睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療でCPAP(シーパップ)療法を勧められたけれど、「費用はどのくらいかかるの?」「保険は使えるの?」「自分でCPAP装置を購入することはできる?」といった疑問をお持ちではないでしょうか。
CPAP療法は長期にわたるため、費用面の理解はとても大切です。
この記事ではCPAP療法の費用構成、保険適用の条件や自己負担額、自費でのCPAP購入、そして医療費控除について詳しく解説します。
「CPAP 費用」や「CPAP 保険適応」について知りたい方は、ぜひご一読ください。
CPAP療法の費用構成
CPAP療法にかかる費用は主に以下の要素で構成されます。
初期費用(検査費用)
CPAP療法を開始する前にSASの診断と重症度を評価するための検査が必要です。これには通常、自宅で行う簡易検査や医療機関に1泊入院して行う精密検査(PSG)が含まれます。
これらの検査費用は保険適用となる場合が多いですが、自己負担が発生します。
月々の費用(保険適用の場合)
健康保険を使ってCPAP療法を行う場合、一般的にCPAP装置は購入するのではなく、医療機関を通じて専門業者からレンタルします。
そのため、毎月以下の費用が発生します。
- CPAPレンタル料: 装置本体、マスク、チューブなどのレンタル費用
- 診察料・指導管理料: 定期的な医師の診察とCPAPの使用状況の確認や指導に対する費用
これらの合計額に対して健康保険の自己負担割合(通常1割~3割)を支払います。
CPAP装置の購入費用(自費の場合)
保険適用外でCPAP療法を行う場合や保険レンタルの対象外となる機種を希望する場合などは、CPAP装置一式を自費で購入することになります。
この場合、高額な初期費用が必要となります。
CPAP療法の主な費用項目
費用項目 | 内容 | 発生タイミング |
---|---|---|
検査費用 | 簡易検査、精密検査(PSG)など | 治療開始前 |
月々の費用(保険適用) | レンタル料、診察・指導管理料 | 毎月(治療継続中) |
購入費用(自費) | CPAP装置一式の購入代金 | 購入時(初期費用) |
消耗品の費用
マスク、チューブ、フィルターなどは消耗品であり、定期的な交換が必要です。
保険適用のレンタルの場合、これらの消耗品交換費用は月々のレンタル料に含まれていることが多いですが、自費購入の場合は別途購入費用がかかります。
CPAP療法の保険適用について
CPAP療法は一定の基準を満たせば健康保険が適用される治療法です。保険適用となることで患者さんの費用負担は大幅に軽減されます。
保険適用の条件
CPAP療法に健康保険を適用するには以下の条件を満たす必要があります。
- 診断基準: 睡眠検査(簡易検査または精密検査)の結果、中等症以上のSASと診断されること。具体的な基準としては、AHI(無呼吸低呼吸指数)が20以上であることが一般的です(簡易検査の場合はAHI 40以上でPSGなしでも適用となる場合もありますが、医療機関の方針や状況によります)。
- 医師による治療の必要性の判断: 医師がCPAP療法を必要と判断し、治療計画を作成すること。
- 定期的な通院と指導管理: 保険診療でCPAP療法を継続するためには原則として月に1回、医療機関を受診し、医師の診察と指導管理を受けることが必要です。
保険適用時のメリット
保険が適用される最大のメリットは費用負担が軽減されることです。
高額なCPAP装置を購入する必要がなく、月々のレンタル料と診察料の自己負担分(1割~3割)で治療を継続できます。
また、定期的な診察により、治療効果や副作用を医師が継続的にチェックし、適切なアドバイスや調整を受けられるという安心感もあります。
保険適用の主なメリット
メリット | 内容 |
---|---|
費用負担軽減 | 高額な初期購入費用が不要、月々の支払いが比較的安価 |
定期的なフォロー | 医師による診察・指導、使用状況の確認 |
消耗品交換 | 通常、レンタル料に含まれる(要確認) |
保険適用外(自費診療)となるケース
以下のような場合はCPAP療法が保険適用外となり、全額自己負担(自費診療)となります。
- SASの診断基準(AHIなど)を満たさない軽症の場合
- 医師の指示に従わず定期的な通院を行わない場合
- 個人的な希望で保険適用外の機種を使用したい場合
- 海外在住者など日本の健康保険制度の対象外となる場合
保険適用時のCPAP費用(レンタル料)
健康保険を使ってCPAP療法を行う場合、患者さんが負担する費用はどのくらいになるのでしょうか。
月々の自己負担額の目安
保険適用の場合、患者さんが毎月支払う費用はCPAP装置のレンタル料と、月1回の診察・指導管理料の合計額に、ご自身の保険の自己負担割合(通常は3割)を掛けた金額になります。
一般的な目安として3割負担の場合、月額4,500円~5,000円程度となることが多いです。
計算例(3割負担の場合):
(CPAPレンタル料 + 診察・指導管理料) × 0.3 ≒ 4,500円~5,000円/月
※この金額はあくまで目安であり、医療機関や処方内容によって多少異なります。
費用に含まれるもの
この月々の費用には、通常以下のものが含まれます。
- CPAP装置本体、マスク、チューブ、加湿器などのレンタル
- 月1回の医師による診察、治療効果の評価、指導
- CPAP装置の使用状況データの確認
- 定期的な消耗品(マスク、チューブ、フィルターなど)の交換(※)
※消耗品の交換頻度や費用負担については契約内容によって異なる場合があるため、治療開始時に確認が必要です
月額費用(保険適用・3割負担)の内訳イメージ
項目 | 内容 | 自己負担額(目安) |
---|---|---|
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 | 診察、指導、データ管理など | 約750円 |
CPAP機器加算(レンタル料相当) | 装置、マスク、チューブ等のレンタル | 約3,500円~4,000円 |
合計 | – | 約4,250円~4,750円 |
※上記は診療報酬点数に基づく概算であり、再診料などが別途かかる場合があります
定期的な通院の重要性
保険適用でCPAP療法を続けるためには月に1回の定期受診が必須です。受診を怠ると保険適用が中止され、自費扱いとなる場合があります。
定期受診は治療効果を確認し、問題を早期に発見・解決するためにも重要です。
CPAP装置の購入(自費診療)について
保険を使わずに、CPAP装置一式を自分で購入することも可能です。これを自費購入または自費診療と呼びます。
自費購入の選択肢
以下のような場合に自費での購入が選択肢となることがあります。
- 保険適用の基準(AHIなど)を満たさないが、CPAP療法を希望する場合
- 月1回の定期通院が困難な場合(ただし、自己判断での使用は推奨されません)
- 保険レンタルの対象機種以外の特定の機種(デザイン、機能、携帯性など)を希望する場合
- 海外赴任などで日本の保険制度下でのレンタル継続が難しい場合
購入にかかる費用
CPAP装置を自費で購入する場合、その費用は全額自己負担となります。
装置本体、マスク、チューブ、加湿器など一式で一般的に20万円~50万円程度、あるいはそれ以上の初期費用がかかります。
機種の性能や機能によって価格は大きく異なります。
自費購入時の費用項目
費用項目 | 内容 | 費用目安 |
---|---|---|
CPAP装置本体 | オートCPAP、固定圧CPAPなど | 15万円~40万円以上 |
マスク | ネーザル、フルフェイスなど | 1万円~3万円程度 |
チューブ、加湿器等 | 付属品一式 | 数万円程度 |
合計初期費用 | – | 20万円~50万円以上 |
※上記はあくまで目安です。購入する機種や販売店によって異なります。
消耗品の購入
自費購入の場合、マスク、チューブ、フィルターなどの消耗品も劣化したら自分で購入して交換する必要があります。
これらの費用も継続的に発生します。
購入方法
CPAP装置は医療機器のため、通常は医師の指示書(処方箋のようなもの)に基づいて医療機器販売業者から購入します。
インターネット通販などで安価に販売されている海外製品などもありますが、安全性やサポート体制、日本の規格への適合性などに問題がある可能性があり、推奨できません。
購入を検討する場合は、まず主治医に相談することが重要です。自己判断での購入・使用は避けましょう。
自費購入のメリット・デメリット
CPAP装置の自費購入にはメリットとデメリットの両方があります。保険適用のレンタルと比較して検討しましょう。
自費購入のメリット
- 機種選択の自由度: 保険レンタルの対象機種に縛られず、デザインや機能、携帯性など自分の好みに合った機種を選べる可能性があります
- 月々の通院義務がない: 保険適用に必要な月1回の定期通院が不要になります(ただし、自己管理が重要)
- 長期的なコスト(可能性): 非常に長期間(例:10年以上など)使用する場合、トータルコストがレンタルよりも安くなる可能性も理論上はありますが、消耗品交換や故障リスクも考慮する必要があります
自費購入のデメリット
- 高額な初期費用: 数十万円単位のまとまった初期費用が必要です。
- 消耗品の自己負担: マスクやチューブなどの消耗品を定期的に全額自己負担で購入する必要があります。
- メンテナンス・故障時の対応: 装置のメンテナンスや故障した場合の修理・交換費用は自己負担となります。保証期間やサポート体制を確認することが重要です。
- 定期的なフォローアップの欠如: 医師による定期的な診察や使用状況のチェックがないため治療効果の評価や設定の微調整、副作用への対応などが遅れる可能性があります。自己管理能力が求められます。
- 医療費控除の対象外(通常): 後述しますがCPAP装置の購入費用は通常、医療費控除の対象とはなりません。
保険レンタル vs 自費購入
比較項目 | 保険レンタル | 自費購入 |
---|---|---|
初期費用 | 低い(検査費用のみ) | 高い(数十万円) |
月額費用 | 発生(自己負担分) | なし(消耗品費は別途) |
機種選択 | 制限あり | 自由度高い |
フォローアップ | 定期的(月1回) | 自己管理(受診は任意) |
故障・消耗品 | 通常カバーされる | 自己負担 |
どちらを選ぶべきか
多くの場合、健康保険が適用されるのであれば費用負担が少なく、定期的なフォローアップも受けられる保険レンタルが推奨されます。
自費購入は特別な理由がある場合に、デメリットを十分に理解した上で慎重に検討すべき選択肢と言えるでしょう。
CPAP費用と医療費控除
CPAP療法にかかる費用が確定申告の際に医療費控除の対象となるのかどうかは、多くの方が関心を持つ点です。
医療費控除の基本的な考え方
医療費控除とは1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定額(通常10万円、所得によっては異なる)を超えた場合に、確定申告を行うことで所得税や住民税の還付・軽減を受けられる制度です。
対象となるのは「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」や「治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価」などです。
保険適用のCPAP療法費用
健康保険を使ってCPAP療法を受けている場合、毎月支払う自己負担金(レンタル料、診察・指導管理料)は医師による治療の一環として行われるため、原則として医療費控除の対象となります。
医療機関から発行される領収書を保管しておきましょう。
CPAP装置の自費購入費用
一方、CPAP装置を自費で購入した場合の費用は、原則として医療費控除の対象とはなりません。
これはCPAP装置が「治療に必要な医療機器」ではありますが、眼鏡や補聴器などと同様に、その購入費用自体は「治療の対価」とはみなされないためです。
ただし、これは一般的な解釈であり、個別の状況によっては税務署の判断が異なる可能性もゼロではありません。
不明な点は税務署や税理士に確認することをお勧めします。
医療費控除の対象となる可能性
費用項目 | 対象となる可能性 | 根拠 |
---|---|---|
保険適用の月額自己負担金 | 高い(原則対象) | 医師の診療・治療費の一部 |
CPAP装置の自費購入費用 | 低い(原則対象外) | 医療機器の購入費用であり治療費ではない |
自費購入後の診察費 | 高い(対象) | 医師の診療費 |
医療費控除の手続き
医療費控除を受けるには確定申告が必要です。
1年間の医療費の領収書をもとに「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付して税務署に提出します。領収書の保管と、明細書の正確な記入が重要です。
よくある質問
Q1. CPAPのレンタル料は医療機関によって違いますか?
A1. 健康保険適用の場合、CPAP療法に関する費用(指導管理料や機器加算)は国が定めた診療報酬点数に基づいて計算されます。そのため、基本的な料金体系はどの医療機関でも同じです。
ただし、再診料やその他の管理料、あるいは消耗品の取り扱いなどが若干異なる可能性はあります。
自己負担額の目安としては前述の通り月額4,500円~5,000円(3割負担)と考えてよいでしょう。
Q2. 途中で保険の自己負担割合が変わったら、費用も変わりますか?
A2. はい、変わります。例えば70歳以上になって自己負担割合が3割から2割や1割に変わった場合、CPAP療法の月々の自己負担額もそれに応じて減額されます。
ご自身の加入している健康保険の負担割合を確認してください。
Q3. CPAP装置を自費で購入した場合、保証や修理はどうなりますか?
A3. 自費で購入した場合、通常、メーカーによる保証期間(例:1年~2年程度)が付いています。保証期間内であれば自然故障に対する修理や交換は無償で行われることが多いです。
しかし、保証期間を過ぎた後の修理や落下などによる破損の場合は有償となります。また、消耗品は保証の対象外です。
購入前に保証内容や期間、修理時の対応について販売業者によく確認しておくことが重要です。
Q4. 保険レンタルと自費購入、どちらがお得ですか?
A4. 一概にどちらがお得とは言えません。初期費用を抑え、定期的なフォローアップを受けたい場合は保険レンタルが有利です。
一方、月々の支払いをなくしたい、特定の機種を選びたいという場合は自費購入が選択肢になりますが、高額な初期費用と自己管理の責任が伴います。
経済的な側面だけでなく、治療の継続性や安全性、サポート体制なども含めて、ご自身の状況に合わせて医師とよく相談して決めることが大切です。
以上
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