「睡眠時無呼吸症候群の治療に興味はあるけれど、費用がどれくらいかかるか心配」と感じていませんか。

検査から治療まで、どの段階でいくらくらいの自己負担が必要になるのか、見通しが立たないと不安になります。

この記事では初診から検査、そして代表的な治療法であるCPAP療法に至るまで各段階でかかる費用の目安と、健康保険が適用される流れを詳しく解説します。

費用に関する正しい知識は安心して治療へ踏み出すための第一歩です。

睡眠時無呼吸症候群の治療にかかる費用の全体像

睡眠時無呼吸症候群の治療費用は診断から治療までいくつかの段階に分かれます。ほとんどの診療は健康保険の適用対象となり、自己負担額を抑えることができます。

初診から診断までの流れと費用

まず、いびきや日中の眠気などの症状で医療機関を受診します。医師の診察後、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずは自宅で行う簡易検査に進むのが一般的です。

簡易検査で異常が見つかれば、次に一泊入院での精密検査(PSG検査)を行い、確定診断と重症度の判定を行います。

診断後の治療にかかる費用

診断の結果、治療が必要と判断されると、CPAP療法やマウスピース治療などが始まります。最も一般的なCPAP療法の場合、毎月の通院と機器のレンタル料が継続的に発生します。

これらの費用も条件を満たせば健康保険が適用されます。

診断から治療までの費用の流れ(3割負担の目安)

段階主な内容費用の目安
初診・簡易検査問診、自宅での検査約3,000円~5,000円
精密検査一泊入院でのPSG検査約25,000円~50,000円
CPAP治療毎月の診察・機器レンタル約4,500円/月

健康保険適用の重要性

睡眠時無呼吸症候群の検査や治療は自由診療で行うと非常に高額になります。

しかし、日本の公的医療保険制度のおかげで、多くの患者さんが少ない負担で必要な医療を受けることができます。

保険適用を受けるためには医師の診断に基づき、決められた手順で検査・治療を進めることが重要です。

初診と簡易検査の費用

治療の第一歩は専門の医療機関を受診することです。ここから検査が始まり、費用が発生します。

初診料の目安

初めて医療機関にかかる際は初診料が必要です。これに加えて問診や診察、血圧測定などの基本的な検査費用がかかります。

紹介状がない場合に特定の病院で必要となる選定療養費などを除けば、自己負担額は3割負担で1,000円から3,000円程度が一般的です。

自宅で行う簡易検査の自己負担額

医師が睡眠時無呼吸症候群を疑った場合、まずは自宅でできる簡易検査を行います。

専用の機器を医療機関から借りて帰り、就寝時に自分で装着して睡眠中の呼吸状態や血中酸素濃度を記録します。

この検査費用は健康保険が適用され、3割負担で3,000円前後です。

簡易検査の費用内訳(3割負担の目安)

項目内容自己負担額
診察料初診料または再診料約850円~
検査料機器の使用、データ解析約2,400円
合計約3,250円~

簡易検査でわかることと限界

簡易検査は睡眠時無呼吸症候群の可能性を調べるスクリーニングとして非常に有用です。無呼吸や低呼吸の回数から、重症度のおおよその見当をつけます。

ただし脳波を測定しないため、実際の睡眠の質や睡眠段階を評価することはできません。確定診断のためには次の精密検査が必要です。

精密検査(PSG検査)の費用と入院

簡易検査で中等症以上の異常が見られた場合や、症状が強いのに簡易検査では異常が軽かった場合などには、確定診断のために一泊入院での精密検査(PSG検査)を行います。

PSG検査入院の自己負担額

PSG検査は脳波や心電図、呼吸など多くの項目を測定する大がかりな検査です。

検査費用は高額ですが、健康保険が適用されます。医療機関の設備や体制によって費用は異なりますが、3割負担の場合、自己負担額は25,000円から50,000円程度が一般的です。

検査費用に含まれるもの

この費用には通常、一泊分の入院基本料、検査料、データ解析料、医師の診断料などが含まれます。

食事代や個室を希望した場合の差額ベッド代などは別途自己負担となる場合がありますので、事前に医療機関に確認しておくと安心です。

PSG検査費用の目安(3割負担)

項目自己負担額の範囲
入院基本料・検査料など合計約25,000円 ~ 50,000円

高額療養費制度の利用

PSG検査の費用は高額になるため、「高額療養費制度」の対象となる可能性があります。

この制度は1ヶ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分が払い戻されるものです。所得によって上限額は異なります。

事前に申請し「限度額適用認定証」を提示すれば、窓口での支払いを上限額までに抑えることも可能です。

CPAP治療の費用と保険適用

PSG検査の結果、一定の基準を満たすと、CPAP(シーパップ)療法が健康保険の適用となります。これは、睡眠時無呼吸症候群の最も標準的な治療法です。

CPAP療法が保険適用になる条件

CPAP療法に健康保険を適用するにはPSG検査でAHI(無呼吸低呼吸指数)が20回以上と診断されることが条件です。

AHIが20回未満でも、日中の強い眠気などの症状が認められれば保険適用となる場合もあります。

毎月の自己負担額の内訳

保険適用の場合、CPAP治療は毎月1回の定期的な通院が必要です。

この際、診察料とCPAP機器のレンタル料(在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料)を支払います。3割負担の場合、自己負担額は合計で月額4,500円程度です。

CPAP治療の月額費用(3割負担の目安)

項目内容自己負担額
指導管理料機器レンタル、データ管理約4,020円
再診料など医師の診察約400円~
合計約4,420円~

CPAP機器のレンタルと購入の違い

日本ではCPAP治療は機器を医療機関からレンタルするのが一般的です。これは毎月の通院による医師の管理下で治療を行うことが、保険適用の条件となっているためです。

機器を個人で購入すると全額自己負担となり、数十万円の費用がかかる上に保険診療も受けられなくなるため注意が必要です。

CPAP療法以外の治療法の費用

睡眠時無呼吸症候群の治療法はCPAPだけではありません。軽症の場合などに選択される他の治療法にも、それぞれ費用がかかります。

マウスピース(口腔内装置)の費用

軽症から中等症の患者さんには睡眠中に下顎を前方に固定して気道を広げるマウスピース(口腔内装置)が有効な場合があります。

この場合のマウスピース作製にも健康保険が適用されます。費用は3割負担で40,000円から60,000円程度が目安です。歯科や口腔外科で作製します。

外科手術の費用と保険適用

アデノイドや扁桃腺の肥大が気道閉塞の主な原因である場合など特定のケースでは外科手術が選択されることがあります。

手術内容によって費用は大きく異なりますが、多くは保険適用となります。例えば口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)の場合、3割負担で10万円から20万円程度の費用がかかることがあります。

主な治療法の費用比較(3割負担の目安)

治療法初期費用月額費用
CPAP療法約4,500円
マウスピース約40,000円~60,000円
外科手術約100,000円~

生活習慣の改善にかかる間接的な費用

減量のための運動や食事療法など生活習慣の改善も重要な治療の一環です。

これらに直接的な保険適用はありませんが、ジムの会費や健康的な食材の購入費なども広い意味での治療費用と考えることができます。長期的に見れば健康への投資となります。

治療費を抑えるための公的制度

医療費の負担を軽減するための公的な制度があります。ご自身の状況に合わせて、これらの制度を賢く利用しましょう。

医療費控除の対象になるか

睡眠時無呼吸症候群の検査や治療にかかった費用は医療費控除の対象となります。

1年間の医療費の合計が10万円(または総所得金額の5%)を超えた場合、確定申告を行うことで所得税の一部が還付されたり、翌年の住民税が減額されたりします。領収書は必ず保管しておきましょう。

  • 診察料、検査費用
  • CPAP治療の自己負担額
  • 通院のための交通費(公共交通機関)

高額療養費制度の仕組みと申請

前述の通り、PSG検査や外科手術などで1ヶ月の医療費が高額になった場合に利用できる制度です。所得に応じて自己負担の上限額が定められています。

払い戻しを受ける方法と事前に申請して窓口負担を抑える方法があります。詳しくはご加入の健康保険組合や協会けんぽにお問い合わせください。

自立支援医療制度の可能性

睡眠時無呼吸症候群がうつ病などの精神疾患と関連している場合、精神通院医療として自立支援医療制度の対象となる可能性があります。

この制度が適用されると指定した医療機関での自己負担割合が原則1割に軽減されます。適用の可否は、医師の診断と自治体の判断によります。

よくある質問

最後に、睡眠時無呼吸症候群の費用に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
CPAPのマスクなど消耗品にも費用はかかりますか?
A

CPAP治療で毎月支払う指導管理料には機器本体のレンタル料だけでなく、マスクやチューブといった消耗品の費用も含まれています。

そのため通常の使用で劣化した場合の交換に追加の自己負担は原則として発生しません。安心してご使用ください。

Q
治療を中断した場合の費用はどうなりますか?
A

CPAP治療は医師の指導のもとで継続することが前提です。自己判断で通院を中断すると保険適用が受けられなくなり、機器を返却する必要があります。

再度治療を始める際には改めて診察や検査が必要になる場合があり、余計な費用がかかる可能性もあります。

Q
確定申告で医療費控除を受けるには何が必要ですか?
A

医療費控除を受けるためにはご自身で確定申告を行う必要があります。申告の際には1年間の医療費の領収書を基に「医療費控除の明細書」を作成し、申告書に添付します。

領収書そのものの提出は不要ですが、5年間の保管義務があるので大切にまとめておきましょう。

以上

参考にした論文

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