要に応じて自動調整)
快適性呼気時に圧迫感を感じる場合あり比較的快適な傾向
処方特定の圧力設定が必要圧力範囲の設定

呼気圧減圧機能(EPR, C-Flexなど)

息を吐く(呼気)タイミングに合わせて装置が一時的に空気圧を下げる機能で、多くのCPAP装置に搭載されています。

この機能によって息を吐き出す際の抵抗感が軽減され、より自然な呼吸感覚に近くなり、快適性が向上します。

その他の付加機能

機種によっては以下のような機能が付いている場合があります。

  • ランプ機能: 就寝時に低い圧力から開始し、設定した時間(例:15分)をかけて徐々に処方圧まで上昇させる機能。入眠を助けます。
  • データ記録・通信機能: 使用時間、AHI、マスクの空気漏れなどのデータを記録し、SDカードや無線通信で医療機関と共有する機能。治療効果のモニタリングに役立ちます。
  • 加温加湿機能: 前述の通り、空気の乾燥を防ぎ快適性を高めます。

CPAPマスクの重要性 – なぜマスク選びが大切か

CPAP療法を快適に、そして効果的に継続するためには自分に合ったマスクを選ぶことが極めて重要です。

「睡眠時無呼吸症候群 マスク」の選択は治療の成否を分けると言っても過言ではありません。

治療効果への影響

マスクが顔に合っていないと隙間から空気が漏れてしまいます(エアリーク)。エアリークが多いと設定された圧力が気道にかからず、無呼吸や低呼吸を十分に抑制できません。

また、漏れた空気が目に入って不快感を引き起こしたり、騒音の原因になったりします。

快適性と継続性への影響

マスクによる不快感(痛み、圧迫感、皮膚トラブルなど)やエアリークはCPAP療法を続ける上での大きな妨げとなります。

自分に合った快適なマスクを見つけることが、毎晩の治療を無理なく継続するための鍵となります。

マスクが合わない場合の主な問題点

問題点原因影響
エアリーク(空気漏れ)サイズ不適合、装着不良、マスク劣化治療効果低下、騒音、目の乾燥
痛み・圧迫感サイズ不適合、締めすぎ、マスク形状不快感、皮膚への跡、装着意欲低下
皮膚トラブルマスク素材、圧迫、汚れかぶれ、赤み、ニキビ

様々な選択肢

幸いなことに、現在では様々な種類、形状、サイズのマスクが開発されています。

顔の形、鼻の高さ、口呼吸の有無、寝相、ライフスタイルなどに合わせて、多様な選択肢の中から自分に合うものを見つけることが可能です。

CPAPマスクの種類と特徴

CPAPマスクは主に顔のどの部分を覆うかによって、大きく3つのタイプに分類されます。

それぞれの特徴を理解し、自分に合いそうなタイプを考えましょう。

ネーザルピローマスク

鼻の穴(鼻孔)に直接、小さなクッション(ピロー)を差し込む、または鼻孔の入り口に当てるタイプのマスクです。

顔に接触する面積が非常に小さく、視界が広く、圧迫感が少ないのが特徴です。寝返りも比較的自由に打てます。

ただし、鼻詰まりがある場合や高い圧力が必要な場合には不向きなことがあります。

ネーザルマスク

鼻全体を覆うタイプのマスクです。ネーザルピローよりも安定感があり、比較的高い圧力にも対応しやすいです。様々な形状やサイズのクッションがあり、多くの人に合わせやすいタイプと言えます。

ただし、鼻骨(鼻筋)部分に圧力がかかりやすい、視界がやや遮られるといった点があります。

フルフェイスマスク

鼻と口の両方を同時に覆うタイプのマスクです。睡眠中に口を開けてしまう癖がある方(口呼吸)、鼻詰まりがひどい方、高い圧力が必要な方に適しています。

安定感がありますが、顔に接触する面積が最も大きく、圧迫感を感じやすい、エアリークが起こりやすい、飲食や会話がしにくいといった側面もあります。

マスクタイプの比較

マスクタイプ特徴長所短所
ネーザルピロー鼻孔に挿入/当てる接触面積小、視界広い、圧迫感少ない鼻詰まりに弱い、高圧に不向きな場合あり
ネーザル鼻全体を覆う安定感あり、多くの人に適合、高圧対応可鼻骨への圧迫、視界やや遮られる
フルフェイス鼻と口を覆う口呼吸に対応、鼻詰まり時も使用可接触面積大、圧迫感強い、リークしやすい

自分に合ったマスクの選び方

数あるマスクの中から自分にとって最適なものを選ぶには、いくつかのポイントがあります。

医療機関のスタッフ(医師、看護師、臨床工学技士など)と相談しながら、試着などを通して慎重に選びましょう。

顔の形とサイズ

最も重要なのは、マスクが自分の顔の形とサイズに合っていることです。マスクには様々なサイズ(S, M, Lなど)や形状があります。

試着してみて顔にぴったりとフィットし、隙間なく密閉されるかを確認します。特に鼻の高さや形、頬骨の位置などがフィット感に影響します。

呼吸の仕方(鼻呼吸か口呼吸か)

普段から鼻呼吸ができている方はネーザルピローまたはネーザルマスクが第一選択となります。

一方、寝ている間に口を開けてしまう癖がある方や鼻詰まりがひどい方は、フルフェイスマスクを検討する必要があります。

ただし、口呼吸は顎を固定するチンストラップ(顎紐)などを使ってネーザル系マスクで対応できる場合もあります。

必要な圧力設定

CPAP療法で必要となる空気圧(処方圧)の高さもマスク選びに関係します。

一般的に高い圧力が必要な場合は、ネーザルマスクやフルフェイスマスクの方が安定して圧力をかけやすいとされています。

ネーザルピローは高圧になると鼻孔への刺激や空気漏れが起こりやすくなることがあります。

ライフスタイルと好み

寝相(よく寝返りを打つか)、閉所恐怖感の有無、眼鏡の使用、就寝前の読書習慣なども考慮します。

例えば寝返りが多い方はチューブの取り回しがしやすいマスクや、ずれにくいマスクが適しています。

閉所恐怖感がある方は顔を覆う面積が小さいネーザルピローが向いているかもしれません。

マスク選びのチェックポイント

チェック項目考慮点
フィット感・密閉性顔の形、サイズ、エアリークの有無
呼吸パターン鼻呼吸 or 口呼吸、鼻詰まりの有無
処方圧必要な圧力の高さ
快適性・好み圧迫感、視界、寝相、閉所恐怖感など

試着と調整

多くの医療機関では複数の種類のマスクを試着することができます。実際に装着してみて、フィット感や快適性を確かめることが重要です。

また、マスクのヘッドギア(頭に固定するベルト)の締め具合も快適性と密閉性のバランスを取りながら適切に調整する必要があります。

締めすぎは痛みの原因となり、緩すぎはエアリークの原因となります。

CPAP装置とマスクのメンテナンス

CPAP装置とマスクを清潔に保ち、適切にメンテナンスすることは治療効果を維持し、感染症を防ぎ、機器の寿命を延ばすために非常に重要です。

毎日の手入れ

マスクのクッション部分(顔に直接触れる部分)は皮脂や汗が付着しやすいため、毎朝、使用後に洗浄することが推奨されます。

中性洗剤を溶かしたぬるま湯で優しく洗い、よくすすいで自然乾燥させます。加湿器を使用している場合はタンクの水を毎日交換し、タンク内を洗浄・乾燥させます。

定期的な手入れ

マスクのヘッドギアやエアチューブも定期的に洗浄が必要です。通常は週に1回程度、中性洗剤で洗い、陰干しします。

CPAP装置本体のフィルターも種類に応じて定期的な清掃や交換が必要です(通常は月に1~2回)。

基本的なメンテナンススケジュール

部品頻度手入れ方法
マスククッション毎日中性洗剤で洗浄、自然乾燥
加湿器タンク毎日水の交換、洗浄、乾燥
ヘッドギア、チューブ週1回程度中性洗剤で洗浄、陰干し
本体フィルター月1~2回程度清掃または交換(機種による)

※メーカーや機種によって推奨される手入れ方法は異なりますので、必ず取扱説明書を確認してください

消耗品の交換

マスク、チューブ、フィルターなどは消耗品であり、定期的な交換が必要です。

使用頻度や劣化具合にもよりますが、一般的にマスクは半年に1回、チューブは1年に1回程度の交換が推奨されます。

劣化するとエアリークや衛生上の問題が発生しやすくなります。定期的に医療機関でチェックを受け、必要に応じて交換しましょう。

よくある質問

Q1. マスクが合わない場合どうすればよいですか?

A1. マスクのフィット感や快適性に問題がある場合は我慢せずに早めに主治医や医療機関のスタッフに相談してください。

エアリーク、痛み、皮膚トラブルなどの具体的な問題を伝えれば、マスクのサイズや種類の変更、装着方法の再調整、スキンケアのアドバイスなど解決策を一緒に考えてくれます。

CPAP療法を快適に続けるためには遠慮なく相談することが大切です。

Q2. CPAP装置やマスクはどこで購入できますか?

A2. CPAP療法は医師の処方が必要な医療行為であり、装置やマスクは医療機器です。

通常、CPAP療法は健康保険の適用のもと、医療機関を通じて専門業者から装置一式をレンタルする形で提供されます。

自己判断でインターネットなどで購入することは避け、必ず医師の指示に従ってください。

消耗品(マスク、チューブ、フィルターなど)の交換も、通常はレンタル業者を通じて行われます。

Q3. 旅行や出張の際、CPAP装置はどうすればよいですか?

A3. CPAP装置は持ち運び可能なものがほとんどです。旅行や出張の際も基本的には持参して毎晩使用を継続することが推奨されます。

飛行機内に持ち込むことも可能です(事前に航空会社に確認するとスムーズです)。海外で使用する場合は現地の電圧に対応しているか、変換プラグが必要かなどを確認しましょう。

持ち運びに便利な小型のトラベルCPAPもありますが、機能が限定的な場合があるので主治医に相談してください。

Q4. マスクの跡が顔に残るのが気になります。対策はありますか?

A4. マスクの跡はヘッドギアの締めすぎや、マスククッションの圧迫が原因であることが多いです。まずはヘッドギアの締め具合をエアリークしない範囲で少し緩めてみましょう。

また、マスクと肌の間に挟む専用のライナー(パッド)を使用したり、皮膚を保護するクリームを塗ったりすることも有効な場合があります。

様々な形状のマスクを試すことで圧力がかかりにくいものが見つかる可能性もあります。医療機関で相談してみてください。

以上

参考にした論文

UEMATSU, Akihito, et al. Factors influencing adherence to nasal continuous positive airway pressure in obstructive sleep apnea patients in Japan. Sleep and Biological Rhythms, 2016, 14: 339-349.

HONMA, Aya, et al. The association between irregularity in sleep-wake rhythm and CPAP adherence. npj Biological Timing and Sleep, 2024, 1.1: 2.

FUJITA, Yukio; YAMAUCHI, Motoo; MURO, Shigeo. Assessment and management of continuous positive airway pressure therapy in patient with obstructive sleep apnea. Respiratory Investigation, 2024, 62.4: 645-650.

SHIKAMA, Maiko, et al. Reliability and validity of multi-contact pressure measurement system for evaluating appropriate NPPV mask fitting in healthy adults. Journal of Japanese Society of Wound, Ostomy and Continence Management, 2020, 24.1: 10-18.

BOREL, Jean Christian, et al. Type of mask may impact on continuous positive airway pressure adherence in apneic patients. PloS one, 2013, 8.5: e64382.

ROWLAND, Sharn, et al. Comparing the efficacy, mask leak, patient adherence, and patient preference of three different CPAP interfaces to treat moderate-severe obstructive sleep apnea. Journal of clinical sleep medicine, 2018, 14.1: 101-108.

AKASHIBA, Tsuneto, et al. Sleep apnea syndrome (SAS) clinical practice guidelines 2020. Respiratory Investigation, 2022, 60.1: 3-32.

FURUKAWA, Taiji, et al. Long-term adherence to nasal continuous positive airway pressure therapy by hypertensive patients with preexisting sleep apnea. Journal of Cardiology, 2014, 63.4: 281-285.

INOUE, Akiko, et al. Nasal function and CPAP compliance. Auris Nasus Larynx, 2019, 46.4: 548-558.

FUJITA, Kanae, et al. Sex differences in the effectiveness and affecting factors to adherence of continuous positive airway pressure therapy. Sleep and Biological Rhythms, 2022, 20.2: 191-200.

TSUDA, Hiroko; WADA, Naohisa; ANDO, Shin-ichi. Practical considerations for effective oral appliance use in the treatment of obstructive sleep apnea: a clinical review. Sleep Science and Practice, 2017, 1: 1-11.