睡眠時無呼吸症候群(SAS)の効果的な治療法であるCPAP(シーパップ)療法。

治療を検討する上で、「保険は使えるの?」「AHIがどのくらいならCPAPの適応になるの?」「費用はどれくらいかかるの?」といった疑問は尽きません。

CPAP治療は一定の基準を満たせば健康保険が適用され、費用負担を抑えながら治療を受けることができます。

この記事ではCPAP治療の保険適用に関する基本的な知識から、重要な指標となるAHI(無呼吸低呼吸指数)の基準、具体的な費用負担、そして保険適用を継続するためのポイントまで詳しく解説します。

正しい情報を得て、安心して治療に臨みましょう。

CPAP治療と保険適用の基本

CPAP治療を始めるにあたり、まず保険適用の基本的な考え方を知っておくことが大切です。これにより治療への理解が深まります。

CPAP治療とは何か簡単に解説

CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)は睡眠中に鼻や口に装着したマスクから一定の陽圧を加えた空気を気道に送り込み、睡眠中の気道の閉塞を防ぐ治療法です。

この治療法により、いびきや無呼吸が減少し、睡眠の質の改善、さらには日中の眠気や倦怠感の軽減が期待できます。

睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法の一つとして広く認知されています。

なぜCPAP治療に保険が適用されるのか

睡眠時無呼吸症候群は単に睡眠の質を低下させるだけでなく、放置すると高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めることが分かっています。

CPAP治療はこれらの合併症を予防し、国民全体の健康寿命の延伸や医療費の抑制に貢献する有効な治療法と認められているため、一定の基準を満たした患者さんに対して健康保険の適用が認められています。

CPAPの適応基準を満たすことが保険診療の第一歩です。

保険適用で受けるCPAP治療のメリット

CPAP治療が保険適用となる最大のメリットは経済的な負担を大幅に軽減できる点です。

CPAP装置本体は比較的高価ですが、保険適用の場合、患者さんは装置を購入するのではなく、医療機関からレンタルする形となり、月々の自己負担額を抑えることができます。

また、定期的な診察や指導も保険診療の範囲内で行われるため、安心して治療を継続できます。

保険適用時の主なメリット

メリット内容
費用負担の軽減月々のレンタル料・診察料が自己負担割合に応じて軽減
専門的な管理医師による定期的なフォローアップ
安心感標準治療として確立された治療法を負担少なく受けられる

保険適用外となるケースの概要

CPAP治療の保険適応基準を満たさない場合や医師が治療の必要性を認めない場合は、保険適用外(自費診療)となります。

例えば、ごく軽症の睡眠時無呼吸症候群で、CPAP治療以外の治療法(生活習慣の改善やマウスピースなど)が優先される場合などです。

また、美容目的や自己判断でのCPAP使用は保険適用されません。

CPAP治療の保険適用を受けるための流れ

CPAP治療を保険適用で受けるためにはいくつかの段階を踏む必要があります。一般的な流れを理解しておきましょう。

まずは専門医への相談から

いびきや日中の眠気など睡眠時無呼吸症候群を疑う症状があれば、まずは呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠専門クリニックなどの専門医に相談します。

医師が症状や生活習慣などを詳しく問診し、検査の必要性を判断します。

睡眠時無呼吸症候群の診断検査

医師が必要と判断した場合、睡眠中の呼吸状態を調べる検査を行います。

まずは自宅で行える簡易検査(アプノモニターなど)を実施し、その結果に応じて、より詳細な精密検査(睡眠ポリグラフ検査:PSG)を医療機関に1泊入院して行うことがあります。

これらの検査結果がCPAP 適応の判断に用いられます。

CPAP治療開始までの主なステップ

  • 専門医への相談・問診
  • 簡易検査(自宅)または精密検査(入院)
  • 検査結果に基づく診断と重症度評価
  • 治療方針の決定(CPAP適応判断)
  • CPAP導入・指導

検査結果に基づく医師の判断

検査結果(特にAHI:無呼吸低呼吸指数)をもとに、医師が睡眠時無呼吸症候群の確定診断と重症度を評価します。

そして患者さんの状態や合併症の有無などを総合的に考慮し、CPAP治療が適切かどうか、CPAPが保険の適応基準を満たしているかを判断します。

保険適用申請の手続き(医療機関が行うこと)

医師がCPAP治療を保険適用で行うと判断した場合、必要な書類を揃えて保険請求の手続きを行います。

患者さん自身が複雑な申請手続きをする必要は通常ありません。医療機関の指示に従い、必要な情報提供や同意を行います。

CPAP保険適用の鍵「AHI」とは何か

CPAP治療の保険適用を判断する上で、最も重要な指標となるのが「AHI(無呼吸低呼吸指数)」です。

AHI(無呼吸低呼吸指数)の定義

AHIとはApnea Hypopnea Index の略で、睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数を示します。

「無呼吸」とは10秒以上呼吸が止まること、「低呼吸」とは呼吸の量が通常の半分以下になり、かつ血液中の酸素飽和度が一定以上低下する状態を指します。

AHIの数値が高いほど睡眠時無呼吸症候群が重症であると評価します。

AHIはどのように測定するのか

AHIは前述の睡眠検査(簡易検査または精密検査)によって測定します。

精密検査である睡眠ポリグラフ検査(PSG)では脳波や呼吸、心電図など多くのセンサーを装着し、睡眠中の詳細なデータを記録・解析することで、より正確なAHIを算出します。

簡易検査でもある程度のAHIを推定できます。

AHIの数値が示す重症度

AHIの数値によって睡眠時無呼吸症候群の重症度は以下のように分類されます。この分類がCPA 適応の判断や治療方針の決定に用いられます。

AHIとSAS重症度の関連

重症度AHI (回/時)一般的な状態
軽症5以上15未満日中の眠気は軽度か自覚なしの場合も
中等症15以上30未満日中の眠気、集中力低下などが出やすい
重症30以上強い眠気、合併症リスクが高い

なぜAHIが保険適用の基準になるのか

AHIは睡眠中の呼吸障害の程度を客観的に示す指標であり、数値が高いほど心血管系への負担や日中の機能障害が大きいと考えられます。

そのため、一定以上のAHIを示す患者さんに対してCPAP治療を行うことで、より大きな健康改善効果や合併症予防効果が期待できるという医学的根拠に基づき、CPAPの保険適応基準としてAHIが用いられています。

CPAP保険適用の具体的なAHI基準

実際にCPAP治療が保険適用となるためにはAHIがどのくらいの数値である必要があるのでしょうか。検査方法によって基準が異なります。

精密検査(PSG)におけるAHI基準

医療機関に1泊入院して行う精密検査(睡眠ポリグラフ検査:PSG)の結果、AHIが20回/時以上である場合、CPAP治療は保険適用となります。

これがCPAP適応基準の基本です。

簡易検査におけるAHI基準

自宅で行う簡易検査(アプノモニターなど)の場合、AHIが40回/時以上であればCPAP治療が保険適用となります。

簡易検査はPSGに比べて測定項目が少ないため、より高いAHI値が基準として設定されています。

検査方法別AHI基準比較

検査の種類保険適用となるAHI基準 (回/時)
精密検査 (PSG)20 以上
簡易検査40 以上

これらの基準はCPAP 保険 適応 基準として広く用いられています。

AHI以外の考慮事項(症状・合併症)

上記のAHI基準に加えて、日中の過度な眠気、集中力の低下、起床時の頭痛といった自覚症状の強さや高血圧、心疾患、脳血管障害などの合併症の有無もCPAP治療の適応を判断する上で考慮されます。

AHIが基準値をわずかに下回る場合でも、これらの症状や合併症が顕著であれば医師の判断によりCPAP治療が推奨されることがあります(ただし保険適用については個別の判断が必要です)。

注意点 AHIが基準未満でも治療が必要な場合

CPAPの保険適応基準であるAHIに達していなくても睡眠時無呼吸症候群(AHI 5以上)と診断され、かつ自覚症状が強い場合には治療が検討されます。

また、将来的な健康リスクを考慮して治療を希望する場合には医師と相談の上で自費診療によるCPAP治療や、マウスピース治療、生活習慣の改善といった他の治療法を検討することがあります。

保険適用時のCPAP治療費用と自己負担

CPAP治療が保険適用となった場合、実際の費用負担はどの程度になるのでしょうか。内訳と目安を解説します。

CPAP治療にかかる費用の内訳

保険適用でCPAP治療を受ける場合、主に以下の費用が発生します。

  • CPAP装置のレンタル料
  • 定期的な診察料(管理料)
  • マスクやチューブなどの消耗品の費用(一部自己負担の場合あり)

これらの費用に対して、健康保険が適用されます。

保険適用時の自己負担割合(1割~3割)

健康保険の自己負担割合は年齢や所得によって異なります。一般的には以下の通りです。

年齢・所得に応じた自己負担割合

対象者自己負担割合
6歳(義務教育就学前)まで2割(自治体により助成あり)
6歳(義務教育就学後)~69歳3割
70歳~74歳原則2割(現役並み所得者は3割)
75歳以上(後期高齢者医療制度)原則1割(現役並み所得者は3割)

月々の自己負担額の目安

CPAP治療の月々の自己負担額は上記の自己負担割合によって変わります。

一般的に3割負担の患者さんの場合、CPAP装置のレンタル料と月1回の診察料を合わせて、月額4,500円~5,000円程度が目安となります。

ただし医療機関や治療内容、使用する装置の種類によって多少変動することがあります。

定期的な通院と診察料

保険診療でCPAP治療を継続するためには原則として月に1回の定期的な通院が必要です。この際の診察料(在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料など)も保険適用の対象となります。

この定期受診により、治療効果の確認や副作用のチェック、適切なアドバイスを受けることができます。

保険適用を継続するための注意点

CPAP治療の保険適用は一度認められれば永続的というわけではありません。継続するためにはいくつかの注意点があります。

定期的な受診の必要性

最も重要なのは医師の指示に従い、定期的に受診することです。通常は月に1回の受診が求められます。

この受診を怠ると、保険適用が継続できなくなる可能性があります。CPAPの適応基準を満たして治療を開始しても、その後のフォローアップが重要です。

CPAP装置の適切な使用と管理

CPAP装置を毎晩、指示された時間以上、正しく使用することが求められます。

装置の使用状況(使用時間やAHIなど)はデータとして記録され、医師が確認します。

使用状況が著しく悪い場合は治療効果が得られないと判断され、保険適用が見直されることがあります。また、マスクやチューブの清掃など日常的な管理も大切です。

医師の指示の遵守

CPAP治療に関する医師や医療スタッフからの指示(圧力設定、マスクの使用方法、生活習慣の改善指導など)をしっかりと守ることが治療効果を高め、保険適用を継続する上で重要です。

保険適用が見直される主なケース

ケース理由・内容
定期受診の中断医師による管理・指導ができないため
CPAP装置の不使用・不適切な使用治療効果が期待できない、または評価できないため
症状の大幅な改善CPAP治療の必要性が低下したと判断される場合

CPAP治療の費用負担をさらに抑える方法

保険適用によってCPAP治療の費用負担は軽減されますが、さらに負担を抑えるための制度も知っておくと役立ちます。

高額療養費制度の利用可能性

高額療養費制度は1ヶ月(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻される制度です。

CPAP治療単独でこの上限額を超えることは稀ですが、他の病気の治療や入院などが重なった場合には対象となる可能性があります。

上限額は年齢や所得によって異なります。

医療費控除の活用

1年間に支払った医療費(CPAP治療費を含む)の自己負担額が一定額(通常10万円、所得によっては異なる)を超えた場合、確定申告を行うことで医療費控除を受けられ、所得税や住民税が軽減されることがあります。

CPAP治療の領収書は大切に保管しておきましょう。

医療費控除のポイント

  • 1年間の医療費自己負担合計が対象
  • CPAP治療費、診察料、交通費(公共交通機関)も含む
  • 確定申告が必要

加入している健康保険組合の付加給付

一部の健康保険組合では独自の付加給付制度を設けており、高額療養費制度の自己負担限度額よりもさらに低い金額で医療費の払い戻しを受けられる場合があります。

ご自身が加入している健康保険組合の制度を確認してみることを勧めます。

よくある質問(FAQ)

CPAP治療の保険適用や費用に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
AHIが保険適用の基準にわずかに足りません。CPAP治療は受けられませんか?
A

CPAP 保険 適応 基準であるAHI(PSGで20以上、簡易検査で40以上)に達していない場合、原則として保険診療でのCPAP治療は難しいです。

しかしAHIが基準未満でも、いびきや日中の眠気などの自覚症状が強い場合や、高血圧などの合併症がある場合は医師と相談の上、自費でのCPAP治療やマウスピース治療、生活習慣の改善といった他の治療法を検討することになります。

まずは医師に現状を詳しく伝え、相談することが大切です。

Q
CPAP治療の検査費用も保険適用されますか?
A

はい、睡眠時無呼吸症候群の診断のために行われる簡易検査や精密検査(PSG検査)も医師が必要と判断した場合は健康保険が適用されます。

自己負担割合に応じた費用がかかります。精密検査のための入院費も同様です。

Q
CPAP装置のレンタル料以外に毎月かかる費用はありますか?
A

はい、CPAP装置のレンタル料の他に月に1回の定期的な診察料(在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料など)がかかります。これも保険適用の対象です。

また、マスクやチューブなどの消耗品は基本的にはレンタル料に含まれることが多いですが、医療機関によっては一部自己負担となる場合や追加購入が必要な場合もありますので、事前に確認しておくと良いでしょう。

Q
CPAP治療を途中でやめた場合、保険はどうなりますか?
A

CPAP治療を自己判断で中断し、定期的な受診もしなくなった場合、その時点から保険適用は受けられなくなります。

CPAP装置は医療機関からのレンタル品ですので、治療を中止する場合は必ず医師に相談し、指示に従って装置を返却する必要があります。

再度治療を開始する際には改めて医師の診察と判断が必要になります。CPAPの適応基準を再度確認することもあります。

以上

参考にした論文

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